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パーソナリティーは七春さんですよ!  作者: 近衛モモ
心霊ロケと守り神さま
13/137

そこに入れてんの!?

 気を取り直し、深夜の撮影は続く。

 声優ラジオ夏期特別編。



「改めて、オープニングを撮りますか!」

 画面の中で、にこやかにそう言った、声優の上木詩織。

 その横で、「は~い!」といい子のお返事をする箱入あげは。

 さらにその隣で、「宜しくお願いします。」と流暢な日本語で喋る異国の霊能力者。

 カジュアルな格好の声優に囲まれ、一人だけドレス姿の少女。白い肌に、輝く金髪。西洋人形のような妖艶な魅力を持っている。

「彼女の紹介をしとかなくちゃ。日本に来日中の霊能力者、シリカ・フィリィノリヒさんです。」

「この撮影の~、万が一に備えて、同行してもらうんだよね~。」

 上木とあげはが、シリカを紹介する模様を映すカメラ。

 よくある心霊番組のオープニングだ。

 何事も無かったかのように進める二人。

 そこへ、

「ちょと待てぇえぇえぇ!」

 乱入してくる、本来この番組のパーソナリティであるはずの男。七春解。

「なんで普通に始めちゃってんの、お前ら!」

「いや、ちゃんと始めないとと思って」

「それ俺だよ!やるの。」

 キレる七春。

「何で、お前、勝手に進行しちゃうの!?」

「七春さんは疲れてるかなと思って。」

「疲れてます!」

 言い切る七春。

 このオープニングの前に、霊が出ると噂の神社に単独潜入したばかりなのだ。

 村外れの林の中に建つ神社。奉納された謎多き巻物。

 さらに、その前の道を真っ直ぐ進むと、小学校がある。そこも、霊が出るとの目撃情報が絶えない。

「一人で行ってみてわかったけど、ここはホントになんかいるわ。います、って感じするもん!」

「カメラにもなんか映りましたし。もー、呪いの巻物的なものも持って帰ってきたしね。」

 七春が神社への潜入を試みた際に、カメラに映った発光体。それは、画面の中だけに現れた不可思議な浮遊体だった。

 ばっちり心霊現象をカメラにおさめ、さらに霊が集まる原因らしき巻物も回収してきた七春。

「俺の今日の仕事はもうやりきった。」

 とドヤる七春を無視して、上木は霊能者シリカへと向き直る。

「実際、どうなんですか、この辺の様子って。あと、あの巻物についても。」

 上木の質問に、通訳などを必要としないシリカは、ハキハキと答える。

「まず、この林だけれど。すごく、たくさんの兵隊さんの姿を見かけるの。並んで歩いてる。林の奥から、どんどん出てくるの。」

「じゃあ、カメラに映ってた光の玉は…。」

「兵隊さんたちの霊魂が映った、と考えるのが自然ね。」

 学生のようなあどけなさをもつシリカだが、口調だけがどこか大人びている。

 それが、まだ成人にも満たない彼女にも説得力を与えている。

 さらに、事実この神社は、戦時中から建っていたという情報もある。

「魂の状態は安定しているから、しばらくは眠っていたはず。何かが、この地に住まう霊を、悪戯に起こしてしまったみたいね。」

「それがあの巻物?」

「断言はできないわ。確かにこの巻物、嫌な感じはするけど、今は特に力をふるっている感じじゃないもの。」

 そう言ってシリカは、自分の手中に納めていた巻物を確認しようと、胸元に手をあてた。

 その光景を目にして、不謹慎にも七春と上木が声をあげる。

「え!?」

「そこに入れてんの!?」

