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パーソナリティーは七春さんですよ!  作者: 近衛モモ
幽霊ホテルとかこえうた
55/137

迷路は白かった。


 青い空。

「を、埋めつくす白い霧!」

 三階だての小さな洋風の館。

「の、壁に這うツタ!」

 美しきレンガ造り。

「の、崩れかけて剥き出しの柱!」

 こういった施設には珍しい、屋根の上のヨーロッパ風の鐘楼。

「アンティークなアレが、今にも落ちてきそうですねー!そんな素敵な宿に到着しましたよー!」



 パーソナリティをつとめる七春が、無理矢理周りのテンションを上げようとしているオープニング。

 が、七春のテンションが高すぎて周りのテンションはひたすら下がっているようだ。

 思い出の宿になるか、我々一行の墓場となるか。運命の幽霊ホテルへ、いよいよ到着した。

 洋風に作られた黒い門のむこうに、生垣が見える。その向こうの方に、ホテルの建物。

「いや~、着いてしまいましたね!」

「帰りたいね…。」

 腰に手をつき、重荷を背負っているような顔を並べる上木と姫川。

 七春さんがパーソナリティをつとめる声優ラジオ、『パーソナリティは七春さんですよ!』夏季特別編とかタイトルをつけて、平たく言うと『夏だから心霊スポットに行こう!』という企画である。

 遊び半分にこういう場所に来る行為は非常に危険なので、極力真似しないで欲しい。

「みんな、頼むからチェックインまでの間だけでもテンション保ってくんないか。」

 小声で懇願する七春。

 そんな七春の隣で、八神は建物の外観を見上げていた。

 視ているのだ。仕事が早い。

「というわけで、今回この怪奇現象が多発するというホテルを調査するのは、この声優四人メンバーです。」

 撮影用カメラの前で、上機嫌に進行していく七春さん。

 帰りたいのはモチロンだが、仕事は投げ出せない。

 ホテルは全部で三階建て。小さいホテルだ。

 その上に西洋式の鐘楼が乗っかっている。

 一体何に使うためにあるのか全くわからないが、今にも落っこちてきそうなほど錆びていた。

街中から離れてはいないものの、背の高い木々に囲まれていて、一見しただけでは気がつかないような場所に建っている。

 外界からは隔離された世界。

 そんな閉塞感を感じさせる。

「ホテルのチェックインを十五時までに済ますために、みんな協力してくれ。まずは庭から攻略だ!」

 七春が出す訳のわからない指示。

 霧による世界の曖昧さもあって、上木も姫川もわからない顔をする。

「攻略?」

「とは一体?」

「下調べで得た情報だと、このホテルは早朝に庭を歩くと、ドレスを着た少女の霊に会えるらしい。ホテル側には許可をもらってるから、早朝のうちに庭から攻めましょう、とのことです。」

 沈黙。

 してから、三秒後。

 すさまじいブーイングが吹雪のように七春を襲う。

「そのための深夜移動! てか、朝にオバケってでるの!?」

 という上木の常識的なツッコミ。

「ていうか、庭ってどこ!?」

 と姫川が付け足す。

 ちなみに、現時点での時刻は朝の五時である。恐ろしい。

「早朝っていつまでを早朝って言うの。」

「俺はいつも朝七時に起きる。」

「じゃあ、七時は早朝じゃない。ただの朝だ…。」

 早朝という言葉のさす正確な時間がわからないので、焦り出す単純な声優メンバー。

「ちなみに、庭はそこな。」

 と七春が親指をたてて、クイッと後方を示す。そこには、門。その向こうは生垣で見えない。

「そこってどこ?」

 姫川さんがピョコピョコ背伸びしても、その緑の壁の向こうは見えない。

 ずいぶん生垣が高いようだ。

「庭の他にも気になるところはあるから、サクサク行こうな。とりあえずは、……。」

 七春が、八神の腰に巻いた赤チェックの上着をクイクイ引っ張った。

「魔法少女の意見を聞いとこうか。」

「二体です。」

 指を二本たてて、ピースサインで八神が即答した。

 答えてから、

「あぁ、でも細かいの入れると三体ですが。」

 と指を追加する。

 このホテル「かこえうた」に棲みつく、この世のものではない者たち。八神が言うには三人の霊がいるらしいが。

 その八神の言葉に、

(思っていたほど多くはないな。)

