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Please speak!  作者: 長野原春
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学校って面倒だよね

長野原春と申します。小説を書くのは初めてですが、読んでいただければ幸いです。また、自分のためにも、評価をしていただけると嬉しいです。更新できるときはガンガン更新していきたいと思います!

 今日は何日だろう。

 いかん、最近春休みでずっと家にいるから曜日感覚が・・・。

 まあでも、今日も春休みのはず。そうと決まればまた昼ごろまで惰眠を貪るしか手はない。

 よし、じゃあ布団にもぐって眠れるまで目を閉じていよう。

 そう決めて、俺は布団をかぶった。


 ・・・つんつん。

 

 なんだ?今誰かに触られた気が・・・いや気のせいか。

 もし母親が起こしに来たのならつつくなんてことはせず扉を開けて大声で起きろと叫ぶはず。

 母親でないのならうちには義理の姉しかいない。

 そんな義理の姉も、起こしに来てくれるなら声をかけてくれるはずだ。

 まさか父親が起こしに来たわけじゃあるまいし。

 うん、気のせいだ気のせい。


 つんつん。


 いや絶対気のせいじゃねえわこれ。

 明らかに誰かが俺をつついている。

 誰だかわからないが俺を起こそうとしている。

 ええいやめろ!俺は眠いんだ!昼まで寝ていたいんだ!


 ・・・ばさあっ。


 その思いもむなしく、布団をめくられてしまった。

 

「誰だ!俺の安眠を邪魔したのはああああ!!!」

 俺を起こした犯人を威圧するように、声を張り上げた。

 そこにいたのは―――無表情で俺を見下ろす、幼なじみだった。


「・・・えっ?ミー子?」

 何でこいつがここにいるんだろう。

 いや、幼なじみだし、お互いの部屋にいることなんていつもの事だ。

 違う。何でこいつは、学校の制服を着ているんだ・・・?


 そう、思っていると、

「・・・。」

 ミー子は無言でケータイをいじり始めた。

 それを見て、俺も無言になってしまった。

 カチカチカチカチ、と、ケータイをタップする音だけがこの部屋に響いている。

「・・・。」

 終わったのか、ミー子はこちらを向き、ケータイの画面を見せてきた。

 そこに書いてあったのは、

『おはようなっち。

 今日から学校だよ?』


 ・・・え、マジ?

 カレンダーを確認すると、4月7日(月)と表示されている。

 ・・・あ、今日から学校だったわ。

「いやそれにしてもおかしいだろ。母さんはどこに行ったんだ?」

 それを聞いたミー子はまたケータイをいじり始めた。

「・・・。」

 また無言の時間が訪れる。

 ・・・俺からしたら、もうこの無言の時間には慣れたのだが。

「・・・。」

 ミー子のケータイには、

『秋穂さんは会社に呼ばれて朝早く出ないといけなくなったみたい。

 外で秋穂さんに会って、なっちを起こしてと頼まれた。』

 と書いてあった。

 秋穂とはうちの母親の事だ。

「・・・母さん、もう行ったのか・・・。って、うちにはもう一人いるだろ、俺を起こしてくれそうな人。」

 そう、うちにはもう一人、義理の姉の春女(はるめ)さんがいるはずだ。

『春女さんもすでに家にいませんでした。』

「何でいないんですかね・・・。」

 まったく、うちの家族はどうなってやがる。


『というか、早く支度した方がいいと思うよ。』

「あ、おお。そうだな。すぐに支度するからリビングで待ってれてくれ。」

「・・・(こくり)。」

 頷いて、ミー子は部屋を出て行った。


 ・・・さて、俺の名前は絢駒夏央(あやこまなつお)

