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幽霊談義

作者: 久坂周

「………なあ、田中」


「何だ、鈴木」

「お前、幽霊って信じるか?」


「…………信じないね」


「何だつまんねぇ返事。聞いて損した」


「はあ?じゃあ真面目な顔で信じてるって言って欲しいのか!?この状況で!」


「ああ、俺はたとえ合宿の肝試し中でも楽しい返事を求めるね!!」


 現在地、某有名心霊スポット。辺りを見回すと墓、墓、墓。


「果たして楽しい返事かどうかはかなりの疑問だが………鈴木は信じているのか?」


「………信じてねえよ」


「言っていることが違うぞ」


「この馬鹿!この状況で信じてるなんて言えるかよ!」


「言えッつったのはお前だろうが!!第一怖いってことは信じてるってことだろ!」


「怖くねーよ!」


「あ、人魂」


「ぎゃああああああ!!」


「嘘だけど」


「お前の性格は慣れたけどよ……一辺殺させてくれ」


「真夜中、肝試し中に男子生徒発狂。相方の生徒を墓の前で殺害。俺が化けてでてお前を呪い殺してもおかしくないよな……。いや、てかその前に殺害予告を聞いたのだからお前を殴り倒しても正当防衛になるか?」


「御免なさい、許して下さい。殺さないで下さい」


「安心しろ、まだ犯罪者になりたくないから」


「幽霊よりお前がコワイ」


「心外だな、幽霊なんぞに怯えているお前をこんなに励ましてやっているというのに」


「励ましてたんですか……?てっきり脅されているのだと」


「幽霊への恐怖は薄れただろ?」


「お前への恐怖は確実に濃くなった」


「大体、人魂何てどこが怖いんだよ。ただ燃えて飛んでるだけじゃん」


「ただ燃えて飛んでるトコだよ!」


「……意味わかんねー」


「ってゆーか何でお前怖くねーんだよ!」


「ただ燃えて飛んでるだけだし・・・火事がコワイ!」


「てか燃えてるのか!?人魂って!」


「知るか」


「冷めてんなぁ……。実はお前こわがってんじゃねえの?」


「はっ。お前と一緒にするな。俺はそんなにガキじゃねえ」


「怖くないのか?本気で?」


「当然だ」


「お前、人?」


「一応」


「じゃあ、目の前に血みどろの女が出てきたら!?」


「119番」


「熱いよう、熱いよう、っていう声が聞こえてきたら!?」


「119番」


「鏡の中に自分以外の人間が映っていたら!?」


「110番」


「びしょ濡れの男が恨めしそうに見てきたら!?」


「118番」


「118番なんてあんのか!?」


「ある!海の事件、事故の通報番号だ!心にメモれ!」


「ああ、サンキュ……これで海でも安心だー……って何で礼言ってんだ俺は!」


「墓で騒ぐな」


「騒いでないとやってられるか!こんな場所で幽霊よりコワイお前と二人きりなんて!」


「ご愁傷様」


「けっ。せっかくの肝試しがお前の所為で興ざめだぜ」


「お前が言うか。怖がってたくせに」


「肝試しなんざ怖がるためにやるモンだろ!それが楽しいんだからさ」


「そういうものか?」


「そういうもんさ」


「ならばここの心霊スポットに伝わる話を聞かせてやろう」


「チェック済み!?」


「ここから数メートル先に沼がある。そこは鏡池と呼ばれていてなぁ、昔々に女と男が無理心中をしたらしい」


「うわ。なんかお約束」


「それからというもの、アベックが肝試しに来るたび……」


「アベックって、古!何時の時代の人間だよ!」


「うるせぇ!茶々入れんな!人が折角話してやってるのに!」


「茶々入れないと怖くて仕方がないんだよ!」


「……肝試しの時、二人で来ちゃいけないんだよ、ここには」


「……はあ?何だよ、突然」


「例の心中したカップルは、仲間を今でも求めているんだ。二人で歩いてくるカップルをな」


「た、田中君?」


「相方に化けて、狙ったヤツを沼に引き込むんだ。本物の相方かその幽霊かの見分け方は簡単。沼から出てきた幽霊だから化けるときは本物と左右が逆になっているんだ。例えば、右手にあったほくろが左手に。右利きだったヤツが左利きになっていたら……」


