表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パーソナリティーは七春さんですよ!  作者: 近衛モモ
霊獣と黒い棺
20/137

どーでもいい話しする。

「とにかく、しばらく八神くんの顔を見たくないんです」



「なんですか、汚い顔して」

「八神くんの顔を見ると霊を思いだすんです。」

「はい。」

「だから、しばらくアイツの安否を確認したくないんです。」

「安否を!?」

 心霊ロケから無事帰還した、声優ラジオのパーソナリティ七春解。

 本日から、声優ラジオ『パーソナリティは七春さんですよ!』は、ごきげんに夏編をスタートさせる。

「何があったのか知らないけど、安否くらいは確認してあげましょうよ。」

 ゲストには新進気鋭の竜一里奈を迎えている。茶髪に銀ピアス。見た目のチャラさに反して実力派の男性声優である。

「竜一さんは、幽霊とか信じますか?」

「信じます。あの味噌汁の碗が動くのとか、浮幽霊の仕業です。」

「そうだったっけ。」

「あと爪切りとか欲しい時に限って見つからないのも、地縛霊の仕業です。」

「ああいうことされると、ジワジワ嫌じゃないですか」

「ジワジワ嫌ですね。」

「そういうことを思い出すんです。八神くんを見てると。アイツにもう近寄りたくないんです。」

 言い切った七春に、若干身を引く竜一。

「今日はなんか、すごい攻撃的ですね。」

「二日前に、ロケだったんです。」

「あ、それ上木さんに聞きました。なんか、すごい怖い現象が、色々と起きたらしいですね」

「行くとホントに色々とあるから、行きたくなかったんです。」

「でも仕事だから」

「こういう仕事が来るようになったのも、八神くんのせいなんです。ホントは!」

「あの。」

「はい。」

「申し上げにくいんですけど」

「はい。」

「その愚痴あとどれくらい続きます?」

「ちくしょう!」

 冷静にツッコまれたので、愚痴モードをしめくくる。

「このラジオってこんなグダグダでしたっけ。なんか、ボードに書かれたお題とか、出てこなかったッスか?」

「それもうぶん投げようかと思ってたんだけど。お題とかいる?」

「待って! 貴方のラジオでしょ!?」

「そうですが」

「真面目にやりましょうよ!」

「今日はそういうテンションじゃないです。」

「気分で決めない! そんなに大変だったの?」

 それはもう大変だった。

 巻物に追いかけられたり、怪我したり、神さま頭に乗せて走ったり、色々と大変だった。

 そして、その結末について知っているのは、ごく一部の人間だけ。七春も、その中に含まれている。

「竜一さんも、次があったら、絶対にいきましょう。」

「なんで巻き込もうとするんですか?」

「同じ恐怖を拡散したいんです。ドヤ。」

「ドヤ顔やめて。俺は、そういうの信じてるだけに、ホントにダメです。」

「そんなこと言わずに」

「俺は幽霊体験とか、嫌なんです。七春さんみたいに場に慣れてないスもん。」

「失敬な!」

「何が!?」

「俺だって慣れてない。八神くんと一緒にいると、無理矢理巻き込まれる。」

「あ、そうなの。ごめんね。」

 今日の七春さんは情緒不安定。

「八神くんて一体何者なんスかね」

「魔法少女。」



「さて、竜一さんは、アニメに出て来ましたね~。」

 本当にお題をぶん投げて、話はアニメの収録に移る。

「七春さんと八神くんのコンビで有名な『できなくてもなんとかしろよ、魔法少女だろ!』に参加させていただきました。」

「先生役でしたっけ」

「そうですね。八神くん演じる魔法少女、ルエリィの学校の先生です。」

「教育実習生っていう体で入ってきて、実は敵でした的なね。」

「そうです。申し訳ない」

「先生じゃないんでしょ?」

「本当はね。先生として学園に潜り込んでいて、ルエリィを見張ってるって感じですんで。そこまでアニメでやったところかな。」

