第112話『街への帰還』
「ああ……ついに戻ってきたぞ……この場所に……ワタシの第二の故郷に!!」
銀色の長い髪を持つ少女が恍惚とした表情で叫びながら、街を囲む城壁の西門をくぐる。
アンリ、エレンは怪しい者を見る目でサイファを見据える兵士達に頭を下げながら、続いて城壁の内側に入った。マナは他人の振りをしたまま、ミナは顔を赤らめて俯き加減でそれぞれ城門をくぐる。
アンリとエレンが兵士達と顔見知りなおかげで咎められることはなかったものの、必要以上に神々や神の息吹を賛美するのはやめて欲しいな、などとある意味不敬なことを考えているアンリ達であった。
時刻は昼時。一番高い位置まで上った太陽が、夏という季節にふさわしい熱気をこの街へとまんべんなく浴びせている。
数日振りに見るエターナルイリスの街はいつもと変わらず活気にあふれていた。農作物を積んだ荷馬車が街の中に入ってきたかと思えば、それとすれ違うように、隣の街へ人々を連れて行く駅馬車が車輪の音を響かせる。
駅馬車が五人の側を通り過ぎる時、アンリは手を振った。護衛の任についているのか、顔見知りの執行者が馬車に随行していたのだ。相手もアンリとエレンに気付いたのか笑いながら軽く腕を上げた。彼を含む数人の護衛に守られた馬車は、遥かに続く道の上に新たな轍を刻んでいく。
五人は町の大通りをまっすぐに歩く。通りの両脇には様々な出店が並んでおり、装飾品を売ろうする商人の元気のよい声が五人の耳を刺激し、店先に並べられているお菓子がアンリと少女達とを甘い香りで魅惑する。
追いかけっこでもしているのか人の波をぬって駆ける子供達の姿と、それをたしなめる母親らしき女性の姿が五人の瞳に映る。過ぎ去った子供時代へと思いを馳せるアンリ達三人。小さな子達と年の近いマナ、ミナの二人はかすかな羨望をその瞳に写していた。
アンリは首をぐるりと動かし、変わりのない街の風景に自然と顔をほころばせた。サイファではないが、やはり慣れ親しんだ場所に戻ってくるととても安心した気分になれる。
「【虹の根元亭】でいいかしら?」
アンリと同じような笑みを浮かべているエレンが楽しそうに一同を振り返る。
「うん、僕は構わないよ」
「あたしも、お腹もぺこぺこだし」
アンリ、マナに続いてサイファとミナも首肯で同意の意思を示した。
「かんぱーい!!」
「乾杯!!」
エレンの掛け声にあわせ、円卓を囲む五人は手に持つ木製の杯を軽く打ち合わせた。容器を満たしている飲み物も、卓上の料理もそれほど豪華なものではない。アンリとエレンがいつも依頼を果たした時に行う『豪勢な食事』は明日、神殿に結果を報告した後にしようということになっていた。マナとミナは自分達の先生に対する報告がまだ残っているし、なにより長い旅の疲れを今日はゆっくりと癒したいからだ。
エレンは湯気を立てるミートパイに手を伸ばし、一口ほお張って満足気な笑みを浮かべると、エールが入った杯で喉を潤した。
「くうーっ!! やっぱりこの場所が一番落ち着くわ!!」
売り物の食事と彼ら執行者が空の下で作る料理の味には差がある。アンリ達も久しぶりに味わう手の込んだメニューに舌鼓を打った。
「ふ、やはり何もせずに料理が食べられるというのが一番の理想だな!!」
「サイファって当番の時以外はろくに手伝わなかったじゃないか……」
「仕方ないだろう、ワタシが手伝おうとすると全員が止めるのだからな!!」
力説するサイファにアンリ達は半笑いを浮かべた。この少女の料理の腕前は残念ながら、可憐な見た目に反して上手だとは言いがたい。
なお、旅の途中で五人とも料理を行う機会があったのだが、腕前の序列は一位がミナ、次がマナであり、エレンは三番目であった。
マナが初めて料理を皆に振舞った時、粗野な言動に反比例したその味にアンリ達は目を見開いて驚いた。呆然とエレンがマナを見返し、少女がそれに対して嘲笑で答えた時、エレンの皿を持つ手が握り潰さんばかりに震えていたのをアンリは知っている。
