序章
前から書きたいと思っていた長編のハイファンタジー(異世界舞台のファンタジー)を連載することにしました。不定期連載となってしまいますが、ご容赦下さい。取り敢えず導入部分である序章は出来たので、
「んじゃいっちょ上げてみっかぁ!!」
と言う軽ーいノリです。
――かつてこの地には、二柱の神が居た。天と光の神、地と闇の神。彼等とその傘下の神々は、戦って、戦って、戦った。
結果は天と光の神の勝利に終わった。地と闇の勢力は駆逐され、世界は平和になった。
――そして、そんな昔話はさておき、当代。この世界の辺境たるローガリアント地方の、その又辺境。ドルイドの一族の村に、一人の少年が生まれた。
ドルイドはヤドリギを信仰し、文明との交流を避ける隠遁者の宗教的紐帯である。浅黒い肌と、黒い髪が特徴的で、閉鎖された血族である以上その身体的特徴は、変わることがないとされた。しかしその少年は不思議なことに、左の眼の色だけが違っていた。まるで翡翠の如く輝くその眼球に、皆特別な何かを感じずにはいられなかった。
ところでドルイドとは、元々地と闇の勢力に連なる者たちであった。自然との結び付きは大地との、深淵なる暗闇との結び付きでもあったからだ。彼等はずっと心の奥に、当代の繁栄への憎悪を抱いていた。我等が主を屠り、この世を遍く照らす光に対し、半ば逆恨みめいた感情をその胸中に飼っていたのである。
彼はきっと、最高神の生まれ変わりに違いない。そう、誰かが言った。彼は成長するにつれ、その多角的な才能を発揮させて言った。根は深く、広く、確固たるものに、枝は長く、太く、膨大なものに。肉体と精神、野性と知性の双方を兼ね備えていた。薬草の知識、それを調合する技術、人体の急所や病を見抜く洞察眼。成人を上回る膂力、野を駆け、山をも踏破する体力。それに加えて、大地を満たすマナ――魔力との親和性も、極めて高かった。それはつまり、呪術師としての才能も持ち合わせると言うことだ。獣や精霊、果てには異形の魔物ともその精神を通い合わせることが出来た。
誰しもが疑念を確信へと変えた。故にある日、彼等は一つの秘儀を行った。それはかつての神代、今では御伽噺と成り果てた時代の遺物だった。地と闇の神々を主導し、統率した“邪眼の神”。他ならない彼の邪眼を生み出したドルイドの秘法を、少年に対し発動することを決定したのである。
果たしてそれは成功した。彼等が秘密裏に、しかし大切に継承してきた神代の宝具『ダグザの大釜』の威力が働いていたこともあったのだろう。元々は流し込まれた魔力を、それが続く限り物質へと変換する機構であった『大釜』であるが、彼等は歪曲の邪術によってその機構を変形させた。即ち、物質によって魔力を生み出す機構へと。
彼等は口承されて来た神話をなぞった。ヤドリギの葉を三枚、蛇の魔物の髪を一房、辰砂の破片、新月を映した湖の水、湿地に咲く白蓮の花弁、そして少年の父母の血。地と闇に連なり、呪いの力を秘めたる六つの品。『大釜』はそれを、膨大な魔力へと変換した。
そしてそれは少年の左眼――翠の瞳から流れ込み、彼の全身を循環し、融け合った。
“邪眼の神”の復活だ、と彼等は哄笑した。かつて慎ましくも穏やかな日々を送っていたドルイド達の姿は、もう欠片もなかった。
当の少年はと言うと。彼は己の宿した才能も、与えられたその魔力も、ドルイドの抱く幾星霜の怨念も、さしてどうでも良かった。ただ健やかに生きたい、と言うささやかな望みだけがあった。力はあるに越したことはなかろう、と彼はそれを甘んじて受け入れたが、その目的が復讐のためだとは露程も思っていなかった。
そこから逃げるのは簡単だったが、恐らく新たな『僕』が生み出されるのだろうと、安易に予想が付いた。
彼は溜め息を一つ吐いて、全てのドルイドに呪いをかけた。邪眼に宿る、『消滅』の呪い。
『綺麗さっぱり、忘れてもらおう』
その言葉によって、ドルイドは神代からの禍根も、復讐してやろうと言う宿願も、稀代の少年の存在も、全て忘れることになった。再び慎ましく、健やかな集団へと戻った親族達を後目に、彼は旅に出ることにした。
まず、ここに居ては記憶を消した意味がない、と言うのが一つ。
それから、どうせならこんな仄暗いところだけでなく、世界中を見て回りたいと思っていたのが一つ。
最後に、如何なる火の粉も払えるだろう、強大な力が手に入ったことが一つ。
少年は必要最低限の物を皮製の鞄に詰め、ついでに彼等の秘宝である『大釜』も詰め、皆が寝静まった夜に村を発った。
魔力と才能、過剰とも言える力を持ってなお、明るく、正しく、眩いその双眸。
まだ見ぬ景色への果てなき好奇心を胸に、彼は一歩を踏み出した。
ここまで御覧になられた方がおられたならば、先ずは感謝を。
ありがとうございまああああああああああああああああああああああああああああああす!!!!
そして、これからの展望を。一人旅では悲しいので、少なくとも後一人はパーティに入れるつもりでいます。
もうお分かりですね。ヒロインです。
主人公を随分と強く設定してしまいましたが、そんな彼の隣を歩くのは一体どんなキャラクターとなるのか。
ニヤニヤして待っていて下さると幸いです。
それでは。