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パーソナリティーは七春さんですよ!  作者: 近衛モモ
幽霊ホテルとかこえうた
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開いたわ。


 おやつの時間。

 廊下の突き当たりにある階段の前に、七春と姫川は立っていた。

 『なんとなく一番それっぽい』というくだらない理由で、建物のてっぺんにある鐘楼を見に行くのだ。

 西洋風の造りで、錆びた鐘がぶらさがっている。

 ホテルの敷地内で撮影に挑んできたが、今のところ、あの鐘が鳴る気配はない。

 あの鐘を鳴らすのはどなた。

 せめてお昼や三時のおやつの時間くらいは鳴らせばいいのに。錆びてるから鳴んねーのか?

「さて、じゃあ上に上がってみたいと思います。」

「大丈夫だよね。ライトついてるし。」

「うん。大丈夫、大丈夫。足下気を付けてね。」

 最近、暗いところで活動する機会が増えているせいか、場慣れしている七春さん。

 姫川さんをエスコートする。

 階段の幅は人一人分。

 極端に狭い。テレビとかで見るピラミッドの中の階段とかは、こんな感じだ。

 両側の壁は雑な塗り壁。壁の中身はよくわからないが、ゴツゴツしていて凹凸が多い。

「どうしよう、人とか埋まってたら……。」

 その壁を撫でながら七春が言った。

 こういう場所で言うべきではない。非常に不謹慎な発言だった。

「なんでそういうこと言うの。」

 後ろから続いて階段をのぼっていた姫川が、悲しげな声をあげる。

「八神くんいないから、何かあったらすぐ帰ろうね。」

 幽霊出そうなところに行って、その姿をカメラにおさめるというだけの簡単なお仕事です。が、七春さんは一人でなんとかしようという意志が足りない。

 階段一つ一つの段差は高くて、角度も急。日頃からダラダラしている七春にはキツい道のりだった。

 一応、明かりとりの小窓がついているが、足下には小型のライトも設置してある。

 ライトの方は、七春が好奇心に任せて鐘を見に行くと予想していた撮影スタッフが、前もって設置してくれていたものだ。

 ゆるーいロケなので、七春さんもフリーダムに動いている。

「このホテルにいる霊って、確か双子の子供だったっけ。」

 問いかけた姫川の声が、狭い空間に響く。

「そう。それと、椅子に憑いてる男の子の霊ね。全部で三人かな。」

「七春さんが襲われた特大オバケはどれ? 椅子の男の子?」

「あぁ、まぁ、……そうかな!」

 濡れ衣を着せる七春さん。

 チマチマと進むうちに、小さな踊り場にでた。折り返してさらにのぼると、小さな扉。

あの向こうが屋外のようだ。

 甲高く響く三人分の足音が、世界に飽和する。

 この閉鎖空間でひたすら壁を見上げてのぼっていると、抜け出せないダンジョンに迷いこんだような気にさせられる。

 何故こんなにも、不安な気持ちにさせられるのだろう。

「戻れなくなるわけじゃないのに…。」

口に出してみる。その声も、空気中に溶けた。

 心許ない。

「扉、開く?」

 階段の上まで来たとき、姫川がそう訊ねた。

 片手にカメラを持って撮影しながら歩いている七春は、空いた片手でノブをまわす。

 この扉も変わった形だ。今度は、タロットカードをかたどっている。なんでもアリだな、と内心ツッコむ。

 扉は二人を招き入れるように、すんなりと開いた。

「開いたわ。」

「開くのぉ?」

 開かなければ部屋に帰れたのに。

「お邪魔しまぁーす」

 遠慮がちにいって、厚い扉を押し開く。

 眩しい光が隙間から入り込んできた。太陽が正面にあるようだ。その先には、展望台のような場所。

 小舟の中にいるような、狭いスペースに出た。

「せま!」

「あ、せまい!」

 似たような感想を叫ぶ七春と姫川は、扉を開いた場所で立ち尽くした。そこには、予想通り屋根つきの鐘楼が。

 四本の柱に支えられた天井から、古い鐘がぶらさがっている。

天井は高いが、鐘が大きいので、それほど空間は空いていない。

 ホテルのてっぺんにたどり着いたようだ。

「ちょ、これ、一回撮るね。」

「うん。」

「なんか、全然爽やかだな。」

 景色は高いし、陽射しは眩しいくらいの良好で、ピクニック日和だった。とても心霊スポットの頂上とは思えないほどの陽気だ。

 そこをグルリ三百六十度、回りながら撮影する。

 ちゃぶ台が二台入るか入らないかの、もの寂しい広さ。

 錆びた手すりに、朽ちかけた柱。石のように沈黙したままの鐘は、近くで見るとかなり大きかった。

 落ちて来たら確実に閉じ込められる代物だ。触れてみると、夏の陽射しでかなり熱を持っている。恐ろしい。

 涼しげにスカートの裾を揺らしながら、桃色エプロンドレスの少女が手すりに腰かけていた。

「七春さん、何かいたら言ってね!」

 姫川が懇願する。

 言ってね、と言われても、七春は今無装備だ。

 重いからという理由で、ホテルの部屋に巻物のマッキーを投げ出してやってきた。

 唯一霊感のある八神がいないまま、お知らせバイブ機能のついているマイ巻物も欠いた状態だ。

