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11.結局は元の鞘


先日、ゴルドフさんとヘイゼルさんの話をたまたま盗み聞きしてしまった私は、皆が私の前世の世界の知識を欲しがっていることを知った。

その知識を円滑に得るために魔王さまが私を口説いていたことも。


魔王さまのこれまでの態度はやっぱり裏があったのかと知った私は、やはりと納得するとともに、迂闊にも絆されそうになっていた自分が恥ずかしくて情けなかった。


それに前世の記憶はあれど本を読む以外の趣味がなく、特技ひとつない凡人だった私には何も差し出せる物はない。

そんな私がここにいていいはずがない、いる理由すら見つけられない、そう思ったら、もうだめで。



そして逃げ出した。


逃げ出した、はずだった。




……それなのになぜか魔王さまは迎えに来るし、目が覚めたらベッドに押し込められてるし、枕元には魔王さまがぴったりくっついてるし、ついでに高熱でふらふらだしで、つまり、情けなくも私は逃走からほんの数時間で魔王城に帰ってきてしまったのでした。


しかし、なんで魔王さまは私を迎えに来てくれたんだろう……。役立たずの穀潰しを助ける意味って?

魔王さまが迎えに来てくれた時、何もなくてもいい的な事と、その、私のことを、あ、愛して、る、みたいな事を言ってたような気もするけど、魔王陛下ともあろうお方がこんな小娘にそんなこと言うなんてないと思うので、あれはきっと夢だな。夢に違いない。

やだ……そんな夢を見るなんて、もしや欲求不m…………。




まあ!そんなことはとりあえず今は置いといて!




なんにせよ何も持たない小娘が大きなお部屋に三食おやつ付きのこの待遇っておかしいと思う。

この国に益をなす転生者だからお城の人たちも特別扱いしてくれてたと思うので、何もないとなればなんで?って思うでしょう。





「というわけで!国外追放してください!」

「だめだ!」





役立たずはお暇しますと魔王さまに直談判しに言ったけど、食い気味に断られてしまった。


あ、もしや魔王さまはまだ私の転生者としての可能性を諦めてないとか?だとしたら迎えに来たのも国に返してくれないのも頷ける……。



「……魔王として言えば、君の記憶を私達が見ることができない以上、君がどう言おうと君に価値がないと言い切れない、故に手放すことはできない」

「でも、これまでここで暮らしてあれはないのかなーとか思ったことありませんし、前世の無趣味に近かった私が役に立つ知識なんて持ってるとは思えないのですが……」

「君はこの世界に順応しているようだから不便さに気付いてないだけかもしれないだろう…………そして、一人の男として言えば、君のことが好きだから手放したくない」

「ふへぇ」



変な声出ちゃった


じゃなくて、そうか、やっぱり魔王さまはまだ私の可能性を諦めてないのね。

だからまだこうして私を落とそうとしてくるのか……でも残念その手には引っかからない!


そう思っていたら、魔王さまははぁとため息を一つ吐いて「やはり覚えていないか」と呟いた。

なにがだろう。まあ十中八九私が逃げ出した日のことだろうけど、正直あの日は疲れ切ってたし寒くて熱も出てぼんやりしちゃって魔王さまの言う通りほとんど覚えてないんだよね……。

何があったんだろう気になる、けど忘れてていいやつな気もする。

だってもし夢だと結論付けた発言たちが夢じゃなかったらどうするの。

そんなの死んじゃうじゃない!


悶々としていたら魔王さまが玉座から立ち上がりこちらへ歩いてきた。なんだか怖い。嫌な予感がする。




「リリシア」




私の頭をするりとひと撫でし、そのまま手を取る。



「仮に君が我が国になにももたらせなくても、私は別に構わないんだ。でもそれを認めたら君を手放さなくてはならない、それは嫌だ。君のことが好きなんだ」



す、すき?好き!?

いや、騙されてはだめよリリシア、これはきっと私から知識を得るための魔王さまの作戦なんだから、うっかりグッときてはいけないのよ!!



「し、下心からくる言葉だってわかってますからね!そんな言葉にホイホイ引っかかるような軽い女ではありません!私は何も出せないのでもう諦めてください!」

「下心、か……まあそうだな」

「ほら!」



伏せられていた金色の瞳が、こちらを向いた。

久しぶりにまともに目に飛び込んできたとろりととけたはちみつのような、それでいてその奥に捕食者の欲望を感じさせる金色に、貼り付けられたように目が離せなかった。



するりと、私の手が魔王さまの口元に攫われていく。



「リリシアが私に落ちてきてくれて、手に触れる以上の事ができればと思う下心は、確かに」



ちゅ。軽いリップ音。

爪先に口付けを落とされた私は、にゃーともぎゃーともあーとも付かない意味のわからない叫び声とともに魔王さまの手を振り払って逃げるしかなかった。

当の魔王さまはけらけら笑って、



「リリシアは本当に恥ずかしがり屋さんで可愛いなあ」



などと言っていた。

本当になんなんだろうこの人。なんなんだろうこの人!

私も私で、人生で初めてされたわけでもないのに動揺し過ぎではなかろうか。もうちょっと余裕を見せるべきである。

いちいち過剰に反応してしまうのが本当に悔しい。



「おや。もうお茶の時間ではないか、この話はこのくらいにしようか」



ギリギリしていると魔王さまはそう言って、折角取っていた距離を踊るように一瞬で詰めて腰に手を回してきた。

あまりに鮮やかな動作にここまで鮮やかだとなにかの手品かなと感心してしまったのがまた悔しい。



「そうだな、転生者の事でも教えてあげようか」

「え、」

「中途半端に聞いてしまったようだし、それならばちゃんとわかっていた方がいいだろうから。それに、ちゃんと教えるとこの間約束しただろう?」


私としては謎がひとつ解けるので願っても無いことだが、もっと渋られると思っていたのでこんなにあっさり教えてもらえると思うと逆に構えてしまう。



「いいんですか?」

「黙っていたのは結局我々の我儘のようなものだから。聞きたくないならそれでもいいが、どうする?」

「……教えてください。だって、私のことだから」


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