 多分ごく普通の高校生。

 最近ごく普通とか言っておいて超能力とか持ってるやつが多いからね、仕方ないね。

 さっきの女の子は、鏡崎美衣(かがみさきみい)。俺の幼なじみです。

 まあ、昔にちょっといろいろあってしゃべることができません。

 そこで、普通の学校に通えるように、普段は俺がミー子の面倒を見ています。

 あ、ミー子ってのはあだ名ね。ちなみに俺はなっちって呼ばれてます。

 あああ、説明してる場合じゃなかった。早く支度しなきゃ・・・。


「すまん、待たせたな、ミー子。」

「・・・(もぐもぐ)。」

 支度を済ませてリビングに入ると、俺を待っていたミー子が・・・飯を食っていた。

「何で飯食ってんだよっ!それ俺のじゃないの!?」

「・・・(ごくん)。」

 ちゃんと食べてるものを飲みこんでから、ミー子はまたケータイをいじり始めた。

「・・・。」

 ええい、テンポがとても悪い!・・・前からだけど。

『秋穂さん、元から私に頼むつもりだったみたい。これ私の分。なっちのはキッチンにあるよ。』

「ああそう。母さん、二人分作ってたのか・・・。」

「・・・(もぐもぐ)。」

 さあ、俺も朝ご飯を食べよう。遅刻する。




「・・・んで、今日から新しいクラスか。どうなるかね?」

『見てからのお楽しみ。』

「去年はクラス違かったからな、あんまり面倒なことないように同じクラスがいいなあ。」

『確率は三分の一。』

 今日は一年間最初の一大イベント、クラス替えだ。

 どんな人と一緒になるか、どの先生が担任かで、一年間の明暗が決まるといっても過言ではない。

 去年は知らない人だらけ、初めて担任をすることになった先生と、なかなか最悪な結果だった。

 友達?そんなもの、ミー子のいたクラスで作りました。

『あ、なっち、今日の放課後空いてる?』

 クラスの話が突然学校が終わった後の話になった。

 気が早くないですかね。

「まあ、多分空いてるけど、どうかしたの?」

『多分っていうくらいなら、ちゃんと空けておいて。』

 なぜか注意されてしまった。

「いや、ほら、他のやつに誘われるかもしれないじゃん?」

『まだ予定が決まってないなら、一番最初に誘ったのは私。』

「確かにそうですね、すんませんでした。んで、なにかするの?」

『駅前の喫茶店で新しいメニューが追加されるって聞いた。スイーツで。』

「あーはいはい。ミー子はスイーツ好きだもんな。で、それに付き合えと?」

「・・・(こくり)。」

「りょーかい。」

 まあ、今日はバイトないし、ミー子と二人で出かけるのもいいかな。



「さて、自分がどのクラスか、確認と行きますか。」

「・・・(こくり)。」

「まあ、3クラスしかないし、すぐにわかるだろうけどね。」

 えーと、1組は・・・、ないか。

 んじゃあ2組は・・・、おお、あったあった。

 ・・・今年も一番かよ。やだよ。端っこの一番前。

『同じクラス』

「うおっ!?」

 目の前に突然ケータイが現れた。

『びっくりさせてごめん。』

 ミー子が少し申し訳なさそうに顔を伏せた。

「ああいや、別にいいよ。同じクラスか、一年間よろしくな。」

「・・・(こくり)。」

「おやー?アヤにかがみんも同じクラス?」

 別の方向から声が聞こえた。

 そこにいたのは、

「おお、祈木か。お前も同じクラスなんだ?」

 1年の時にできた友達、祈木陽花(いのりぎはるか)だった。

「あたし、2番だからアヤの後ろのはずだけど?」

「すまん、俺のところしか見てなかった。」

 あとミー子のところ。

「やー、アヤはともかく、かがみんとまた同じクラスだなんて、ラッキーだねえ。」

 そういって、祈木がミー子に抱きついた。

 明るく、誰にでも話しかけられるタイプなので、ミー子を安心して任せられるいいやつだと俺は思っている。

『私も、陽花と同じクラスで嬉しい。』

「おおー!うれしいことを言ってくれるじゃないのこのー!」

『あつくるしい』

 ・・・まあ、うるさいくらいがちょうどいいんじゃないかな。

「んじゃまー、一年間よろしくねー。」

「ああ、よろしく。」

「・・・(こくり)。」

 そういって、祈木はクラスに入っていった。

「あとは誰がいるかなー。」

 友達の名前を探す。

 クラス替えの時って、何人か知ってる人がいないとものすごく不安だよね。

『鈴波くんがいる』

「どれどれ・・・、ああ、本当だ。」

 鈴波京介(すずなみきょうすけ)、俺の中学生の時からの友達だ。

 今はまだ来てないけど、どうせいつも通り遅刻ギリギリで来るんだろう。

 あいつはそういうやつだ。

『今年は寂しい思いしないですむね。』

「ほんとだよ・・・。京介がいてくれるだけでマジありがたいわ。」

『私の話だよ。』

「ん?ミー子の話?ああ、祈木が一緒でよかったな。』

「・・・(ふるふる)。」

 ミー子が首を振った。

 祈木が一緒で嬉しくないのか?

