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24.デート


「一日、魔王さまの時間をください」


私がそう言った時、魔王さまは驚きかなにかに目を丸くしていて、その表情にこれは仕返し成功じゃないかとほくそ笑んだ。

ただ、結局の所このお願いは私の首をしめるものでもあって、自分の考えなしなところを後にしこたま恨むこととなる。










お願いから数日後、鬼気迫る勢いで仕事を片付け予定の調整をした(ヘイゼルさん談)魔王さまが、夜も遅くと朝も早くの間の時間に私の部屋の扉を叩いた。

魔王さまの時間を一日くださいとは言ったけど、まさか夜も明けきらない時間からとは思っておらず、期待に満ちたにこにこ笑顔の魔王さまを前にまだ半分起きていない頭は混乱していた。


「おはようリリシア!今日一日、私を好きにしてくれ」

「……とりあえず、中へ」


言い訳しておくと、その時私はまだ半分寝てたし、まだ眠かったのだ。

私はなぜか魔王さまの手を引いてベッドルームに戻り、さっきまで私を優しく包んでくれていた布団の胸に戻った。そして、あろうことかベッドサイドでどうするべきかおろおろしていた魔王さまに手招きしたのだ。


「り、リリシア?」

「はやく。ねむいので、ねます」

「い、いや、しかし……」

「寝起きすっぴんの乙女の顔を見たなら抱き枕くらいにはなっていただかないと」


布団が温かくて瞼がとろとろ落ちていきそうになる。魔王さまは暫くの逡巡の後そろそろとベッドに入ってきたが、なんだか距離があって、寝ぼけた頭の私はそれが妙に腹が立った。だから、自ら距離を詰めてついでに腕と足を絡めて逃げられないようにしてやったのだ。

今思えばなんてことをしたんだと張り飛ばしたくなる行為である。


「リリシア、あの、これはご褒美というか拷問なんだが」

「っはーーーーー……いいにおい」


あたたかい布団の中、胸いっぱいに魔王さまの匂いを嗅ぎ、そして私はそのまま眠りの国に旅立った。



で、起きたら至近距離に魔王さまの整った寝顔があったのだから、死ぬかと思った。ついでにその時まで夢だと思っていた先ほどの出来事が夢じゃないことを悟り、死にたくなった。


飛び退いてベッドから離脱、直ちに距離を置きたい気持ちだったが、動こうにも魔王さまの腕と足が私に絡まっていて動けない。もがけばもがくほど逃げられないように拘束がきつくなり、体温といい匂いが暴力のように襲ってくるのだから私はもう半泣きだった。

魔王さまの腕が頭を抱え込んで胸板に押し付けられ、もう暴れることすらできない。そうやって頬に熱が集まるのを耐えながら固まっていると、頭上からくすくすと笑い声が聞こえた。



「おはよう、リリシア。ようやくお目覚めかな?」



どうやら、魔王さまは最初から起きていたらしい。私はまたからかわれたのだ。


「お、おは、おはようございます、あの、なんで」

「なんで……私をここに招き入れたのはリリシアではないか」


私の爆発している髪の毛をゆるりと撫でながらそう言われ、わかってはいた事実を魔王さまの口から突き付けられて私の脳みそは限界だった。恥ずかしさに耐えきれず顔を手で覆う。


「すみません、本当に……」

「いやまあ、生殺しの拷問ではあったが、最高でもあったから」

「ヒィ」

「さて、で、今日はどうするんだ?」


もうこのまま布団に潜って永眠したい気持ちでいっぱいだったが、そうだ、今日は魔王さまの貴重な一日をもらう日だった。ここで魔王さまを抱えてふて寝して一日ドブに捨てるのも……まあ、悪くはないけどあまりに勿体ない。

さて、どうしよう。



「そうですね…………デート、とか、どうでしょうすみませんなんでもないです」



自分の口から「デート」という単語が出てきたのがまた恥ずかしくて耐えられなくてつい撤回してしまった。

が、魔王さまはしっかりと頷いていて。


「そうか、とりあえず城下にでも降りてみようか。そろそろ雪祭りをしてる頃だろうし」


と提案をしてくれた。城下、前に一度行ったけどあの時はデートというか魔王さまの視察について行った感強すぎてあんまり見れてないんだよね……。雪祭りというのも、気になる。

絶対人気デートスポット感漂ってそうで少し……いやかなり緊張するけど、でも魔王さまとの結婚フラグが立っている今、そんな事で慄いていてはいけないと提案に頷いた。


「では、まず身支度をして、それから一緒に朝食を食べにいこうか」


にっこり笑う魔王さまに(顔がいいな……)と思いつつ、今自分の格好が寝癖ぼさぼさ着崩れた寝巻き姿という事を思い出して今度こそ私はベッドから走り去るのだった。











お忍び姿……と言いつつ、ただいつもの黒い装束ではなくもっとラフな格好なだけの魔王さまと連れ立ってバルトロジカ王国王都の繁華街までやってきた。


「あの、もっと変装とかしなくていいんですか?護衛も付けていませんし……」

「魔王の証はほとんど全部置いてきたし、今の私は魔王と言うよりただのリントヴァルド家の長男で、周りも扱うから大丈夫だ。それと、私に勝てる奴がいるならぜひ見てみたい」


