表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パーソナリティーは七春さんですよ!  作者: 近衛モモ
幽霊ホテルとかこえうた
56/137

はやくあそぼう


「姫川センパイ、魔除けグッズ持ちませんか?」

 八神が言って、上着の下から取り出したのは鈴だった。

 赤と白の糸を組み合わせた紐がついている。

 微かな振動で、それはチリチリ音をたてた。

 いい音だ。霧の中にもよく通る。

「魔除け……グッズ……?」

 ホテルの庭につくられた巨大な立体迷路。

 生垣には絵画や時計などのファンシーな雑貨がいくつも飾られて、現実とはかけ離れた世界を造りだしていた。

 そんな明らかに普通じゃない世界で、人より霊をひきつけやすい、いわゆる霊媒体質だと宣言された姫川。

 絶望的に追い詰められた彼の前に、一転してアッサリと現状を改善できるアイテムが降って落ちる。

「それってただの鈴……だよね。」

「ぶー!ぶー!鈴をバカにしないでくださいっ」

「してないよ!」

 八神が差し出した鈴を受けとる。

 そのへんのお土産屋さんでも売っていそうな、別段かわったところのないものだ。

 金色のボディに光沢。

 まあるい姿が愛らしい。

「清浄な鈴の音には、不浄を祓う力があります。あと、その飾り紐にも、霊を威嚇する力がありますので。」

「この赤と白の紐?」

「ちぎっちゃダメですよ。効果なくなっちゃいます。」

 紐をクイクイ引っ張っている姫川に、八神が忠告する。

 初めての霊的アイテムを手にのせ、緊張した面持ちの姫川。

(こういうの持てるなんて、七春さんみたいだ。)

 七春は別に、好きで霊的アイテムを持っているわけではないが。

 そしてその頭に浮かんだ七春さんが、「ズルい ズルい」と不満そうな顔をした。

「う、嬉しいけど……。七春さんにあげなくてもいいの?」

 念のため聞いてあげる優しい姫川さん。

「七春センパイは雑草のような人ですからね。助けるつもりがなくても、勝手に生き残っているような人なので。」

 的を射た八神の回答。

 頭に浮かんだ七春さんが、気まずい顔をして引っ込む。

「はは。じゃあ、俺が貰おう。ありがとうヤコーくん、大切にするね。」

 どこにつけておこうかな、とか考えて、携帯にストラップ代わりにつける。

 七春のように八神の隣に立って心霊声優と呼ばれるようになるのは無理だが、これで少なくとも、足をひっぱる事態は避けられそうだ。

 鈴をつけた携帯をギュッと握る姫川を観察してから、

「さて、じゃあ、改めて行きますか。」

 と八神は前方を見つめた。

「あ。」

 とすぐさま声をあげる。

「何!?」

 飛び退く姫川は、たった今自分が魔除けグッズを貰ったことを一瞬で忘れた。

「なに?なに?ごめんねヤコーくん。」

 ごめんねと言いつつ、体が勝手に八神の後ろに下がる。

 盾にされた八神はスッと指を道の先にむけた。

 緑の生垣にかかる霧のベール。飾られた絵画が、ユラユラと揺れている。

 そこには、誰もいないはずなのに。

「姫川センパイ、カメラお願いします。そこに女の子がいるの、見えますか?」

 八神が言って、その瞬間揺れていた絵画は音をたてて下に落ちた。


 ゴトン!