『なっちと一緒のクラスなのが一番嬉しい。』

「・・・。」

 か、かわいい事言うじゃん。

 表情は全く変わらないけど。

「担任は誰だろうな。」

『朝のHR始まるまでわからない。』

「まあ、待つしかないか。」

「・・・(こくり)。」

 教室に入ると、まだ半分も来ていなかった。

 おかしい。もうHR始まる5分前なんだが。

 去年のクラスは5分前にほぼ全員そろってたはずなのに。

 これはもしかして・・・。



 予想は当たった。

 遅刻ギリギリで来るやつが大勢いた。

 まったく、先生に言われなかったか?5分前行動は当たり前だぜ?

『学校を忘れて寝てたのは誰かな。』

「何でお前には俺の考えてることがわかるんだよ。」

『伊達に長い付き合いしてない。』

「長い付き合いでも普通そんなん分からねえだろ・・・。」

「・・・(ピース)。」

「無表情でピースすんのやめろ?ってかケータイしまえ。先生来るぞ。」

「・・・(こくり)。」

 ミー子はケータイをかばんにしまうと、そのまま机に突っ伏した。

「寝んのかよ・・・。」

 よく一番前の席で寝れるなこいつは。

「アヤとかがみんって見てて面白いよね。」

「そうか?」

「いいねえ幼なじみって。」

「・・・まあ。」

 大していいもんでもないんじゃないかな。ただ周りよりちょっと仲がいいだけで。




「よーしみんな席着け―。はい。俺が今日から2組を担当することになった担任の茎野です。漢字でこう書くから。」

 黒板にきれいな字で茎野紅也(くきのこうや)と先生が書いた。

「じゃあ名前確認したいから出席取るぞ。呼ばれたら返事するように。あ、あと鏡崎ってどいつだ?」

「・・・(びくっ)。」

 いきなり呼ばれてミー子は体を起こした。

「お前が鏡崎か?」

「・・・(こくり)。」

「そうか。事情は大体聞いてるから。一年間よろしくな。」

「・・・(こくり)。」

 ・・・ちゃんと理解ある先生でよかった。

「じゃあ、名前呼ばれたら返事とあと、自己紹介をしてくれ。」

 えっ。

 自己紹介?

 何にも考えてなかった。

 だから嫌なんだよ1番!

「はい、・・・えーと、あやこまでいいのか?」

「はい。」

「よし、んじゃあ出身中学校と所属していた部活と好きなこと。」

「草之中学校出身の絢駒夏央です。バスケットボール部に所属していました。好きなことは・・・えーと、料理です。一年間よろしくお願いします。」

「ああ、よろしく。」

 ふー、何とか答えられた。

 横を見ると、ミー子がスケッチブックに自分の紹介を書いていた。

 まあ、ケータイが使えないし、筆談になっちゃうのは仕方ないか。

「じゃあ次。・・・えーと、いのき?」

「どこのアント○オですか。いのりぎです。」

「おおすまんな。改めて、祈木陽花。」

「はい。鳶ヶ谷中学出身の祈木陽花です!水泳部に所属してました!好きなことは寝ること!よろしくお願いしまーす。」

「はいよろしく。」

 最近、先生が生徒の名前を間違えると親から苦情が来るらしいな。

 そういうのぼくしってる。モンスターペアレントっていうんでしょ?

 ・・・ちょっと違うか。

 にしても、名前間違えられたくらいで苦情言うかね?

