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女神の剣  作者: 蔵樹りん
第1章
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第3話『武具生成』-ツーハンドソード-

第3話が少々長すぎたため、2021/03/12に分割しました。

「白の石が武器、黒の石が鎧。いずれも、おぬしの心の底にある覚悟、もしくは闘志、または願い……何がしかの想いが形となったものじゃ」


 食い入るように輝石フレアストーンを見つめるアンリの耳にリーマドータの言葉が届く。しかしアンリはその声を聞いているのかいないのか、視線はそのままだ。


 輝石に心奪われているアンリの側にエレンが近付く。


「アンリ、あたしが村を出た後もちゃんと一人で神の言葉を学んできたわね?」

「う、うん。そりゃもちろんさ」


 ようやく我にかえったアンリが顔をあげてエレンを見つめた。唐突な質問に戸惑いながらもアンリは首肯する。


「偉いわ。じゃあ、まずは白い石だけを手の平に乗せて神の言葉でこう呟きなさい。『我にその叡智を示せ』って」

「わ、分かった。……我にその叡智を示せ」


 その途端、アンリがかざす白い石から光が虚空に向かって放たれる。その微弱な光芒の中に、やがてあるものが姿を現し始めた。


 無骨だが、触れたものをすべて破壊してしまうかのような大きな剣。円錐状の光の中に納まりきれないそれは、アンリの眼前でその威容を彼に示さんとばかりに鈍く輝いていた。両手で握ることを前提とした長い柄。鍔を挟んだ反対側には厚みのある両刃の刀身が真っ直ぐに伸びており、剣先は鋭利な二等辺三角形。装飾と言えるものが皆無と言っていいそれは、先刻アンリが願った力を彼に与えてくれるかのような威容を備えていた。


 そんな巨大な凶器と言い換えても差し支えの無さそうな長剣が、アンリの視界の中で宙に浮いたままゆっくりと旋回している。まるで、彼の動向を待っているかのように。


 ――これが……僕の武器……。


 アンリはほうっと息を吐き、傍らにいる二人の女性もそっと俯いて息を吐き……。


「「両手剣ツーハンドソードか……」」

「……って何で盛り下がってるの!?」


 しかも先ほどの両者の吐息は明らかに溜め息だった。アンリは二人に顔を向け、怒声を上げる。


「いや……そのね……うん……そう、アンリは悪くないの。アンリは悪くないのよ?」

「うむ……わしも久しぶりに見たかもしれぬ……懐かしいのお……両手剣……」

「いや意味分からないし、リーマドータさんも何郷愁にひたってるんですか!?」


 なぜか二人はお互いに目配せをし合い、それぞれが観念したかのように頷くとやがて口を開いた。明らかに気乗りしない様子で。


「えーっとね。まあ、簡単に説明するとね。両手剣って人気がないのよね」

「うむ……少なくともこの街にはおそらく使い手はおらぬはずじゃ……おぬしのように最初に得た輝石が両手剣だった者も、途中で別の武器に鞍替えしておるのお」

「うん……あたしもこんな光景を見たことがあるわ。パーティーメンバーを募集してる執行者エクス達がいたのね。そこに一人の執行者エクスが来たの。『両手剣の使い手ツーハンドソードマスターなんですけど、いいですか?』って」


 エレンは陰鬱とした表情で続ける。


「その時の他の執行者達の顔は忘れられないわ……皆一様に薄笑いを浮べて口々にこう言ったの。『両手剣はちょっと……』『今時両手剣とか……』『ひょっとして何かの罰ゲーム?』……打ちひしがれたその両手剣の使い手は大岩に剣を叩き付けて折り、別の武器への転向を図ったそうよ」

「何それ酷すぎる!?」

「まあその両手剣の使い手って実はあたしのことなんだけど」

「何それ悲しすぎる!?」

「あたしはアンリみたいに両手剣が最初の武器だったわけじゃないから、そこまで思い入れはなかったんだけどね……あれは結構こたえたわ」


 エレンはふうっと息を洩らし、やがて首を振ると無理に作ったような笑みを見せた。


「まあ出てきたものは仕方ないわね……気を取り直して説明をするわよ?」


 未だショックから立ち直れていないアンリだったが、エレンは気にせずに言葉を続けた。


「剣の側に文字が出てるでしょ? 神の言語で書かれてるけどちゃんと読めるわね?」

「うん。【打ち壊すものブロークン】……攻撃力……40? 特殊能力スペシャルパワー……筋力増強ストレングスブースト……」


 未だ中空に浮かんでいる幅広の剣の側にある、神々の言葉によって綴られた文字を読み上げていくアンリ。間違いはなかったのかエレンは満足そうにうなずいた。


「【打ち壊すものブロークン】がその武器の名前。そして攻撃力ってのはその武器の威力だと思えばいいわ。特殊能力はその武器や防具を装備した時のおまけってところかしら。筋力増強はその名の通り、使い手の力を増やしてくれるの」


 光によって描かれている文字はそれだけだった。触れてみようと剣におそるおそる手を伸ばしたアンリに、エレンが小さく微笑んだ。


「あくまでそれはイメージよ。実体はないわ」

「じゃ、じゃあどうやって使うの?」

「己の魂に刻み込むのよ……神々の力をね」

「うむ、アンリ。こちらを向くのじゃ」


 言われてリーマドータに向き直ったアンリ。やがて彼女はその褐色の手をアンリの胸板に伸ばす。


「動いてはならぬ」


 身を捩じらせようとしたアンリはその言葉が発せられると、まるで縫い付けられたかのようにぴたりと動きを止めた。彼女の言霊にはそれだけの力があったのだ。


 やがて胸に添えられた天人の手から銀色の光が溢れた。リーマドータはその輝きを己の方に引き寄せ、両の手でぱちんと挟む。そしてリーマドータがそっと両手を離すと、その間からゆっくりと、何やら不思議な形をしたものが姿を現した。


