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パーソナリティーは七春さんですよ!  作者: 近衛モモ
トンネルと怪し物
50/137

参考になりました。


「八神夜行の囮大作せーん!」

 少しでも眠気に対抗するため、作戦名を元気よく叫ぶ。

 心霊ロケのゲリラミッションに立ち向かう八神。

 その横に、遠い目をした七春。心霊声優として売れてきた七春さんには、今後の進行が任されている。

 さらに上木と姫川が並び立ち、トンネルの開口部に再び四人がそろった。

「このロケのスゴいところは、特になんの説明もなく、とにかくやってくれっていう空気をかもすところだな。」

 行き当たりばったりのユルーイロケである。

「指示ないもんな。」

 姫川さんと上木さんの呆れた感想に、七春さんはさらに遠く、北極のあたりを見つめる。

 対処する気はないらしい。

「で、具体的に俺をどうしたいの。」

 と七春が八神に問いかける。

「具体的にセンパイをどうしたいのかというと、ですね。」

 七春の言葉を借りて八神が答えた。

「七春センパイには頑張って霊と遭遇してもらって、追いかけられてもらおうと思います。」

「思います。じゃねーよ。」

「ドヤッ」

「ドヤ顔やめろ。」

 八神のドヤ顔を優しく叩く。七春の顔に、焦りはない。

 春先に八神と出会ったばかりの七春なら、たぶんこの時点でパニックだろう。今は、だいぶ慣れてきたというか、『八神くんがなんとかしてくれるヨネー』と思っているというか。

「というわけで、まずトンネルの中と入り口の二ヶ所にカメラを設置。上木センパイたちは外でカメラをモニタリング。」

 八神がテキパキと指示をだしていく。

「俺は入り口のすぐ脇でひかえてますんで、センパイは安心して追いかけられてください。」

「嫌だわ!」

 ツッコむ七春。

「安心して追いかけられてる俺が想像できねぇわ。八神くんがフォローしてくれるとして、追いかけられる俺はどうしたらいいの。逃げたらいいの?」

「逃げてくれてもいいし、立ち向かってくれてもいいですよ。」

「逃げます。」

 即答した七春。

 


 とゆーわけで、トンネルの前には七春一人だけがスタンバイした。

 少し離れたところに八神がひかえていて、さらに後ろには上木と姫川が見守っている状況だ。

「うつしよから妖しものをお頼み申す我が名は、神木を奉じ境界の巫女の命を継ぐ者なり。」

 丁寧に唱えて、八神が手のひらから取り出したのは霊杖。

 八神がそれを両手で握ると、杖の上部についた金の輪の飾りが、シャリンと涼やかな音をたてた。

 厳かな金色が、夜闇に映える。

「神命に於いて疾く成しませ。……さあ、センパイ。僕の靴紐は準備オッケーなんだからね!」

 ふいに声のトーンをあげ、機嫌よく八神がルエリィボイスで宣戦布告した。

「解せぬ。」

 と往生際の悪い発言をしたものの、この場所で動画を撮れる時間も限られているので、七春は地味に歩きだす。

 トンネルの中の様子が分かるよう、カメラは二つセッティングされていた。

 八神の指示通り、入り口と中程の二ヶ所だ。

 入り口のカメラは俯瞰になるよう設置されていて、今は歩いてきた七春の頭のてっぺんがうつっている。

 その映像がそのまま、上木や姫川の見るモニター画面に転送されていた。

「七春さん、頑張って~。」

 と上木が冷静に冷酷な指示をだしているのは小型無線。

 自分で霊が見えないタダの一般人の七春さんは、無線から貰った指示で動く作戦だ。

「じゃあ、逝くよー。」

 最後に八神と『逝ってらっしゃい(笑)』『逝ってきます(泣)』のアイコンタクトをかわし、七春は一歩めの足をだした。

 足音が大きく響くと、

 それだけで心臓が、締め付けられる。

「とりあえずさぁ、歩いてるからさぁ、」

 恐怖をまぎらわす目的か、勝手に喋りだす。落ち着きのない七春さん。

「なんかあったら指示だしてよ。」

 という雑な要求をする。

 歩き出しても、特に周囲の空気に変化はない。小さな微粒子たちが、七春の動きに合わせて踊るだけだ。

 行く先を強要するかのように、まっすぐ並ぶライトが、先まで続いている。

 要塞のような、灰色の壁。

(明るいから、怖くはないけど…。)