 巻物はシリカの胸にはさまれるようにして、谷間にスッポリとおさまっていた。挟んだ物体の質量分、押しかえされている女の子の体の柔らかい部分。

 ボンヤリ見とれていた七春の顔面に、カメラの撮影枠外にいた煽子が懐中電灯を投げつける。めり込む懐中電灯。

「だ、だって仕方ないでしょ!? この服、他に入れておくところ、ないんだから!」

「ポケットないんだね~。可愛い服だからかな~? 機能性まで重視してないよね~。」

 呑気なフォローを入れるあげは。

 「私が持っていてあげようか?」と言って、大胆にもシリカの服の中に手をしのばせる。

「あんっ……何してるの、ダメよ!」

「だって重たいでしょ~。」

「お気遣いありがとう、でも大丈夫よ!」

「あはは。よいではないか~。」

「もっ……そこは関係ないでしょ!」

 金髪ツインテールの少女と、アニメ声の女性声優が、敏感なところに触れて馴れ合う様に見とれる七春。

 その後頭部に、煽子が投げつけたハンディカメラが直撃する。レンズ部分が破損するカメラ。

「なんか、さっきから、俺にばっかり物が飛んでくるんだけど。」

 不満気に言う七春に、

「顔がエロいからじゃない?」

 上木が冷静に返す。

「とにかく、何が起こるかわからない以上、この巻物は私が預かりますから!」

 あげはの手管で素顔に剥かれたシリカが、焦ったように言いつける。

「あはは、怒んないでよー。」

 どこまでも自分ワールドを拡張するあげは。

 そのあげはワールドにペースを乱されたのか、シリカはしきりに繊細な金色の髪を指先で弄っている。髪を触るのが癖らしい。

「もうここの検証は済んだわ。早く、次の場所へ行きましょう!」

 シリカの言う次の場所とは、この林よりさらに村から離れたところにある小学校だ。

「長居していると、どんどん寄って来ちゃうしね~。」

 というあげはの発言に、

「霊が!?」

 驚いて問い返す上木。

 のんびりと、しかし的確に警告したあげはに、シリカは不信な目を向けた。口は開かないが、その目が、「貴女は何者?」と問いかけている。

「勘だよ~。」

 いつかのラジオと同じように、あげはは穏やかに切り返した。

 そして一行は、神社の検証を終え次なる目的地へと向かう。



 雲が晴れ、月がでてきた。

 砂利道を囲む田畑からは、虫の鳴く声がきこえてくる。

 風流な情景に癒されながら、先へ進む一行。

 やがて田園風景と星空を一望できる開けた場所にでた。道の続いていく先には、広い校庭と、小学校の校舎らしき建物が見えてくる。

 そびえたつ校舎は木造。その黒い影が、月明かりの中、地面にポッカリ浮かんでいる。

 カメラのフレーム内に入らないよう気をつけながら、後ろをついてくる煽子が道案内役。

 指で示される方へと、一行は歩く。

「うわ~。木造校舎かよ、怖ぇ~。」

 素直な感想を漏らす上木。

 小学校のまわりは、背の高い植え込みで囲んであり、北と東側に校門がある。

 煽子の話によれば、村の子供の激減に伴い、この小学校も、もうすぐ閉校になるらしい。

 煽子と共に肝だめしに行った五人こそ、過疎化が進むこの村の、最後の子供たちである。

 そして最後の六年生たち。彼らの卒業と共に、この学校も長い歴史の幕を閉じる。

「小学校を卒業したら、煽子はどうするんだ?」

 カメラの目を盗み、七春が尋ねる。

「受験して、都会の中学校にいくの。もしかしたら、またナナハルと会えるかもね。」

 楽しそうにそう言った煽子に、七春はただただ感心する。

「しっかりしてんなぁ。」

