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23.後に彼女は「死ぬかと思った」と語る

仕返し、と言っても有効打がまるで思いつかない。何をしても返り討ちにされそうな気がする。

セリに相談したら「ほっぺにちゅーでもしたら飛び上がると思いますよ!」と全く為にならないアドバイスが貰えた。


「(さすがにそれは私も死ぬでしょ……諸刃の剣すぎる……)」



そんなことを考えていたせいで、ごつんと頭にゴルドフさんの鉄拳が落ちた。もちろん、かなり手加減はされているが。


「こらリリシア様、何をぼんやりしているのですか。今日はずいぶん弛んでおられる」

「す、すみません……」

「もしや具合でも悪いのですか?それならば……」

「違います!元気です!ちょっと、考え事をしていて……すみません」


体調不良なのに無理をさせたかと慌て始めたゴルドフさんにこちらも慌てて弁解する。


「どんな……と聞いてもいいものですか?お困り事でしたら力になりますが」


紺鉄色の目が優しげに細められ、ゴルドフさんなら魔王さまとの付き合いも長いし弱点を知ってるかも、と相談しそうになって、口を噤む。だって、魔王さまへの忠誠心あつく真面目なゴルドフさんの事だから、絶対秘密にしておいてくれないと思うし。


「ありがとうございます、でも些細な事ですから。すみません、続きお願いします」

「そうですか?何かあれば言ってくださいね。あ、持ち方、左手もう少し下に」


私がそう言えば、さっぱりした性格のゴルドフさんはそれ以上追求しては来ず、木刀の握り方の指導に移った。これが例えばセリだとか、もっと言えば魔王さまなら言うまで離してくれなかったと思う。


魔王さま、といえば。


「そういえば、ゴルドフさんにも人型でない姿ってあるんですか?」

「ええ、ありますが……」

「えっ!見たいです!」


なんだか言い澱むゴルドフさんにせがむが、魔王さまの時以上に渋られた。

ゴルドフさんはサクッと見せてくれそうだと思ったのに想定外だった。が、理由を聞いて納得した。


「リリシア様をこの国に連れてきたのは私なので、その、嫌な記憶でしょうから……」


あの時は手荒な真似をしてすみませんでしたと深く頭を下げるゴルドフさんにどう言っていいかわからず慌ててしまう。確かにあれはリリシアとしての人生最初に感じた死だったし単体で見れば嫌な記憶ではあるけど、あの時のお陰で今こうしていられるし、結果オーライ感があってどうにも難しい。

とりあえず頭を上げてもらうが、微妙な空気が流れる。


「えっと、でも、怪我とかしなかったと思いますし、きっとすごく気を使ってくださったんですよね?」

「ええ、力加減がなかなかに難しくて……ですが無傷で連れてくるという命でしたので」


生真面目な答えが返ってくる。もう朧げな姿だが、あのごつごつした腕で人間の娘を適度な力で掴むのは大変だっただろう。今更ゴルドフさんの真面目さと優しさに気付いた。


「ゴルドフさんの種族はなんなんですか?魔王さまとは……違いますよね?」

「ええ、私はバハムートの一族の末裔です」


バハムート!すごい、RPGによく出てくるやつだ……!と内心興奮してしまった。表情筋が仕事をしなくて助かった。


「我らは地を司りますので地属性の魔法が得意で、フィロジーアの地を揺るがしたのも私なのです。リリシア様には嫌な記憶でしょう」


最初はどこか誇らしげに話し出したのに次第に表情が曇ってゆく。私個人としてはびっくりしたけど大丈夫と言いたいが、石畳が割れ外壁が崩れていたあの時のフィロジーアを思うと言うことができず、微妙な空気再来であった。



「リリシア、ゴルドフから一本取れるようになったか?」



微妙な空気が裂かれる。魔王さまがまた合間を縫って私の様子を見に来たらしい。


「無理に決まってるでしょう、人間の小娘がどうやって騎士団長さまから一本取るというのですか!」

「そうか?」


これ幸いと魔王さまの話に乗ったと思ったら、魔王さまがゆらりと動き、直後重たい物が床に落ちる音がした。

早業過ぎて何も理解できなかったが、今目の前にある光景から魔王さまがゴルドフさんに足払いをかけて浮いた体を床に叩きつけそのまま私の手にあった木刀を奪いゴルドフさんの首元に突き付けたという事がわかった。

あの一瞬でどうやったらそんな曲芸じみた事ができるのか謎である。私は一生かけてもたぶんきっと絶対できない。


「な、簡単だろう?」

「陛下!突然何をなさる!」

「ゴルドフは不意打ちに弱いからな。こうやって感知されないように近付いて一発だよ」

「魔王さま、それは簡単ではありません」


涼しげな笑顔で言われても全く実践できる気がしないと伝えると、不服そうな顔をされた。その後ろで精悍な顔に青筋を立ててゴルドフさんが立ち上がる。

瞬間、魔王さまが飛び退いた。

私はただけたたましい音と割れた床に(あ、また床がかわいそうなことに……)と呆然とするばかりである。


「おや、避けるとは陛下らしくない。リリシア様がいるからとそんなにお上品に立ち回られて、とんだ角抜けですな」


つのぬけ。腰抜けみたいなものかな。

侮辱する言葉に変わりはないらしく、魔王さまの目が吊り上がる。龍っぽい種族にはきっと効果覿面な言葉なんだろうなあ。


「避ける事も覚えたと言ってくれないか。無策に突っ込むばかりでは魔王としてあんまりだろう?」

「おやおや、敵は全て力で捩じ伏せればいいとあれだけ言っておられたのに随分と成長なされましたなあ」


なんだか空気がぴりぴりして痛い。が、一発触発の状態で言い合う二人と対照的に鍛錬場は大盛り上がりだった。

やっぱりこそこそ見ていた人々が祭りの気配を察知して集まってきたのである。

やんややんやと二人を囃し立てる声に、この場にこれを治めてくれる人がいないことを悟った。


「先日も酒に酔って延々リリシア様が可愛い可愛いと語っておられましたが、氷の王が泣いて呆れる」

「えっそんなことが」

「リリシアが可愛いのだから仕方ないだろう!!」

「いや、仕方なくないと思います魔王さま」


私がぼんやりしている間に暴露大会になっていたようで、気になる台詞が飛んできて思わず突っ込んでしまう。

魔王さま、なんということを。もう恥ずかしくて外を歩けないじゃないか。

私の声が聞こえているのかいないのか二人はそのまま言い合いを続け、続けていたと思ったら両者地を蹴った。

正直私が感知できたのはそこまでで、後私ができたのはよくわからないけど私の周りでやり合ってる魔族がいるから死なないように動かないようにしておこうと身を硬くすることだけだった。









「すみませんリリシア様!つい頭に血が上ってしまい……!」

「すまないリリシア!怖い思いをさせたな、こんな野蛮で軽蔑しただろうか……?」


二人が私に気付いたのは結局カタがついてからだった。

置物気分でかちこちに固まり動かない私に両脇から必死の謝罪が飛んでくる。


「大丈夫です……寿命がちょっと縮んだかもしれませんが」

「一大事じゃないか!本当にすまない!」


冗談まじりで言った言葉が地雷だったらしく魔王さまが縋り付いてくる。なんならちょっと涙目だ。

ここで、魔王さまへの仕返し計画を思い出す。


「……じゃあ、お願いひとつ聞いてください」

「なんだ!?何が欲しい?服が?宝石か?島か?」






「一日、魔王さまの時間をください」

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