「ちょおぉ!」

 七春と同じように、いいリアクションをする姫川。

 これまで音をたてるものが何もなかったため、静かだった迷路の中。

 そこへ突然、大きな音の波紋がひろがっただけでも十分に衝撃だった。

 飾られていた絵がひとりでに動き、落ちる。まるで誰かが無理矢理その絵だけを落としたかのように。

 言うまでもないが、生垣にあらゆる方向を囲われている迷路の中、風はない。

「逃げないでください、姫川センパイ。」

 振り返って緊急ダッシュをかけた姫川を、繋いだ手で引き止める八神。

 ベクトルがつりあっている。

「怖い。やばい。どこ?」

 などと言っているあたり、八神の言う女の子は、姫川には見えていないらしい。

 絵が落ちた後しばらくして、今度は少し向こうの掛け時計が揺れ始める。


 キィ……キィ……


 金具の軋む音がする。

「誘われてますね。」

 と八神が言った。

 霧に包まれた異様な迷路。来る者を監視するかのように並ぶ謎の雑貨。

 背の高い壁に囲まれて、この巨大な迷宮の全ては計り知れない。

 そこに棲む見えない少女に、八神や姫川は今、誘いこまれているらしい。

 ここにいる霊にもし悪意があるなら、この迷宮で二人を迷わせようとすることは、容易に想像できるが。

「ど、ど、どうする? 追いかける?」

 七春が聞いたら確実に「嫌だわ!」と言いそうな質問を、姫川が投げかけた。

 慣れている八神は平静な顔で、

「悪意のある霊ではないようなので、追いかけて怪奇現象だけでもカメラにおさめますか?」

 と返す。

 姫川の手には、八神とつないでいる手と反対の手に、小型のカメラが握られている。

 それは霊を撮影するためのものだ。

 揺れていた時計が下に落ちて、今度はさらに少し先にある本棚が揺れはじめた。

 誘われているというのは本当らしい。

 深入りしたくないという想いが、姫川の後ろ髪を引く。

 だが、

(とはいえ、仕事は仕事だ…。何より、魔法少女がいるしな。)

 一度その力を目の当たりにしているので、八神がいれば九割がた大丈夫と思える姫川さん。

 七春と同じ思考である。

 姫川が、大きく息を吸って、大きく吐いた。

「オーケー、行こうか。」

 少なくとも、七春よりはモノわかりのいい姫川。

 決意してカメラを行く先にむけた。

 生憎の天候の中、液晶モニターに迷路の先がうつしだされる。

 進んだ先にはまた分かれ道だ。

 軋む本棚から、いくつかの本がバラバラと落ちる。

「ああやって気を引こうとするんですよね。」

 八神が説明した。

 感情のない声で、ただ事実を説明した。

 向き合っている霊が子供だということは、八神にとってそれほど重要ではないらしい。

 少し遅れてもう一冊、本が落ちる。

「姫川センパイや七春センパイが一番憑かれそうな霊なので、慎重に行きましょう。」

 



 はやくあそぼう、おにいちゃんたち。




 ではここで、モノわかりの悪い七春さんを見てみましょう。

「オバケなんていなーいさ。オバケなんてうーそさ。」

 歌っていた。

「七十すぎのじぃじが、見間違ーえたーのさ。」

「視力が著しく低下したじぃじの歌はもういいからさ、カメラ回しましょーよ、カメラ。」

 手をつないで歩く上木が、的確なツッコミをいれる。

 二人もまた、立体迷路の中を進んでいた。なんとなーく歩いている。

 二人とも頭が弱いので、こういうのは頭を使って考えちゃいけないと思っているようだ。

「だけどちょっと、だけどちょっと…。」

 消えいりそうなか細い声で歌う七春の隣を歩きながら、上木は腰を気にしていた。

 なんだかんだで、七春に渡そうとしていた謎の棒切れを、預かったままだ。

 二つにボッキリ折れてしまった怪しものの弓だが、何も知らない人が見たら、弦を結んであるただの棒切れに見えることだろう。

 実際、上木もそれはただの釣竿か何かだと思っている。

(それにしてもこの棒、ベルトにさしていると邪魔だなぁ。)

