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女神の剣  作者: 蔵樹りん
第3章
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第78話『しばしの別れ』

「やっほー、アンリ! エレン!!」

「おはようございます、アンリさん、エレンさん」

「あらっ? 貴方達、どうしたの? ひょっとして見送りに来てくれたの?」


 アンリとエレンが準備を済ませて降りてきた【虹の根元亭】の一階に、なぜかマナとミナの姉妹、そしてギザルムがいた。マナ、そしてミナはアンリ達のそばにやって来たが、一人円卓に着いているギザルムは挨拶の代わりに手にしたカップを掲げ、二人に向かってかすかな笑みを向けた。


 ギザルムが朝からいるのも珍しいが、マナとミナはそもそもこの宿の常連ですらない。アンリとエレンは首を傾げた。マナは両手を腰に当て、胸を反り返らせる。


「そう思ってくれて構わないわ。感謝してよね!」

「あはは……ありがとう、マナ、それとミナちゃん」

「依頼、頑張ってくださいね」


 マナ、そしてミナの激励にアンリとエレンの顔が綻ぶ。


「ま、ただの商隊の護衛よ。街道を進むし大した危険もないわ。三日後くらいには帰ってくるわよ」


 予定では明日の夕刻頃には目的の街に着くはずだ。雇われている執行者はアンリ達以外にも何人かおり、それほど危険な道中になるとは思えない。昨日のエレンの願いを神が聞き入れてしまったら話は別だが……。


 エレンは頼んだカップに入っている水を飲み、喉を潤すと二人に向き直る。


「それじゃあそろそろ行くわ。仲間集めや情報収集なんかはしっかりとやっておいてね?」

「ど、努力はするわ」

「はい……上手くいくかは分かりませんが……」


 自信なさげに答える姉妹。二人はこれまでそういった前準備をやったことがないので仕方のないことではあるが。アンリは優しく微笑み、二人の頭に何気なく左右の手をぽんと置いた。


「大丈夫。僕達も帰ってきたら手伝うからさ」


 頭に手の平を乗せられた二人はもじもじとし、マナは両手を後ろで組み、ミナは両手を胸の前で合わせ、きらきらと輝く茶色の瞳をアンリの双眸に合わせた。


「と、当然よ……早く帰ってきてよ?」

「待ってますからね?」

「う、うん……じゃ、じゃあ行って来ます!!」


 揃って自分を見上げる可憐な少女二人にアンリはくすぐったい気持ちになった。熱くなりつつある頬を二人に見られまいと慌てて置いていた手を放し、そそくさと姉妹に背を向ける。


「それじゃ行きましょうか、アンリ」


 ――隣で何やら意味深な笑顔を浮かべているエレンも凄く怖いし。


 二人は【虹の根元亭】の扉を開けて一歩を踏み出し、今日も活気を予感させる通りへと身を投じると、石畳を歩く数多の人達と同じように目的地へと向かって歩きだした。


 アンリとエレンを見送った二人の少女。彼女達はアンリ達の姿が人込みの中に消えるのを確認すると、顔に笑みを張り付けてくるりと振り向いた。その視線の先には椅子に座る一人の男がいる。宿の常連であるギザルムだ。水入りのカップだけが載った円卓で、彼は今日になって何回目か分からない溜め息を吐いた。まだ朝の時分であるにも関わらず。


 二人の少女はそんな暗い雰囲気の男の側に駆け寄ると、闇を照らす松明のように眩しい笑顔でお互い両手を合わせ、黄色い声を出した。


「本当に楽しみ! いったいどんなデザートが出てくるのかな!?」

「きっと見たこともないような凄いケーキを食べさせてくれるんだよ、お姉ちゃん!!」

「……お手柔らかに頼むぜ、お嬢ちゃん達……」


 ギザルムが先日取引材料とした【スイートシュガー】は名声高く、それに相応しい値の張るデザートが並ぶ店である。はしゃぐ小さな女の子を見やり、ギザルムは小さな声で懇願した。しかしそれは元気な少女達にはまったく聞こえてないようであった。ギザルムはもう一度嘆息し、呟いた。


「やれやれ……かみさんにだけは見つからないようにしないとな……」



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