 いやならキラキラした読めない名前じゃなくてもっと普通にすればいいのに。

 変な名前つけられる子供もかわいそうだし。

「アヤって料理するんだ。」

 後ろから祈木が話しかけてきた。

「うん、まあ、自分の弁当は自分で作ってるし。」

「へー!いいねいいね料理男子。今度あたしのも作ってよ。」

「お断りします。」

「けちー。あ、アヤってバイトとかしてる?」

「ああ、厨房で。」

「ええー!?めっちゃうまいんじゃん!どこどこ!?教えてよー!」

 いきなり祈木のテンションが高くなった。

「いやです。」

「じゃあどんなタイプの店?それだけならいいっしょ!?」

「喫茶店、とだけ言っておくわ。」

「・・・もしかして、お菓子とかの方が得意とか?」

「そうだけど。」

「やっぱり今度作ってよー!」

「お断りします。」

「おらそこ、いきなりうるさい。」

「「はいすんません。」」

 怒られてしまった。

 しかし、俺が何か作れと頼まれるとは。

 そうだな、来年のバレンタインでチョコくれたら作ってやろうかな。

 何上から目線で言ってるんだ、俺。

「はい、じゃあ次。鏡崎。自己紹介するか?」

「・・・(こくり)。」

 ミー子は自分の席に茎野を座らせ、教壇に立った。

 そして、スケッチブックを開いた。

『草之中学校出身、鏡崎美衣です。部活には所属していませんでした。昔ちょっといろいろあって、失声症になってしまい、しゃべることができませんが、よろしくお願いします。好きなことは料理です。』

「・・・(ぺこり)。」

 ミー子は一礼をしてから、席に戻った。

「お前、好きなことはゲームじゃねえの?いつもやってんじゃん。」

『下手に最初からゲームとか答えると失声症も相まって根暗に思われる。』

「・・・ま、それもそうか。」

 いきなり気味悪がられると後が悲惨だからな。

『それに、料理するのも好き。』

「自分で食べるためだろう?」

『それだったら好きなことは食べることって言う。』

「そうか。」

『料理が好きなのは本当。理由は他にもあるけど。』

「へー、どんな?」

『教えない。』

「なんでだよ。」

「絢駒、さっきからうるさい。」

「はいすんませんした。」

「おしゃべりが多いぞ、自己紹介中なんだから静かにしなさい。」

「はい。」

 またも怒られてしまった。

 いや、まあ俺が悪いんだけどね?

『m9(^Д^)』

 少しイラッとした。

 いちいち書かんでいい。

「じゃあ次、鈴波。」

「あーい!草之中学校出身、鈴波京介でっす!バスケ部に所属していました!好きなことはアニメを見ることです!よろしくお願いします!あ、俺の事は京介なりきょーちゃんなりなんなり呼んで下さい!」

 いや、初対面でいきなりきょーちゃん呼びはないだろう。

 いくらなんでもそんな馴れ馴れしいやつは・・・。

「きょーちゃん・・・、いや、すずなみっていう名字だからなーみんでいいや。」

 いたわ。俺の真後ろに。

 こいつは人の名字からあだ名をつける。

 正直アヤだと女みたいで嫌なんだけど、本人に直す気がないのでもう気にしていない。

 ・・・どうしよう、眠くなってきた。

 まあ、いいや。紹介なんてまた後でもできるし。

 いやは、自分の欲求に素直に答えるのが一番・・・。



 

 つんつん。

「はっ。」

 何者かにつつかれた。

 いや、つつく奴なんて一人しかいない。

「なんだ、ミー子。」

「美衣ちゃんじゃなくて悪かったな。」

「!?」

 びっくりして顔をあげると、そこにいたのは―――京介だった。

「・・・なんだ、京介かよ。」

「なんだとはなんですかね。ひどくないっすかね。」

「紛らわしい起こし方すんじゃねえ。」

「だって、お前起こされたときに機嫌の悪さ、かなりのもんだもん。」

「へーへーそれは悪うござんした。」

 いや、安眠を邪魔されたら誰だって不機嫌になるよな?

 ・・・な?

