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パーソナリティーは七春さんですよ!  作者: 近衛モモ
心霊ロケと守り神さま
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いっちゃって!

 薄暗い体育館の中、全てを終わらせるために、巻物と戦うことになった声優コンビ。

 自分がチートだと信じて疑わない七春に、はたして勝機はあるのかないのか。



「俺はチートだと思うよ。たぶんレベルが120くらいだから。」

「数字が極端だから、チートなのかバカなのかわかりづらいですね。それ強いんですか?」

「八神くんを20とした時の数値です。」

「じゃぁかなりチートですやん。」

 トークが絶好調に飛び交う二人。

 すでに心霊スポットハイではなく、ただのワーカーズハイ。

 撮影を始めてからだいぶ時間が経っているせいか、疲れているやら、眠たいやら。

 テンションもだいぶ変なことになってきている。

「もうチートでもチーズでもいいから、早くしてください。」

 コケ神さまの手前、いつまでもふざけているわけにもいかない。

 八神の言葉に、七春も改めて巻物に向き直る。

 小さな光に包まれている今、外装用和紙の模様までハッキリ見える巻物。

「あの光は触って大丈夫なの。」

「触ったら火傷しますよ。怪しものは、自分の身の危険を感じると、防御に転じるか、攻撃にでます。ものによって違うんですけど、あれは防御壁かな。」

 巫女の代理で怪しものを回収しているだけあって、八神は詳しい。

「じゃあ、あいつは今防御中だから、攻撃はしてこないんだ?」

 七春が安心してコメントした直後、風のように飛んできた何かが、七春の頬をかすめた。肉が裂け、血が吹き出す。

 飛んできた何かは、そのまま通過して後ろの壁に刺さった。

 あまりに一瞬のことに、

「わーお☆」

 七春の顔にはりついていた笑顔がひきつる。

「あ、攻撃もしてきました。かつてなくハイスペックだった。テヘペロ。」

 テキトーな言い訳をしてはばたく八神。全然可愛くはない。

 やはり。

 予想していた通り、一筋縄ではいかないらしい。

 巻物は、声優二人からの殺気を敏感に感じとり、先に手を打ってきた。

「じゃあ、とりあえず…。」

 七春は静かに後退りする。

「逃げよう!」

 言って、体育館のさらに奥へと走り出す七春。

 その後ろを追いかけるように、先程と同じ攻撃、鋭い何かが追いかけてくる。

 当たれば確実に無事では済まない。

 走りながら肩越しに振り返ると、その何かはどうやら巻物の中から現れているらしく、巻物は少しだけひろげられていた。

 はずれたとめ紐が、下にたれている。

「しまった。コケ神さま置いてきた!」

 叫ぶ七春に、

「ここだ。」

 と返事が返ってくる。

 どうやら頭の上に小さな苔玉が乗っているらしい。

 小さくもなれるなんて、すごい。しかし頭の上に乗られると少し重い。

 頭の上にいたはずの八神は、追い出されて空中をはばたいている。

 だが、人の心配ばかりしている余裕もない。

 走り込んだのは、体育館の奥にある器具庫。

 体育の授業で使うような道具の他にも、劇で使うような衣装や小道具まで箱につめて置かれている。

 中に入り、後ろ手に扉を閉める。

 一拍あけて、七春たちを追いかけてきていた鋭利なものが扉に突き刺さった。

 間一髪でそれをしのぐ。

「あの追いかけてくるのは何なんだ。」

 緊張と焦燥で、息がきれる。

「巻物の中に書かれているのが何かわかりませんが、あの墨の文字が飛んできているんだと思います。攻防共に優れてますね。」

「敵を褒めるなよ。」

「それより何か役にたつものを探しましょう。」

「そうね。」

 器具庫のなかは狭く、こちらもやはり暗い。

 壁際にはネットをはる支柱や卓球台などが置かれていて、一部窓をふさいでしまっている。

 申し訳ないと思いつつ、武器を求めて漁りまわる七春。

 その間も、扉には何かが当たったり、刺さったりしている音がする。

 扉が破られたらと考えると、そうのんびりしてもいられないらしい。

「センパイ、俺がいつも塩を投げるの覚えてますか?」

 言いながら、八神もとびまわって使えそうなものを探す。

「八神くんのマイ塩ね。覚えてるけど?」

「塩はもともと、ああいう使い方はしません。あれは、俺の念を込めやすいから使ってるだけで。」

 七春が考え、一拍間を置く。

「つまり、媒体ってことだろ?」

「はい。つまり、俺の念さえ通れば塩でなくてもいいってことです。何か代わりになるものを探しましょう。なんか、拡散できる的なやつがいいです。」

 不利なのは、八神が体を置いてきたせいで塩も札も持っていないことだ。

 普段なら腰にまいた上着の下から、なんでもかんでも出てくるのだが。

 とび箱、マット、ネット、ボール、これといって使えそうなものはない。

「木刀とか、それらしいないのかよ。」

「ないでしょ、小学校だし。小学校ですよね?」

「そう。煽子の学校。あ、煽子ってのは、村であった褐色のロリっ子な。」

「褐色ロリっ子ですか。」

 昼間なら、その子供たちの無邪気な笑顔が溢れているだろう場所だが。

 今は扉の外に謎の巻物を残し、隠れながら武器を探す戦場となっている。

(こんなこと、八神くんは一人でしてきたのかな、とか。考えるわけです。)