 心許ないような。

 異様な孤独感。

 ザザッとノイズのはしる音がして、今度は代わって姫川から指示がとぶ。

「とりあえず、真ん中まで歩いていける?」

「……真ん中ね?」

 左右にくまなく視線をはしらせながら、七春はぼちぼちトンネルの歩道部分を進んだ。ためしに壁なんぞに手をあててみると、ヒンヤリと冷たい。

 死体のような温度だ。

(トンネル抜けたら異世界でした、なんて話はベタなんだがな。)

 トンネルを抜けたら、まず間違いなく足下は道路の延長で、どうせ向こうも霧雨だろう。夢をみている場合じゃない。

 対処すべきは、現実だ。

 このトンネルに出ると言われている霊と遭遇し、何故この場所にとどまっているのかを確認しなければならない。

「今のところは、何もないかな。」

 何気なく振り返ると、八神はちゃんと入り口にいた。

 何かあれば、あそこまで駆け足で逃げ帰れば、霊杖で助けて貰えるはずだ。

 かといって安心して追いかけられろというのも変だが。

「………よし、頑張れ、俺。」

 励ましはセルフの七春さん。


 一方停車した車の傍で、モニター画面ごしに七春の動きを監察していた上木と姫川は、画面のある異変に気がついていた。

 それは、しつこい画面の乱れ。

 何らかの機材トラブルなのか、波打つ画面。

 歩く七春を俯瞰にうつす映像が、絶えず揺れている。

「バグってるね。」

 なんとなく小声になって姫川が言った。

 こういう企画の、こういう場面だからか、原因は一つしか思いつかない。

 怪奇現象。

 発生がめっちゃ早くて、番組的には理想的だ。

「七春さんには黙っておこう。」

 もみ消す上木。

 なんにも知らない七春さんが、幽霊と接触するために一生懸命カメラの中を通りすぎていく。

 この現象を知れば飛んで逃げ帰ってくることだろう。

 七春さんは最近、本当にこういった霊的なモノを引き寄せまくっている。

「こういうのって、やっぱりまずい予兆なのかな。」

「今まで俺、幽霊とかホントに見たことないんだよ。」

 画面ごしに、他人事のように監察を続ける上木と姫川。

 七春はいよいよ入り口につけたカメラの範囲外へと出てしまった。

 と、思ったら今度は中程に取り付けたカメラへ姿をあらわす。

 姫川が気になって顔をあげると、八神は入り口から目で七春を追っていた。

 眠気に耐えられず欠伸。

 八神が余裕を見せているうちは安心だ。

「なんか、魔法少女と使い魔がセットでいるだけで、すごく心強いよね。」

 モニターを見ながら、姫川が言った。

 七春が、得体の知れないものが出るとわかっていながら進めるのも、ある程度八神を信頼しているからだ。

 その得体の知れないものは、まだ七春を追いかけてくる姿は見えない。

 と丁度、その時。

「びゅっ!?」

 という謎の声を発し、画面の中の七春さんが停止した。

 歩いているままの体勢で止まるので、ピクトさんみたいになっている。

 視線は斜め前。道路の上だ。

 何かを見ている。

「な、なんだろ。」

 ガタッと機材を揺らしてしまうほど、勢いよく姫川が立ち上がった。

 七春のひっくり返った声以外には、何も入り込んでいない。

 七春の視線の向かう先はカメラの死角だ。

「わかんない。なんか、なんか、でた?」

「全然わかんない…。」

 救いを求めるように、上木がトンネルの入り口に立つ八神を見る。

 八神は金の杖を地面にたてて、七春に呼びかけていた。

 視えているおかげで対応が早い。

「七春センパイ!バック!」

 バック。

 後退だ。

 八神が入り口から指示を出すのと、

「……え? …あ、わかった!うわわわ、わかった!」

 何かに気がついた七春が、振り返り駆け足で戻ってくるのが同時だった。

 突如パニックになる現場。

 その場にいるごく少数のキャストと撮影班を、震撼させた。

「なに、なに?」

「もう何かでた?」

 どうしていいのかわからないから、その場で右往左往する撮影班。

 モニターの中、鼠のようにすばしっこい走りで、七春が引き返して来る。

 そしてその後ろを、追ってくる白い影。

 人だ。

 煙のように薄く曖昧でハッキリしないが、形は明らかに人だった。

 それが七春の後ろをついてくる。

「八神くん、たしけて!」

 恐怖のあまり噛む七春さん。

 息も切れ切れに叫ぶ。

「はいはい、出ましょう。一回、出ましょう。」

 戻ってきた七春の腕を掴んで、八神が霊杖の光の中に引き込む。

 それほど広くない光の中で、七春がギュッと八神にしがみついた。

