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パーソナリティーは七春さんですよ!  作者: 近衛モモ
幽霊ホテルとかこえうた
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はうまっち?


 なんにも知らない八神と姫川が、呑気にビデオ撮影などしていた。

 撮っているのは揺れる家具である。

 平和だ。

 モヤモヤ白い霧の中、巨大な立体迷路の生垣に飾り付けてある絵画やライトがゆらゆらする様を撮っている。

 花の形を模したライトが絶えず点滅し、怪しい光を放っていた。

 


 そんな時に、

「みゃん!?」

 八神が突然鳴いた。

「なに!? またオバケ!?」

 とビビって縮みあがる姫川さんのリアクションは、無理もない。

「いえ、オバケではないんですが、」

 と、あわてて弁解する八神。

「何?なにがでたの?」

 と声をあげる姫川は、八神に抱きつく勢いだ。誰だって、怖い思いはできるだけしたくない。

 一方の八神がその時に感じたのは、荒天鼬の気配だった。

 もともとは、八神が持つ札に憑いていた霊獣だ。今は別行動をとっている。

 その気配が突然、少し離れたところから漂いはじめた。

 荒天鼬。

 もとい京助から連想して亜来がでてくる。そして亜来がミステリーダイスキーと言われていたところまで思いだした。

 何故こんなところに霊獣がいるのかと考えたら、亜来が連れてきたとしか思えない。

(まさか、来てるのか……?)

