決着です
「・・・おお、これ美味しいな。」
「・・・(ぐっ)。」
右手でサムズアップし、「だろ?」みたいな顔をするミー子。
はたきたい、このドヤ顔。
『なかなかの出来ですよ。』
「外で冷えた体が温まるなー。」
『だろだろ。』
ミー子も自分で作ったものを食べる。
「・・・(こくこく)。」
うん、いい出来だ、とでもいうように頷いている。
「ちなみに今日はどうされるご予定で?もう夜の11時なわけですが。」
『明日は休み。』
「そうだな。」
『オールと行きますか。』
「やだからね?」
『えー。』
「こちとらさっきまで仕事してたんじゃ。」
オールとか明日疲れるわ。
『お風呂わいてるよ。』
「おっまじか。入ってこよう。」
『いってらっしゃい。』
寝巻とパンツを用意して、風呂場に向かう。
リビングは暖房が付いていただけあって、脱衣所はかなり寒い。
「うおお、これは早急に湯船に浸からなければ。」
とりあえずシャワーを浴びて体を
がさごそ
「むっ誰だ。」
脱衣所で物音。
これは・・・嫌な予感がするぞ。
『おらー背中流してやるぜー。』
「来ると思ったわ!つかくんな!」
『いいじゃないかまだ私も入ってないんだし。』
「じゃあタオルか何か体に巻いてくれません?」
ミー子は何もまとっていなかった。
前一緒に入った時はタオル巻いてたのにどうしてこうなった・・・。
『こまけえこたぁいいんだよ。ほら、髪洗ってやるから前向けぇ。』
言う事を聞かないので言われたとおり前を向く。
髪を洗ってくれるのはうれしいけど、一つ気がかりなことが。
「ミー子、寒くないの?」
「・・・。」
しかし何の返事も帰ってこない。
そりゃ今はケータイが使えないから手話だ。
しかもミー子の方を向いていない。
つまり、ミー子が何か意思表示をしても分かるわけがない。
いやまあ目の前の鏡を見ればいいけども、鏡を見ればミー子の手以外にもいろいろ見えることになる。
「お互い裸で風呂入るとかいつ以来だよ・・・つかなんてエロゲーだよ・・・。」
「・・・。」
ミー子が俺の目の前に手を持ってきた。
そして、こういう。
『エロゲー展開が御所望で?』
「い、いや、そういうことじゃない!」
一瞬いろいろ想像しちまったじゃねえか。
鎮まれ俺・・・!
「・・・(ぴとっ)。」
「体を密着させるの無しな!?」
思わず声が裏返る。
待って待って待って。
今俺の背中に当たっている薄いものはなんだ。
ミー子の胸だ。
密着しすぎて心臓の音まで聞こえてくるぜぇ?
お願いだから離れてください。
「・・・。」
ミー子がいったん離れ、頭にお湯を掛けられる。
よかった・・・。
もう少しで俺のなにかがミー子のアンタッチャブルにタッチするところだった。
アンタッチャブルにタッチって矛盾してるけども。
やっぱあれだね、風呂って一人ではいるべきだね。
「なぜミー子はこうも恥じらいがないのか・・・。」
『む、失礼だな。私だって年頃の乙女よ?』
「年頃の乙女は全裸で男の入ってる風呂に入ってこねえよ・・・。」
『じゃあ、いい感じに食べごろ。』
「そんなに熟れてねえだろ・・・。」
その大きさじゃあ食べごろともいえるかどうか怪しいだろう。
どこがとはいわないけど。
『にしてもなっちは本当に理性が鋼レベル。』
「だろ?」
『裏を返せばヘタレ。』
「刺さる・・・。」
否定できないし。
『あったかいね~。』
「そのまま寝ないでくれよ。」
『寝てもなっちが運んでくれるしへーきでしょ。ほら、いつだったか私が浮かんでた時も。』
そういえばそんなことあったな。
「って、あれは風呂から担ぎ上げただけで、部屋まで運んだのは母さんだぞ。」
『起きたらなっちの部屋にいたからてっきりなっちが運んでくれたのかと。』
そういやあの時、母さんがバスタオル一枚巻いただけのミー子を俺の部屋に放置してくれやがったな。
『来週の月曜日で2学期最後の授業ですよ。』
「そうだな。やっと冬休みだ。」
『決着は火曜日だよ。』
「大丈夫、俺が勝つから。」
『何を言っているのだね、なっちは今からケーキを作る準備をしたほうがいいぜ?』