「でも悪いひと?」

「悪いひとです。なのに、ルエリィにはかなり好かれている設定で。いつも心配されてます。『先生は僕の傍を離れないでよね』みたいな感じで。」

「八神くんの演じる魔法少女は、魔法を使うたび、自分の大切なひとが世界から消えていく設定ですからね。」

「ダークファンタジーですよね。」

「それでも世界を救う方を選ぶのか、大切なひとがいなくなった世界なんかになんの価値があるのか、ってルエリィが葛藤するシーンが重要な見せ場なので。」

「第七話くらいから、魔法少女ちゃんの精神が崩れ始めるとこも重要ですね。笑いながら魔法使ったり、不登校になったり。」

「ダークファンタジーなので。」

「原作がまだ完結していないから、ハッピーエンドになるかどうか、わからないってところが嫌ですね。ルエリィが可哀想で見ていられない。」

「まあ、そのへんは原作共々、今後の展開に注目してもらいましょう!」

「七春さんの役はなんの役にたっているんですか?」

 一拍、間が空く。

「い、いろんな役にたってますが?」

「七春さんって、ルエリィの肩に乗っていたり、学生服の胸ポケットに入ってたり、スカートめくっているだけですよね?」

「いやいや、助言したり、ルエリィを守ったり、色々と頑張ってますよ!たまにありがとうって言われるし。」

「でも七春さんのする役って、フタマタかけてる奴が多いですよね。」

「……はたしてそうかな。」

「ね、多いですよね!? 今回の魔法少女も、ルエリィより前に使い魔として仕えてた人が回想シーンででてきたし。ルエリィとそのひとを重ねて見てるんでしょ?」

「そそんなことはなないよ」

「またフタマタじゃないすか。」

「それ八神くんにも言われた…。」

「七春さん。」

「アイツが収録来るたび俺に『ルエリィを裏切らないでくださいね』って言ってくるのが、なんかジワジワくる。」

「それは…、ジワジワきますね。」

 精神的に追い詰められている七春さん。



「さて、じゃあ、せっかくなんで『竜一さんの最近あったジワジワくる話』のコーナーでもしてもらいますかね」

「ちょっと待ってくださいよ!」

 勝手にコーナーをつくる七春さん。

「そんなコーナーありました?」

「竜一さんに言っておきますけど」

「はい。」

「俺がここまで頑なにお題をぶん投げているのは、今日のお題が『涼しくなる話し』だからです。夏だけに。」

「逃げてたのね。」

「もうそういう話はお腹いっぱいなのよ。」

「怖がりなんだから」

「だいたい、そういう番組じゃないし、そういう方向にもっていくなってのに。」

「わかりました。そういうことなら、もう、お題をぶん投げて、ジワジワくる話しをしましょう。」

「わーい。」

 機嫌がよくなる七春さん。

 しかし今から、恐怖の淵に突き落とされる。

「二週間くらい前に、俺が、ある事故を起こしてしまいまして。」

「えっ?」

「携帯電話を水死させるという事故を。」

「一瞬、真面目に聞いちゃったい。」

「ポケットに入れたまま、気づかず。」

「はいはい、ありますね。」

「もう、そのまんま、洗濯機でまわして」

「あります、あります。」

「携帯を、溺死させてしまいまして。」

 しばらく使わないでいると、携帯がふいに影が薄くなることがあります。注意。

「データとかとぶよね。」

「それもあるし。もう、電源が入ってくれないんすよ。画面が沈黙しちゃって。」

「ふむ」

「そして仕方なく新しい携帯を手にしたところ。なんにも入ってないはずのデータに、見知らぬ動画が保存されていまして。」

 わざと声を低くして話す竜一。姫川が声優ラジオに来た時が思いだされる。

「あれ、待って?結局そういう話?」

「その動画がまた気持ち悪い感じになっているんですが。」

「無視?」

「ひたすら廃墟の中を撮していまして。」

