表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夜空の時代

作者: 観月 あき

(あお)、と彼の名を呼ぶことが、蜜樹(みつき)にはためらわれてならなかった。透明な不可視の月光が、神を貫く槍のように二人に突き刺さる。夜空の帳はヴェールのように薄く、蜘蛛(アラク)のつむいだ糸のようにふわりと揺らいだ。


闇に満ちている。とぷとぷと音のしそうな夜は、忍び寄った暗がりに、気付かず、引きずり込まれてしまう。


「蜜樹、どうかした?」


ヘリオトロープの深い色に染まった月が、碧の手に落ちる。彼の指先からは、涙ともつかぬ露がぽたぽた

(したた)る。(すく)いとった水玉(すいぎょく)の欠片を、碧はそっと口に含んだ。


「碧、」


「こぼれているよ、蜜樹、僕らの―――」


砂を指の間から落としたように、流れる水を思わせる碧の声は、なめらかな絹のごとくするすると広がる。


「気をつけないと、帰れなくなる」


ふと蜜樹が目を向けると、緑青(ろくしょう)の顔料をとかした碧の瞳が、飴玉みたいに小さな空の月を見た。


「僕らの聖地にさ」


碧は、言った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