 ばっちり来ている。

 幽霊の出るホテルなんて、亜来ホイホイと言っても過言ではない。

 何かの気配を読むように、辺りを見回している八神。

 その八神と手をつないで、姫川はカメラを前へむけていた。

 八神も姫川も、こういった迷路の類いは得意ではない。

 はじめのうちは、来た道をなるべく覚えておこうくらいの努力をしていたが、今はすっかりわからなくなっている。

 角を違う方向へ何度も曲がるので、もはやゴールの方向すら怪しい。

 そのうえ、誘うように次々と飾られている物が動きはじめたため、撮影のため動くものを追いかけてきた八神と姫川は、完全に道を見失っていた。

「ヤコーくん、何かいた?」

 不安な声で、姫川が問いかける。

 何も見えない姫川さんには、八神だけが頼りだ。

 広大な迷路で出口を失い、そこにオバケがでるなんていう状況は、ライオンと同じ檻に入っているも同然だからである。

 しかも見えないライオンだよ。

「いえ。こっちは多分、大丈夫です。」

 八神が答えた。

 同時に、カタンと大きな音がして、道の先で揺れていた絵画が動きをとめた。

 まるで、子供たちが遊びを終えた遊具のように、唐突に静止する。

「あ、止まった」

 カメラを向けていた姫川が、声をあげる。

「荒天鼬の気配に驚いて逃げましたね。」

「やっぱり、なんかいるんだ!?」

「大丈夫、俺の霊獣です。」

 さらっとスゴいことを言ってのける八神。

 どこからか発せられる霊獣の気配に、小さな少女の霊も気がついたようだった。

 姫川の目やカメラのレンズにはうつらないが、八神の目には、あわてて逃げ惑う少女の姿がみえる。

 複雑に交わる道の先。

 小さい。

 着ているのは確かに噂通りドレスだが、大きなリボンと白いフリルのついたエプロンドレスだ。

 空色を基調にしていて、不思議の国のアリスちゃんコスになっている。

 その小さな女の子が、スカートをひらひらさせながら、生垣をすり抜けていった。

 緑の壁に溶けこむように、すぅっと消える。

「まぁ、小さい子は逃げるよな…。」

 ここで七春がいたら、『あんな小さい子を一人にしておけるかよ。』とか言い出しそうなものだが。

 今は七春がいないので、八神は非常に楽である。

「なんか、絵とか動くの無くなったけど…?」

 と問う姫川に、

「今、小さい女の子がどこかに行ってしまいました。」

 と八神が説明する。

「壁を抜けれるみたいです。はじめに見た時も思ったんですが、建物の中と外を自由に行き来できるんじゃないかにゃあ。」

 霊がいなくなったことで緊張が解けたのか、八神の語尾もどことなくユルい。

 そのユルい語尾を聞いて、

「よ、よかった……。」

 と姫川は長く息を吐いた。

 企画的には全く良くないが、身の安全が最優先である。

 姫川センパイは「助けよう」とか「保護しよう」とか言わなくて素敵だなとか考えていた八神は、ふいに七春のことを思いだした。

 別れて行動しはじめてから、いっこうに迷路の中で合流する気配はない。

「もうホントに帰りたい。七春さんのラジオの特別編なんなの。」

 ともっともなことをボヤく姫川に、

「その七春センパイたちと合流しましょう。」

 と八神がつげた。

 七春も上木もバカなので、まだ迷路脱出には至ってないはずだ。

 事態が動いた以上、連絡を取り合うべきである。

 この意見には大いに賛成した姫川は、ぶんぶん首をたてに振った。

「そうだね。とりあえず、人数を増やそう。人数。」

 少人数の方が霊が出現しやすいとのことなので団体で固まっている方が安全そうだ。

「行きましょう。」

 姫川の手をひく八神。

 そこへ、


「その声は、魔法少女ちゃん?」


 ふいに大人びた声がかかった。

 アニメの世界では結構有名な声である。

「みゃ?上木センパイ?」

 八神がキョトキョトあたりを見回す。

 そこら辺には何もない。

 霊がいなくなったことでライトの不調はおさまったものの、依然として視界は悪い。

「シオリくんの声はするけど。」

 同じように上木の姿をとらえられない姫川が、カタンと首を傾けた。

 どこ?

 という疑問がボンヤリ浮かぶ。

「おーい!どこー?」

 こちらも大きな声で応じる。

 ややあって、

「どこー?……あっ!」

 と言って上木が現れたのは、分かれ道の向こうからだった。

 一人だ。

 片手にカメラ、ベルトにユーミンをはさんでいる。迷路に突入した時と、何も変わらない格好だった。

 無事らしい。

「シオリくんー!」

 バッと手をひろげて、だきしめあう姫川さんと上木さん。感動の再会をはたす。

「無事でよかった、お互いに!」

「全然無事じゃないよ!物が揺れたり落ちたり大変だったんだから!」

「でも、そっちは魔法少女ちゃんがいたんだから、まだマシでしょーよ。」

 再会早々わやわやと言い合う仲良しな二人。

 その二人を暖かい目で見守っていた八神が、あることに気がついた。

 一人、足りない。

「あの……、上木センパイ一人ですか?」

 八神が何気なくたずねる。

 一番ウルサイ人がいない。静かでいいが。

 八神の指摘を受けて姫川も、そういえば、と上木の後ろをのぞきこむ。

 背後には書棚が突っ立っていた。それ以外は、黒い土の上には何もない。

 恐怖のあまり七春とギュッとつないでいたはずの上木の片手は、今は空席だった。

「七春さんが『靴ひもほどけたから、先に行ってて』って言うから、置いてきたんだけど。いっこうに追い付いてくる気配がないんですよねー。」

 と弱った顔で上木が答える。

「えぇ!?」

 と悲鳴に近い声をあげる姫川。

 えらいことである。

 とっさに、幽霊に連れていかれたのでは、と不吉なことが姫川の頭をよぎった。悪い想像だ。

 だが、考えられなくもないのは、つい先程まで怪奇現象に立ち会っていたからである。

 この世のものではないものに連れ去られたという考え方は、実はあながち間違えてないんだが。

 一方、

 八神の方はというと、上木のその言葉で、突然ただよってきた荒天鼬の気配と話がつながった。

 七春が突然いなくなり、荒天鼬が現れた、となると。

(あの人、また俺の知らない所で霊獣に遭遇してるんだろな…。)

