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女神の剣  作者: 蔵樹りん
第3章
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第69話『共闘』

「セリスよ!! 氷の魔術を編み出した偉大なる神よ!! 我はここに始まりの六花りっかを呼び出さん! 六花で足るのか、いや足りぬ! ならば変えよう、獣の牙のごとき鋭利なつららに! つららで足るのか、いや足りぬ! ならば変えよう、海をたゆたう氷山に! その氷山を持って我は凍てつく鎧を創造せん!! 輝く冷気よ、体を覆え!! 【氷結の鎧フローズンアーマー】!!」


 簒奪者の指示を受け、数多の蜥蜴精鋭リザードマンエリート達が四人の執行者に向かって襲い来る。その間に双子の妹は氷の魔術を行使した。魔術は三度唱えられ、双子の片割れ、アンリ、エレンの三人に氷の輝きが順次纏わりつく。


 初めての体験にアンリは戸惑い、己の体を見下ろした。少しひんやりとするものの、ただそれだけで手足を動かすのに支障は無い。ミナは構えていた両手鎚モールを下ろし、目を伏せた。


「ごめんなさい断りもなしに。【氷結の鎧フローズンアーマー】といって貴方の防御力を高め、近付く敵を冷気で束縛する魔術です」

「いや、ちょっとびっくりしただけだから大丈夫。ありがとう……ええっと、ミナちゃん……でいいのかな?」


 アンリの言葉にややうつむきがちだった少女は彼を見上げた。


「はい……ミナと申します。そこの姉の名はマナ。よろしくお願いしますね」

「うん。よろしくねミナちゃん」


 にこりと微笑みあう二人。


「なに気安く妹の名前を呼んでんのよ!? あたしは許可した覚えはないわよ!?」


 そんなアンリに向かってマナという名の姉がかみつくように絡んできた。まるで野犬が牙を剥くように八重歯を見せつけ、歯軋りをしそうな表情でアンリを睨んでいる。なぜかその隣でエレンも同じような顔でアンリを見ていた。


「ごごごっごごごめん!! あっ、ててて、敵が来るよ!!」


 ごまかすように吐きだれたアンリの言葉の通り、もう蜥蜴精鋭の群れは間近に迫って来ていた。マナは小さく舌打ちすると正面へと向き直る。エレン、アンリ、そしてミナもそれぞれ得物を持ち、緑の軍勢を向かえ討つ為に身構えた。


 先陣を切ったのはエレン。振るわれる曲刀を最小限の動きで避け、すりぬけざま鎧に覆われていない首筋を切り裂いた。もはやエレンは蜥蜴精鋭など物ともしていない。それに加えて今は氷の加護がエレンに近付く敵の動きを鈍らせているのだ。彼女が勝者となるのは当然の帰結だった。


 アンリ、そしてマナの二人はほぼ同時に動いた。両者は同じように防御を省みないような大振りの一撃を放ち、数体の蜥蜴精鋭を撃破していた。


「ふーん……二人とも、意外とやるわね」

「……ありがとね」


 自分よりもかなり年下であろう女の子にふてぶてしい賞賛の言葉をかけられ、エレンは複雑な表情で礼を返した。


 そんな三人の間を抜け、二体の蜥蜴精鋭が氷の鎧を纏っていないただ一人の執行者へと迫る。しかし、蜥蜴の戦士達の考えは浅はかだった。ミナは大きめの瞳をすっと細くし、両手鎚を構えて叫ぶ。


「【隕石落としメテオフォール】!!」


 両手鎚の始祖神デュミナスの編み出した奥義を、ミナは駆け寄ってきた二体の蜥蜴へと放つ。ミナは跳躍しながら上体を逸らして思い切り得物を右上へと振りかぶる。そして全力で振り下ろされた両手鎚の先端の錘はそれこそ地表に衝突した隕石のように地面を爆砕させ、衝撃で蜥蜴精鋭達を吹き飛ばした。


 一体はまだかろうじて息があったものの、即座に行われた追撃により立ち上がることも出来ずにとどめを刺された。ミナも姉のように筋力増強ストレングスブーストの恩恵を受けているのだろう。その膂力は姉にも劣らない、恐るべきものであった。


 蜥蜴精鋭の第一陣は大した戦果もあげることなく壊滅し、あとは簒奪者である重装蜥蜴と周囲を守る数体の蜥蜴精鋭を残すのみとなる。マナは灰になりゆく蜥蜴精鋭の姿とその鎧のつぶれ具合、そしてアンリの両手剣の間で視線を行き来させ、最後にアンリの顔を見据えた。


「どうやらあんたよりもあたしの方が破壊力は上みたいね……両手剣の使い手ツーハンドソードマスター?」


 マナは言い終わるとニッと微笑む。アンリも一応戦士の端くれ、その言葉と表情に対抗心を燃え上がらせた。


「むっ……そんなことはないさ……僕はまだ全力を出してないだけだ」

「へっへーん……あたしだって同じよ。まだまだ半分の力だって出してないもん」


 険悪な雰囲気となった二人の男女に、重装蜥蜴と残っていた蜥蜴精鋭が武具を構えて駆け寄ってきた。しかし、それはまさしく火に飛び入る虫のごとくであった。


「じゃあ見ててごらん……これが僕の力だ!!」

「あたしも見せてあげる……ほんの一部だけどね!!」

「ちょ、ちょっとぉっ!?」

「お、お姉ちゃん!?」


 幼馴染と妹、それぞれの相棒の諌める言葉にも耳を貸さず、アンリとマナは敵へと向かって駆け出した。重装蜥蜴、そして蜥蜴精鋭の数は合わせて十一体。


 こちらに殺到する緑の魔物を見据え、アンリ、そしてマナはそれぞれがある構えを取る。もちろん、それは神々が編み出した奥義を放つ為の前準備だ。


 奇しくも同じようなポーズを取った二人。両者の体を光のオーラが包み、巻き起こる風が二人の髪を逆立たせる。衣装は舞い踊り、そして地に生える草花を戦慄かせた。


 威力増大パワーチャージが最後まで完全に行われた時、二人は同時に叫んだ。


「【荒れ狂う暴風域ワイルドタイフーン】!!」

「【死を呼ぶ竜巻デッドリィトルネード】!!」


 アンリは【打ち壊すものブロークン】を、マナは【超重斧ベリィヘヴィアックス】をそれぞれ勢い良く振り回しながら前方へと突き進んだ。名は違うが、しかしそっくりな武術ウェポンアーツが駆け寄ってきた蜥蜴の群れを蹂躙する。今の二人はまさしく天災そのものだった。両者の武器、そして巻き起こった衝撃波に蜥蜴の戦士達は鎧や盾もろとも全身を寸断され、すぐさま灰となる。そしてそれは重装蜥蜴も例外ではなかった。大きな長方形の盾、そして片刃刀でしばし持ちこたえたものの、それは燃え盛る火にカップ一杯の水で立ち向かうがごとしであった。やがて重装蜥蜴の武具も二人の力が合わさった大嵐テンペストによって粉砕され、持ち主である簒奪者もその後を追い、灰塵と化して消滅した……。


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