第7話『執行者(エクスキューター)、始動!』
アンリが執行者になってから七日経過した今日。ついにアンリの初陣の日がやってきた。神殿に日参していたエレンが、二人の力に相応しそうな依頼を見つけてきたのだ。
「ふふっ、初めての仕事ね。昨日は眠れた?」
「うん、最初はずっとドキドキして布団の中で悶々としてたけど、いつの間にかぐっすり。気力も充実してるよ」
「頼もしいわね。期待してるわよ。それじゃ行こっか?」
街の城門をくぐり、二人はやや早足で歩を進める。どちらも今はまだ軽い旅装のままだ。エレンは歩きながらアンリに語りかける。
「簒奪者はね、どこからともなくやってきて、いつの間にか巣をつくっちゃうの。深い森の奥、放置された坑道、神々がいる時代に作られた広大な地下迷宮……そいつは大抵が強大な力を持った簒奪者でね、巣を作った後は手下である魔物……眷属を生み出すの。こいつらは基本的にその産みの親の指示通りに動くわ」
ほぼ同じ高さにある隣のアンリの顔を見ながら、エレンは説明を続ける。エレンはこうして時間を見つけてはいろいろなことをアンリにレクチャーしていた。主に、執行者として知っておくべきことなどを。
「あたしたちはその巣を作る大物を女王アリになぞらえてクイーンって呼んでるわ。クイーンが眷族を生み出す時は、かつて神から奪った力を分け与えるの。その眷属も力によってナイト級とかソルジャー級って呼称してるわ」
二人は整備された街道を歩く。目的地はエターナルイリスからそう離れてはいない。
「だから簒奪者や眷属を倒すと輝石という形で神々の力を取り戻せる。まあ、といっても輝石があたし達の前に姿を現すかどうかは運なんだけどね」
アンリは神妙に頷く。何しろ執行者となって初の戦いなのだ。緊張は隠そうと思っても隠しきれない。次第に二人の足は街道を離れ、昔日かすかに使われたことを示すかのような細い道へと入っていく。
「依頼の裏を取った天人の情報によるとね、大昔に廃墟になった村の跡地にクイーンが住み着いたそうよ。個体名は【炎の猟犬】……従えている眷族は大抵が【血の猟犬】と呼ばれる連中ね。ようするにワンコちゃんよ。アンリの修行にうってつけだわ」
そんな幼馴染の不安を払いのけようと、エレンは冗談交じりに笑う。アンリもつられてかすかに笑った。
そんな会話をしつつ歩いている二人だったが、やがてエレンの足が止まる。アンリも気付いていた、遠くに見える朽ちた建物の間を動きまわる、小さな異形の数々を。
「いよいよね……それじゃあ覚悟はいいわね? 行くわよ」
頷くアンリ。二人は同時に神へ祈ると共に言葉を捧げる。その強大な力を纏った武具をこの手に呼び出さんが為に。
「カルドラの名において、我、執行者とならん!」
「ミストラルの名において、我、執行者とならん!」