 煽子がこの村の子供のリーダーなのも納得がいく。

 道を進んで行った先、ほどなくして校門の前までたどりついた。

 撮影の許可を取っているため、門は開いていた。その先へ進むと校庭。校舎の右側にたつ大きな建物は、体育館であるらしい。さらにそのよこには焼却炉。

 一行を飲み込もうと待ち構える校舎。煽子の案内で、まず声優三人が正面入り口にたつ。ここも、鍵はあけられていた。

「じゃ、七春さん、開けちゃって!」

 軽々しく指示する上木。

「また俺!」

「だってパーソナリティだから。」

 意味がわからん理由で任される七春。

 しぶしぶ扉の前にたち、ノブを回して手前に引く。軋む音をたてて開く扉。中の空気は、外より冷たい。

 扉を開けてすぐに、靴箱が並ぶ広い空間が見える。

 七春は、あることを感じ、立ち尽くした。

 怖い、というよりは。

「懐かしいなー。」

「そうだよなー」

「ホントにね~。」

 七春に続いて、ドヤドヤと中へ踏み込む上木とあげは。

 この歳になると、学園祭でもない限り、学校に入る機会がない。

「この空間、なんだっけ。」

「下駄箱だろ、下駄箱。今時、下駄はいてくる奴いねーよ!」

「俺の高校の頃の日本史の先生は、いつも下駄はいて竹刀持ってたなあ。」

「そっか、高校ん時は中まで土足だったから、下駄箱の存在忘れてた。」

「私も下駄箱あったの、中学までだったな~。そうそう、壁にこういう貼り紙あったね~。」

「廊下を走るなー!みたいなやつね。あったなぁ。」

「ありましたね、そんなん。いやー、懐かしいわ、やっぱ。」

 口々に思い出を語りだす声優三人。入り口から一歩も進まない。

「夜に学校くるの初めて」

 唯一、この場所に毎日通っている現役小学生、煽子だけが冷静を保っている。

「ちょっと、お三方?」

 呼び掛けるシリカ。

 三人がまだ無駄話に夢中になっているので、聞こえよがしに大きく咳払いする。

「お三方!…もうよろしい? 先へ進めないじゃない。」

 シリカのもっともな意見に、身を引く三人。

「あはは、ゴメン、ゴメン~。」

 果てしなくマイペースなあげはが謝り、声優二人も続いて謝る。

「つい懐かしくて。」

「もう!どうでもいいけど、貴女たち、手招きされているわよ。気を抜かないで!」

 シリカの口から、突如飛び出した言葉。手招き。

「え、」

 その言葉に、その場の空気が凍りつく。

「な、なんかいるの?」

「下駄箱の後ろに子供が三人。覗きこんで手招きしているのが見えるわ。お出迎えされてるみたい。」

 シリカの言葉に、しかし煽子は冷静に返す。

「村の子供は全部で五人。アタシを抜いて四人。でも、こんな時間に学校に来るわけないわ。」

 煽子の言うとおり、子供が出歩く時間ではない。煽子は例外として。

 だとすれば、シリカの言う、手招きする子供とは一体。

 やはり、ここにも彷徨う霊が集まっているのか。

「この場所の霊も、あの林の方にいた霊と同様、きちんと供養されていたみたい。それが突然起こされたんだわ。」

「怒ってるのか?」

 七春がシリカに聞き返す。

「死んだ人間に感情なんてないでしょう。」

 ぶっきらぼうに言い捨てたシリカ。その言葉は、七春の胸にひっかかる。

(あれ、でも……。今まで見てきた霊は、苦しいとか、救われたいとか、色々あったんだけどな。)

 シリカには感じないものなのか。それとも、そういう霊の想いを、感じとっている八神や七春が異質なのか。

(てか、どっちでもいいけど、八神くんに来て欲しい。)