それでいいのか、と思ったが、歩いていて全く何も言われないのでどうやらこの国ではそういうものらしい。郷に入っては郷に従わなくてはいけないので私も気にしないことにした。


「だから、魔王さまではなく名前を呼んでくれるとうれ……しいが過ぎて保ちそうにないな」

「じゃあ、魔王さまで」


そんな会話をしながら雪の積もる道をぎゅっと鳴らしながら歩いていく。

雪祭りが開催中とのことなので、あちらこちらに幟が出ていたり雪像や氷像が建っていたりしている。それを目当てにした多種多様な魔族の姿もたくさん。

物珍しくてきょろきょろしていると、するりと片手が奪われる。指を絡められ、これは、これでは俗に言う「恋人繋ぎ」ではないか!とつい振り払いそうになるが、がっしりと捕まえられていて逃げられない。


「リリシアはそうやってすぐ逃げようとするから、しっかり捕まえておかねばな」

「でもこれは!私のレベルでは対応できかねます!」


恥ずかしさにじたばたしていたら魔王さまにも通りすがりの人々にもなんだか妙に微笑ましげに見られてさらに恥ずかしい思いをすることとなった。

仕方なく大人しく繋がれていることにすると、魔王さまは満足げに微笑み歩き出す。








雪像を見て回っていると、ある一箇所で人だかりができていた。なにごとかと気にしていると、気付いた魔王さまが見てみるかと言ってくれる。

が、近くまで来たところで突然顔色が変わった。

何かが見えたらしいが、私の身長では人の壁しか見えない。壁から聞こえる「やっぱりシャルティの作品はすごい」とか「シャルティの作品を生で見れるなんて」などという言葉しか情報がなかった。


「リリシア、ここはやめよう」

「え?なんでですか?」

「いいから、ここはだめだ」


くるりと踵を返す魔王さまに引き摺られるように去ろうとした時、



「なんで行っちゃうのジークハルトちゃん」



という、鈴の音のような声がした。


その声にぴたりと止まった魔王さまが、ぎぎ、と音がするようなぎこちない動きで振り返る。それに合わせて私も声の主の方を振り向くと、そこには魔王さまと同じ黒髪に金の瞳の魔王さまに似た顔立ちの美人が人の壁を割って立っていた。


「彼女の紹介もしてくれないなんて、お姉ちゃん悲しい!」

「……これは、お久しぶりです。姉上」

「あねうえ……?」


つまり、このわざとらしい泣き真似をしているひとが、魔王さまのお姉さま。

私の無遠慮な視線に気付いて、彼女はぱっと花が咲くように笑顔を見せ駆け寄ってくる。


「はじめましてこんにちは、可愛いお嬢さん。私はシャルティ・マレーネ・リントヴァルド、ジークハルトの姉で、いつもは北の山で雪や氷で像を作ったりしています」

「は、はじめまして……リリシア・カテリンと申します。えっと、お会いできて嬉しく存じます」


魔王さまのお姉さまにしてはずいぶんぽやっとした印象だが、確かにその瞳は魔王さまとそっくりだ。笑顔の奥で、どこか値踏みするように私を見ている。思わず背筋を伸ばすと、私の緊張を感じ取って魔王さまは視線を遮るように私の前へ、シャルティさんはあわあわと「違うの」と跳ねた。


「そんなに見たらリリシアが減るのでご遠慮頂きたい」

「ごめんね、怖がらせたいわけじゃなくて、あのジークハルトちゃんがめろめろになっちゃう子ってどういう子かなーって好奇心がつい!」

「もういいでしょう姉上!……すまないリリシア、姉はどうも自由で、もう行こう」

「へ、あ、はい……」


手を繋ぐどころか肩を抱かれてその場を離れようとするが、シャルティさんはめげなかった。涙で目を潤ませながら追い縋ってくる。


「待ってリリシアちゃん!せめて、せめて私の作品を見ていってえ!」

「あの、魔王さま、」

「……わかった、見たらすぐ行こう。姉と喋ると疲れる」


はあ、と嫌そうにため息をつく魔王さまと反対に嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねながら作業をしていた場所へシャルティさんは戻っていく。見た目的にはクールビューティという言葉があまりにも似合う感じなのに、言動がふわふわとしていてそのギャップに風邪を引きそうだ。

でも、魔王さまのご家族、仲良くできたらいいなと足取りの重い魔王さまの隣、こっそり思う。


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