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4 チョコミント

「体が弱いって、何か持病でもあるの?」


たなかくんのハスキーボイスは時に追い詰めるようでちょっと怖い。


「特にないけど・・・。」


「えっ、でも、体が弱いっていったら普通なにか・・・。」


「オレ、花粉症。」


明るく割り込んだ佐東君に一喝をいれる。


「おまえに聞いてない。っていうか初耳だけど。」


「うそだし。」


「おまえなあ。」


「あの、ちょっと疲れやすいのかな。風邪もよくひくし。」


困った様子で答えるユキちゃんに,手を差し伸べるように今度は薫くんがわって入った。


「喘息とか、かな?今じゃなくても子供の頃とか」


薫くんは喘息もちだ。いや、だった が正しいか。幼稚園くらいまではいつも咳のお薬をもって歩いてたっけ。小学生くらいからだんだん丈夫になったってお母さんたちはなしてた。


「ううん。それもない。」


困ったようにうつむきながら、小さな声で話すユキちゃんに、今度は先生が助け舟を出した。


「虚弱体質っていうんじゃないかしら。」


「ああ、そうか。」


先生の一言で、あたしたち全員ほっとした。


「そうだね。華奢だもんね。」


「そうそう、台風なんてきたら飛ばされちゃいそうだ。」


「うらやましい。あたしもやせて飛ばされてみたいよ。ね。レイ。」


あたしとレイで無理やり盛り上げる。


「雪村さんなら守れるが、このふたりはどうだ?」


「しっかり地に足ついてるからなあ。飛ばされるってことがないだろう。」


斉藤先輩、調子に乗って結構失礼かも。どうせ、あたしたちは守りたいタイプじゃないけど、暗に太ってるっていわれてるみたいだ。


「じゃあ、オレ、守ってもらおう。」


佐東くんまで調子に乗ってる。


「いいよー。佐東くんなら守れる。」


レイが、わざと佐東くんの隣にたって頭をなでるしぐさをした。

こうしてみると、身長163センチのレイとほとんど変わらない。いや少し小さいか。


「オレは今から成長期なんだ。来年見下ろしてやる。」


「楽しみにしてるよ。」


このふたり仲いいかも。油断していたら、佐東くんからいきなりの爆弾発言。


「ところでさ、ふたりって付き合ってるの?」


あたしと薫くんを見比べてる。みんなの視線が集中してたじろぐ。


「ぜっんぜん、ちがう。そういうんじゃないからっ。」


「あわててるところがあやしいわ。」


って先生、楽しまないで。これじゃあ、たなかくんにも誤解されちゃうじゃん。


「さっきさ、部室入るとき、ミナちゃん、薫くんって呼び合ってたの聞こえてたんだ。この際だからはっきりさせておいたほうがいいだろう?」


「あら、そうなの。そういうことはね、隠すよりオープンなほうがいいのよ。無用な争いなんかおきたら大変だものね。」


佐東君と佐竹先生は明らかに面白がってる。困ったなあ。


「幼馴染なんです。家が近くで。」


「そうそう、幼稚園に入る前からの呼び方で。ね。」


薫くんが訂正するのに便乗した。ついでにレイのほうに助けての視線を送ると・・・笑ってる。そりゃそうだ。あたしがたなかくんに恋に落とされたのを知ってるんだし。そのために囲碁部にまで来ているわけで・・・。


「ほんとうにそれだけみたいですよ。でも、あたしも今日教室で、多田君じゃなくて薫くんって呼んでみたんだけど、多田君、スルーしてそのまま なに?って聞いてたよね。名前で呼ばれるの抵抗ないんだ?」


「あっ、そうなんだ。佐倉さん下の名前で呼んでたの。気がつかなかった。まあ、いいけど。」


「あなたねえ。多田、ってちょっとぼんやりしてるっていうか・・・。私も薫って呼んでみようかしら。」


「それは・・・。どう答えていいかわかりません。」


「あら、佐倉さんと田中さんはよくて、私はだめなのね。」


おどけていう佐竹先生に見つめられて、薫くん困ってる。いや、喜んでる?先生って、その場の空気を明るくするんだ。苦手なんていっててごめんなさい。これからは英語の授業ちゃんと聞きます。



レイとあたし、そして薫くん。

先生に 話がある って残された。ほんとうはレイとあたしの二人でよかったみたいなんだけど、一緒に帰るつもりの薫くんもなんとなく居残っちゃった。


「ごめんなさいね。遅くはならないわ。」


そう前置きをして話し出した。


「雪村さんのことなんだけど・・・・入学して二ヶ月にして休みすぎだと職員室で話題になってるの。体が弱いはうそではないけど持病はない。保健室の常習で、早退は当たり前、でも、勉強はできる。決してやる気がないわけじゃないけど、あれでは友達を作る暇もない。性格だって、見たでしょ?おとなしいのよ。自分から声をかけるなんてあるのかしら。まだ、私も雪村さんのことよくわかってないわ。でも、心配なのよ。仲良くしてあげて欲しいの。」


「ユキちゃんは特に嫌われてもいなしし、どちらかというと人気者だと思うんですけど。」


仲良くするのはもちろんだけど、先生の不安が意外で、心配なんていらないと思ってほしかった。


「そうね。今はね。でも、あなたたちはもう仲良しよね。雪村さんに二人のようなお友達はいるかしら?」


「あたしたち、中学も違うしほんとう、なんで仲良くなったんだろう。席が近かったからかな。」


「そうかも。でも、話してみてあうなって。」


「うん。」


レイと照れ笑いしていると薫くんが言った。


「だったら、学校にあまり来ない雪村さんに友達を新しく作るのは大変なことかもな。」


そういえば幼稚園を休みがちだった薫くん。先生が気を使って、登園した日は必ず薫くんがお当番さんだった。みんなが薫くんのそばによっていくようにだったんだ。


「あたしたち、ユキちゃんと同じ部活でよかったよね。」


レイに促されて うん と頷く。


「でも、きれいというかかわいくって、女子目線で見てもうらやましいです。雪村さんって。斉藤先輩だってデレデレ。佐東君も無口なユキちゃんに代わってうわさの説明してたし。あたしたちはデレデレじゃなく、友達になりたいよね。そのためにはまず、ユキちゃんにも名前で呼んでもらおうか?」


はじめは先生に話していたはずなのに途中からはどうやってユキちゃんの心を開くかをレイに持ちかけてた。



「佐倉さんと田中さん、それに雪村さん。レイ、ミナミ、ミゾレね。仲良くできるわよきっと。カオルくんもいたわね。多田、あなた女の子に囲まれて幸せね。いっそ、囲碁部はみんな名前で呼び合うってことにしちゃおうかしら。」


先生、やっぱりちょっと変わってる。ついていけないかも。


「でも・・・。」


言い募っていると先生のほうが気がついた。


「そうね、田中が無理ね。まあいいわ。」






帰り道、少し遅くなったからとレイを駅まで送っていった。とうぜん薫くんも一緒だ。三人でアイスを食べながらおしゃべり。大好きなチョコミント。二人には不評だ。最初は嫌でも食べ進むうちに必ずとりこになる味だと思うのだけど。


ユキちゃんも誘えばよかったね と いうレイに たなかくんもね と返す。そりゃそうだ と薫くんに言われてちょっとはずかしい。でも、まあ、こういうのはオープンなほうが気が楽。


いつのまにか、レイは普通に薫くんとよんでる。ひとなつっこいんだよな、うらやましい。


あたし、たなかくんのことあんまり知らないな。アイス、すきかな。次は必ず話しかけよう!




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