 邪魔なのである。

 七春のもつ怪しものマッキーのように、きちんとホルダーを設けていないそれは、重いし長いし邪魔だった。

 今、勢いでマッキーのホルダーについて『きちんと』という表記を使ったかもしれない。

 前言撤回、七春がマッキーを突っ込んでいるのは、市販のペットボトルホルダーである。

 ちゃんとはしていない。

「七春さん、この棒……」

 上木が言いかけた時、


 かーこえ  かこえ


 ふいに小さな女の子らしき歌声が響いてきた。

 耳にかろうじて拾えるくらいの声だが、物音とは明らかに違う。

 歌声に反応して、上木と七春はビクリと動きを止めた。

「な、なんか聞こえた?」

「うそ。変なこと言うなよ。」

 現実を認めようとしない二人。

 しかしそれは確かに聞こえてきていた。


 かごのなかのとりいは いついつでやる


 「かこえうた」だった。

 二人が足をとめたのは道の真ん中。

 正面には黒い土の道が続いている。少し先にいくと、道は二つに分かれていた。

 しかし、そこに人がいるような気配はない。

 当然、別行動している八神や姫川の姿もない。

 歌声はそう遠くないが、歌い手の顔だけが見えなかった。少し音がはずれている。音痴だ。

「この声、どこからしてる?」

 言いながら、七春の手は腰のマッキーに触れていた。

 まるっきりアテにしていたマッキーのバイブは、まだこない。

「たぶん、道の先?」

 と曖昧に答える上木は、七春とつないでいる方とは逆の手にカメラを持っている。

 機械に特に影響はでていないようだ。そこには、やはり何もうつっていない。

 まだスタート地点からいくらも来ていないところで、突然の声だけの霊との遭遇。

 その場にピリッと緊張がはしる。


 よいあけのばんにん つるとかめがすべた


 歌声はやまない。

「詩織くん、撮ってる?」

「撮ってるけど、どこ撮ればいいの!?」

 八神がいない、というのが辛かった。指示がないので、やりづらいのだ。

 痛いくらいお互いの手を握って、二人は生垣に背中をつけた。

 どうしていいのかわからないので、全方向を警戒する。

 生垣が作る複雑な道の交錯。

(なんでいないの八神くん~。)

 と内心は思っている七春。

 何故かと言うと、チームを二つに分けたからである。

 

 うしろのしょうねん だーあれ


 で歌は終わった。

 代わりに、


 きゃあああ!


 という悲鳴に代わり、その悲鳴も途中で途切れた。

 生々しくリアルな響きで幕を閉じた歌声。

 姿は全く見えなかったが、声は近かったような気がする。

 正体はわからないままだ。

 霧が方向感覚を鈍らせ、歌声の出所を包み隠してしまっている。

「……な、ん、なの。」

 言葉を絞り出す上木。

 その隣で、七春は固まっている。

 いや、思考は働いているのだが、体が固まっている。

 あまりにも唐突に始まり、唐突に終わった歌。

 出所はわからないが、何故か腰のマッキーは反応しなかった。

 迷路の中、音も風もない時間がジリジリと続く。

「詩織くんさぁ、」

 ふと思いついて、七春が声をあげた。

「ひょっとしてまだ、ユーミン持ってる?」

 ユーミンとは、まさしく上木が七春に渡そうとしていた、棒切れこと怪しもののことである。

 そしてそれは、その土地について離れない強烈な想いや記憶を、目に見えるよう写し出す力がある。

 と、いう説明を箱入あげはがしていた。

「もももも、持ってる。」

「なんだよ、それだ!」

「どれだ!?」

 上木の両肩にパシーンと手を置いて、七春は安堵の息を吐いた。

「じゃあ、今のは記憶だ!幽霊じゃない!」

 その場の空気が、しんと静まりかえる。

 トンネルで撮影していた時も、パトカーに追いかけられる男を見た上木。

 それは霊とは別に、怪しもののユーミンが見せた、その場に残っていた記憶だった。

 その時は、八神が幽霊ではないと説明していて、そのまま納得したのだが。

「…てことは、ここで小さい女の子が悲鳴をあげるような事態が起きたってこと?」

 震える声で、上木が言った。

 肩に手を置いている七春と、まっすぐ目があう。

 そういうことだ。

「てか、七春さんよく幽霊と記憶の区別つくね。貴方の魔法少女の影響なの?」

「いや、区別がつくわけじゃないけど…。なんとなく。」

 七春は『なんとなく。』という感覚を大事にして生きている。

「それより、はやく迷路を出るか、せめて八神くんたちと合流しないと。今の歌、カメラにちゃんと入った?」

「入ったと思う。」

 聞こえてきた歌声が幽霊ではなかったと気がつき、安心すると同時に次の行動にうつる二人。

 幽霊が出ると噂されるホテル。

 そういう場所には、必ずと言っていいほど、知ってはいけない過去がある。

 その過去を、二人は今のぞいてしまったかもしれない。

 繋いだ手は離さないまま、二人は早足になって迷路内を再び進みはじめた。

 出口がわからないのは最初と変わらないが、今は急いでいる。

 心が焦って、頭が真空状態になっていた。

(八神くんに知らせなきゃ……!)

 二人三脚のように、お互いの歩調を合わせて早足に歩く二人。

 なんか、行き当たりばったりで来たロケで、結構いい映像が撮れている。

 そこへ、


「七春王子!」


 極力ひそめた小さな声で、誰かが呼びかけた。

 七春が、足をとめる。

 かなり、嫌な予感がするが。

 今の声は聞き覚えがある。

(き、京助の声……?)

 どこから。

 足を止めてキョトキョト辺りを見回す七春に、上木が手を引きながら「どうしたの」とたずねた。

「ごめん、靴ひもほどけた。先行ってて。」

 ごまかして、かがみこむ七春。

 視点が低くなったことで、それに気がついた。

 生垣の下の方、地面と接する部分に、小さな金色の扉がついている。人が通れるような大きさではないが、半分ほど開いていた。

 

 そこから、一匹のフェレットが覗きこんでいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