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6:方法を探す②

 お風呂を済ませたら、いよいよ出発の時間だ――僕は服を整え、腰に剣を一本差した。モンスター狩りで森に入るための、いわばスターターパックみたいなものだ。


「行きましょう、カイリーさん。時間は誰も待ってくれませんから」


 僕はかなりワクワクしていたのに、カイリーさんはなぜか不思議そうな目で僕を見ていた。


「聞いてたのと全然違う……」


 何か言ったみたいだけど、よく聞き取れなかった。


 今の僕の頭の中は、とにかく期待と興奮でいっぱいだ。せっかく集めた知識を試したくて仕方ない。


「どうかしました?」


「い、いえ別に……そうですね、この森のモンスターってほとんど低ランクなんですよ。スライムとか、危なくない植物系とか、それに十歳くらいの子でも倒せるモンスターばかりです」


「それでちょうどいいんです。僕のギフトだと、ある程度強いモンスターがいる森には入れないと予想しているので」


 モンスターを引き寄せすぎて危険になるからだ。中級以上のモンスターがいる森で僕が立っているだけでも―災害級の事態になる可能性がある。なんとも悲しい能力だ。


 こんな体質じゃ、冒険者パーティーもギルドも僕を入れたがらないだろう。囮役なら別だけど。


「なるほど……じゃあ行きましょうか」


 カイリーさんは気だるそうに言いながら案内を始めた。思ったより近くて、歩いて十分ほどで到着した。


 特に変わった森じゃない。弱い植物系や虫系モンスターがいる程度で、子どもでも対処できるレベルだ。


 その中で一番強いのはおそらく『スライム』。毎年の記録で、子どもの死亡率が一番高いモンスターだ。


 人を殺せるカテゴリーではあるし、特に知識のない子どもには危険だ。油断して、対処を間違えてやられるケースが多いらしい。


 もちろん、きちんと対処すれば子どもでも簡単に倒せる。この森の他のモンスターと大差ない。


 スライムの攻撃方法はシンプルだ。体を顔に貼りつけて窒息させる。粘度の高い液体の体で覆われると剥がしにくい。


 対処法は核を壊すこと。鋭い物で刺せば簡単に貫けるし、初級魔法でも十分だ。素手でも可能なくらいだ。


 つまり、僕がスライムを探しているのには理由がある。ギフトのデメリット―モンスターを引き寄せる性質を試したいんだ。


 まずは……ほら来た。


 虫系モンスターの群れが、僕を感知した瞬間に一斉に飛んできた。


「えっ!?」

 カイリーさんは驚いた。


 僕はため息をつき、手を前に出して初級魔法を詠唱した。ただしマナ量を調整し、【攻撃魔法】として成立する程度には強めにする。


「【ファイア】」


 炎が小さな虫たちを一瞬で焼き払った。


 簡単な魔法で片付けてから、僕はそのまま進む。


 道中ずっとモンスターに狙われ続け、剣や魔法で対処することになったけど、この程度なら難しくない。


「……すごい。まるで専門家みたい」


 カイリーさんがつぶやいた。


「10歳の頃からモンスター対処の訓練をしていたので、多少は慣れているんです」


「本当ですか? すごいですね。10歳の頃の私はまだビー玉で遊んでましたよ」


 12歳の子どもとしては、僕はかなり特別だと思う。うんうん、もっと褒めてもいいよ。僕は歓迎する。


 僕は剣術も、教育を受けた兵士と同程度には扱えるし、魔法も全属性で初級レベルは使える。体も鍛えてあるし、知識もそれなりに多い。


 だから、ギフトの欠点さえなければ『冒険者』としてやっていける自信はある。最前線ではなくても、十分生き残れるし、上位ギルドに所属することも可能だろう。


 ただし最強にはなれないし、前衛の主力にもなれない。結局は器用貧乏タイプだ。でもギルドの裏方としては重宝されるはずだ。


 体の成長はまだこれから期待できる。けれど剣術や魔法は、ギフトなしだと伸びても限界がある。


 中級以上のスキルには絶対に届かない。剣なら【剣士】や【騎士】には勝てないし、魔法でも【魔導士】を超えられない。


 位ギフトを持つ相手どころか、普通の【兵士】ギフトでも剣では負ける可能性が高い。専門ギフトの差はそれくらい大きい。


 例えば成長段階を1→2にする場合、普通の人なら三十分。僕みたいに才能があれば二十分。でも専門ギフト持ちは五分、あるいはそれ以下。


 倍どころじゃない。成長速度が何倍も違うんだ。


「本当にすごいですね。こんな人が『あのギフト』を持ってるなんて信じられません」


「……」


「あっ、すみません」


 カイリーさんは慌てて口を押さえた。僕は首を振る。


「気にしてませんよ。どうか気にしないでください、カイリーさん」


「あとで処刑されたりしませんよね?」


「そんな権限、もう僕にはありませんから」


 なぜか、それを聞いたカイリーさんは余計に怯えた。


 くそっ、つい口を滑らせてしまった。あの話題を突かれると、どうにも簡単にキレてしまうらしい……カエデのやつのことを思い出すと、時間を巻き戻して一発ぶん殴りたくなる―