ミー子がドヤる。
『本気を出した私の恐ろしさを思い知らせてやるー。』
「俺だって今回本気だぜ?」
『その本気は私の足下・・・いや、足の裏にすら及ばない。』
「どんだけ俺の本気は弱いんだ・・・。」
そこまで下だとさすがに自信なくすわ。
「・・・ふわあ。」
「・・・(びく)。」
目を覚ますと、外はまだ暗かった。
『なっち、珍しくずいぶん早いね。』
時計を見ていないが、多分ミー子も今起きたばかりなのだろう。
寝癖が立っている。
って、ちょっと待って。
ミー子が今起きたばかりということは・・・。
「・・・えーと、今何時ですかね。」
『5時だね。』
やはり。
『よーし、なっちがなんか早く起きたし、一緒に行こうか。』
「・・・一緒に、とは。」
なんとなーくだが嫌な予感がする。
ミー子は確か5時から6時まで・・・。
『走ろう。』
「・・・まじか。」
『まじだ。すっきりするよ。』
早速持ってきていたジャージに着替えるミー子。
『なっちのジャージも、ほら。』
「それ学校のやつだよね。」
『寒いから何か羽織っていくといいよ。』
「まだあんまり動けそうにないんだけど・・・。」
『ゆっくり、ゆっくり行こう。ね?』
ベッドから引きずりおろされる。
「待って!俺のオフトゥン!愛しのオフトゥゥゥゥゥゥゥゥン!!」
「さっむ!!!」
朝5時。
まだ日は昇っていない。
はっきり言ってめちゃくちゃ寒い。
『寒くならないように走ろう。さあ。』
そう手話で話すミー子の指先も微妙に震えている。
ミー子がいつも走っているペースだとかなり速いので、少し遅くしてもらった。
『なっち、大丈夫?』
「ま、まあなんとか。」
『少しはあったかくなった?』
「さっきよりはな。寒いけど。」
多分走りつづけないと死ぬ。
「よくこんな寒い中走ってられるな・・・。」
『ヒッキー時代から続けてるのよ。』
ということはもう5年ほど続けているという事か・・・?
『お母さんが、ずっと家にいると体がおかしくなるって、走れって。』
「そもそも引きこもりは禁じなかったのか・・・。」
『仕方ないっちゃ仕方ないってお母さんが。』
「・・・。」
まあ、あの状況なら、仕方ないか。
その後も、俺たちは走り続けた。
走り終わる頃には陽が出て、少しだけ暖かくなっていた。
『たまには走るのもいいでしょ?』
「ああ目が覚めた。」
『明日もやる?』
「お断りします。」
「・・・(ぷー)。」
ミー子が顔を膨らませて変な顔をした。
むくれてるアピールかコレ。
『シャワー浴びてくるけど、なっちはどうする?一緒に入る?』
「お断りさせていただきます。」
「・・・(ぶー)。」
今度こそ頬だけ膨らませた。
スネたか。
でも朝っぱらからそんなドキドキ体験、俺には耐えられない。
『なっちシャワー空いたよ。』
「ん、じゃあ俺も浴びてこようか。」
ミー子がリビングに戻ってきた。
すれ違う時にほのかに香る、シトラスの香り。
でも、いつもより少し違う気がする。
「お、いい匂いだ。」
『気づいた?』
ミー子がにやりとした。
『いつも使ってるやつじゃなくて、少しだけお高いのを買ったのよ。』
「へえ、だからちょっと香りが違うのか。」
さっぱりとしたいい匂い。
走った後にはちょうどいい感じだ。
『なっちもさっぱり?』
「ああ、朝にシャワーを浴びるなんて初めてだ。」
『なかなかいいもんでしょ。目覚めるし。』
「ちょっと早起きできた日にはいいかもな。」
『これはなっち早起きできないパターンですね。』
「よく分かっていらっしゃる。」
ミー子が笑ったような、あきれたような微妙な表情を浮かべた。
「よし、朝飯作るか。」
『まあ珍しい。』
「目玉焼き玉子焼きスクランブルエッグ、どれがいい?」
『なっちお得意の玉子焼きで。あ、いや出汁巻き玉子!』
「おっけーちょっと待ってな。」
冷蔵庫から白だしを取り出す。
めんつゆでもできるけど、俺は白だしの方が好きだ。
ふわふわにするコツは、焼くとき最初に思い切って卵液を多めに入れること。
最初は巻かずに形を整えるとうまくいくよ!