「あれ?田中……何でライト左に持っているんだよ……?お前、右利き……」


「……………」


「……………」


「……………」


「………………幽霊さん?」


「気付くの遅いな」


「…………………………」


「……………………………」


「いやだああああああああ!」


「騒がない騒がない」


「お、俺なんて食べても不味いぞ!」


「食べません」


「と、取り敢えず今日和!」


「今の時間帯は今晩和!日本語は正しく!まったく近頃の若い子は!!」


「幽霊に注意された!!何か屈辱!!」


「幽霊幽霊ってうるさいわね!元は人間よ!アタシだって!」


「うわああああああああああああああ!」


「ほら、そういう風に驚かれると女のアタシは傷つくの!」


「た、田中の女言葉!!寒い!!」


「仕方ないでしょ、アタシ女なんだからッ」


「おおおおおおおおお女!?田中が!?」


「さっき幽霊って騒いだくせに!アタシはここの沼の幽霊よ!」


「そ、そうか・・・・・・・。よかったぁ〜〜〜。って安心していいのか!?俺!!」


「うん、安心してちゃ駄目。取り殺すよ」


「何で!?だって好きなヤツと心中したんだろ!?それで満足だろ!!」


「満足!?誰が!?」


「うあああああ!御免なさい!!」


「あんの野郎……一緒に死んでおきながら隣墓場の女と遊びほおけているのよ!?信じらんない!」


「は、はいッ」


「信じらんなくない?!死んでまで一緒にいようって言ったのに、死んですぐ浮気よ!」


「そうですね……男の風上にも置けないヤツですね」


「アタシは彼を信じてたのよ!?なのに死に損よ!アイツを殺してアタシも死ぬ!!」


「や、もう死んでんじゃん」


「だからアタシも生きのいい男と浮気してやるの!」


「……生きの良い……?」


「はあい!もちろん、あ・な・た」


「た、田中の顔でハートはちょっと………………」


「何よー。あんたあたしに同情してくれたじゃない!はっ所詮男なんてみんな同じなのね!最低!」


「いや、幽霊と同じにされても…………」


「幽霊差別するの!?ああ、やだやだ。これだから人間は!心霊写真程度で騒ぐし!写りたくなったから写っただけよ!?」


「写りたかったんですか」


「今度一緒に撮る?」


「丁重にお断りさせて貰います」


「無駄よ、貴方の運命はもう決まったの。アタシと一緒に逝こうよ?人間いっぺん辞めてみたら?楽しいよ〜〜?」


「あんたが楽しいって言うのは説得力に欠けるんですが」


「そう?アタシも寂しいのよ。だからおいで………?」


「ぎゃああああああああああああ!助けてーー!」


「ふ…………………」


「へ?」


「あはははははッ!ビビりすぎだって、鈴木!」


「は、はぁ………?」


「俺は田中だよ、田中!」


「田中………?」


「演技だったの、演技。俺は幽霊じゃあーりませーん!」


「………ふざけんなよ田中ああああ!!」


「ジョークだろ、ジョーク。どうだ、涼しくなったか?」


「ああ、お前の女言葉のおかげでな!」


「ははははははは。ほら、もうすぐ折り返し地点だ」


「もう俺帰る………、何か誰かさんのお陰で気分悪い」


「ってこんなとこから?」


「ああ、わりい。何かやっぱコワイわ。帰りたい」


「そうか、気を付けろよ、ああ、ライトは持って行け」























 暗闇を全速力で走るとぼんやりとした光が見えた。懐中電灯の光だろう、恐らく自分たちの次のグループだ。向こうもこっちのライトの光に気がついたようだった。


「鈴木じゃん」


 同学年の佐々木と村上だ。


「よかった〜。俺、帰るからさぁ、前にいる田中と一緒に行ってやってくんね?」


 ほっと胸をなで下ろしながら鈴木は進行方向を指さした。

 

 田中は平気そうだが相方としては一応心配だ。


 けれど佐々木と村上は顔を見合わせて肩を竦める。


 どうかしたのか、と首を傾げてみせると村上がどこか申し訳なさそうに口を開いた。


「鈴木、田中は宿にいるぞ?」


「は?何言ってんの?居たじゃん」


「いや、くだらないって言って、先輩たちとポーカーしてた」


 佐々木も村上の後押しをする。


 鈴木の頭は真っ白になった。


 では、先程まで会話をしていた彼は何者だ。


 その時、なま暖かい風と共に女の笑い声が耳を掠めた。

 

『あーあ、もう少しだったのに』


「?どうかしたか?鈴木」


 心配そうな二人の視線に、今の声が聞こえたのは自分だけだったのだと知った。


 背筋がすううっと寒くなる。


「………一緒に行っても良いかな?村上、佐々木………」


 一人で元の地点に戻れるか、正直自信が無い。


 しかし、彼らと今から再び肝試しをやり直すのも得策でなかったと痛感するのは今から4分と27秒後。



少しでも笑って頂けたのなら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] こえーよ!ギャグじゃないです!オチがヤバいですね。
[一言] 評価は、小説として、というか、文字を使った作品だから、というのがあると思う。きっと、書いた人にこれを目の前でやられたら、笑ってしまうなあ。 うん、でもこういう作品の肝は、やっぱり文章だと思う…
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