 なんかもう二回目である。

 七春さんはチラホラ単独行動が目立つ。

「ど、ど、どうしよう。幽霊って引っ張るっていうよね。あの世に連れていく的な……」

「そうなの!? 一人にしちゃダメだったんだ、どうしよ。」

 大袈裟に心配する二人の声優に、

「たぶん、大丈夫ですよ。」

 と八神が答えた。

 何をしているのかわからないが、少なくとも霊の仕業ではないだろう。

 霊獣の気配に驚いて逃げるような小さな子供だ。人を連れ去ったりはしない。

 と、

 いう説明をサラッと省いて。

「七春センパイのことですからね、どうせ迷路の中で迷子にでもなったんじゃないですか。このさいだから、俺たちだけでも外にでましょう。」

「七春さんは? 放っとくの?」

「こんな怖い撮影に呼ばれているんですし、たまには、こっちが七春センパイを怖がらせたいじゃないですか。」

 霊獣と一緒にいるなら大丈夫、と思っているからこその台詞である。

 八神が悪戯な笑みを浮かべている。

 普通の後輩キャラに戻ったようなので、それを見て姫川は、安全と判断した。

「七春センパイ曰く、庭のほかにも気になるところがあるそうなので、映像チェックして移動しますか!」

 テンション高く、八神が言った。




 車で深夜移動。

 からの早朝にトライした立体迷路。

 さらにその中での心霊現象。

 なんかもう、色々ごちそうさまだ。

 だが、まだまだ始まったばかりの心霊ロケは、まだまだ元気に進んでいく。

 迷路から抜け出して、三人の声優は、さらに庭の奥へ進んでいた。

「七春さんと迷路の中を歩いていたら、『かこえうた』が聞こえてきたんだ。それが途中で悲鳴に変わって消えたの。」

「こわー!ここ、ホントにまだ営業してんの?」

 呑気に怖い話しなんぞしながら歩いている姫川と上木に、

「朝ごはんは、いつでしょうか?」

 弁当を食べてからそんなに時間が経っていないはずの八神が、ポツリとこぼす。

 七春が欠けていることはさておき、もう次の気になるスポットへ向かう一行だった。

 七春さんの扱いは、どこへ行っても雑である。

「欠けたパーソナリティの代わりに説明すると、この庭の奥に行くと建物の右手にでるのね。色んな花や庭木がある中に、一つだけテーブルと椅子が置いてある場所があるんだって。」

 説明しながら先導する姫川さんは、七春と違ってカンペなど必要としない。

 迷路を抜けるとホテルの入り口にたどり着くわけだが、あえてそこから横にそれて、奥へむかう一行。

 土で固められていた迷路の中と違い、足下は草地である。

 その草に隠れるように、石を並べて道が造られている。

「そこも、朝に小さな子供たちが遊んでいる姿がよく見かけられるらしいよ。現れたと思うと消えるらしい。なので、朝のうちにチェックしたいそうです。」

「また朝ぁ?」

 と不満げな上木は、最後尾をチマチマついてくる。真ん中を歩くのが八神。

 また、縦一列だ。道が狭い。

「あの双子ちゃんが亡くなったのは、朝だったのかもしれませんねぇ。」

 と八神がふいに口にした。

「ヤコーくん、どう? オバケいる?」

「んーん、このへんには居ませんが。」

「このホテルの利用時間の手続きってどうなってるんだろうな?」

「どうしても幽霊に会いたいから、朝使わせてもらえる許可はとってるらしいよ?」

 そこまでして幽霊に会いたいなんて、これっぽっちも思っていない声優たち。

 ダラダラと喋りながら進む。

 やる気、という字を逆さにして裏返したようなテンションである。

 ホテルの庭はレンガ造りの塀に囲まれていて、その塀が見えないほど、内側は緑が密集している。

 名前は全くわからないが、背の低い植木に紫の小さな花が咲いていた。

 甘い香りを放っている。

「幽霊がでるホテルなんて言うから、もっとダークな海外のノリを想定してたけど。あれですね。雰囲気意外と落ちついてますね。」

 明るい声で上木がコメントする。

 事実、迷路を出てからは、霧が少しずつ晴れてきたおかげで視界はきくようになってきた。

 鳥のさえずりも聴こえてくる。

 ようやく一行のテンションに、現実的な時間が追い付いてきたようだ。 

「でも、なんか不思議だよね。名前は『かこえうた』で和風っぽいのに、ホテルの外観はどっちかといえば洋風だし。」

 姫川の言葉通り、建物の造りは西洋風。

 今時、珍しくはないが。

(西洋造りに『かこえうた』、か……。)

 八神には何かひっかかった。

 良くない予感がする。

 

 とにもかくにも、歩いていくと姫川の言った通り、少し開けた場所にでた。

 美しい草花に囲われて、ガーデンファニチャー三点セットが登場する。

 クラシカルな曲線デザインのされているチェアを、駆け寄って遠慮なくバシバシ叩く八神。

「はうまっち?」

 と品のない行為にはしる。

 七春がいたら、悪ノリして自分もテーブルをバシバシ叩くに違いない。「はうまっち?」とか言いながら。

 洋風のホテルの庭だけあって、陽当たりも景観も最高だ。

 花園に囲まれたガーデンテーブルで朝食だとか、巨大迷路とは違った趣が楽しめそうである。

 宿泊客なら誰でも使えるものらしい。

 八神の後ろ襟をつかんで、上木が引き戻す。

 そして言う。

「オバケいる?」

「いませんよ!」

「噂は噂だったのかな?」

「これ石造りでしょうか。アルミ?鉄?」

 八神は興味の対象が違う。

「聞いた話では七万だって。」

 八神の「はうまっち?」に、真面目に答えてくれる姫川さん。その瞬間、指紋をつけるだけつけて、八神は身を引いた。

「俺の一ヶ月の食費を大幅に上回りました。」

「それより、視えるヤコーくんが霊はいないと言うなら、ここでは何も撮れそうにないんだけど。」

 的確な姫川の指摘。

 しかし、せっかく許可をもらってまで来て、何も撮らないでは帰れないのも事実である。


 というわけで。


「霊がでるまでしばらく待つ間、アニメにからめたトークをしてください。……と指示がでていますが。」

 出された指示をそのまま読み上げる八神。

「ここで?」

 と上木が首をひねる。


 ここでアニメにからめたトークをすることになりました。



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