「なんかさ、美衣ちゃん、人気だな。」

 京介が俺に耳打ちしてきた。

「え?」

 横を向くと、ミー子の机には人だかりができていた。

 どうやら、ミー子は質問攻めにあっているらしい。

 顔には出ていないが、明らかにおどおどしている。

「ミー子の目が泳いでる。珍しーな。」

「夏央もよく美衣ちゃんの変化が分かるな。」

「伊達に長い付き合いしてねーからな。」

「何年くらい?」

「この世に生を受けてからだ。」

「わお。」

 考えてみると、結構時間立つのって早いもんだな。

 大人になると時間の流れが急加速するらしい。

 大人になんかなりたくねえ・・・、ついでに働きたくねえ。

 バイトやってるけど。

 でも、働かずして金が入ってくれば最高だよな?

「そういえばさ、美衣ちゃんって、何でしゃべれないの?」

 いきなり京介がそんなことを聞いてきた。

「おっと、それは俺の口からは言えねえな。」

「んじゃあ美衣ちゃんに聞こうかな。」

 京介がとんでもないことを言い出した。

 少し考えてからものをしゃべってほしいね、鈴波くん?

「やめろ、声が出なくなるくらいだ。それなりの理由なんだよ。」

 正直、聞かれても困る。

 それに関しては、俺にも負い目があるから。

「そうか、じゃあやめとこ。」

「おう、もしミー子に直接聞くような暴挙に出たら・・・、そうだな。4分の3殺しかな。」

「死んでる。それ、ほぼ死んでるから。」

 いや、もし本当にミー子にあのことを思い出させるようなことしたら、殺すつもりでいく。

 またしゃべれるかもしれない可能性が低くなってしまうかもしれない。

「しっかし、夏央もミー子ちゃんに対して結構過保護だよな。」

「いきなりなんだよ。」

「いや、だってさ、毎日登下校一緒でさ、昼も一緒に食べて、帰るとき、かりに俺たちと遊ぶ約束しててもまず美衣ちゃんを家に送ってからだもんなー。お前美衣ちゃん好きすぎだろ。」