 と思う七春さん。

 八神の傍にいると、常識的な危機感を見失う。

「なになに、たくさんいるの? 上からドンドンしてくる感じのやつ?」

 上からドンドンされることが、姫川の中でトラウマになっている。

「上からドンドンはしませんが、少し面倒かもしれません。……正直、俺はこういう霊は苦手です。」

「どんな霊?こわい霊?」

 上木が重ねて質問した。

 八神は首を横に振る。

「いえ、遊びたい盛りの、双子ちゃんです。」

「双子ちゃん!」

 七春が何故か叫ぶ。特に意味はない。

「さみしいから、とにかく遊んで欲しいって感じです。だから、宿泊客が餌食なるんじゃないかな。」

 ポルターガイストにありがちなのは、物を落としたり、動かしたり、音をたてたり、だ。

 そうやって双子の霊は、人の反応を見て楽しんでいるのだ。

「怨みの念はありませんが、子供はたまに大人より残酷なので、気を引きしめていきましょうか。」

 加減を知らないという意味では悪霊よりも恐ろしいもの。

 そんなものが、黒い門の向こうで、一行を手招きしていた。




 何はともあれ、庭にたどり着いた一行。

 は、唖然として立ち尽くした。

「庭……じゃない。」

 目の前に広がるものが、あまりにも巨大すぎて先が見えない。

 かろうじてわかるのは、背の高い生垣の片隅にちょこんとたてられている古めかしい看板に「メイズ」の文字が書かれていることだけだ。

「七春さん…。」

 すでに挫けてしまった上木が、ガクッとその場に膝をつく。手もつく。OTLの状態だ。

「こーゆーの、日本にもあるんだ。」

 と感心する姫川の目の前には、自分の身長をゆうに超える生垣。

 近くで見るとますますデカイそれは、複雑な形に並んでおり、立体迷路を造りだしていた。

 それほど規模は大きくないので、時間があれば十分に抜け出せそうだが、霊をカメラにおさめる任務も足して考えると大変だ。

「噂になるくらいだから、その霊をいろんな人が見てるんだろうけどさー。誰が早朝にこんな迷路に挑んでいたの?」

 姫川のささやかな疑問に、

「早朝にこの庭にはいって、庭の掃除をしていた従業員から、警備員、客へと芋蔓式に目撃情報がひろがっていったらしい。」

 とパーソナリティがさらっと答えてしまう。

「入り口は二ヶ所。どちらから入っても出口にはたどりつけるし、二つのコースは迷路の中で何度も複雑に交差しています、だそうです。霊は人数が少ないほど出やすいので、二人ずつにわかれて別々の入り口から入りましょう。」

 七春さんがカンペをガン見しながら言う。

 こんな長い説明を覚えるなんて、七春さんには荷が重い。

 緑の壁と呼ぶべき高い生垣には、確かに入り口が二つある。

「二人ずつにわけるのはいいとして、ある程度霊に耐性のある七春さんと魔法少女ちゃんは分かれた方がよくない?」

 上木の冷静な状況判断。

 それを尊重して、八神と七春はわかれることになった。

 結果。

「では俺と姫川センパイチーム、七春センパイと上木センパイチームで進みましょうか。」

 ということになった。

 何故か迷路全体を見渡せる高台のようなものを設置してくれてないので、カメラを置くのは難しい。

 なので、それぞれのチームに一台ずつ、ハンディカメラをもって進む。

「この迷路の庭、ホテル建てた人の趣味なのかな。」

「いかにも霊がでそう。それじゃ八神くん、姫川さん、気を付けてね~。」

 ビビりながらも、七春と上木は、迷路の中へと入っていった。

 恐怖のあまり、二人でキュッと手をつないでいる。二人が入ったのは、むかって右側の入り口だ。

 そんな二人を見送って、八神は隣にたつ姫川を見上げた。

「七春センパイたちを見習って、俺たちも手をつないでいきましょう。原則、はぐれた場合はやたらに動かず、携帯で連絡を。」

「う、うん。了解。」

 特に意味はないが、敬礼してカクカク頷く姫川。

 ヤコーくん、後輩キャラはどこへ?とか思う姫川。自宅の怪奇現象をおさめてもらった時も、こんなふうに態度が変化するのを見たような気がする。

「俺たちもいきましょう。」

 と八神が手を差し出した。姫川がその手をとって、二人も立体迷路の中へと踏み込んでいった。

(ドレスの女の子、か……。)

 