「ほいさ出来上がり。」
『待ってました。出来たてもらいー。』
「よっしゃ食うぞ。」
いい感じにできた。
「いただきます。」
「・・・(いただきます)。」
一口、うん、もうちょっと出汁入れてもよかったかも。
いい感じじゃなかった。
「・・・?」
ミー子が首をかしげた。
多分俺と同じ感想なんだろう。
「これ、もう少し出汁多くてもよかったな?」
「・・・(こくり)。」
さっぱりしたとはいえ、朝だからだろうか。
やっぱ食べたら寝ようか。
「やべえ俺土曜日何してたっけ。」
『あの後疲れて爆睡。』
「日曜日は?」
『バイトから帰ってきて疲れて爆睡。』
「ノォウッ!?」
冬休み前だというのに驚愕の土日を過ごしてしまった・・・。
時間がもったいない気がする。
やっぱあれか、時は金なりって本当なんだな。
ちょっと寝てしまった分お金に換金して渡してくれませんかね。
『さあなっち、今日の授業で決着だよ。金曜日はクリスマスイブ。』
「んで負けた方が今年のクリスマスケーキを作る、とな。」
『ああそうだ。俺は負けねえゼ!?』
「何キャラだよ。」
12月20日、2学期の授業最後の日。
この1ヶ月、俺は頑張ってノートを取ってきた。
そのおかげか、ノートを取った部分のテストはほぼ完ぺきだった。
来年は高校3年、進路を考えなければいけない。
その進路は・・・成績で決まる!!
「このまま授業をちゃんと聞き続けていい成績取って、進路安泰まで行くぞ!」
「アヤたちは1年のころの成績が足を引っ張るんじゃないかな。」
おい今せっかくいい感じだっただろ。
「そうだぞ夏央、今までの積み重ねってのが大切なわけだ。」
「うるせー進路安泰野郎。」
「フッ、俺は生きるのがうまいだけサ。」
「推薦で落ちてしまえ。」
「一般でも俺は行けるぜ?」
くそっ・・・京介のやろう、むかつくぜ。
「いいもん、俺は選択科目は国語と社会科だけで行くからな。」
「おいおい、必修で英語もあるんだぜ?」
「祈木さま~、助けて下せえ~。」
おいおい、必修で英語とか地獄かよ。
待ってくれ、俺は外国に行く気はないんだから英語なんて必要ないんだぜ?
英語なんて・・・必要ないんだぜ・・・。
「英語のテストを避ける方法は2つ。AO試験か推薦入試だな。」
「よしミー子、英語を何としてでも回避すべくその2つで受かるぞ。」
『おうよ。』
いくら勉強が少しできるようになったって、苦手な科目はあるんだぜ?
