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パーソナリティーは七春さんですよ!  作者: 近衛モモ
霊獣と黒い棺
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京助

 放課後の寄り道。

 三人の女子校生が、並んで歩く。

 学校近くのペットショップと、その傍の心霊スポットを目的地としている。

 面白半分、怖いもの見たさ半分で進んでいく。

「わくわくしちゃうね~!」

 そういった亜来は、そのわくわくを抑えるように、胸に手を当てた。かなり不謹慎だ。

「わくわくするか?」

「いや、……しない。」

 亜来のテンションの高さとは対照的に、進むにつれて怯えはじめる友人たち。

 亜来の頭の上に乗った京助は、せわしなくあたりを見回しながら、鼻先を動かしている。

 下校中の学生や通行人とすれ違う中、やがてたどり着いた噂の心霊スポット。

 問題のT字路は、厳密に言うとT字ではなく、脇道から一本の道が交わっている。

 それは知ってる人しか使えないような細い道で、交通整備のために信号はついているものの、感知信号なので今は仕事をせずに突っ立っていた。

 確かに、運転初心者ではわかりにくい道だ。

「普通のトコじゃない?」

「なんにもないねー。」

 歩道を歩きながら、道路をながめて呟く。確かに、人通りは少ないものの、ごく普通に自動車の行き交う道だ。

 つきあたりの店は、葬儀場から二階建ての大きな雑貨屋に変わっている。広い駐車場はそのまま使われているらしい。

 先を行く友人に続きながら、亜来も道路を見渡す。

 二車線道路、広い歩道。道路標識は斜めに傾いでいる。

 静かに日常を刻む風景。事故の痕跡は跡形もない。

「別にその事故で人が亡くなったわけじゃないし、何も残ってないんじゃない?」

「それも、そうだねー。」

「ねー、亜来!やっぱり、もう行こうよー」

 友人に呼び掛けられ、視線を戻す。

「うーん。もっと遅い時間の方が、幽霊も出やすいのかなー。」

「え、それも嫌なんだけど。」

「帰りにここ通りたくなくなるようなこと言わないでよ。」

 冗談半分、半ば本気で言って、女子校生一行は、次の目的地に向かって歩きだした。


 ………亜来。ここへはもう戻るな。


 ふいに、声が聞こえた気がして振り返る。

 名前を呼ばれるような相手は、前を歩く二人くらいしかいない。

(空耳かな……?)

 思って、その時は聞き流した。

 その後は何事もなく目的のペットショップへたどり着いた学生たち。

 たっぷりと時間をかけて買い物をすると、帰るころには陽が沈みかけていた。

 否応なく期待値があがるが、結局帰り道に恐る恐る通ったT字路にも、何かが現れることはなかった。

 噂はやはり、噂だったのだ。




 「てか、なんでワザワザ隣街だよ。なんかあるのか、ここ。」

 T字路の道路脇に車を停めて、運転席から一人の男がでてきた。

 年は二十代後半。青いシャツにジーパンというラフな格好で、腰には巻物の入ったペットボトルホルダーをつるしている。

 どこかで聞いたような声だ。

「俺の力の届く範囲でないと動き回れないくせに、俺のいる土地に長居はしないと思うんです。ひねくれているので。なので、近からず遠からずの距離かなと。」

 そう言いながら助手席側から降りてきたのは、赤チェックの上着を腰に巻いた若い青年。

 二人は車のボンネットに地図をひろげて、何か話し合いをしている。

 季節がら陽が長いとはいえ、外はすっかり夜の闇に染まっている。かろうじて、街灯と雑貨屋の明かりが、広い道路を照らしていた。

 そんな夜だった。

 その中を一人、T字路へ走り込んでくる一人の女子校生。

 亜来だった。

「まさか買った商品を忘れてくるなんて!どうして私っていつもこうかなぁ…。」

 昔から、そそっかしい癖が直らない。

 一度店で買い物をしてから家に帰り、商品がないことに気がついて、また店へと引き返していた。

 まだ着替えてもいないらしく、学生服を着たままだ。

 頭には、京助が乗っかっている。

 走る亜来の振動に合わせて、亜来の頭にしがみついている京助も、ピョウンピョウンと上下にゆれている。

「こんな日に限って、ママも帰りが遅いし」

 車で送ってもらえたら走らずに済んだのに、なんて思いながら走る。このT字路を通りかかるのも、今日はもう三回目だ。

 T字路の噂を思いだし、減速する。走った勢いで息をきらしながら、昼間と同じように道路を見渡した。

 同じ場所でも、昼と夜では違った形を見せる。昼間の交通量も今はなく、寂しい通りとなっていた。

 昼のうちに熱をためていたアスファルトの上を、生温い風が吹きさらしていく。

(やっぱ、夜に来ると雰囲気違うかも~。)