 今考えていても、仕方のないことだが。

「みゃはあ!」

 その八神の、奇妙な悲鳴が聞こえて振り返る。

 暗いので、よく見えない。

「八神くん?何やってんの?」

 置かれているものが、シルエット程度にしか見えない空間で、全体に聞こえるように声を張る。

「は、はさまって……動けません」

「八神くん………。」

 露骨に面倒そうな声をだして、肩を落とす七春。

 仕方ないから、救出に向かう。

「今、どのへん?」

「もうちょっと……奥です……ココ!ココ!」

 ココって何処。

 探して回って、棚の上の箱と箱の間に片羽と頭を突っ込んで、変な格好になっている蝶を見つける。

 一体、どういう突っ込み方をしたのかわからない。とりあえず、生きてはいるみたいだが。

「何やってんだよ、もう。」

 生意気な後輩といえど、今は小さな虫の姿なので、細心の注意を払って助け出す。

 箱は細長く、縦に深い。そっと横へずらし、あまり力を加えないように、蝶を手のひらにうつす。

 力を加えると、潰しそうでこわい。

 この赤い羽の虫の姿を、八神は仮の姿だと言うが。

 もしこの仮の姿が死ぬようなことになったら、八神の本体にはどう影響するのか。

 考えかけて、止める。

 こんな状況だからなのか、悪い考えしか浮かばない。

「大丈夫?」

 なるべく優しく、両手で包みこむようにする。

 蝶は手の中でもぞもぞと動いた。脚が変な方向に曲がって、うまく立てないようだ。

 七春も一発目の攻撃で負傷している。

 気にしないようにしていたが、頬が焼けているようにヒリヒリと痛い。

 もはや、誰も無事では帰れなさそうだ。

「無理すんな。肩に乗っていてもいいから。」

「ありがとうございます。」

 普段より動かしづらく、装備も持ち運べない体。

 こんなにリスクが多い姿で、それでも助けに来てくれたのだと、改めて認識する。

 今更ながら、やはり頼りにはなる。

「あの、それで、あの箱の中に、使えそうなものがあったんですが。」

 八神がそう言ったのは、自分が挟まれていたあの箱らしい。

 中をのぞき込もうとしたが、暗闇の中のよくわからない距離感で突っ込んで、あのように挟まれたようだ。

「使えそうなもの?」

 八神を近くの六段のとび箱の上にそっとおろし、先程の箱を手に取る。

 ふたはなく、中には赤い布袋がたくさんつまっていた。

 一つつまみ上げて、手に取る。

 お手玉によく似た形だ。振るとシャンシャンと音をたてる。

 七春もそれには、見覚えがあった。

「ああ、玉入れの玉か…!」

 二つ以上のチームに分かれて、空中にあるカゴに向かって玉を投げ入れる。

 運動会では割りとお馴染みの競技である。

「入れた玉の数を競うんだったか、玉を全部投げ入れる時間を競うんだか、忘れたけど。でもそんな感じのやつだよな。懐かし~。」

 こんな時でも、こういうアイテムを見つけるとなんか和む。

「この袋の中になにが入ってるのか気になって、放課後に一個だけ盗みだしたこともあったっけ。校庭に半分埋まってるタイヤも、掘り起こそうとして掘ってみたりとか…。」

 くっだらない思い出が、走馬灯のように頭を過っていく。

「小学生の七春センパイ、なにやってんですか。」