「そういうわけじゃなくてだな、ただ心配ってだけで。」

「ふーん、心配ねえ。」

「声が出ねえってだけでいろいろ不便なんだよ。心配くらいさせろっつの。」

「はいはい。」

 京介がにやにや笑っている。

 なんかむかつく。



 まあ初日なんてのは始業式だけなもんで、午前中に下校となった。

 さて、帰りますかね。

「・・・(くいくい)。」

 と思っていたら、ミー子に後ろから引っ張られた。

 そういえば、帰りに駅前の喫茶店に行く話をしていた。

「わ、分かってる。分かってるから。駅前の方、行こうな?」

『今絶対忘れてた。』

「そんなことない。そんなことない。」

「・・・(じー)。」

 ミー子が黙ってこっちをにらんでいる。

「すんません忘れてました。」

 睨まないでください、怖いです。

『嘘つかずに素直にいえばいいのに。』

 俺とミー子は駅前の方に歩き出した。

喫茶店か、ちょうど店の視察も兼ねて、たまにはいいかもしれないな。

 春限定のメニューとか今度考えて、店長に言ってみるかな。

「そういえば駅前って喫茶店いくつかあったよな、どこのやつ?」

『甘味処 出雲』

「ああ、あそこか。」

 駅前にある唯一の和風喫茶、出雲。

 抹茶系の菓子の人気が高いお店だ。

 俺は行ったことないんだけど。

「あそこの店で一番人気ってなんだっけ?」

『抹茶パフェかな?あとは普通の抹茶とようかん。』

「そうか・・・。」

 和風となれば、あんまり視察の意味はなさそうだ。

 うちは和風じゃないし。

 ようかんとコーヒーじゃ合わないもんな。

「新しいメニューってなんだろうな。」

『お楽しみみたい。』

 まだわからないのか。

「予想は?」

『パフェは抹茶パフェだけで通してるから多分ないと思う。となると、わかんないね。』

「桜餅とかかな。」

『ありえる。』

 俺たち二人は少しわくわくしていた。



「いらっしゃいませー!何名様ですか?」

「2名で。」

「ご案内いたします。」

 窓際の席に案内された。

「こちら、春限定の桜最中となっております。」

 もなかだったか。

「じゃあ桜最中二つください。」

「かしこまりました。」

 ここの制服は和服なんだな、動きづらそう。

 雰囲気にあっててとてもいいとは思うけど。

『もなかは予想外。』

「だな。」

『開業以来、初めてもなかに新しいメニューができたよ。』

「ミー子、お前何回ここに来てるんだ・・・?」

 スイーツやお菓子が好きで、よくいろいろな喫茶店に行ってるのは知ってるけど・・・。

 もしかしたら、一人で結構来ているのかもしれない。

『なっちのバイト先の喫茶店にも今度行きたいな。』

 ミー子が突然そんなことを言い(?)出した。

 いや、別に来るのは構わないけど・・・。

「ミー子、コーヒー飲めたっけ?」

『ケーキとかが一緒なら。』

「じゃあ大丈夫か。」

 うちには結構いろんな種類のケーキがある。

 ケーキとコーヒーの店だ。

「お待たせしました。桜最中です。」

 しゃべっていたら、お待ちかねの桜最中が来た。

 ピンク色の生地には桜の模様が入っている。

 見た目はなかなか美しいものだ。

 中に入っているのは、冷たいからアイスだろう。

「んじゃ、食べるか。」

『食べよう。』

 なんだかミー子の目がキラキラしているように見えるのは気のせいだろうか。

 一口食べると、風味豊かな抹茶の味が口の中に広がった。

 これは、うまい。

 初めて来たけどここうまいぞ。

『おいしいね。』

「ああ、これうまいな。」

『もなかアイスは普通に取り扱ってもいいと思う。』

「見た目はともかく、これを期間限定にしておくのはもったいない気がするな。」

『うんうん。』

 ミー子が心なしか満足そうな顔で最中をほおばっている。

 実際は表情に変化は見られないのだが。

 しかしなんだろう、小動物が飯をほおばってるみたいでかわいいな。




 桜最中を食べた俺たちは、家に帰ることにした。

「やー、あれうまかったな。また食べたい。」

『また誘う。』

「バイトある日以外はいつでもどーぞ。」

『でも、あれ今月限定らしい。』

「まじか、んじゃあ放課後空けとかないとな。」

 今月限定とかもったいなすぎるだろ。

 これからももなかアイスは出してほしいと思う。

「あ、俺今日夕食作らなきゃいけないんだ。買い物してかなきゃ。」

『ついてく。』

「おーけー。」

 家に帰る前に、俺たちはスーパーへ向かった。




「さて、じゃあまた明日な。」

 買い物を終え、家に着いたところで、ミー子は少しさびしそうにした。

『今日はうちに寄って行ってくれないの?』

「すまんな、夕食作らないといけないんだ。明日は行くから。」

『わかった。また明日ね。』

「おう。」

 ミー子は俺に手を振って隣の家に入っていった。

「ただいまー。」

「あ、お帰り夏央くん。」

 家にまだ誰もいないと思っていたが、春女さんが帰ってきていた。

「大学、今日は早く終わったの?」

「今日は大学ないよー。明日からだね。」

 明日から大学なのか・・・。

 もし高校も明日からなら、今日は昼ごろまで寝ていられたのに・・・!