 迷路は白かった。


 霧で前が見えんのである。お風呂の中みたいだ。両側に並ぶ生垣以外は何も見えない。

 その生垣はごく普通の壁のように、絵画が飾られていたりする。時計もある。てか、時計多いな。時計や絵画がたくさん固定してある。

 少し直進して、つきあたり。左右に道が分かれている。

 不思議の国に迷いこんだみたいだ。

 絵の他にも、斜めに傾いだ書棚や、電球の割れたライトが備えつけてある。

 もはや庭とは呼びづらい光景だ。

「とりあえず、どっちに行く?」

 わかれている道を見て、姫川が言った。

 足下はしっかり固められた土の道。舗装はされていない。

「迷路を抜けようとしながら、霊の姿をとらえるのは難しいように思います。とりあえず迷路のことは置いておいて、霊の気配を追いましょうか。」

「うん……。七春さんたちは大丈夫かな?」

「あっちは放っておいても大丈夫ですよ。」

 何かをわかっているふうに、八神が言った。頼もしいことだ。

 姫川も安心である。

 そして迷路の中に普通にソファも追いてある。大きいソファだ。

「こっちです。」

 という八神の指示にそって右へ。真っ直ぐ行って、左に行ったら、道がイキナリまた曲がっていて、ゆるやかなカーブで先が見えない中、道なりに進んで、わき道に入って、左。

 もはや、意味がわからない。

 霊の気配を追うとのことだったので、先導は八神に任せて、姫川はただ横を歩いていく。

 道幅は、二人が並んで歩いても、余裕があるくらいだ。

 それをいいことに、燭台のようなものまでたっている。蝋燭に火はない。

「姫川センパイに、一つ確認しておきたいことがあるんですが。」

 ふいに八神がきりだした。

 角を右に行く。

「うん。何?」

「センパイの家にお邪魔した時、センパイの家に起きている怪奇現象は、上の階の子供の霊が原因だという話をしたんですが。」

「うん。覚えてるよ。あの時は、あの小さい子を助けてくれて、ありがとう。」

 それは今から少し前、春の終わりのことだった。

「はい。……それで、あの時は、霊が姫川センパイの部屋に来ていたのは、センパイの優しさを覚えているから、すがってきているんだと思ったんですが。……あれから、ずっとひっかかっていまして。」

 話ながらも、八神は気配を追って迷いなく進んでいく。

 生垣に飾られた額縁の中から、椅子に座った婦人が微笑みかけてきていた。怖い。

「ひっかかってるって、何が?」

「そう簡単に、寄ってくるものかなぁ、と。ですが、このロケに来て原因がわかりました。」

 そこで一旦、言葉を区切る。

 八神は姫川を見上げた。

「赤ん坊の霊には、よりどころにされ、仕事では霊のでるホテルに泊まる。どちらも共通点は子供の霊。……姫川センパイはひょっとして、霊媒体質じゃないでしょうか。」

 れいばいたいしつ。

 ひめかわのしこうがていしした。

 へんかんもままならない。

「れ、れいばい……?」

「人より霊をひきつけやすく、低級の霊にも憑かれやすいタイプです。……あの、怖がらせるつもりではないんですが、自覚がないのも危険なので。」

 白目をむいてる姫川に、とりもつように八神がつけたす。

「姫川センパイは特に、子供の霊に好かれやすいみたいです。ここにも、呼ばれて来たのかもしれませんね。招かれたというか。」

 サラッとそんなことを八神が言った。

 サラッと言うべきことではない。オブラートに包むべきだった。

 繋いでいた手に力が入る。背中にゾワリと悪寒を感じた姫川が、咄嗟に強く握ったのだ。

「そ、それって、あまり良くないよね……?」

 健康診断の結果を見た七春のような、血の気のない蒼白い顔で姫川が言った。

 今いる場所を考えたら、無理のないリアクションである。

 幽霊ホテルにやってきてから、自分は他の人よりも霊をひきつけやすいなどと言われたら。

「やだよ…。」

 泣きそうな顔で姫川が訴えた。

「俺よりも七春さんの方が霊媒体質じゃないかな。違うの?」

「七春センパイは霊も人も動物も無意識に惹き付けますので…。」

 七春は霊媒ではなく、ただの人気声優である。

「お、俺このまま進みたくないんだけど。ホントに嫌なんだけど。」

 いよいよ、道の真ん中で姫川は足をとめた。

 手をつないでいるので、八神も必然的に足をとめる。

 あまりに突然の八神の発言に、それ以上深入りすることは、姫川の精神的に、無理なようだった。

 当然だ。

 今のは八神の言ったタイミングが悪い。

 全面的に、八神が悪い。

 なので、

「もちろん俺も、気づいた上で放置はしません。むしろ、早いうちに気がついてよかった。ここからが、本題です。」

 言って八神は、腰に巻いている上着の下に手を突っ込んだ。

 チリチリ、と音がする。

「姫川センパイ、魔除けグッズ持ちませんか?」

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