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パーソナリティーは七春さんですよ!  作者: 近衛モモ
幽霊ホテルとかこえうた
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狐の恩返し。


 ようこそ、お茶会へ。

 君たちは迷宮に迷いこんだ二人のアリス。

 そう、選ばれしアリスたちだ。

 そして、さしずめおれたちは、帽子屋と眠りネズミといったところかな。




「厨二かあぁぁぁ!」

 と七春がツッコミを入れる。

 ツッコミを入れることが義務だと言っても過言ではないほど厨二こいた台詞だったからである。

 心霊ロケにてやってきたホテル。

 少女の霊がでるとか言う庭。

 生垣でつくられた巨大立体迷路。

「なんでこんな所にお前らが揃ってんだよ!」

 その庭で小さな扉から覗くフェレットを発見した七春は、誘われてこのお茶会へやってきた。

 あの小さな金色の扉は七春には通れなかったので、「勝手口からまわってこい」というムードのない指示をうけて、普通にホテルの開いている扉から建物の中に入った。

 従業員用の入口だったようだ。

 ムードがない。

 そして先回りしていた京助に案内された部屋が現在地である。



 横に長く広い部屋だが、窓はない。

 横長のテーブルと派手な装飾の椅子。

 テーブルには白いクロスがかかり、グラスやキャンドル、お菓子を盛った皿などがのっている。

 京助ものっている。

 そして向かい合う席には、巫女服を着ている少女。

 これで、会うのは三度目になる。

 土地神様こと、祟り神。

 たった今、厨二こいた台詞を吐いた張本人である。

「いいから、早く座れ。」

 とその祟り神が言った。

 相変わらず可愛らしい容姿だ。今日は髪を一つに結っている。白い着物の巫女服姿が、清楚なイメージをかもしている。

 とても八神を祟っているようには見えない。

 八神曰く、祟り神のこの姿は、境界の巫女の姿を借りているらしいが。

「いや、てかアンタ敵だろ! この小説のラスボス的な立場の奴だろ! 普通に座ってんじゃねえぇぇえ!」

 テーブルをバシバシ叩きながら、七春が吠える。

 うるさい。

「うるさい!俺は腹が痛いんだ。早く座れ!」

 と祟り神が怒鳴る。

「腹痛いのかよ!」

 重ねてツッコむ七春。

 そもそも、何故こんなことになったのか。

(詩織くん、置いて来ちゃったし……!)

