2:運命の流れ①
僕にはひとつ、個人的な信念がある。
それは、人の人生は最初からすでに決められているということだ。もっとはっきり言えば、目を覚ましたその瞬間から、だね。
貴族の上流階級の子として生まれるか、それとも普通の農民の子として生まれるか―それだって全部、あらかじめ決められていることだと思っている。
そして十二歳になると、この世界はさらに僕たちの役割をはっきり決めてくる。なぜなら【ギフト】というものがあって、それが役割や使命を与えるからだ。
生まれた時の身分だけだったものが、そこから先は人生の進む道そのものになって、最後の日まで続いていく。
自由主義の人たちからすれば残酷な話に聞こえるかもしれないけど、僕にとっては……これでいいと思ってる。
風に舞う一枚の葉みたいに、僕もまた運命の流れに身を任せる人間だ。
どこへ吹き流されても構わない。
それが、僕の人生の理想なんだ。
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ゴトゴト……ゴトゴト。
今、僕は木で作られた安っぽい馬車に乗っている。四、五台ほどが長く列になって進んでいて、一台につき十人近く乗れる大きさだ。
ぱっと見だと奴隷運搬の馬車みたいだけど、さすがに違うよね。
とにかく、ついに王都に到着した。ここはすべての子供の運命が決まる場所だ。
僕は一度も入ったことのなかった王都を身を乗り出して眺める。
何もかもが新鮮で、見ているだけで胸が高鳴る―
「どけよ、邪魔なんだよ」
すると突然、太った男の子が乱暴に僕へ声をかけ、そのまま僕を引きはがして景色を見ていた席を奪っていった。しかもそいつだけじゃなく、その取り巻きまで押しかけてきて席を取られてしまい、僕は結局馬車の隅へ追いやられることに……
ははは。
「ひどいなあ」
「ずっと一人でいい場所にいたからじゃん、【カエデ】!」
【カエデ】。十二歳になったばかりの、ごく普通の子供。
王都の外れにある普通の孤児院で生まれ育った。
特別なところといえば、楓色の瞳くらいかな。それが唯一の特徴で、そしてそのせいで何度か誘拐されかけたこともあった。
でも運よく助かった。きっと運命が、僕にギフトを受け取らせて、この世界で何かをさせようとしているんだろう。金持ちのコレクションになる代わりにね。
うん、たとえ出自の分からない孤児でも、人はみんな大事な人材だ。
良いギフトを得られれば国に貢献できる。だから王国が旅費を負担して、こうして鑑定の場所まで送り届けてくれているわけ。
僕みたいなのは、せいぜい【釣り人】のギフトをもらって海辺で働くくらいかな。うーん、でもそれも悪くないな。一度くらい海を見てみたいし。
それとも[寝る人]とかでもいいな。別にこだわりはない。
どんなギフトでも受け入れて、運命の流れに従って生きていくつもりだ。
何時間も独占していた席に未練を残しつつ、僕は頬杖をついて、みんなの会話に耳を傾けることにした。
「ワクワクするね」
「だよね」
「魔法士様になれたらいいなあ」
同じ孤児院の子供たちが、人生を変えるギフトを心待ちにしている中で、どうでもいいと思っているのは僕だけだ。
今のこの気持ちは何なんだろう。なんだか自分が他の人より上にいるみたいな感じがする……ああ、ただのひねくれ者ってやつか。
「ははははは!」
「カエデ、うるせえよ!」
「シスター、カエデがまた変だよー」
「カエデ、少し落ち着きなさい。係の人が困ってしまいますよ」
一緒に来ているシスターが緊張気味に注意してきた。それもそのはずで、係の人がかなり怖い目でこっちを見ている。
あの目、村でよく殴ってきた意地悪なおじさんそっくりだな。気をつけないと三日は寝込む羽目になりそうだ。うん、注意しよう。
そう思って僕は静かになり、そのまま馬車の天井を眺めながら横になる。鑑定の場所に着くまでずっとそうしていた。
「ったく、うぜえなあ。なんで俺がガキの世話なんかしなきゃならねえんだよ……どうせこいつらから良い成果なんて出るわけねえのに。田舎の低級な血筋どもが」
「……」
係の人の見下した言葉に、みんな顔を曇らせた。特にシスターは一気に落ち込んだ様子だ……大人って怖いなあ。
「……ん?」
到着すると、外が妙に騒がしい。
馬車の扉が開き、係の人が降りて命令する。
「ほら、降りろ」
「はーい」
僕は一番に飛び降りた。さっきから聞こえる大きなざわめきが気になったからだ。
それはギフト鑑定の教会の入口のほうから聞こえてきていて……どうやら多くの人が驚いた様子で道を開け、一人の男の子を通している。
……おや、美少女? いや違う、男の子だ。
少女みたいに整った顔立ちだけど、ちゃんと男らしさもある。背も高くて、周囲の空気も落ち着いている。