 もはや、何をしに来たのか。

「あー、カメラになんか映ったら言うけど…。」

 心地いいくらいの、空間。

 心霊とは無関係のようにすら思えるこの場所で。


 それは、すでに二人の傍に迫っていた。


「お、ここから、迷路見えるんだぁ。」

 遥か下にある立体迷路を見下ろして、姫川が声をあげる。

 建物の屋根に半分隠れているが、入り口の門と、その奥にあった生垣造りの迷路が見えた。

「え、何?」

 鐘を下からあおるようなアングルで撮影していた七春が、声をあげて問い返す。

「立体迷路。ほら、上から見ると平面に見える。」

「ホントだ。見る角度変えるだけで、こんなに違うんだ。」

 七春も、姫川に並んで、手すりから身を乗り出す。

 ちなみに、高いところに上がるとテンションもあがって、景色を一望するため身を乗り出す七春のようなバカがいますが、絶対にマネしないで欲しい。

 転落するおそれがあり、大変危険な事故や怪我につながりやすいので、気をつけて頂きたい。

 どうしても身を乗り出したい人は、乗り出す前にレビテトをかけよう。

「見方を変えるっていうのは、大事だよね。」

「見方を変える、か…。 ひょっとしたら京助や祟り神のことも、見方さえ変えれば何かわかるのかな…」

 何気なく七春が呟いた時、


 かこえ かこえ かごのなかのとりいは


 ふいにまた、歌声が響いた。

 風が運んできたかのような、小さな声だ。それは七春が迷路の中で聴いた歌声と同じだった。

 音痴だ。

「この歌……」

 今度は弓の怪しものユーミンも持ち込んでいないので、この歌声はこの場所に残されていた記憶とは違う。

 という解釈がすぐさま頭に浮かぶわけでもなく、歌声の主を探して二人はキョロキョロした。


 いついつでやる よいあけのばんにん


 つるとかめがすべた


「今なんか、声しなかった?」

「ん…なんか、聞こえたような。」

 鳴らない鐘の下に男二人。

 他に人の気配はない。そもそも、鐘がつるしてある以外に何もないこの場所には、人が隠れる場所はない。

 はず、だったのだが。


 うしろのしょうねん だーあれ


「うわ、落ちっ……!」

 ふいに七春が奇声をあげた。

 自分の立つすぐ隣で七春が大きくバランスを崩すのが、姫川の視界の端にチラリとうつった。

 咄嗟の事態に脳味噌は柔軟に対応しないという、悪い癖がある。

「え、七春さん…」

 前に倒れこむその勢いは、まるで見えない誰かに後ろから押されたかのようだ。

 ギシリ、と嫌な音。

 雨風にさらされた影響で脆くなっていたのか、手すりがあっけなく外れる。

 支えがなくなった。そのまま七春は、前のめりに空中に放り出される。

 まるで重力が意図的に七春だけを地上に引きずり下ろそうとしたかのように、ホテルの三階の高さから、七春が転落した。


 最近、ホントによく落ちる。





 一方で、ホテルの入り口に立つ人影。

 久木亜来だった。

「よーし!休憩時間中に、絶対に心霊写真を撮るぞー!」

 と元気よく叫ぶ。

 亜来はエブリデイ元気いっぱいの、はつらつオカルトマニアである。

 バイトの制服であるエプロンドレスに身をつつみ、ポケットから颯爽とカメラを取り出す。

 頭の上で、チラチラと揺れる大きなリボン。左胸に、「あくる」の名札が光っている。

「お庭に迷路があるのって、不思議の国みたいで素敵~。地下室とかあったら、最高だよね!」

 インフォ、地下室もあります。

「しかも霊がいるなんて!いっそのこと、ここに住みたいかも!」

 亜来が妄想をぶっ飛ばしていると、

 ギシリ、と遠くから嫌な音。 

 何か重いものが軋むような音が、上の方から聞こえてきた。

 咄嗟に、二階三階部分の窓を見上げる。

 特に異変はない。

 が、それよりさらに上から、予想外の奇声は降ってきた。


「やーがーみーこーろーすー!」


 

 誰かが空中で叫んでいた。

 アニメは吹き飛ばされたあと、キランと星になるのだが、こちらは転落して三階の屋根部分に叩きつけられる。

 カメラをむけて、ズーム機能を使った。

「七春王子!」

 だった。

 鐘のあるところから落ちたらしい。

 ズームしたままのカメラを上に振ると、西洋風の鐘楼に人影が見える。遠くてよく見えないが、男がもう一人と、小さな女の子が一人。

 女の子は、嬉しそうに上下にピコピコ飛んでいる。

 七春はさらに、傾いている屋根の上をコロコロ転がっていった。今度は屋根から地面に落ちそうだ。

 見てる方は面白いが、見ている場合ではない。

 あそこから落ちたら、エライ高さだ。

 もうすでに死んでいてもおかしくない。

「たいへん、助けなきゃ!」

 カメラを小さなポッケにしまって、代わりに正方形の札を取り出す。表面には墨の文字。

 八神に貰った、京助の札だ。

 ボトルから、八神の血を指先につけて、文字を上からなぞって消す。

「京助、助けてあげてー!」

 天高く、亜来は札を指先から放った。

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