 一瞬でも懐かしいと思った小学校だが、この世のものではないものの手招きを受けていると知った途端に、その懐かしさはどこかへ消え去る。

「アタシの学校、やっぱり霊がいるんだ。なんかショック。」

 真顔で呟く煽子。

 この場所もあの林にあった神社と同じように、悪霊の姿をとらえようとした若者たちが面白半分に訪れることが増えている。

 子供たちの学舎として、やはり無視できない事態だ。

「とりあえず、どうする?」

 上木の問いに、「奥に進みましょう」とシリカは答えた。

「むこうもこちらを警戒して、まだ近寄ってはきていないし。危険が少ない、今のうちにね。」

「成程」

 この場で唯一霊の姿が見えるシリカの指示を受け、一行は校舎の奥まで進むこととなる。

 本来、すべてのものが眠りについている時間帯。にも関わらず、まるで、呼吸をしているかのように、多様な気配を漂わせる構内。

 現役小学生の煽子の案内によると、授業などで使う教室は二階から上にあり、この階には職員室や校長室などがあるらしい。

 廊下を二列になって進む一行。

 さっそく、手前から二つ目の教室の前でシリカが足をとめる。

「いるわ。そっちの部屋。」

「ここ何? ……あ、用具室。」

 上木が懐中電灯を上に向け、教室の扉の上にかかるプレートを照らす。

「教材とかが置いてある部屋だね~。」

 のんびりしたあげはの声が、廊下に反響した。

「教材って人体模型とか? 俺嫌だからね、そこ入るの。」

 古典的な展開を予想し、七春は先回って拒否する。

 動く人体模型、抜け出すベートーベン、トイレの花子さん、等の有りがちなネタは、夏休みになるとよく放送されていたホラー映画を思い出す。

「今時の人体模型は動かないんじゃないの? ネタが古いよ。」

 上木が呆れた声で切り返し、

「人体模型が動くって何?」

 日本の怪談には詳しくないらしいシリカが、不思議そうに問う。

 別に人体模型の夜間活動に近代化は関係ない気もするが、そこまで否定されるといたたまれない。

「……じゃあ、動かなくていいです。」

 子供のように口を尖らせる七春。動かないなら動かないに越したことはないのだが。

「まぁ、写真くらい撮りましょうよ。」

 上木が提案し、一同はそこで写真を撮ることとなった。

 デジカメを手渡されたのは、上木と七春。自然と、被写体はあげはとシリカになる。

 どうせなら被写体は華があるほうがいい。

 カメラを構えた声優二人の後ろから、煽子も見守っている。

「じゃあ、中に入るよ~。」

 部屋の中で写真を撮るため、あげはが用具室の扉を開いた。

 中は普通の教室の半分ほどの広さ。懐中電灯の明かりに照らし出されるのは、壁の両面に並べられた資料棚。地球儀や銀河系の縮小モデルなんかも、ダンボール詰めにして乱雑におかれている。

 それらの荷物が幅をとり、実際に人がたてるスペースはかなり狭い。

 その狭いスペースに、女子二人が入り込む。

「狭いから、くっついて撮ろうよ!」

 笑って抱きつくあげは。

「もう!貴女って人は!」

「あはは~。」

 あげはワールドが再来する。シリカは窮屈そうに体を動かした。あげはと向かい合う体勢で落ち着く。

「じゃ、撮りまーす!」

 楽しそうにピースサインをだすあげは。

 抱き合って立つ二人に向かって、二つのカメラのフラッシュがたかれる。

 その一瞬だけ、真昼のように写しだされる室内。

「おっけ!」

 画像処理が済み、たった今撮った写真を見下ろす上木と七春。

 撮影を終えた二人、あげはとシリカは、緊張がとけて笑い合う。

 ごく普通に、花見にでも来て、記念撮影をしたかのようなヒトコマだ。

 しかし、

「………え、」

 手の中のカメラに視線を落とし、上木が声をあげた。

 特に問題なく撮影できた七春は、驚いて上木の方を見た。

「え、なんか映った? 俺は、普通に撮れたけど。」

「いや、…映ったというか、」

 上木の異様な反応に、あげはや、シリカ、そして煽子も、カメラを覗きこむ。

 無機質なカメラの小さな画面の中に切り取られた風景。

 たくさんの教材や資料が埋め尽くした部屋の中、レンズに視線を向けるシリカ。

 その隣は空けた空間。そこに、あげはがいない。

「映ったというか、むしろ映ってないというか。」

 確認のため、七春の撮影した写真と比べる。くっついて立つ二人。あげはだけが見切れるというのは有り得ない。

「嘘……なんで…?」

 煽子がつぶやく、声が震える。

 まるで一人だけ現実世界から切り取られたかのように、姿を消したあげは。

「これ…。」

 カメラが捉えた驚愕の画像を目に、シリカも目を疑う。

「おかしい。ここに霊がいるとは言ったけど、こういうイタズラする霊には見えなかったのに。」

 そもそも、ここまで危険なことなら、はじめからシリカが撮影などさせていない。

(この場所には、まだ誰も存在を把握していない、別の何かがいる。)

 七春のその分析を裏付けるように、あげはの視線は、部屋の中ではなく、廊下の先へむけられていた。

「あげはちゃん、……大丈夫?」

 七春が慎重に声をかける。

 この写真の意味はなんなのか、本人にどういう影響を及ぼすのか。わからない。だから、怖い。

 しかし、声をかけられたあげはは、廊下の先から視線を戻し、いつも通りの声色で答えた。

「大丈夫だよ~。」

 短く息を吐く。

「祟り神がきた…、か。」

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