第18話『転がり落ちた五角輝石(ペンタ)』
エレンの切っ先が簒奪者の胸を貫いた。人間にとっては心臓がある場所だ。今回の依頼の標的である簒奪者――悪鬼の王もそこが弱点だったのか、断末魔の悲鳴を上げるとやがて灰となった。それと同時に青い宝石が地面に落ちて転がる。その宝石の形を目にしたエレンの顔が即座に綻んだ。
「あら、珍しいわね。五角輝石じゃない!!」
エレンは歓喜の声を上げるといそいそとしゃがみこみ、海の色のように輝く輝石を手に取った。
青の輝石は魔術。
エレンが輝石をかざし、神の知識へのアクセスワードを口にする。その瞬間、宝石から円錐状の光が放たれ、虚空に幻影が浮かび上がった。そこに描かれていたのは火の魔術を編み出した神、エフラムドが両腕を左右に突き出している姿であった。その両の手の平から生まれたのか、灼熱の炎が周りを包んでいる。
「【火炎地獄】……火属性の魔術ね。確か結構いい値段で取引されてるはずよ。ラッキーね」
「いきなり売る気満々だね!?」
躊躇なく現金に換算しはじめたらしいエレンにアンリは驚きの声を上げる。エレンは画像を消し去るとアンリに向き直った。
「だってあたし魔術って苦手なんだもん。それともアンリが使ってみる? まだ武術も持ってないし」
「う、うーん……」
武術と魔術。使用した際に疲弊する精神力はどちらも同じものだ。武術を使えば使うほど、魔術に回せる容量は減っていってしまう。むろん、その逆もまたしかりだ。それに大抵の武具は、武器で戦うか魔術で戦うかに特化したものが多い。筋力を増やすアンリの【打ち壊すもの】や敏捷性を増やすエレンの【刺し貫く白刃】のように。しかし、魔術を使うのに一番重視されるのは魔力である。
武術と魔術をどちらも使いこなせると豪語する執行者もたまにはいたが、彼らは大抵が中途半端な実力と装備の持ち主で、ある意味両手剣使いよりも敬遠される存在だった。
しかし、両手剣使いのアンリはまだ武術の輝石を手に入れていない。つまりこの【火炎地獄】という魔術に精神力を回すことは可能である。そういった意味ではエレンの意見もあながち間違いではない。もちろん、アンリの輝石に魔力を増やすものは含まれていないため、期待するほどの効果を発揮することは出来ないかもしれないが……。
「この戦いが終わったら考えてみるよ。まずは依頼を果たさなきゃね」
「そうね。まだ簒奪者があと一体残ってるはずだからね。おそらくこの奥よ」
アンリとエレンは頷きあい、得物を手に魔物が潜む建物の奥へと向かう。そして今日も無事に依頼を果たすのだった。