 ―僕は突然足を止め、同時に腕を伸ばしてカイリーの体を制した。


 目の前にモンスターがいる。


「……スライム」


 青くて小さく、半透明の塊。それが誰もが知る『スライム』だ。


 周囲を確認する―三体。


「問題なし――!」


 僕は走り出した。反応したスライムも三体同時に跳ねる。僕はしゃがみ込み、短剣を三本取り出して投げた。


 スライムは体を透過させれば攻撃をすり抜けられる。でもそれは核を壊されやすい弱点でもある。だから通常は体を硬化させている。特に不意打ちだと対応が遅れる。つまり――


 三本の短剣は核を外して体だけを貫き、そのままスライムを木に縫い付けた。 三体とも、木に突き刺さったまま固定されている。


 体内に異物があると形状変化できない。誰かがナイフを抜くか、核を壊すまでそのままだ。


「ふぅ」


「なっ!? なにそれ、めちゃくちゃカッコいいんだけど! どうやったの!? 【忍者】でもないのに!」


「指先にマナを集中して身体能力を補強して、それから刃先にもマナを乗せて投げただけですよ」


 これは生態調査系の冒険者がよく使う基本技術だ。モンスターを拘束して観察したり、用途はいろいろある。


『マナ』は人間を人間以上にする力だ。生成にも強化にも使える。そしてモンスターがモンスターと呼ばれるのは、体内にマナを持っているからだ。普通の動物にはない。


 人間はマナで現象を作る。魔法ならマナを放出して形を作り、結果として現象を起こす。


 剣技の場合は体や武器にマナをまとわせ、熟練によって現象を発生させる。身体強化も同じ理屈だ。要するに剣や体を器にしてマナを流し込む感じだ。


 ただしさらに高度な剣技―例えば【音速斬り】とか【魔法の軌道を逸らす】とか【剣波】とか―そういう領域になると使い方はまったく別になる。



 それは【剣技】とか【奥義】と呼ばれる領域で、僕が使えるのは【剣士】の基礎レベルだけ。だから当然、今挙げたような技は使えないし、これからも使えない。


 剣技や奥義は今の僕には遠い存在だ。でも時間をかければ、基礎寄りのものなら二、三個くらいは使えるかもしれない。


  一方で魔法はもう無理だ。中級以上には絶対届かない。


 つまり身体の慣れに依存する剣は多少伸びる可能性があるけど、魔法は体質そのものが必要で、魔法向きのギフトがない人間には限界がある。


「まあいいか、とりあえず……」


 本題に戻ろう。あの三体のスライム、どうしようかな。


 僕は軽く伸びをしながらスライムを見る。


 じゃあ一体目から。


 一本のナイフごとスライムを引き抜き、掴んで放る。

  地面に弾んで―そのまま僕のほうへ跳ね返ってきた。


「刺さってる状態だと、硬いボールみたいになるのか。でも……」


 ギフトのデメリット、モンスターを引き寄せる性質のせいで、どこに当たっても必ず僕のほうに跳ね返ってくる。


 僕は何度も投げて、感覚を確かめた。


 そして十分慣れたところで、スライムにマナを込めて投げる――


 ドン!!!


 スライムがぶつかった木が大きく揺れた。跳ね返ってきたのを受け取り、また投げる。


 ドン!! …. ドン!!!.....ドン!!!!


 やがて一本の木が耐えきれず折れ、地面に倒れた。


 使ったマナ量はそれほど多くない。同程度の威力の魔法よりずっと少ない。

  しかもスライムは優秀な【器】だ。硬直状態なら衝撃でも壊れない。


 つまり―条件次第ではスライムの体は再利用できる砲弾になる。同等の威力の魔法よりマナ効率もいい。


「すごいな。スライム以外にも応用できるモンスターがいるかも……カイリー、一体家まで運ぶの手伝ってくれません?」


「え、えっと……そんなことして大丈夫なんですか? モンスターって許可なしで居住地に持ち込んじゃダメじゃ――」


「……」


「な、なんですか?」


「正直あまり言いたくないんですが……お金、追加で払いますよ」


「……それって」


「あなたに賄賂を渡したいんです。お願いできますか?」


 彼女が何か言う前に、僕は袋の金貨を広げて見せた。


「……まあ、祖父母に寄生してるだけでもダメ人間なのに、もうちょっと堕ちても大差ないですよね....多分?」


 カイリーは僕が見せた金額を見て、あっさりそう結論づけた。


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