 とび箱の上の八神が、冷静にツッコむ。

「うるせぇな。子供の時の話です! …で、これがなんの役に立つって?」

「その袋の中身が小豆か、米なら、塩の代わりになります。小豆なら、俺の念を通しやすいし、米はもともと霊力高いですから。」

 八神がそう説明したところで、ついに扉をつき破って、例の攻撃が室内に飛び込んできた。

 八神が墨の文字だと言ったものだ。

 七春の右肩に当り、少しだけ軌道を変えて床のマットにつき刺さる。

 形は確かに、「南」の文字の形だ。

 何行目の何文字目が飛んできたのかわからないが。

「………っ。」

 肩を押さえた七春が、箱をとり落とす。中身が床に広がり、派手な音をたてた。

「センパイ!」

 八神が叫ぶ。

「奥だ!奥に逃げるぞ!」

 声をはって、指示を出す。

 器具庫の奥にはさらに扉があり、もう一つの部屋につながっていた。

 落としてしまった箱の中身を、近くにあった二つだけ片手で拾い、空いた片手で八神を拾いあげる。

 焦っているので、力加減が難しい。

「はやく!はやく!はやく!」

 自分で自分を急かし、玉を掴んでいる手で、ノブもまわして奥の部屋へ。

 それから、すぐに扉の裏にまわり、背中で押して、扉を閉めた。

「はあっ……はあっ……」

 鼓動が早い。心臓が震える。

 扉に背中をつけていると、細かな振動が伝わってくる。

 器具庫の方の扉はもうもたないらしく、墨の文字が扉を次々つき破っては、部屋の奥に刺さる音が続いている。

 逃げ込んだ第二の部屋は放送室だった。

 この体育館のステージで演目をする際など、活用されるのだろう。

 小さな窓があり、体育館内が見渡せる。

 今は暗くて何も見えない。ということは、巻物はそこにはいないらしい。

(やっぱり、器具庫の方に。)

 近づいてきている。

 操作が全くわからない放送機器とマイクが並ぶ中、その上に八神と玉入れの玉を置く。

「ごめんな、強く握って。痛かっただろ…。」

「大丈夫ですよ。センパイの方こそ、肩が」

「あぁ、俺は大丈夫だよ。」

 八神はなんだか、縮んでしわしわになった気がする。

 羽が曲がったり脚が折れたり、どんどんみすぼらしくなっていく。

「そうだ、コケ神さまは?」

 言って、頭の上を探ると何かにあたった。

 触るとフサフサしていて、少し暖かい。人肌の温度より少し熱い。

 逃げ回りはじめてからは口数が極端に減ってしまったが。

「疲れてるんだと思いますよ。この巻物が村に入ってからだいぶ経つらしいし。それに、神域を破られるだけでも、結構負担になりますから。」

 そう淡々として話す八神の声も、疲れがでているような気がする。

「とりあえず、これからどうする? ここも、あまり長くもたないぞ。」

「でも武器はあります。手順を考えましょう。」

 そう言って、羽をバタバタさせながら、八神が懸命に体を起こす。

「怪しものを回収すると言っても、きちんとした手順で行わなければいけません。まずは怪しものを動かなくすること。これは、形を損なうことも含めてです。……それから、名前をつけること。名前は、良くも悪くも個体を特定することなので、自分の管理下に置きやすくなります。」

