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女神の剣  作者: 蔵樹りん
第3章
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第92話『出発前夜』

「準備は問題ないわね?」


 【虹の根元亭】の一階、円卓を囲む四人の顔をそれぞれ見ながらエレンは念を押した。


「大丈夫さ、エレン」


 答えるアンリに同調するサイファ、マナ、ミナ。


 窓の外は宵闇が支配しており、食堂を包んでいた夕食時の喧騒はすでに遠い昔のこと、今では酒盃を片手に談笑する者達がカウンター席に数人いるだけだった。


 彼らは明日、ペルギア渓谷へと出発する決意を固めていた。神殿からの正式な依頼として尾長竜ワイバーン討伐を引き受けた以上、失敗は許されない。


 エレンが依頼を受けると宣言した時、リーマドータは渋い顔をした。もちろんそれはアンリ達を心配してのことであったが。確かにエレン達の成長は目覚ましいし、パーティーメンバーも五人になっている。とはいえ尾長竜は強敵だ。天人は様々な言葉で彼らを押しとどめようと試みた。


 しかしもちろんそれで引く彼らではなかった。やがてリーマドータも彼らの熱意に動かされ、最終的にはアンリ達の意思を尊重したのだった。


 報酬は金貨200枚。銀貨に換算すると10000枚だ。アンリはもちろん、エレンですらここまで高額な報酬が約束された依頼を受けたことはない。


 未知の敵と戦うという恐怖はもちろんあったが、それを上回る高揚感がアンリとエレンを包んでいた。もちろん、それは双子の姉妹も同様であったろう。大型の簒奪者と戦ったことのあるサイファは彼らほどには緊張していなかったが、それでも気持ちが幾分高ぶっているのは間違いない。


「ほんと、頼りにしてるわよ、アンリ、マナ、ミナ、サイファ」

「まかせて! それに本来はあたし達の試験なんだから、必ずこの手で尾長竜を始末してみせるわっ!!」

「ふ、神々も照覧くださるさ。ワタシ達の聖なる戦いを!」


 自信満々に答えるマナ。ミナも控えめながら頷いた。サイファも己の片手鎚メイスを手に掲げ、天へと吠える。


「僕も頑張るよ。攻撃力だって上がったんだし、かならずあの巨大な魔物に一撃を食らわせてやるさ!」


 輝石が六つになった【打ち壊すものブロークン】の攻撃力は55。40だった初期と比べるとかなりの強化といえる。


 アンリはつい先日、頭上を舞っていたあの巨大な簒奪者の姿を思い出した。アンリが今まで戦ってきた敵達とは比べ物にならない体のサイズ。馬を軽々と支える脚の膂力。思わずカップを持つ手に力が篭る。


 しかし自分だってなりたての頃とは比較にならないほどに強くなったはずだ。武器だけでなく、体を守る鎧も。そして手に入れた神々の使いし武術ウェポンアーツ


 もちろん鍛錬だって欠かしていない。最初は【血の猟犬ブラッドハウンド】にすら苦戦していたが経験を重ね、いつしか重装蜥蜴ヘヴィガードリザードマン堕落した神コラプトといった強敵達とも渡り合えるようになったのだ。今度だって負けやしない。


 円卓の面々を順に見つめていたエレンは最後に隣のアンリと視線を合わせ、その瞳の中に滾る闘志を見て微笑んだ。全員、やる気に満ち溢れている。意思の力は自分達の実力を十二分に引き出してくれるだろう。


 そしてアンリ。もう執行者になった頃の未熟だった彼はどこにもいない。いつしか一人で強敵とも戦えるようになった彼を、エレンは頼もしく思った。


 エレンは卓上にある酒盃に手を伸ばして目線の位置に掲げる。


「その意気よ。じゃあ、軽く乾杯しましょうか? 明日からしばらくは贅沢できないからね」

「飲みすぎないでね、エレン」

「わ、分かってるわよ!」


 茶化すアンリに顔を赤くする幼馴染。マナ達は自然に顔をほころばせた。アンリはエールの入った杯を掲げる。他のメンバーもそれに倣った。マナとミナのカップに入っているのはいつものように山羊乳ミルクだが。


「それでは、僕達の勝利を願って……乾杯」

「乾杯!!」


 軽く杯が打ち合わされ、各々が器を口元へと運ぶ。それぞれ、明日から始まる冒険に思いを馳せながら。


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