 撮影場所も、撮影者も不明の謎の動画。

 どうやら撮影者はどこかの廃墟の中を撮影しているらしく、画面に映っているのは、瓦礫に埋もれた長い廊下。

 割れた窓ガラスが足下に散乱し、それを映すためにカメラが下を向くと、撮影者の履く汚れた皮のブーツが映る。

 撮影者の声などは入っていない。単独で乗り込んだのか、他に人も映らない。

 時間帯はまだ真昼のようで、窓のむこうは明るく、鳥の鳴く声がきこえる。

「どうやら、もともとは旅館だったみたいで、同じような仕様の部屋が並んでるんすよ。各部屋を、それぞれ撮影していくんですけど。」

 肝試し感覚だったのか、何かの調査だったのか、撮影者の目的はわからない。

 荒れ果てた異様な空間の中を、撮影者は足下のガラスを踏みしめながら歩いていく。

 木造の床は歩くたびミシミシと音をたて、いつ踏み抜いてもおかしくないような危なげな状態だ。

 やがて廊下を先まで進みきると、突き当たって行き止まり。引き返そうと、男は振り返ってカメラをふる。

「女の人がいて。」

 男が歩いてきた廊下。幅は狭く、そこに人がいれば、カメラに映っていたはずだ。

 しかし、撮影者以外は誰もいなかったはずの廊下に、一人の女がたっている。

 白のブラウスに、ピンクのスカート。長く伸ばした髪を、横流しにくくっている。顔の半分から下と、ブラウスの襟元は血で赤く染まっている。

 カメラはその姿を捉えた瞬間、突然急降下する。上にスライドしていく景色。

「その前に、バキバキって音がして、撮影している人の『うわっ』て声がしたから、多分、床が抜けて下に落ちたかなーと。」

 ブレまくりながら撮影者共々落下するカメラ。どうやら撮影していたのは二階部分だったらしく、階下まで落ちてカメラは止まる。

 激しく揺れた画面が、落下地点に叩きつけられて止まると、生々しいドサッという落下音がある。撮影者もカメラの近くに落下したらしい。

 そして、そこで映像は途切れていた。

「意味不明くないですか?」

「お前がな!」

 恐怖のあまりキレる七春さん。

「この撮影者の無事が確認されてないまま、意味不明のまま終わるんすよ。しかもそれが何故俺の携帯に入っていたのか、っていう。」

「知らねぇよ!」

「なんで怒るんですか」

「なんでそういう話するんですか?」

「ジワジワくるかなと思って」

「ジワジワきました。帰ってください。」

「帰ってください!? やだ怖い。」

 ゲストに新しい風を迎えても、結局、心霊から離れられない七春さん。

 声優ラジオは一体どこを目指して進んでいくのか、次回の夏編第二回に期待してもらいたい。



 ラジオを終えて部屋を出ると、携帯にメールの受信音。

 届いたメールを開いて一読、七春は走りだした。



「お前ホントになんなの。」

 と言った七春が立っているのは、ラジオスタジオの前のコンビニ。

 時間帯もあり、店内は人が少ない。

「すみません。どうせセンパイに会うなら、何かおごって貰おうと思って。」

 というのは、二日ぶりに安否の確認がとれた後輩声優、八神夜行。

 腰に赤チェックの上着をまいた、いつも通りのルエリィスタイルだ。

「あつかましいわ!」

 七春が絶好調のツッコミを入れる。仕事の名残で口がよく動く。

 明るい店内には商品が整然と並び、レジカウンターには一人の男性店員。静かな店内に、まばらな客。

「お前、心霊ロケから今日まで何してた? 電話もでない、メールも返さない!俺がどれだけ心配したと思ってる。」

「センパイ、電話かけてくるの夜遅くだからもう寝てたんだもん。メールは返さないとな、って思いながらも色々と忙しくて忘れちゃうし。」

「お前なあ、頼むぜ。」

 カクリと俯いた七春の横で、八神は呑気にお菓子を選らんでいる。

「心配してくれて、ありがとうございます。」

「もう頼まれても、今後一切、未来永劫、八神くんの心配なんかしないし。」