本当に同い年くらいなのかって思ってしまうほどだ。
これがいわゆるオーラってやつなのかな。すごいなあ。
「べ、ベラミだぁぁぁぁ!?」
後ろから太った子が叫び、ほかの子たちも一斉に目を輝かせた。
「史上最強の子、「ベラミ・フォル・マティル」だってば!!」
ベラミ……フォル?……マティル?……結局どれが名前なんだろう。
僕は首を傾げて不思議に思ったけど、まあいいか―そのベラミーって子は、黒紫の髪に赤い宝石みたいな瞳の男の子。背が高くて、同年代と比べてもがっしりしている。肌は蜂蜜色で、まだ十二歳なのに十四、十五歳くらいに見える。
「見たことないなあ。有名人なの?」
「はあ!? ベラミだぞ!? 世界で一番カッコいい最強の子だってば!」
「……へぇ」
僕は手で指鉄砲の形を作って顎に当て、思ったことをそのまま口にした。
「まあカッコいいとは思うけど……他人を見る目つきが結構すごいよね。心の中で失礼な感謝してそう。『舞台を用意してくれてありがとな、モブども』みたいな感じでさ」
よく言うじゃん、目は嘘つけないって。
絶対あのベラミー、そういうこと考えてると思う。
「ははは、あんな偉そうなやつ、ギフトが弱かったら袋叩きだろうな」
「な…なに言ってんだよお前!」
太った子とほかのみんなが、なぜか一斉に僕を囲んできた……あれ、僕なにか悪いことした? シスターの頼んだ仕事をサボったわけでもないのに。
「ベラミをバカにするやつは罰を受けるんだよ!」
「そうそう、あの偉そうなのはキャラだから! 本気で思ってるわけないって!」
「その通り! 俺たちをただのモブだなんて思ってるわけない!」
「ギフトが弱いはずもない! ベラミならむしろ【神の子】クラスだ!」
す、すごい……同じくらいの年なのに、こんな影響力あるんだ。
どっかの宗教の教祖かと思ったよ。
「わ、分かった分かった、降参だよ。ベラミ……いや、ベラミ様が一番すごいってことで」
「皮肉言ってんじゃねえ!!」
いつもみたいにボコられる前に両手を上げて降参したけど、向こうはまったく許してくれそうにない―でも運よく係のお兄さんが間に入って、冷たい目でにらんだら、みんな急に大人しくなって震え出した。
なんだよ、僕にだけ強気なんだなこいつら。ほんとさあ、もう。
「中に入れ」
係の人に命令されて、僕たちは逆らえずそのまま教会の敷地へ入った。
鑑定を受ける前に、普通の子―貴族でも特別な人でもない子は受付して、ぎゅうぎゅうの列に並ばなきゃいけない。
あの偉大なベラミはVIPみたいに人混みをかき分けて先に鑑定してもらってたけど。
あと何時間待つんだろうな……もう帰りたくなってきた。家の温かい木の床、気持ちよく眠れたのに……。
……
………
…………
時間が過ぎて、僕は眠って目を覚ました。
眠って目を覚ました? 僕たちってギフトの鑑定に来たんじゃなかったっけ?
ああ、そういうことか。
僕はちらっと柵の外を見た。係の人が険しい目でこちらを見ていて、その隣ではシスターが涙を流している。孤児院の仲間たちも、沈んだ表情で僕を見ていた。
どうやらみんなのギフトの鑑定はもう終わったらしい。
改めて自分の様子を確認すると、僕は木にもたれて寝ていた。順番待ちが退屈で、少しサボって横になったらそのまま寝ちゃったみたいだ。
…でもなんで誰も起こしてくれなかったんだろう?
うーん、普段から起きても起きないしね。
まあいいや。仕方ないことは仕方ない。
さっさと神様からギフトをもらって、帰って寝よう―
「くっ!」
「あっ」
歩いていたら、うっかり誰かを蹴ってしまった。転ばなかったのは幸いだ。
…ん? え?…え?
なんでこんなところに人が寝てるんだ? ここは通路だよね。人の邪魔になるしよくないよ。
それに…黒紫の髪、赤い宝石みたいな目の男の子
…ベラミ、有名人じゃん。
「……」
今のベラミーは地面で体を丸めて、まるで甲羅に引っ込んだ亀みたいだ。
さっきまでの尊大な雰囲気はどこへやら。
僕はまた指で指鉄砲を作って、顎に当てながら必死に考えた。
あっ。
なんとなく察して、ベラミーのファン人たちや周りの人を見ると、みんな同情するような目をしていた。
なるほど。
ダメなギフトだったんだね。
「…うっ」
…?
その押し殺した声のせいか、ベラミーが顔を上げて僕と目が合った。
それがさらに僕の我慢を限界にして、完全に引き金になった―
「ははははははは!」
ベラミは面と向かって笑われて、一瞬で顔を真っ赤にした。
頂点からどん底へ。
ベラミ―きっと運命の流れに容赦なく振り回されるタイプなんだろうな。
運命の流れって、ほんと面白いよね!?
僕はそう思って、ちょっとご機嫌だった。




