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第18話 王国の判断
王都へ戻ると。
俺たちは、すぐに王城へ呼ばれた。
「……王城?」
リナが緊張した顔をする。
「なんで?」
アルベルトが答える。
「北方観測所の件、それから君たちが遭遇した異常について、国王陛下が直接話を聞きたいそうだ」
「俺も?」
「むしろ君が中心だ」
「……嫌な予感しかしない」
エリスが隣で苦笑する。
「大丈夫よ」
「本当に?」
「たぶん」
「その言い方、俺の真似?」
「ちょっとだけ」
王城の中へ入る。
長い廊下。
巨大な柱。
壁には歴代国王の肖像画が並んでいる。
そして。
謁見の間。
奥の玉座に、一人の男性が座っていた。
「面を上げよ」
俺たちは頭を上げる。
「余がセレスタ王国国王、レオンハルト・セレスタである」
「レンです」
「聞いている」
王は俺をじっと見る。
「森の異常を鎮め、北方観測所の侵食を止めたそうだな」
「止めたというか……整理しただけです」
「……整理」
王の隣に立っていた老人が眉をひそめる。
「それが問題なのです、陛下」
「問題?」
「この少年の力は、既存の魔法体系に存在しません」
老人は一冊の資料を開いた。
「魔力の測定不能」
「魔法式の解析不能」
「さらに、魔法・呪い・契約・魔道具の構造へ干渉可能」
「それだけなら、まだよい」
老人が俺を見る。
「問題は――」
「世界循環そのものへ干渉できる可能性があることです」
部屋が静かになる。
俺は自分の手を見る。
「……俺、そんなことするつもりないけど」
「意思の問題ではありません」
老人が言う。
「力そのものが危険なのです」
エリスが一歩前へ出る。
「彼は危険な力を持っていても、誰かを傷つけるためには使っていません」
「エリス」
「事実でしょう?」
「……うん」
王が口を開く。
「余も報告を読んだ」
そして。
「少年よ」
「はい」
「お前は、魔王領へ向かうつもりか?」
「……はい」
王城内がざわつく。
「理由は?」
「世界の魔力循環がおかしくなってるから」
俺は答えた。
「原因を調べる必要があります」
「魔王領に原因があると?」
「正確には、第一封印領域が魔王城にあるみたいです」
「……第一封印」
王の表情が変わった。
老人も。
アルベルトも。
エリスだけが首を傾げている。
「知ってるんですか?」
俺が聞く。
王はしばらく沈黙した。
「古い記録に存在する」
「何が?」
「魔王城の地下には、かつて『世界を支える柱』があったという記録だ」
俺は目を見開く。
「柱……」
黒い柱。
管理機構。
「その柱が壊れると?」
王は答えなかった。
代わりに老人が言う。
「世界中の魔力循環が乱れる」
「やっぱり」
「だが」
老人は俺を見た。
「それを知っている者は、王国でもごく一部です」
「……」
「なぜ君が知っている?」
「スキルが教えてくれました」
「スキル?」
老人の目が細くなる。
「そのスキルを見せてもらえますか」
俺は少し迷った。
でも。
「【整理整頓】」
文字が浮かぶ。
老人が息を呑む。
「……まさか」
「何か知ってる?」
老人は答えなかった。
王を見る。
王も険しい顔をしている。
「どうしたんです?」
「いや」
王がゆっくり立ち上がる。
「古い伝承を思い出しただけだ」
「伝承?」
「『世界が乱れた時、片付ける者が現れる』」
俺は苦笑する。
「それ、俺のことですかね」
「分からぬ」
王は俺を見る。
「だが、確かめる必要はある」
そして。
「魔王領への通行許可を出そう」
「本当に?」
「ただし」
王が条件を付けた。
「王国から一人、同行者をつける」
「誰?」
「アルベルトだ」
「俺?」
アルベルトが驚く。
「陛下、私は――」
「副団長」
王が言う。
「お前ほど魔王領について詳しい者はいない」
アルベルトは少し考え。
「……承知しました」
俺は頷いた。
「よろしくお願いします」
「ああ」
謁見が終わり。
俺たちは城を出た。
「疲れた……」
俺が言う。
「王様と話すなんて初めてだよ」
リナが笑う。
「私も」
エリスは少し黙っていた。
「どうした?」
「……王様が『第一封印』を知っていたことが気になる」
「俺も」
そのとき。
背後から声がした。
「レン」
振り返る。
王城の門のところに。
さっきの老人が立っていた。
「少し、よいか」
「はい」
老人は俺の前まで歩いてくる。
「私は王国魔導研究院の院長、セドリック・ノアールだ」
「よろしくお願いします」
「一つだけ伝えておく」
セドリックは声を落とした。
「魔王は――」
そこで言葉を切る。
「君が思っているような存在ではない」
「……どういう意味?」
「会えば分かる」
それだけ言って。
老人は城へ戻っていった。
「何だったんだ?」
俺が首を傾げる。
エリスが言う。
「魔王について、何か知っているのかも」
「……」
魔王。
敵だと思っていた存在。
でも。
今までの話を考えると。
本当に敵なのは。
魔王なのか?
それとも。
世界を「整理」しようとしている、あの男なのか。
その夜。
宿へ戻る。
俺は一人で窓の外を見ていた。
すると。
屋根の上に。
フェンリオスが座っていた。
「どうした?」
狼は空を見る。
俺も見上げる。
星空。
その中央に。
一つだけ。
黒い星があった。
【異常天体】
【外部干渉:確認】
「……空まで?」
俺が呟く。
フェンリオスが低く唸った。
そして。
俺の頭の中に。
新しい表示が現れる。
【構造解析】
【対象:黒星】
【分類:未定義】
【接続先:???】
【危険度:測定不能】
「……これ」
俺は目を細める。
あの黒い男が。
世界中で何かを壊している。
その影響が。
地上だけじゃない。
空にまで及んでいる。
そして。
その黒星から。
一本の光が伸びた。
まっすぐ。
魔王領へ。
俺は窓を閉める。
「……明日、出発だな」
フェンリオスが静かに立ち上がる。
その黄金の瞳が。
一瞬だけ。
黒く光った。