 説明する八神に、頷きながら耳を傾ける七春。

「名前って例えば? 巻物だからマッキーとか、そういうこと?」

 沈黙する放送室。

「ひっ…………………どいネーミングセンスしてますね。」

「タメたね、お前も。」

「名前がひどすぎて息が止まりした。」

「ん? 永久に止めてやろうか?」

 ささいなことで仲間割れを始める二人。

 その二人の態度に怒りをしめすように、放送室の扉に何かが突き刺さる音がする。

 巻物の放つ墨の文字だろう。

 連続して三回。扉が振動でガタガタ音をたてた。

「マズイな。」

「こんな狭いところ追い込まれたら後がないですね。」

「窓だ、窓。外にでて、次で決めるしかないだろ。」

 あたりを見回し、消火器を発見する。

 体育館内の方へ向いた小さな窓の前まで運んでいき、肩に担いだ。

「一回じゃ無理かも。」

 と前振りしておいて、それを窓に叩きつける。

 ごん。

 と鈍い音がして、窓にはヒビすらはいらない。窓を割って外に出る作戦だったのだが。

「かたいッス! 肩つった今。」

「アンタ若いんだから頑張って!!」

「意外と窓っ……。窓割った経験ないから。」

「頑張れ頑張れ頑張れ。できるできるできる。」

「応援があまりにも雑!」

 結局、数回頑張って割った窓から外へでる。

 ガラス片が外に散らばり、音をたてた。片手に八神、片手に玉を持ち、外へ飛び出して不安定に着地する。

「………っと。」

 再び戻ってきた体育館は、広い闇の中に何もない。

 やはり巻物は七春たちを追って移動しているらしい。

 改めて見ると、器具庫の扉は無数の文字に突き破られ、内側に倒れていた。

 八神を空中に放してやる。

「俺たちの後を追って、巻物も窓から出てくるはずです。」

「そこを狙うわけな。」

 ビッと音をたてて、持ってきた玉の外側の布を破る。

 中身を手のひらに出して握った。細かい粒が、あふれてこぼれ落ちる。

「ホントになんか入ってら。」

「多少は重さがないと、カゴに入らないからじゃないですか?」

 運動会の思い出が走馬灯のように横切りそうになったので、あわてて頭を振る。

 今はそれどころじゃない。

 放送室の窓を見上げて、迎撃準備をして待つ。

「窓からでてきたら、容赦なくぶっかけてください。」

 八神の声が、少し遠くから聞こえた。

 また蝶を見失う。というか、この暗闇の中で蝶なんかと行動を共にしているだけで褒めてほしいくらいだが。

「八神くん、今どこ?」

「床の上です、白線のすぐ横。踏まないで」

「あんま離れるなよ?」

 心なしかツッコミの声のボリュームも抑えられている。

 息を殺して、数分待つ。

 やがて放送室の中から、破壊音がふってくる。扉が破られた音だ。

 それと同時に明るくなる室内。あの光は巻物を取りまいていた光だろう。

「………来た。」

 気味が悪いほど精巧に、巻物はひとりでに動いていた。滑るように空中を移動し、放送室の中に入ってくる。

 音もたてず、表情もないところが、いっそう不気味さを掻き立てる。

 七春が腰をうかし、八神も床からはなれた。

 二人とも、ジリジリと獲物を狙う野生のような動きをしている。

「マッキー!こっちだぞ!」

 知らないうちにマッキーで定着してしまった巻物へ、自称チートが手を振り呼び掛ける。

 それに気がついて、マッキーこと怪しものの巻物は、クルリと進路を変えた。

 ガラスが割れ、枠だけになった窓へと近寄ってくる。

 光が寄ることで、壁のシミや窓枠までハッキリ見えるほど、窓の付近が明るくなる。 

 自己発光してくれるおかげで、はずす心配はさそうだ。

「八神くん、いくよ!」

「いっちゃって!」

 八神の号令で、大きく振りかぶった。






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