 京助に呼び止められた時、七春は心霊ロケの真っ最中だった。

 八神と分かれて行動していた最中、謎の歌声に遭遇。

 上木がユーミンを所持していたところから、それはあの迷路に残っていた、過去の記憶だと推測した。

 そして、そこで京助に呼び止められたので、投げ出してきたのだった。

 実に間が悪い。

「ここは神域の中。お茶会の会場風に土地神が造った。誰にも聞かれたくない話をするのに最適な部屋だ。お前と亜来に話があったんで呼ばせてもらったぞ。」

 と説明する京助はクッキーを山と積んでいる皿に並んで座っている。茶色いので色が混ざってよくわからない。

「タイミング考えてよ、仕事してたよ、俺!」

 切実なツッコミをする七春に、

「事を急がせたのはアイツだ。」

 と京助は責任を横流しした。アイツとは、祟り神のことである。

 お腹をサスサスしているところ、お腹が痛いというのは本当らしい。

 七春さんはバカなので、ちょっと心配になった。

「そんな痛いなら無理すんなよ。今日なにか食べた?」

「ちがう……。」

 と言いながら、机に突っ伏す祟り神。

「お前の腰の巻物がだな、俺を攻撃してくるんだよ。」

「早く言えよ!」

 七春が装備している唯一の怪しものマッキーには、神力を抑える力がある。

 それは実際、効果がででいるらしい。

 この場所が祟り神の創りだした世界なら、マッキーを使えば脱出も難しくないのかもしれない。

「てか、怪しものといえば、ユーミン置いてきたな。」

「それなら、話を手早く済ませるぞ。いいから座れ。…うぅ。」

 最後のうぅ。はお腹をサスサスしながら言う。

 それを見ていると、確かに早く話を終わらせてあげた方がいいような気がするので、七春は素直に重い椅子をひいた。

「マッキー、ちょっと手加減してやってな。」

 腰のホルダーに入れた巻物を、撫でて落ち着かせる。

 七春が椅子の中に落ち着いたことを確認してから、

「亜来も座れ。」

 と京助が言った。

 喋るフェレットという強烈な存在のせいで忘れがちだが、京助がいるところには、必ず飼い主の亜来がいるはずなのだ。

 亜来までいるのかと七春があたりを見回す。

 すると、後ろから「はいはーい!」と元気のいい返事が返ってきた。

 七春のすぐ隣の椅子を引いてチョコンと座るのは、エプロンドレス姿の亜来。

 黒地のドレスに、白いフリルのエプロンがつけてある。頭には大きなリボン。

 胸元が少し空いていて、左側に名札。

 八神の好きな『グラビメイド!』とかいうアニメには、こんな格好の人がたくさんでてくる。

 可愛らしい大きな目で、じっと七春を見つめてくる亜来。

「また会いましたね、七春王子。赤い月をながめながら、ポルターガイストについてゆっくり話しあいませんか…?」

 膝丈のスカートから、ちらっと肌色が覗いている。

 亜来の長い睫毛に、キラキラ光る星。


 も う 何 も ツ ッ コ ミ た く な い


 七春の思考の糸が切れた。

「キミ、京助の飼い主の……」

「亜来です、七春王子!」

「亜来さん……キミの着ているそれは京助の趣味なのかい?」

「馬鹿者。誤解だ。」

 京助がテーブルの上からツッコんだ。

「違いますよ、王子~。これは、ホテルのアルバイトの制服ですっ。ネットでポルターガイスト天国だと書かれていたので、バイトしに来てるんですよぉ。」

 目をキラキラさせる亜来。

 七春はもう何も言わない。

 ツッコミたいけど、どこからツッコんでいいのかわからない。

 七春さんがおとなしくなったので、

「うむ。では本題だ。」

 と祟り神が話を移した。


 クッキーの皿にまぎれていた京助が、亜来のそばへ移動する。

 豪奢なテーブルと食器類をはさんで、向かいに座る祟り神。

 口をひらく。

「お前たち二人に、正式にある事件の謎解きを命じる。拒否権はない。いいな?」

 頬杖をついて、片手でお腹をさすりながら言う。

 キマらない。

 その続きを、京助が引き継ぐ。

「四年前に境界の巫女を殺した犯人をつきとめてもらう。そのために、夏祭りの夜に話した通り、亜来は俺と『初春』をあたる。」

「わあー!探偵みたい!これはこれでミステリー!」

 呑気な亜来は、自分が重大な事件に巻き込まれていることを知らない。

 平凡な女子高生がカラオケに来てるようなテンションで、平凡に盛り上がる亜来。

 サラッと話に乗ってくるということは、七春や八神の知らないところで、京助から色々な話を聞いているのだろう。亜来は好奇心の塊なので。

 それから京助は、チラッと七春に視線をうつした。

「七春王子は、……まあ、なんか頑張れ。」

「俺への指示雑!」

 雑な扱い方をされる七春さん。

「てか、京助お前、祟り神とグルだったんだな!? そいつは、八神くんを祟ってるんだぞ。」

 机をガタガタ揺すって京助を脅かす低レベルな七春。

 そもそも、根本的に話の筋があっていないことは明白である。

 わざとらしく作り出されたテーブルで、信用の置けない相手からの、不可解な指示。

 頭が痛くなってきた。

 今更だが、残してきた仕事も当然ながら気にはなっている。

「……というか、ちょっと待ってくれ。八神くんから聞いた話しだと、境界の巫女を殺した容疑で、八神くんが祟られてるって話しだったろ。でも八神くんの夢の中では、祟り神が境界の巫女を殺したことになってるとかで……。」