 未だ空中に浮遊し、やがて全身を現したそれは、一言で言うと銀色の台座らしきものだった。サイズはパンを載せるのに使う皿くらいといったところだが、それよりも厚みがあり、やや横長で形そのものはいびつな楕円形であった。表面らしき側には小さな丸い穴が、何がしかの法則があるのか升目のようにいくつも開いている。その穴はアンリから見て右からこのように並んでいた。


○○○○○○

=○○○○○

===○○○

====○○


 現れた銀の台座を前に首を傾げるアンリ。見かけと違って大した重量はないのか、リーマドータはプレートを無造作に取り上げると向きを反転させ、その無数のへこみがある側をじっと見つめた。


「これは【魂の器ソウルフレーム】……ひとことで言うならば、おぬしの魂を形にしたものじゃ……横列が六で縦列が最大四で総量が十六……。むう……つまらん……つまらん魂じゃのう!! いじくりまわしてやりたくなるわ!!」

「何物騒なこと言ってるんですか!! しかもいろいろと酷くないですか!?」

「おおう……すまんすまん。あまりに普通の形だったのでついな」


 リーマドータはもう一度プレートの向きを反転させると手を離した。どういう力なのか、宙に浮いたままのそれを見ているアンリ。


「窪みがいくつも開いておるな? かいつまんで言うと、この窪み……フレームの数がおぬしの振るうことが出来る、神々の力の総量ということになる」


 プレートを宙で軽く倒して上向きにし、窪みを指差すリーマドータ。


「ここに輝石を嵌め込むことにより、おぬしはその輝石に込められておる神々の武具や力を用いることが出来るのじゃ」


 アンリは手にしている白と黒の輝石をじっと見た。先ほど目にしたあの大きな剣。あの力がついに自分のものに?


 理解に及んだらしいアンリを見据えながら、リーマドータは説明を続ける。


「窪みの総数は十六……つまりおぬしは十六個の輝石の力を我が身に取り込むことが出来るという訳じゃ。とはいえいろいろと制限があっての」


 そこで天人は言葉を切り、一年前に同じようにして己が執行者へと転身させた、金色の髪の少女の方を向いた。


「エレン、ちょっとおぬしの【魂の器】を出してくれぬか」

「分かったわ」

「……エレンも持ってるの?」


 もちろん、と言いたげに頷く二人。


「執行者はこれを必ず一つ持っておる。逆に言えば、これを持たない者は執行者ではない。何せこれがないと神の力を執行できぬからの」


 銀色のプレートを手で弄びながらアンリの疑問に答えるリーマドータ。己の魂らしいそれを握られているアンリは気が気ではない。


 エレンはそっと腕を正面に伸ばして手の平を上に向け、目を閉じる。するとその手の上の銀色の光が集まり、たちまちそれは先ほどアンリの中から生まれたような銀盤となった。


○○○○○○○○

=○○○○○○○

===○○○○○

======○○

=======○



「あれ? 僕のとちょっと違う?」

「ちょっとじゃないわっ!! かなり、よ!!」


 すでに様々な輝石で彩られていたエレンの器は、アンリの言葉の通り彼のものとは明らかな違いがあった。台座そのもののサイズも縦横に大きくなっており、穿たれた穴の数もエレンのプレートの方が多いのだ。


「実はあたしも最初はアンリと大差なかったわ。でも簒奪者と戦いを繰り返した結果、こんな形になったの。簡単に言うと成長した、ということでしょうね」

「へえ……」

「今のアンリの【魂の器】には何も入って無い状態よ。まずはその窪みに白の輝石を嵌めてごらんなさい。そうね、場所は右端の一番上で」

「う、うん」


 アンリはリーマドータから銀の台座を受け取り、右手で白い輝石をパチリとはめ込む。角の先端が上手い具合にひっかかるようになっているのか、それは丸い枠の中に綺麗に納まった。


「次は黒い輝石よ。場所は……そうね、白い輝石の左隣がいいかな」

「うん」


 同じように黒の石も台座に埋めるアンリ。


「あとはリーマドータの仕事よ。お願いね」

「容易いことじゃ」


 アンリから銀のプレートを受け取り、リーマドータは右手の人差し指を立てる。やがて天人の口から流麗な言葉が紡がれた。先ほどと同じく、それはアンリの理解が及ばない言語であった。刹那、リーマドータの人差し指の先がまばゆい光を放ちだす。


 リーマドータは小さく口ずさみながら、光の溢れる指で先刻アンリが埋め込んだそれぞれの石の上をそっとなぞった。小さな光の帯が踊る光景と共に、金属を打ち合わせたようなやや高い音が輝石から鳴り響く。リーマドータの指が通り過ぎると、たちまちそれぞれの輝石の輝きが先ほどよりも強くなった。


 行程を終えたリーマドータは髪をかきあげてふうっと息を吐くと、アンリの方に視線を向け、妖しく笑う。


「かっこよかったじゃろ?」

「いや説明してくださいよ!?」

「むう……せっかちじゃの……」


 先ほどの行為の意味が分からずおいてけぼりのアンリにとっては当然の疑問だったのだが、リーマドータは不満顔だった。しぶしぶといった様子で語り始める。


「今のは刻印といってな。輝石と【魂の器】を結び付ける為の儀式じゃ。これでおぬしはこの輝石に込められておる力を発揮出来るようになったのじゃ」

「ど、どうやって?」

「こらこら落ち着きなさい。こうするのよ。よく見ておいてね」


 年上のお姉さんらしく、エレンがアンリをたしなめる。言葉に大人しく従い、アンリは幼馴染の方へ体の向きを変えた。

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