「実はあの時、怪しものとは別の気配がしたんです。気がついた時には体が壊されていました。」

「は?」

 何事でもないかのように言った八神。世間話のような軽さだ。こんなこと、前にもあったような気がする。

「なんだよ、別の気配って。」

「おそらくは、祟り神。俺についてきたんだと思います。ただ、目的がわからないけど…。」

 言った八神に、七春はしかめ面をする。

「何、お前祟られてんの? ヤバイじゃん。」

「祟られてるんですよ。ヤバイですよね。」

 またぞろ軽い。八神にとっては祟り神くらい敵ではないのか、あるいは本当に大変な状況で開き直ってしまっているのか。

 実は後者だが、七春はまだ知らない。

「まぁ、とりあえず無事だったんなら、いいよ。あんなイキナリ体バラバラになったら驚くからな、普通は。」

「それについては、本当にすみません。七春センパイこそ、あの後は大丈夫でしたか?」

「俺はね…。」

 まだ頭が冷静になっていない状況下で、グッダグダのエンディングを撮った記憶が舞い戻ってくる。

 そしてその後、七春は一人で神社に戻り、コケ神様を社に返してきた。

 コケ神様の力が戻れば、村を彷徨う霊たちもいずれは鎮まり、神域に落ちたシリカの手がかりも、何かつかめるかもしれない。

「怪しものはどうしました?」

 短く問うた八神に、言われて思いだして、七春はベルトにつけたペットボトルホルダーをとりだした。

 ただし、そこに入れているのは、ペットボトルではなく、巻物。

 煽子の村にあった怪しものだ。八神の得意の攻撃で燃やされたはずだが、あれからたった二日で、もとの状態に戻っている。焼けた後もない。

「なんか、知らないうちにもとに戻ってた。」

 書かれていた文字が飛んできたり、ひとりでに動いたり。色々と目の当たりにしたので、今更もとに戻ってたりしても、驚かない。

「それペットボトル入れるやつですよね?」

 八神が冷静に聞き返し、

「サイズがピッタリだった。」

 意味なくVサインをだす七春。

「そうか、センパイは神域にしまえないんですよね。」

「お前の手のひらの中に入れといてくれたらいいじゃん。」

 はじめて八神の怪しものを見た日、八神が手のひらから木の枝を出したのを思い返す。

 しかし、八神はゆるく首をふった。

「怪しものは名前をつけたひとが持っていた方がいいです。名前で縛るとは、そういうことです。まあ、その名前がマッキーなんで、あまり信用ないですけど。」

「カワイイじゃん。」

「漢字が入ってるほうがいいんです。名前をつけて、文字で縛り、力を抑えて…。」

「いーだろ!マッキーで!難しいことはわかんねぇよ!」

 子供のように声を荒げる七春に、八神は大きくため息をつく。

「そもそも、どうしてセンパイに怪しに名をつける力があるのかも謎です。境界の巫女しかできないはずなんだけどな。」

 八神くんだってできるじゃん、というツッコミをグッと飲み込む七春。

「もともと霊力が巫女並みにあった俺でも、すっごい修行しないと出来なかったのに?なんか、センパイずるい。」

 ブーたれた八神。さらに続ける。

「まぁ、かといって放ってもおけないし。怪しものを持つことで七春センパイが危険な目に遭わないように、早めに手をうたないといけませんね。なんか、やること増えるなあ。」

「忙しいのか?」

 声優の仕事の忙しさなら、七春もよくわかる。なんか、ここ最近は寝ていない気がするし。寝る時間より、ゲームをする時間を優先してしまって、寝てない気がする。

「いえ、仕事とは関係ないんですけど。言いにくいんですが、実は心霊ロケの方へ行ってる間に、体を留守にしたせいで逃げてしまったんです。」

 訝し気に七春が、何が、と問う。

 すると八神は、またなんでもない風で言った。

「憑依させていた霊が。」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