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女神の剣  作者: 蔵樹りん
第4章
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第139話『絶望と希望』

 一度下がって新たな拠点へと戻り、他の執行者エクスキューターたちと合流したアンリ。


 その際、ミルティーユを母のナターシャと引き合わせることもできた。ナターシャもずっと娘の姿を探して街をさまよっていたのである。再会した母娘は泣きながら抱き合った。お礼を述べた二人は足手まといにならないよう、街の中央広場へと去っていく。


 ミルティーユに関しては一段落したものの、敵は相変わらず群れをなして襲い掛かってきている。拠点となった場所の地形をいかしつつ、この地に配置されている執行者エクスキューターたちは武器を振るった。


 簒奪者ユーザーバー同士で完全に連携しているとは言えず、あくまでも簒奪者ユーザーバーとその眷属のグループ単位で動いている傾向にあったことが、執行者エクスキューターたちにとってわずかな救いとなっていた。


「まだいけそう?」


 戦いの間隙をぬってエレンは他の執行者エクスキューターたちに問いかける。なお、この拠点にはギザルムとデルミットの姿もあった。ギザルムが答える。


「俺はまだまだやれるがね。だが神の息吹(ゴッドブレス)はさらに小さくなってる。リーマドータが言ってた打開策とやらが間に合うことを祈るしかないな」

「そうですね……」


 ギザルムの言葉に返事をしたアンリも余力はまだある。しかし神の息吹(ゴッドブレス)がもし消滅したらもはや輝石フレアストーンの回復もできない。ギザルムの言葉ではないが、打開策頼みだ。


「ワタシたちは戦い続けるしかないのだ!! 己の神を信じろ!!」


 自分も鼓舞しようというのか、ひときわ大きな声で叫びながらサイファも片手鎚メイスを振るって目の前の眷属を叩き伏せた。


「そうそう、サイファも良いこと言うじゃん!!」


 マナも巨大な斧で敵の一団を斬って捨てる。多少の疲れを感じさせるものの、その声音はいつもの元気を失っていない。


「私も、まだまだやれます」


 妹であるミナも姉をサポートするように武器を豪快に叩きつけ、地面ごと周囲の敵を吹き飛ばす。


 とにかく今は敵の数を減らすしかないと、アンリもエレンもひたすらに己の得物を振り続けた。二人の刃が眷属たちを切り裂いていく。


 アンリたち執行者エクスキューターの奮闘の結果、やがて敵の攻勢がひとまずやんだ。


 しかし……。


 まだ残る一部の道を、もしくは瓦礫を乗り越えて続々と迫りくる新たな簒奪者ユーザーバーと眷属たち。


 さすがに蓄積した疲労を感じ、体が重くなりはじめていることを自覚するものの、その体にムチうって同じように奮戦し、敵をせん滅する執行者エクスキューター


 しかし、どこから湧いてくるのかまたも新たな大群が向かってくるのが彼らの視界に映る。しかもその数は先ほどよりも多い。


「もう駄目だ……」


 誰がつぶやいたか、絶望の声音が響く。


 他の執行者エクスキューターの中にも、諦めの気持ちがかすかに芽生え始めた。


 その時、彼らの誰もが予想していないことが起きた。突然、簒奪者ユーザーバーたちの群れをあるものが襲ったのだ。


 それらは宙に浮いた五本の巨大な水の槍であった。水柱の槍は勢いよく空を突き進み、行く手にいた多数の簒奪者ユーザーバー、眷属をえぐる。たちまち絶命した彼らは灰と化した。


「あれは……【穿つ蒼き流錐アクアドリル】!?」


 驚きの声をあげて使われた魔術マジックアーツの名を叫ぶエレン。他の執行者エクスキューターたちも何事が起きたのかと敵の群れに目をこらした。


 強力な魔術が通り過ぎた一画は空白地帯となる。予想もしていなかった事態にどよめき、混乱する眷属たちの間を、一頭の馬が駆けてきた。


 その馬の主は青い髪の持ち主で、袖の長い白い衣服の上に、赤色を基調とした長袖のベストと丈の長いスカートをまとっていた。頭にはとんがり帽子を被り、手には先端に大きな青い宝石がついた杖を持っている。


 さきほどの水の魔術マジックアーツはもちろんこの人物が使ったのである。そしてアンリとエレンはこの人物が何者なのかをよく知っていた。


「ナギ!!」


 そう、颯爽とあらわれた魔術の使い手マジックマスターは離れた街から駆けつけてきたナギラギアであった。馬をそのまま走らせてアンリ達のそばにやってくるナギラギア。


「お、お前は!?」

「あ、あんたは!?」


 突然の乱入者の正体に気付いたほとんどの若い執行者エクスキューターが、なぜか似たような驚きの声をあげた。その中にはデルミットは当然として、マナとミナも含まれていた。


「おや、貴方たちはあの時の獲物カモ……失礼、トレード相手ではないですか」


 馬から飛び降りたナギラギアはデルミットだけではなく、その他大勢を見渡して言った。顔に相変わらずの微笑を貼り付けて。


 そう、デルミットはもちろん、マナとミナを含めた若い執行者エクスキューターの大半が、彼女によるメガロドントレードの被害者だったのである。


「おお、誰かと思ったらあの時の! 見事な魔術マジックアーツだったぞ!!」


 笑顔でナギラギアを迎えた執行者エクスキューターは少数だったが、その中にサイファが含まれていた。


 サイファもかつてナギラギアとトレードをしたことがあったのだが、彼女はその時のトレードで損をしたとは思っていなかった。やや特殊な価値観の持ち主だからである。


 混乱から立ち直ったのか、簒奪者ユーザーバーと眷属の群れが新たな敵意とともに彼らのもとに殺到する構えを見せる。別の意味で混乱していた執行者エクスキューターたちも、今は敵への対処が先だと慌てて臨戦態勢を取り直した。


 ナギラギアは杖を構えながら、アンリ達に向かって口を開く。


「おっと、忘れるところでした。皆さん、もう少しだけ耐えてください。天人の指示のもと、私の街の執行者エクスキューターたちが今回の簒奪者ユーザーバーの謀略を打ち砕くべく動いています」


 ――それがリーマドータが言っていた打開策というやつか。


 得心したアンリはナギラギアが持ってきた福音ふくいんを皆に伝えるため、声を張り上げた。


「みんな!! もう少しだけ持ちこたえるんだ!! すでに他の街の執行者エクスキューターがエターナルイリスを救うために動いている!! 僕たちは必ず勝てる!!」


 その声はやがてあまたの人の伝言となって街全体へと伝わり、他の場所で戦っている者たちをも勇気づけた。


「……しばらく会っていないうちに、ずいぶんと見違えたようですね」


 かつての仲間の成長ぶりに、ナギラギアは嘲りではない小さな笑みを浮かべた。

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