 二度目に通った時も、特にかわったところはないように思ったが、こうして夜に来てみれば、信号の明かりさえ怪しく見える。

 曲がった車線、眩む街灯、割れたアスファルト。星のない夜空に、月が不安定な格好で浮かんでいる。

 空気は湿気ていた。

「それでまた、なんでこの道だ? 鼬が逃げ込みそうなところないよ?」

 反対側の道沿いに車を止めて、話し込んでいる二人の男性。

 身長も年齢もちぐはぐな二人は、地図に指をはしらせている。

 その様子が気にかかって、亜来は足を止めた。

「このあたりを、こういう範囲で捜しましょう。気配がすごく近い気がするんです。どっちかの人が追い込んで、どっちかの人が札に戻せばいいんですよ。」

「そんな魚の掴み取りみたいな話になるの? 俺、安全な方しかやらないからね?」

「どっちが安全とかなくないですか?どっちもどっちですよ。」

「じゃあ。追い込む方でいい。」

「公平にジャンケンにしましょーよ」

「てか、札に戻せるの、お前だけだろ。」

 仲良く言い争う二人。

 なんかのアニメの猫とネズミみたいだ。

 ボンヤリとそのやり取りを見ていた亜来は、自分に迫っている気配に、全く気がつかないでいた。


 亜来! 危ねぇ、離れな!


 また、声がする。

「え?……誰?」

 あたりをキョロキョロ見回すが、昼間と同じように、あたりには誰もいない。

 が、ふいに足下に視線を落とすと、そこには白い花がおちていた。

(花…? こんなところに?)

 昼間から何度もこの道を通っているが、白い花の咲いている木は見ていない。

 その花は拳ほどの大きさがあり、茎から下はなかった。花の部分だけが、ボトンとそこに落ちている。

 一瞬、目を奪われて。

「ふきゃあ!!」

 足が沈み、真下に落ちる。


 ドボン!


 と水音がして、泥水が顔にはねた。先程まで歩道だったはずの場所が、深い水溜まりに変わっている。

 制服の腰のあたりまで沈み込んで、亜来はまた悲鳴をあげた。

「嘘ー!なにこれー!」

 つかまるものをさがしてあたりを見回す。道が交差する中心から、白い花が無数にあふれて、広がっていた。

 その花が触れたところから、地面が溶けて泥沼になっていく。

 車線が消え、花にかわり、沼にかわる。

 歩道のガードレールが、いつの間にか見当たらない。

「嘘ー!つかまるものがなーい!嘘ー!きゃーっ!嘘ー!」

 溺れた子供のように、バタバタ手を動かす。虚しく水面を叩く亜来に、

「亜来、つかまんな!」

 今度こそ空耳じゃない。

 ハッキリと声が聞こえた。

 声の出所がわかる。わかるが、すぐには脳が認識できずに、思考の蓋がパタンと閉じた。

「え……?京助?」

 いつの間にか、頭から降りていた京助が、目の前にたっていた。

 水面の上に足をついている。それだけでも、じゅうぶん驚くが。

 京助の体は、見た目の可愛らしさはそのまま、かなり大きくなっていた。

 背丈は亜来の頭をゆうにこえる。丸い耳はタイヤほどの大きさになり、短い手足は切り株のように太い。

「わあ!? 京助、どうして大きくなっちゃったの!?」

「そんな細かい事は気にしないで乗りな、亜来。俺はその沼には沈まねぇから。」

「う、うん?」

 襟の後ろをくわえて引き上げてもらう。泥がバタバタと制服から滴り、泥沼の水面にはねた。

「さいあくだよ…。ママに怒られちゃう。」

 濡れて体に張り付くスカートを直しながら、亜来が悔しそうに呟いた。

 下着までずぶ濡れだ。

 水分を含んだ制服は、少し重い。

 亜来をくわえたまま、京助が首を動かして背中の方へ振り返ってくれるので、足をのばして背中に乗り移る。

(ローファー無事だ。よかった~。)