談笑しながら食事を続けるアンリ達に、店を訪れた知り合いの執行者達が彼らの無事を喜び声をかけてきた。五人は笑顔で答え、潜り抜けた冒険のあらましを彼らに語る。
サイファはもちろん、この宿に定住している訳ではないマナとミナも、いつしかこの【虹の根元亭】の常連達のようにこの場所にいるのが自然となっていた。
やがて執行者達も席に付き、自分達の胃袋を満たす為に注文をし始める。
エレン達はいつの間にか乾いてた喉を癒す為に各々のカップを呷る。ふうっと一息ついた五人の中で、エレンが思い出したように口を開いた。
「それでマナ達はこの後、その先生って人に報告に行くのよね?」
「ん」
マナは最後に残っていたパンを食いちぎりながら不明瞭な声で返事をする。ミナは山羊乳の入ったカップを手にこくりと頷いた。
「じゃ、輝石の分配も明日行いましょ。神殿への報告は昼前には済ませておきたいし、第二の鐘が鳴る頃にここに来てもらっていいかしら?」
エターナルイリスでは街の住人に時刻を知らせる為に鐘が鳴らされる。第一の鐘が日の出の頃、第三の鐘が太陽が中天に達する頃であり、第二の鐘とは丁度そのあいだくらいに鳴らされる音のことだ。他にも城門が開閉する時、何か大きな催しがある時などにも特定のリズムでその音色を街中へと響かせる。
「分かりました」
ミナがエレンに答え、マナもパンの切れ端を口に含んだまま頷く。
「そうだね。じゃあ夕食時にいつものあれをしようか」
「おお、楽しみだな!!」
アンリの言葉の意味はすでにサイファも知っている。緑の瞳をきらきらと輝かせ、まだ見ぬごちそうへと思いを馳せるサイファ。
とはいえそれはもちろん彼女だけではない。五人の執行者はそれぞれ明日注文するメニューを心に描きながら食後のドリンクを楽しんだ。
アンリの【魂の器】
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【打ち壊すもの】×6
【闇の帳】×2
【荒れ狂う暴風域】×4
エレンの【魂の器】
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【刺し貫く白刃】×5
【戦乙女の装束】×4
【抗魔の盾】×2
【閃光の一撃】×3
【解毒の粉薬】×3
【月形の斬撃】×2
【回復薬】×2
【水の槍のカード】×1
マナの【魂の器】
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【超重斧】×5
【力の指環】×3
【力のメダリオン】×3
【巨木断裁撃】×3
【可愛い強兵鎧】×2
【死を呼ぶ竜巻】×1
【刈り取られる麦穂】×1
ミナの【魂の器】
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【ごまかしのモール】×3
【氷結の鎧】×3
【可愛い強兵鎧】×3
【力のメダリオン】×2
【隕石落とし】×2
【回復薬】×2
【力の指環】×1
サイファの【魂の器】
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【機動要塞】×4
【不可侵防壁】×3
【正六面体の鎚】×3
【鉄の指環】×3
【抗魔の護符】×2
【頭骨砕き】×2
【回復薬】×2
【氷強化のカード】×2
【光の防護円】×2
【癒し】×2
【光の矢】×2
【解毒の粉薬】×2
【麻痺解除の粉薬】×1
【覚醒の粉薬】×1
【饒舌の粉薬】×1
【軟化の粉薬】×1
【大地の束縛のカード】×1
【猛き突風のカード】×1
【爆炎球のカード】×1
【水の槍のカード】×1
【稲妻の槍のカード】×1
【精神力回復薬】×1