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3.お友達からお願いします

この世界には、大きく分けて2種類の者が住んでいる。

魔力を持たぬ者と、魔力を持つ者である。

普段はお互い不可侵であるが、魔力を持つ者ーーー魔族は稀に人の国へとやってきて力を奮い混乱を起こし人を攫う。まあ100年に1度とかの割合のようなのでお伽話レベルだ。

いうことを聞かない子供に母親が「悪い子は魔物に攫われちゃうわよ!」と脅す程度の話。

平民のほとんどはその平凡な生涯で魔族を目にすることもなく、商人や騎士が森や洞窟なんかでたまに下級魔族ぷにぷにのスライムみたいなのを見かける程度らしい。

むしろ魔族より鹿や猪などの野生動物の方が急に現れるとびっくりするとか。

そんなお伽話の存在でも幼少の頃から脅し文句に使われてきたものだから植え付けられた恐怖心がある。あー、お化けが怖い、とか、そういう気持ちに近いかも。




だから、そんな存在に囲まれた私が蛇に睨まれたカエルのごとく震えていても全く、全くおかしくはないのだ!





「気分はどうかな眠り姫」

「ア…ハイ…大丈夫デス…」

「我が眷属が恐ろしい目に遭わせて済まなかった、今後一切君を害さないと魔王の名に誓おう」

「ハ、ハイ……」



…私が今どういう状況にあるのか聞いてほしい。私は今、なんと自称魔王さまの膝の上に座らされている。

どういうことだろうか。私にもわからない。誰か説明してほしい。

目が覚めたと思ったらお風呂に突っ込まれて着替えさせられてここにいるのだ。もう何が何だかわからない。


魔王さまは私の髪を一房指にとってくるくるしてみたり頬を撫でてみたりと忙しいが、あいにく私は今それに反応するどころではなかった。

例え!相手がさらりと流れる黒髪と切れ長の金の瞳のめちゃくちゃに顔がいい人でも!このひとは私のことなど蟻を踏むくらいの労力と感情で殺せるのだと思うと恐ろしくてしょうがない!

いくら顔がよくても相手は魔族の長、それとこれとは話が別である。ただしイケメンに限るなんてことはないのである!


目線を斜め下に固定したままブルブル震えてる様をわかってるのかわかってないのか、目の前の自称魔王のイケメンは金に煌めく瞳をなぜかどろどろに溶かしていた。


やや離れた壁際で控えてる人々(彼が魔王であるならあれらが魔族と呼ばれる人々であろう。見た目は人間と変わらない様子だけど…。)もなんだかそわそわしている。「あれはいいのか」「魔力持ちとはいえ」「いやしかし」「前回と同じようであればむしろ」「だが」などとちょっと気になる感じではあるが、全体的な雰囲気としてはあれはいかがなものか的な感じらしい。

そう思うなら誰か止めてほしい。本当に。



「そういえば名前を聞いていなかったな、名はなんと?」

「り、リリシア・カテリンと申します…」

「リリシア、可憐な見た目に似合いの名だ」

「あの、魔王さま…?私はこれからどうなるのでしょう…」


息を吐くように浴びせてくる甘ったるい言葉については理解することをやめ、恐る恐る聞いてみると、魔王さまはすっと私を膝から降ろし、あろうことか私の前に跪いた。





「私と結婚してほしい」

「陛下!!??」





私がその言葉を理解して何か言うより、控えていた魔族達から困惑する声と悲鳴が上がる方が早かった。

側に控えていた白茶色の髪のなんだか文官っぽいローブ姿の男が転がり込むように魔王さまの元へやってくる。


「何をお考えです陛下!」

「何…?私は好機を逃すまいとしているだけだが?」

「魔族の長たる魔王陛下が人となりもよくわからん人間の女に一目惚れしたから結婚するなど許されるはずないでしょう!!」

「何故?」

「ああ!もう!昔からそうだ!戦以外のこととなると途端にぽんこつだ!あんたいくつですか!年相応の行動をしていただきたい!」

「ははは、ヘイゼルは昔から面白いなあ」


ローブの男…ヘイゼルがわなわなと肩を震わせていると、さらに1人男が近寄ってきた。彼は目覚めたばかりの時に魔王さまと話していた…えーと…そう、ゴルドフさん。



「陛下、カテリン嬢も右も左もわからぬうちにそのような事を言われてもお困りになるかと」



まとも!まともな意見がこんなに!ヘイゼルさんにしろゴルドフさんにしろまともなことを言っているのに魔王さまはいったい…?

やっぱり魔族って怖い…




「ですから、ご友人からはじめられては?」




まともじゃ!!なかった!!!!




「ゴルドフの言う通りです、いくらなんでも突然結婚などと早すぎます!きちんと順序は踏んでいかねば!」


まともかと思ったヘイゼルさんから飛んできた言葉に耳を疑った。

どうやらここにはまともな発想の人がいないらしい。魔族の国こわい!!



「ふむ……確かに少々性急であったか。では、リリシア、結婚を前提に私と友人になってくれ」



これ、たぶん断ったら殺されるやつじゃないかな……そう思うと目の前に突きつけられた死の恐怖に屈した私はその申し出を断れるはずもなく。

震えながら小さく頷いてしまったのだった。


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