 靴の中まで泥が入ってきたが、靴をなくすよりはマシだった。

 大きく足をひらいて跨がると、京助の背中の毛は針のように固く、尖っていた。その上に座りこむと、濡れた下着の下から圧迫されて、座り心地があまりよくない。

 観光バスに乗った時のように、座る位置が高いのでまわりがよく見えた。

 T字路の中心から、円状に沼化が進んでいる。

 深さは亜来の腰丈。範囲は学校のプールくらいの広さがある。

 泥沼はある程度の広さまで広がって満足したらしく、それ以上は拡大しない。沼の水面を埋め尽くすように、白い花が浮かんでいた。

「なんか、水草が大量発生した溜め池みたいだね!」

 平凡な感想を述べる亜来。

 風があるため水面は絶えず揺れて、ピチャピチャと音をたてていた。

「どうなってるの?」

 泥沼の中心には、突き刺さるように立つ棺桶。本来、顔が見えるように作られている小窓が今は開き、そこから、白い花がこぼれている。

「あれは霊棺だ。」

 京助が短い説明を入れる。

「いやー、フラッシュ棺じゃない?」

 よくわからん返答を返す亜来。

「亜来、あれがお前の見たがっていたT字路の怪だ。中身が悪霊化しちまって、近づけたもんじゃないけどな。」

 だからあれほど警告したのに、と呆れる京助に、空耳の正体を理解する。

 危険を察知し、誰よりも早く知らせていてくれたのは、京助だった。

「すごいよ京助!大きくなれたり、話したりするだけじゃなくて、幽霊のこともわかるなんて!ミス研の名誉会長だよ!」

 フェレットは普通はここまで大きく成長しないし、話さないし、名誉会長にもならないが、亜来にとっては大した問題ではないらしい。

 呑気だ。

「俺たち霊獣には色々いるが、これくらいは珍しいことじゃない。人と暮らしてれば、言葉くらい覚える。」

「インコみたいだね!可愛いっ!」

 微妙に噛み合ってない会話。

 しかし、自分で落ちないと宣言した通り、京助の体は沼に沈む気配はないので、背中の上なら安心して会話が進む。

 水面に立っているというのも、変な感覚だが。

「あの花があるところは、全部沼になるんだ。落ちるなよ、亜来。」

「うん。あの、ここ掴むと痛い?」

 乗馬のように手綱がないので安定しない。首の後ろの毛をつかませてもらう。

「どこでも好きなとこ握りな。足でしっかり体をはさむんだ。安定するから。」

 言われた通り足に力を入れてみる。普段使わない筋肉に力を入れていると、明日は筋肉痛になりそうだ。

「とにかく、ここを離れるぞ。」

「えぇ!」

 京助の、当然といえば当然の発言に、亜来はかつてなく辛そうな悲鳴をあげる。

「嫌だ!こんなの、ミス研として放っておけないよ!」

「悪霊だぞ?亜来にどうこう出来るもんじゃないんだ。」

「でも、あっちの方に一般の人もいるし。せめて、助けなきゃ!」

 と亜来が指差すのは、沈みかけた車のボンネットの上に避難している二人の男。地図を見ながら話し込んでいた二人だ。

 どうやら亜来と同じように、突然の悪霊の出現に巻き込まれているらしい。

「んん?」

 狭いボンネットの上に大人の男が二人で乗り上げ、醜い突き落とし合いをしている。

 そのうちの赤い上着を腰にまいた方に、京助は見覚えがあった。

「あれは夜行か? 生き返ったんだな。さしずめ俺を捕獲にでも来たか。」

「なあに?京助の知ってるひと?」

 あんな醜い突き落とし合いをされていると、知り合いでも、他人のふりがしたくなる。

「いやー、あー、うーん。ちょっとな。安心しな、亜来。俺はお前のつけてくれたキョースケって名前の方が気に入りだからよ。今さら、夜行のもとへは帰る気はない。全くない。」

