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女神の剣  作者: 蔵樹りん
第4章
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最終話『ゴッドブレスユー(神の息吹と共にあらんことを)』

 あの戦いが終わってひと月ほど経った。


 まだ復興は完全には済んでいないが、それでも人々はかつての生活を取り戻しつつあった。


 そして今、街の門のそばに六人の執行者エクスキューターが集まっていた。アンリ、エレン、マナ、ミナ、サイファ、ナギラギアである。


 アンリとエレン以外の四人は旅装となっていた。ナギラギアの側には一頭の馬もいる。


「寂しくなるわね……」

「うん。ナギはともかく、マナたちまでいなくなるなんて」


 沈んだ顔のアンリとエレンに対し、双子の姉妹は多少無理矢理だったが笑みを浮かべた。


「辛気臭い顔しないでよ。あたしたちの街はここなんだし、ちょくちょく戻ってくるって」

「それにそこまで遠くに行くわけではありませんから」


 小さな神の息吹(ゴッドブレス)がひとつひとつ潰され、さらにエターナルイリスのそれすらおびやかされたあの出来事。


 特殊な儀式を行なうことで神の息吹(ゴッドブレス)が無効化されることを知った天人と執行者エクスキューターは、かつて儀式が行なわれた場所、並びにいくつかの神の息吹(ゴッドブレス)の側に駐屯地を作って、簒奪者ユーザーバーが不穏な行動を取っている際にすぐ対処できるよう備えた。


 そしてマナとミナはその人員に志願したのである。彼女たちなりに、色々な経験を積みたいと思ったのだ。


 なお、彼らがかつてコカトリスと遭遇したリコラダ村の住民は、エターナルイリスの戦いが終わった後に救助隊が派遣されて、無事に石像から元の姿にもどることができている。もちろん村の神の息吹(ゴッドブレス)もすでに輝きを取り戻した。


 アンリたちの会話が一段落したところにナギラギアが口を開く。


「私は逆にちょっと長居しすぎたぐらいですがね。復興作業にずいぶんと担ぎ出されました」

「文句言わないの! おかげで執行者エクスからの風当りも弱くなったでしょ?」


 エレンが言っているのは、もちろんナギラギアのメガロドントレードで被害にあった者たちのことである。


 しかしその言葉にナギラギアは片頬をあげて嘲笑した。


「私は獲物カモたちから何と思われようが特に気にしませんので」

「あたしたちが気にするの!!」


 ヒートアップするエレンをまあまあとなだめ、アンリがナギラギアに向き直った。


「でもあの時駆けつけてくれて本当にありがとう。改めてお礼を言わせてもらうよ」

「……どういたしまして。たまには善意から動くのも悪くないものですね」


 裏表のない心からの微笑みでアンリに返礼するナギラギア。エレンはまだ不満そうに、うーっと唸っている。


 アンリは視線をナギラギアから銀髪の麗人に移す。サイファはアンリに見つめられていることに気付いてふっと笑った。


「ワタシもこの街と神の息吹(ゴッドブレス)は名残惜しいが、一度故郷に帰っておこうと思ってな」


 一つの街が滅ぼされそうになった戦い。その惨状を目の当たりにしたことがサイファに郷愁の気持ちを想い起こさせていた。名残惜しいという言葉に嘘はないようで、ここからも見える神の息吹(ゴッドブレス)に視線を向け、じっと見つめている。


「そういえばサイファは元々観光でこの街に来たのよね。すっかり忘れていたわ」


 思い出したようなエレンの言葉にサイファは二人へと向き直る。


「うむ。……そうだ、いつかオマエたちもワタシの街に来てみないか? その時はワタシが街をじっくりと案内してやろう!!」

「そうね。考えておくわ」

「その際はお手柔らかに」


 慣れ親しんだ街であるはずのこのエターナルイリスでさえ、サイファに引っ張り回されたことがある二人。はたして彼女の本拠地ではどれだけ引きずりまわされるのだろうかと、かすかに顔をひきつらせた。


「任せておけ!!」


 そんな二人の様子に気付くことなくサイファはドンと胸を叩く。もうすでに頭の中で彼らがやって来たときのプランを考え始めているのかもしれない。


「じゃあそろそろ行くわね」

「皆さん、どうかお元気で」


 マナとミナが改めて四人を見上げた。


「良い輝石フレアストーンが手に入ったら呼んでください」


 ナギラギアが、聞く人が聞いたら怒りそうなことを口にする。


「それではな」


 サイファが己の荷物を背負いなおした。


「ええ。それじゃ、みんな……」

「……またいつか会おう」


 エレンの口上をアンリが引き継ぐ。


 アンリが拳をつきだすと、エレンたち五人もそれにならって拳を前に出した。六つの拳が六角輝石ヘキサのように合わせられる。やがて全員が約束していたかのように同じ言葉を紡ぎ出した。


ゴッド(神の息吹と) ブレス ユー(共にあらんことを)


 執行者エクスキューターたちの間でよく使われる挨拶の言葉をはなむけに、六人はそれぞれ己が行くべき場所に向けて歩き始めた。


              ――終わり――

女神の剣【旧題:女神に捧げる両手剣ツーハンドソード】はこれで完結となります。

この作品は更新せずに放置していた期間が六年以上もあったため、初期から読まれていた方にはずいぶんとお待たせすることになってしまいました。

更新再開後、終盤は少々駆け足になったかなとは感じていますが、当初予定していた話の本筋は全て書きました。

最終話まで読んでいただき、ありがとうございました。

評価ポイント、感想等をいただけると嬉しいです。

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