 って、

「あれ?なんで春女さんは今日の朝いなかったんだ?」

「出かけてました。」

「あんな朝早くから?」

「うん、まあ・・・。」

 ああ、大体わかってきた。

 多分何も考えずに出かけたんだろう。

「んで、今日はどこに行ってたの?」

「気づいたら隣の県にいました。」

「また遠いところまで・・・。」

 そう、この義姉は突然ふらふらっと出かけたりする。

 いわゆる放浪癖というやつだ。

 最近はいつもの事だと思うようになってきたが、いきなりいなくなるとびっくりする。

 大体その日のうちに帰ってくるからまだいいけど。

「今日は夏央くんが夕ご飯作るんだよね。」

「そうだよ。」

「何にするの?」

「今日は肉じゃがで。」

「やった!」

 春女さんが無邪気に喜ぶ。

「着替えたら作るね。」

「手伝うよ。」

 そういってくれる春女さんに感謝しつつ、俺は自分の部屋に向かった。




「いやー、夏央くんの作るご飯は美味しいねえ。」

 そういって春女さんがほおを緩めた。

「春女さんだって料理上手でしょ?」

「いやー、厨房で働いてる夏央くんにはかなわないよねえ。」

 俺はいつも厨房でスイーツを作ってるんだけど・・・。

 この人はなんというか、他人への評価が甘い。

 本当にそれでいいのかと思うときがあったりするくらいには。

「春女さん、大学は何の学科だっけ?」

「薬学科だよー。病院とかのお薬のやつ。」

 薬学科って大変そうだな・・・。

 だってあれだよな?

 薬って分量間違えるだけで危ないんだもんな。

「どんな勉強するの?」

「基本的には化学ばっかりかな。まだ2年生だし。」

「化学か・・・。あんま得意じゃないな。」

「じゃあ今度分からないところあったら何でも聞いてね!教えてあげるよー。」

 春女さんがうれしいことを言ってくれる。

 でも化学かぁ・・・。化学なあ・・・。

 計算要素がかなりからむし、公式とかを覚えるのって苦手なんだよなあ・・・。

 俺は文系とかのほうが好きです。

「化学はまず暗記だよ。覚えることが大事!」

「社会の暗記は得意なんだけどなあ。ほら、化学って記号じゃん?」

「そこはもう教科書なり見ながら照らし合わせるのよ。」

 めんどくさそう・・・。

「薬学科はねえ、膨大な量の詰め込みよ。」

 春女さんが苦笑した。

「あれだね、アンキ○ンがあれば余裕だね。」

「俺やっぱ化学って苦手だな・・・。」

 今度、本当に春女さんから教えてもらおうと思った。




「さーてと・・・、何しようかな。」

 部屋に戻ったが、特にやることがなくて困っていた。

「・・・そうだ。」

 明日バイトだし、新しいメニューでも考えよう。

「あいつに手を借りよう。」

 俺はバッグからケータイを取り出した。


「夜に悪いな、適当に座ってて。飲み物持ってくる。」

『ありがとう。』

 メールしたらミー子はすぐに来てくれた。

 こういう時家の近さって便利だよね。

『何をするの?』

「喫茶店の新しいメニューの考案だ。」

『まかせて。』

 スイーツとかが好きなミー子が手伝ってくれるのはとてもありがたい。

「今の旬は・・・、キウイとマンゴーってところか。」

『キウイとコーヒーって合うの?』

「ああ、キウイとカフェインは一緒にとると疲労回復の効果があるみたいだ。」

 最近知った話だけどね。

『マンゴーは?』

「・・・特に知らないな。」

 マンゴーコーヒーなるものはあるそうだが・・・。

 あれってマンゴージャムとコーヒーだよね。

『限定メニューを一個にしぼる?』

「そうするかな。」

 キウイを使ったものにしよう。

 さて、あとは何を作るかだ。

「んー、何にしようかな。」

『喫茶店だからイメージはちょっとおしゃれな感じ?』

「コーヒーと一緒にだからなー。ケーキだとうちはケーキいっぱいあるしなあ。」

『じゃあ、タルトとか。』

「それだ!」

 よく考えたらうちにはタルトのメニューがない。

 なぜだ。

「サクサクの生地にキウイの程よい酸味、うん、これいいかも。」

『キウイは旬が5月くらいまでだからまだ間に合うね。』

「店長、最初から春メニュー出すって言ってくれればなあ。ちょっと出遅れちゃうな。」

『そればっかしは仕方ないから明日言ってみたら?』

「そうだな。」

『そしてためしに一回作ってみないとね。』

「明日学校終わったら材料買って作るか。明日も学校早いし。」

『手伝う。』

「よろしくな。」

「・・・(こくり)。」

 案が決まったところで、ミー子は帰った。

 明日キウイタルトを作って店長に持って行ってやろう。

 反応が楽しみだ。

はじめまして!長野原春といいます。何となく自分でキャラクターを作っていたら小説を書きたくなってしまい、今回書かせていただきました。小説を書くのは初めてでまだまだ未熟な私ですが、何卒よろしくお願いします!

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