Prologue 招待
去年の春に一人暮らしをはじめた学生の「永井 健太」は、今の生活に満足をしていなかった。別に、彼の財産が少なくて、食欲などの生理的欲求を満たされていないというわけではない。ただ、彼の生活があまりに平凡すぎたのだ。
彼は、平凡が嫌いだった。何事も他人とは少し違ったことをしたがった。小学校のころは、みんながランドセルなのに対して、普通のスポーツバッグを持っていったり、水泳の授業のときに、みんなが普通の海水パンツをはいてきているのに対して、水泳選手が使うような競泳用の水着を持っていったり、とにかく他人とは少し違うことをしてきた。
そんな彼も、中学生になるころには、できるだけ友達と同じことをするようになった。友達とできるだけ同じことをしないとみんなから、さげすむような目つきで見られるからだ。彼は、人から「あいつは自分より劣っている」と思われるのも大嫌いだった。
彼は、中学、高校とできるだけ友達にあわせるふりをして、友達から見えないようなところで、他人とは違うことをしていた。
彼はいつも運動でも、勉学でもトップクラスだった。彼が、他人から、「自分より劣っている」と思われないように努力をしていたのも理由のひとつだが、彼自身、才能があったというのも理由のひとつなのかもしれない。
そんな彼のところに、ある朝、一通の封筒が届いた。送り主は書いておらず、ただ大きな文字で「永井健太様」と書かれているごく普通の封筒だった。中をあけてみると、便箋が一枚入っていた。その便箋には、とてもきれいな楷書で、「あなたは選ばれました!後日連絡を差し上げます。」とだけ書いてあった。
(なんだ、ただの悪徳商法か)と彼はその手紙を見て思った。そして、クシャッと丸めてゴミ箱に捨てた。
数日後、彼のところに電話が来た。電話をかけてきた相手は非通知だった。彼はとりあえず、電話に出てみる。
「もしもし」
「あっ、もしもし、永井健太様ですか?」
それは、幼い少女のようなかわいらしい声だった。
「はい、そうですが」
「こちら、あなたにいつも幸せを、フェリシダージ事務所と申します。」
ずいぶん事務的なしゃべり方だった。
「えっと、フェリシダージ事務所さん?聞き覚えがないんですけど、何の用ですか?」
「はい。前日お手紙を差し上げたと思いますが、あなたは当事務所から選ばれました。」
永井健太は手紙のことを思い出す。そして、悪徳商法かと思い、電話を切ろうとするが、ここで切ったら他人と同じだ。と思い、とりあえず話を聞いてみることにした。
「えっと、よくわかんないんですけど、何に選ばれたんですか?」
「それは、お答えしかねます。」
彼は、きっと、この後、賞金がもらえるけど、手数料が必要だから、数万払えって話になるんだろうと思った。そして、何に選ばれたのかいえないのは、悪徳商法だってばれないようにだろうと思った。
「じゃあ、選ばれたから何だって言うんですか?」
「あなたは幸せを手にするチャンスを手にしました。」
「どういうことですか?」
「これから6日間、あなたには旅立ってもらいます。」
「どこに?」
「幸せへと導く都『シンフー』へ。」
彼はわけが分からなくなった。お金を請求するどころか、聞いたこともないところに旅立つことになったらしい。どうせ、この後、そこへ行くために金が少しいるから払えってことになるんだろうけど、こんなのにだまされるやつなんているのか?と思った。
「えっと、それってお金とか、、、」
彼が発言しようとしたら、電話の向こうの声によってさえぎられた。
「それでは、まず、あなたの武器を決めてください。」
「え?」
「剣、銃はもちろん、手裏剣などの変わった武器も取り揃えています。ちなみに、選べる武器は最高で3つです。それ以上となると、レベルを上げてもらう必要があります。あちらについたらレベルを上げてそれでから注文してください。」
彼は何で、武器が必要なんだ?だいたいレベルって何だ?と思いつつ、とりあえず選んでみた。面白そうだと思ったから。
「じゃあ、攻撃魔法と守備魔法などが使えるようになる魔法の杖と、竜巻を起こすことができるようがな巨大な十字手裏剣、あとは、水鉄砲の威力を上げたもので」
他人がなかなか選らばなそうなものを選んでみた。
「かしこまりました」
あるのかよと彼はすこし驚いた。
「続いて、あなたの職業ですが、何になさいますか?」
「それって現実のと異なっていてもいいんですか?」
「もちろんです。」
「じゃあ、うーん、、、」
彼は少し悩む。
「自宅警備員で」
彼は他人が選らばなそうな職業を選ぶ。だって、普通、武器持ってるんだから、勇者とか、賢者とか選ばない?
「分かりました」
それでもいいんだと彼は驚く。
「ちなみに、職業の変更は後からでも可能です。」
「そうなんですか」
何かここまでくると、悪徳商法じゃないと思えてくる。
「それでは次のことを決めていただいたら、出発していただきます。衣服は、着いた先に用意されているので、着いたら着替えてください。」
「分かりました。」
出発ってどうやって?空港とかに行くのかな?パスポート持ってないよ?など彼の頭にたくさんの疑問が浮かぶ。そんな中、電話の向こうの声が最後の質問を問いかけてきた。
「あなたが、幸せと思うときはどんなときですか?」
彼はこの質問の意味があまり分からなかったが、とりあえず答えてみる。
「自分が他人より上に立ち、他人とは違うと思えたときかな。」
「かしこまりました。ではいってらっしゃい、幸せへと導かれるといいですね。」
そういって電話は切れた。
どうやら悪徳商法じゃなかったみたいだな~と彼は思って、いつもどおり、大学に行く準備をする。そして玄関の扉を開けた。すると、なぜか、なんかのゲームに出てくる宿屋の部屋見たいなところに出た。
そして、自分の横には、さっき電話で言ったとおりの武器が置いてあった。