 京助の言う謎の言葉に、亜来は胸が軋むのを感じた。

「それって……。」

 どういう意味、と問いかけて止める。

「さぁ、とりあえず、安全なところまで連れていってやる。」

 言って京助は、沼の上を走り始めた。




「落ちる落ちるよ、八神くん、沈むよ!」

「ちょっと、押さないでくださいよ、ここ狭いんだから!」

「なんだよ、急に地面なくなったぞ。落ちる!マジで!どいて!」

「自分だけ助かろうとしないでください!」

 無数の花が押し寄せ、路上が泥沼化する中、二人の関係も泥沼化していく。

 札から逃げ出した霊獣を捕獲しにやってきた声優二人、八神夜行と七春解。

「お前が落ちろ!」

「そーゆーセンパイこそ!」

 陣地を取り合い、不毛な争いが続く。

「あ、八神くん、あれ!」

 泥沼化した道路の向こうを指差す七春に、

「なんですか、その手には乗りませんよ!」

 と言いつつも振り返ってしまう、中途半端に疑心暗鬼な八神。

 泥沼の向こうでは、巨大な鼬が水面の上に立っていた。

 ほんの一瞬こちらと目が合い、次の瞬間、他人のふりをするように目をそらす。

「あれって、八神くんの霊獣じゃね?なんか、ほら、フェレットっぽいし!」

「アイツぅう! 今、俺と目ぇ合ったくせに反らしやがった!…やが、り、ました、ね!」

「前から言おうと思ってたんだけど、八神くん無理に敬語使わなくていいよ? てか、八神くんの霊獣でかいね。」

 ただ、大きくて七メートルとか言われてビビっていた七春としては、あれくらいの大きさでよかったな、とかも思う。

 思ってたほどでもないかな~と。

 八神といると、常識を見失う。

 霊獣は目をそらした後、器用に水面を走って、安全な道路の方へとむかう。八神のことは、助けに来る気はないらしい。

「あーいーつーめぇー!!」

 悔しそうに言う八神を、車の屋根まで引き上げる七春。ボンネットはもう沈みそうだ。

「アイツ沼の上を渡ってるけど、八神くんあれできないの?」

「出来るけど、何かの拍子に沈んだらと思うと、とにかく水の上に立ちたくないんです!」

 八神の言葉を受けて、七春は一拍考える。

「そっか、八神くんてひょっとして、泳げない…。」

「とにかく、水の、上に、立ちたく、ないんです!」

 七春が全て言い終える前に、一言一言区切るように、ハッキリと八神が叫ぶ。

「とにかく、水の、上に、立ちたく、」

「はいはい、もうわかったよ。」

 言いながら震えだす八神を見かねて、七春が言葉を遮る。

「でも、なんでこんな事に。これ、火とも天候とも、関係ねぇじゃん。」

 八神の札から逃げ出した霊獣は、火や天候を操るのが得意だと聞かされていた。平らな屋根の上に腰をおろし、七春が沼に浮かぶ花に手を伸ばす。

 白い花だ。花びらが分厚い。

「アイツは偶然居合わせただけ。この場所には、もともと別の霊がいたと考えられます。多分、あれが本体。」

 そう言って八神が指し示す。

 泥沼の中心に立つ棺桶。小窓がパタパタ開いては、花を落としている。

「悪霊化が進みすぎてる。もうただの魔物ですね。現れるまで、気配を感じなかった。」

「おいおい、どうすんだ。」

 言ってる間にも、七春の車が沈んでいく。深さが均等じゃないのか、もともと決まった底はないのか。

「鼬は後回しです。予想外に手間が増えましたが、先にこっちを何とかしましょう。俺は霊は祓えないし、浄化もできないけど、魔物斬るのは得意分野なので。」

 はじめて八神が霊を祓えないという話をした時、「管轄外」だと表現した意味を、やっと理解する。

「なるほど。もともとコッチがお前の十八番なわけね。」

 頼もしいことではあるが、

「でも、とりあえず、現状をなんとかしてくれ!俺の愛車!」

 沈む車の上で、七春が叫んだ。







 

 








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