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5 エコ

280円。学食のラーメンは安い。

ほんとうは味噌ラーメンが好きだけど、ここのは味が薄くていまいちだ。

その上値段が320円とラーメンより40円も高い。妥協して、牛乳プリンをつける。

早めに来たせいか、人混みに飲まれないうちに列を抜け出せた。

窓際のテーブルが空いている。腰を落ち着けると、レイがチキンライスとサラダを持って合流した。

横並びで いただきます と箸をそろえて食べ始めると、聞きなれた声。佐東君だ。


「ここ、空いてる?」


「やっぱりきたか。」


レイがにっこり頷いた。チキンライスを待つ間、佐東君たちが学食にやってくるのをみつけていたらしい。


「オレたちのこと待ってたの?」


うれしそうに腰をおろす佐東君と、あたしの熱いまなざしを受ける無口なたなかくん。


「あたしと食べたいでしょ?」


レイが佐東君を茶化している。


「いやいや、佐倉さんがオレと食べたいんだ。しかし、あえてこっちに座ろう。思惑が外れて悪いな。」


そういってあたしの前に踏ん反りかえって座りなおした。レイの前にはたなかくん。残念なようなほっとしたような。なんたって目の前にあるのはラーメンだ。愛しのキミを前にしては食べずらい。かわいらしくサンドウイッチとかにしておけばよかったと後悔しても大好物だ。背に腹は変えられない。たなかくんの前に置かれたトレーにはカレー大盛りと同じく大盛りの福神漬け、と水。男らしい選択だ。次はそれにしてみよう。食べ盛りの今なら、大盛りドンとこいだ。




田中彼方たなかかなたくん。7月3日生まれのo型。家族構成は父、母、そして一人息子のたなかくん。飼ってるペットは猫。雑種のメス。名前はトロ。得意な教科は物理。彼女はなし。好きなタイプはかわいい子。足のきれいな子。髪は長いほうがいい。


あたしの中にはもうたなかくん情報が詰まってる。これも薫くんとのメール交換の成果だ。

しかし、たった今この情報が邪魔をする。何をきいたらいいですか?話しかける絶好のチャンスなのに、話題が見つからない。知りたいことはほとんど知ってる。しかも本人以外の出所で。


「・・・・・・福神漬け、好きなの?」


ようやくでた言葉がこれ。聞くならカレーのほうを聞くべきだったか。それともわざと お水すきなの? が良かったかも。


「嫌いじゃないけど。」


「いや、大好物でいいだろ。」


そっけないたなかくんのハスキーボイス。聞けただけで幸せに浸っていたあたしを現実に連れ戻してくれちゃう佐東君の声。


もともとカレーで染められたご飯。わずかな白も福神漬けの赤で隠されて、カレーライスもとい福神漬けライスになってるのを指して言う。


レイとなにやら賑やかに話していたはずなのにこっちの話題にもすかさず入ってくるんだなあ。まあ、視線が交差するんだ仕方ない。


「それ、うまいよね。」


あたしの牛乳プリンを指して声をかけてくれるのも佐東君だ。たなかくんは話をふられれば応えてはくれるけど、自分からは話しかけてこない。無口?それともあたしうざい?ラーメンのつゆを飛ばさないように麺を啜りながら口が止まらない。


「カレーに福神漬けはいいよね。やっぱり牛丼には紅生姜山盛りかな。ハンバーガーにはピクルスが付き物だし、たこ焼きには青海苔・・・あとは・・・。」


いってて悲しくなる。もっとかわいい会話がしたい。沈黙は嫌だ。何かないかな。最後に残った数本の麺を啜り終え、どんぶりを持ち上げて残った汁をゴクリ。あっ。と思っても後の祭り。だって、だって、学食にはレンゲなんてつかないんだもの。普通は使う。あれば使う。この学校、学食の経費ケチるなよ。ああ、あたしは品がないです。いや、普通はこんなものだ。女の子だってみんなこうやって飲むよね?レンゲがなきゃどんぶりかかえるしかないでしょ?液を1滴も残さないってエコだよ。いいことなんだよ。

そんなこと思ってたらここでも口が止まらなかった。ゴクリ、ゴクリ・・・ゴックン。空になったどんぶりをトレーにおいて顔を上げると佐東君から素敵な一言をプレゼントされた。


「田中さん、男前だなあ。」


その笑顔が憎たらしい・・・いえ、かわいいです。あなたはたなかくんの大事なお友達。悔しかったら焼きそばパンなんて齧ってないで男らしくどんぶりものを頼め。でなきゃカレー大盛りだ。


「ほんと、いい食べっぷりだ。」


たなかくんが笑った・・・いい!あたし、よくやった。佐東君も許そう。なのに、レイ・・・。


「ユキちゃんのことなんだけど・・・・・・。」


ここで?あたしのガサツさでようやくたなかくんと打ち解けられそうだったのに。たなかくんの視線、あたしから外れちゃったよ。


「佐竹先生がねユキちゃんのこと心配してるみたいなの。休みがちで友達つくれるのかって。」


「ああ、今日も見てないな。」


「休みだろうな。」


「それで、この間あたしたちはなしてたんだけど、次の部活の帰りに一緒にアイス食べに誘おうと思ってるの。一緒に行かない?囲碁部の1年みんなで。」


「いいよ。うわさのユキちゃんと一緒にアイス、楽しみだ。」


「そうだな。」


お調子者の佐東君はいいとして、たなかくんも快諾だ。やるなレイ。うれしいけどやっぱり複雑。ユキちゃん人気高し。


気の利く佐藤君が薫くんにも声をかけるというのを、もう承諾済みと伝えると


「やっぱりさー、田中さんと多田、つきあってるんだろう?」


能天気に言ってくれた。迷惑だ。誤解を解かないとまずい。たなかくんの気持ちを掴むまでの道のりは遠い。先に佐東君を懐柔するべきなのかも。


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