 そして、その状況の最中に四年間放置された八神は、開き直るくらい病んでいる。

 亜来が「そうなんですか?」と首を傾げた。

 京助がそれにカクンと頷いて、考えながら七春が続ける。

「それなのに、俺たちに犯人探しをさせるのはおかしいだろ。 だいたい、八神くんも、自分なりに事件を解こうとはしているよ。そのために、巫女の仕事を継いだんだろ。」

「夜行は真実を知らなくていいんだ。」

 爪楊枝を刺すような鋭い声で、京助が言葉をはさんだ。

 今日一番、否定的な声だった。

 続いて今度はむかいの席の祟り神が、口をひらく。

「そうだ。知らなくていい。何も知らない方がいい。そのために俺はあの小僧を祟り、真相へ辿り着かないように迷走させているのだからな。…きゅう……。」

 最後のきゅう……。はお腹をグリグリしながら言う祟り神。

 手を動かすたびに、白い袖がユラユラ揺れる。

 ふいに天井から垂れ下がっているシャンデリアが、大きく揺れて、不自然に明滅した。

 祟り神の作りだした空間を、マッキーが攻撃しているようだ。

 落ち着かない。

「巫女を殺した容疑じゃなく、八神くんを真相へ辿り着かせないために祟っているのか? てか、腹は大丈夫か。」

「腹のことは言うな。いいか、ここで聞いた話しを、あの小僧には言うなよ。絶対だぞ。」

 ますますもって、

 話がこんがらがってくる。

 いっこうに話の筋はつながる気配を見せない。

 七春の聞いていた、『八神にかかる殺人容疑』と、『それを理由とする土地神の祟り』の話が、根本から崩れていく。

 八神に聞いた話だったので、そのまま鵜呑みにしていたが。

「ちょっと待てよ。この前会った時は、八神くんが約束を破って魔に堕ちて、どーとか、こーとか、言っていたろ。」

 これは、はじめてのおつかいをした時のことだ。

 女子高生の部屋に現れた祟り神と、七春は初めて話しをした。

 八神を恨んでいるようなことを仄めかす内容を、確かに祟り神が口にしていたはずだが。

 言われた土地神は眉間にしわをよせる。

「お前の勘違いだろ。」

「あれ!?……でも、俺が周りをウロチョロしてるのって、八神くんくらいだし。それに『神様を攻撃できる怪しもの』であるマッキーを持ってる俺が、邪魔だって言ってたし。」

「当たり前だろう。巻物を持ったお前がいると小僧に近寄れない。近寄れないと護れないだろ。」

 そこで京助が口をはさんだ。おい、喋りすぎだぞ、と。

 知らないうちに熱くなっていたのか、身を乗り出していた七春は、改めて椅子に深くかけなおす。

 うまく表現できないけれど、胸の中が騒がしかった。

 思考がまとまらない。

 違和感がある。

 ずっと黙っていた亜来が、京助に遠慮がちに問いかけた。

「京助たちは、お友達を大事にしているんだね。だから私たちみたいな、第三者の探偵役が必要なの?」

 実に的を射た問いかけだった。

 亜来は慧眼をもっている。

 そして実は、頭もいい。

 その亜来がテーブルの上にちょんと添えている手に、京助は鼻をグリグリこすりつけた。

「そうだ。夜行を祟り、情報を乱して、真相から遠ざけるのが土地神の役目。俺は夜行の霊獣として傍にいながら、夜行を大切に想ってくれる探偵役を探す役目。探偵役が見つかったら、極力なにか理由をつけて、決別する形で夜行から離れる予定になっていた。」

