第2話『神の息吹(ゴッドブレス)』
区画整理され、往来の激しい中央通りをエレンとアンリの二人は歩く。初めて――正確には二日目だが――街の中を歩くアンリは戸惑いと喜びで混乱してしまう。何しろ自分が産まれ育った村とは何もかもが違うのだ。行き交う人々の多さも、彼らが見につけている衣服も。そして石畳の通路の左右に立ち並ぶ数々の店、そこから元気よくかけられる客寄せの声。アンリは歩きながら首を何度も巡らし、その為に通行人とぶつかりそうになっていた。
そんなアンリを微笑ましく見ながらエレンが先導する。人通りが少なくなった時に一息つき、アンリはとある方角を指差した。
「エレン。昨日から気になってるんだけど、ひょっとしてあれが?」
遠くにあるはずなのに、この場所から、いや、街の外からですら見えていたあるものを指し示すアンリ。エレンはその質問が来ることを予測していたのか、軽く首肯して事も無げに応える。
「ふふっ。そうよ、ついでだし寄っていこっか?」
「これがこの街、エターナルイリスの神の息吹よ」
「うわ……凄い……こんなに壮大なんだ……」
アンリの目の前には巨大な噴水があった。いったい直径はどれほどあるのだろうかという美しい石で囲まれた大きな水たまりの中央から、大樹のように太い水の柱が天に向かって勢いよく吹き上げているのが見える。太陽の光によって七色の虹がかかり、神の名を冠するに相応しい美麗な景色がそこにあった。吹き上げられた水の飛沫はどれほどの高みまで届いているのか、水滴が豪雨のように降り注ぎ、水面にいくつもの波紋が浮かんでは消えていた。
この雄大な噴水の側は憩いの場になっているのか、大勢の人がたむろしていた。床石に腰掛けて食事をしている人もいれば、今の二人のように吹き上がる水柱を見てはしゃいでいる人もいる。
「村にあった神の息吹と同じように、何だかすがすがしい気分になるでしょ?」
「うん!!」
「アンリも知ってるでしょうけど、遥か昔にあまねく存在していた神々……今ではもうどこかに行ってしまったけれど。神の息吹はその神様達がかつて振るっていた大いなる力に満ち溢れているわ」
エレンは霞んで見えない噴水の頂を指で指し示した。
「神の息吹から生まれている神々の力はああやっていつしか風に混じり、この街を循環してその加護で覆ってくれるわ。だから神の息吹があるところに街が出来て人が集まる……もちろん神々の力……輝石の力を借りて戦うあたし達執行者もね」
「フレアストーン?」
聞き慣れない言葉に首を傾げるアンリ。エレンは懐に手を入れ、中からいくつかの石を取り出してアンリに見せた。それらは様々な色をした多角形の宝石であった。やや厚みがあり、その中心からは微弱な光が放たれている。
「これが輝石よ。神々の力や知恵、そして彼らが生み出した様々なものがこの中に込められているわ」
まじまじとそれを見つめるアンリにエレンは微笑み、言葉を続けた。
「詳しいことは後で分かるわ。そろそろ行きましょう」