「てか、1限から英語なんだよな・・・やる気でねえ。」
『安心しろ、今日の5限は国語だぜなっち。』
「俺は寝ないぞ。」
まあ、先生が爺さん先生だからね、眠くなるのは仕方ないんだけどね。
あの人1人で勝手に朗読するし。
「今日は2学期最後の英語の授業・・・と言いたいんだが、もう2学期で教えるところは全部終わっちまったんだよな・・・だから、ケータイ触る以外なら何しててもいいぞー。もちろん自習しててもな。」
なんと!それはそれはラッキーな話で。
寝よ。
「・・・(ばたん)。」
「おい陽花、この2人何しててもいいって聞いた瞬間寝たぞ。」
「考えることが同じなのかそれとも2人とも寝なかったのか・・・あっ。」
「2人とも寝なかった・・・?あっ・・・。」
陽花と京介が何かを悟ったようにいう。
あってなんだあって。
あと京介、お前俺たちの席から近くないだろ。
「よ、夜2人とも寝ずに何かを・・・?ちょっとそれは高校生的にどうなんですかねえ・・・。」
「あ、あたしもそういうのは・・・よくないと思うな!」
「てか、寝ずにってこの2人そんな体力が・・・?」
「それはほら、多分、アヤもかがみんもラブラブだからさ、ね?」
寝てるのをいいことに話がとんでもない方向へとエスカレートしていく。
これ放っといたほうがいいんだろうか。
「あれだな・・・この2人の子どもが見れる日も、遠くないかもな・・・。」
「え、まさか遮るものは何もないと!?」
「だってこの2人だろ?あ、でも夏央が把握してたりするのか。」
把握って何の把握だよ。
付き合い長いんだぞいつ来るかくらいの把握はしてるわ。
「・・・(がたっ)。」
ミー子が立ち上がった。
どうやらミー子も聞いてたらしい。
『いい加減にしろコラ。』
「はいすんません美衣ちゃん。」
「本当にごめんなさいかがみ・・・鏡崎さま。」
あれ?京介の声が本気だ。
もしかしてミー子が鬼の形相でもしてたんだろうか。
しかもかがみんじゃなくて鏡崎さまって。
『こう見えても私たちは清いんだぞ。どう見えてたか知らないけど。』
「心にとどめておきます。」
「よく覚えておきます。鏡崎さま・・・だからその・・・コンパス下ろして・・・。」
何してんだミー子。
「美衣ちゃん、その顔してるとヤンキーかと勘違いされるから・・・。」
なんつー顔してんだミー子。
「ほ、ほら、女の子が青筋立てるのは・・・ね?」
それちょっとやばすぎませんかね。
『今なら壁を破壊できる気がする。』
「ヒイィィィ!?」
「か、かがみん!?」
寝たふりを続けてるがどういう状況なんだこれ。
ミー子は何を言ったんだ。
『まあ、冗談だけどね。なっちはああ見えてヘタレなんだぞ。』
「うん知ってた。」
「まあ、夏央なら仕方ないよな。」
今度はなんだなんで俺の話になった。
ミー子が俺の事ヘタレとでも言ったのか。
待て、そうだとしたら祈木の知ってるってひどすぎね?
いや、多分ヘタレとは言われてないはず。
じゃあなんだ。
というかミー子は喋らないから何を言ってるのかわからないしもどかしい。
聞こえるのはミー子が紙にペンで字を書く音だけだ。
しかし起きるのもあれだな、このまま寝たふりをし通そう。
『全部聞いてたんでしょ?』
「ん、まあな。ミー子が何を言ってたのかは知らないけど。」
『教えなーい。』
帰り道、ミー子はなんだか上機嫌だ。
もう冬休みまで授業もないからか。
よっしゃあ授業ないぜ!!
「そして、俺たちの戦いは終わったわけだ。」
『あとは判定を待つのみ。』
「判定は今日の夜だな。母さんも帰ってくるし。」
『秋穂さんとお母さんと、あとハルさんにも見てもらおう。』
「引き分けはなしだな。」
『あたりめぇよ。』
ミー子がいい顔をする。
これでミー子が負けたらかなりおもしろいんだけどな。
「さあ!我が母さんたちよ!」
『私たちの成果を!』
「見ていただこうじゃないか!!」
「な、何いきなり。」
「美衣にいきなり連れてこられたんだけど・・・?」
「わ、私もここにいていいのかな?」
みんなに何の説明もしてなかったため、母さんと那空さんと春姉が3人してきょろきょろする。
「とりあえず説明して?」
「俺たちは最近とても頑張ってました。」
『勉強を頑張りました。』
2人して胸を張る。
「頑張ってたっけ・・・?」
「うちで美衣も夏央くんもゲームやってたような気がするんだけど・・・?」
2人とも疑惑の視線を向けてくる。
「これを見たら!」
『そんなことは言えないはず!』
バン!
とテーブルに俺たちの努力の結晶を出す。
「これは・・・。」
「ノートね、授業の。」
それぞれ手に取り、ノートを開こうとする。
「ちょっと待ったッ!」
俺は強い制止をかけた!
『これからお母さんたちには、私たちのノートを見てどちらがきれいか、どちらが見やすくて勉強に効果的なノートか、判断してもらいます。』
「呼ばれたのはそういう事なのね。」
「あんたたち、本当に仲良いわね。」
母さんたちが微妙にあきれ顔になった。