 京助までもが、話をさらにひっくり返した。

 本格的に頭痛がしてきて、七春はいよいよ頭を抱えた。

「ここまで全部計算通りってことかよ。怖いな、京助。」

「まあ、誤算もいくつかあるが、おおむね予定通りだ。しかし、四年もかかるとはな。」

 そう言ってから、ふいに京助は口をとざした。

 長テーブルの置かれた室内が、静かに時をとめる。

 誰も口をひらかなかった。

 不安定なシャンデリアが、絶えず光と影を揺らしている。


 七春が頭の整理するための時間が必要だ。今まで八神から聞いていた話が、全部ひっくり返ったような気がする。

 演技ではなく、心底仲が悪いように見えた八神と京助。

 明らかに八神に警戒されていた祟り神。

 どこにも計算や演出なんて見えなかった。

 はずだが。


 やや時間を置いて、沈黙を破ったのは七春だった。

「境界の巫女殺しには、八神くんでも祟り神でもない、別の犯人がいる。……その事実を祟り神と京助がどこまで知っているかは未知数だけど、八神くんに真実を知らせないために、八神くんを祟って迷走させ、その間に俺たち第三者に謎解きをさせようとしているってところか。」

 話をまとめてみたらしい。

 さらに付け足す。

「でも、それなら事件を迷宮入りさせた方がよかったんじゃないか。」

 探偵役失格の発言だった。

 さすがに七春のこの発言には、祟り神もケラケラと笑いだす。

「正直者を選んだな荒天鼬。いかにも、その通りだ。」

 祟り神のその笑い声に、バカにされた気がして、七春は少しムッとした。

 すぐに京助から横槍がくる。

「確かにな。だが、夜行はそれでは済ませないだろう。自力で真実を探し出されては困る。夜行より早く真実に辿り着き、それをもっとも無難な形で、夜行の納得のいくように終わらせてくれる第三者は、必要不可欠なんだよ。」

「なんで八神くんに本当のことを知らせないんだ。」

「傷つくかもしれないからだよ。夜行の心を護ることが、雪解が俺たちに遺した最期の遺志だったんだ。」

 わからん。

 まったく意味がわからん。

 何も理解できていないながら、七春はじわじわ席を立った。

「どうせ祟り神と霊獣が相手じゃ拒否権ないから、謎解きには参加するけど。……ちょっと頭の中を整理する時間くれないか。」

 脳内が白紙になっている。この二人の話をまた鵜呑みにするのも、抵抗があるし。

 後の仕事に明らかに差し支えそうだ。

「くれぐれも、ここだけの話にしておいてくれよ。」

 席をたつ七春に、祟り神が警告した。

 七春がここで聞いた話しを八神に伝え、それをもとに八神が謎を解くことを怖れたからだ。

「八神くんは十分傷ついてるよ。祟ってまで隠す真実って、なんなんだ。」

「それを解くのが、お前の仕事だ。」

 京助が、テーブルの上からぴょーんと跳ねて、亜来の肩に乗っかった。

 亜来も席をたつ。

「私、バイトに戻らなきゃ。王子がこのホテルに泊まるなら、きっとまた会えますね。では、また後で!」

 シュタッと敬礼する亜来。

 自分が得体の知れない存在に、得体のしれない事件に巻き込まれたということは、今のところどうでもいいらしい。

 そんなことより亜来の頭の中は、オカルトで満ちあふれているのである。

(まぁ、京助が傍にいるうちは、亜来さんは大丈夫か。)

 入ってきた時と同じように、両開きの大きな扉から外へでる。

「最後に一つ、忠告だ。」

 部屋に一人で残る祟り神が、閉まる扉の隙間から、七春に呼び掛けた。

「アレはいつもあの小僧の背後に立っている。お前も雪解の二の舞にならないよう気をつけろ。」

 その忠告の意味はまったくわからないまま、その言葉は七春の胸の中に残った。

 廊下にでて、閉めた扉に背をつける。

(なんて言い訳して戻ろう……。)

 

 現実に頭が返ってきた。

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