 走った勢いを殺さないで駆け込んできたので、あやうく八神が遠い明日までぶっ飛ばされそうになる。

「八神くん、後ろになんか、後ろになんか」

「はいはい。今ので何かつかみました?」

「ささ、さ、参考になりました。」

「はは、男前は言うことが違いますね。」

 二人が霊杖の清浄なる守護の光に包まれたことで、七春を追ってきた影は消えた。

 それを、設置したカメラから届く映像で確認し、姫川は息を飲む。

 上木はあわててトンネルの入り口へ駆け出した。

 心臓がバクバクしている。現場にいくら慣れてきても、実際に霊を見ると必ず新鮮なリアクションをする七春さん。

 ただのビビリ。

「ここヤバイ、ホントに何かある。」

 七春が言って、

「何を見たの?」

 駆け付けた上木が問い返す。クデッと前屈みになる七春を支えながら。

「なんか、男。男というか、オッサン?」

 力ない声をだす七春。

 七春曰く、目撃したのはオッサンらしい。

「顔は見えなかったから、写真にうつったオッサンかどうか、わかんなかったけど。なんか、首から下はモヤモヤしていて、今まで見たことあるのとは違う感じのやつ。」

 と早口に説明する。

 説明されても全く理解不能な上木と姫川が、同時に八神に委ねた。

「ど、どういうことなのヤコーくん。」

「これもう、撮影止めないとマズイすかね?」

 問われた八神は特に焦る様子もなく、発言権を七春に返した。

「七春センパイは、今の霊がどう見えましたか?」

「えと、たぶんだけど。今の感じでは少なくとも、追いかけてくる霊ではないと思う。」

 聞かれて七春は、青ざめた表情のまま答える。

「追いかけてくる霊ではないといいますと?」

「何かから逃げている霊…、じゃないかな。」

 直接霊に遭遇した七春が、戸惑いながら答えた。『何かから逃げている霊』。

 しかし、それでは噂の情報とはだいぶイメージが異なる。

「でも追いかけられてた!追いかけられてたよ!」

 モニターでハッキリと白い影を目撃した姫川が、焦って口にする。

「いや、こっちに向かって走ってくるから、俺も最初は追いかけてきてるんだと思った。なんか、声も聞こえたし。でも、追いかけられている感じとは違ったんだよな。アイツも何かから逃げていて、トンネルを出ようとしていたんだと。」

 七春がトンネルを振り返る。

 そこにはもう、人影はない。

 その話を聞いて何か考えていた様子の八神が、

「成程」

 と納得して頷いた。

 すかさず、七春以外のその場の全員が、

「何が!?」

 とツッコむ。

「このトンネルの霊が、無差別に人を追い回しているのではなく、何かから逃げていることを誰かに伝えようとしていたのなら。その何かから逃げ切るお手伝いをしてあげれば、あるいは成仏できるかもしれません。」

 淡々と八神が言った。

 別に助けたいと思って言っているわけではなく、単純にそう思ったから、事実を述べたという感じだ。

 またしても、感情の感じられない無機質な声になっている。

 よくわからないながらも、上木と姫川から「おおぉ」との感嘆の声と拍手が漏れた。

「あ、何、スゴい? うちの魔法少女に拍手してんの? そんなスゴい?」

 関係ない七春さんが嬉しそうに笑う。

「スゴい!」

 と素直な姫川さんに続き、

「じゃあ、何から逃がしてあげたらいいわけ?」

 と上木が質問を重ねた。

「それを、特定したいんですが…。」

 と八神が口にする。

 幽霊となったオッサンが死ぬ間際に追いかけられたもの。

 それは、一体なんだったのか。

 そして、そこから逃がしてあげるには、どうすればいいのか。

 悩みはじめてしまった八神と七春の横で、霧雨に濡らされた顔を袖で拭きながら、上木は何となくトンネルを見つめた。

 明るく、人も集まっているとはいえ、やはり不気味だ。

 たとえトンネルを抜けた先がどこへ繋がっているのか、わかりきっているとしても。

 入り込んだら出られないような、そんな気さえする。

「………あれ?」

 そんなトンネルの中に、ふいに人のようなものが見えた気がして、上木は声をあげた。

 霊感の全くない上木は、幽霊の類いを見たことはないが。

 頭、腕、足。それぞれの部位までハッキリとわかる。

「ひ、と……?」

 自分の目にうつっているものに、上木は目を見張った。

 その上木の腰のベルトに挟んでいる釣竿(?)が、青白い光を放っていた。

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