ダンジョン管理局と登録
「今日もいい天気だな」
そう言って、カーテンを開けた悠馬は大きく伸びをする。
昨晩は、寝てしまったアリスリアを起こすのは忍びないということで、そのままお開きに。
悠馬は自室で、二人は客間で夜を過ごした。
悠馬が軽い朝食を作っていると、二人が居間へと現れる。
ノーラはメイド姿、アリスリアはジャージという対極な格好をしている。
「二人とも、おはよう」
「悠馬様、おはようございます」
「お兄さん、おはようです!なにかいい匂いがします!」
「顔を洗っておいで、それから飯にしよう」
洗面台に向かう二人と、食卓を準備する悠馬。
食パンに目玉焼き、ベーコンというオーソドックスな朝食だ。
「昨晩も思いましたが、悠馬様は料理が出来るのですね。男性としては珍しいかと思うのですが」
「まぁ、十年も一人暮らしやってると多少はな。ただ料理って程でもないし、今は男でも料理する時代だぞ」
「そういうものなんですね、やはり私達の世界とは違うと改めて思います」
「あのあの!今日は早速ダンジョンに行くのですか?」
「そうだな。ただ、その前にダンジョン管理局に行かないとだな」
「ダンジョン管理局?」
「あぁ、ダイブするには登録が必要なんだ。探索者章がないと入り口ゲートが開かない、それと……」
「「それと?」」
「昨日の二人の探索者章を、管理局に届けようと思う。あと魔石も」
「パーティーの生き残りとしての責務、といったところでしょうか?」
「臨時で雇われただけだから、パーティーってわけでもないし、別にやらなきゃダメってことでもないんだが。今までも、そうしてきたんだ。俺だけ生き残るたびにな……」
外の爽やかな空気とは裏腹に、食卓は少し暗い空気が漂う。
「とりあえず、ダンジョン入るなら管理局には行かなきゃだし。さっさと食って出かけるぞ!」
朝食を終え、悠馬の運転で管理局へと向かう。
悠馬はいつもの探索者装備、アリスリアはフルプレート、ノーラはメイド服という、何とも不思議な三人組の完成だ。
「悠馬様、差し当たっての質問ですが宜しいでしょうか?」
「ん、なんだ?」
「私達はこの世界の人間ではありませんが、その登録は可能なのでしょうか?」
「う~ん、そうだな。多分だけど大丈夫だと思うぞ」
「多分……ですか。いまいち信用なりませんね。うまい事言って、私達を国に売るおつもりでは?」
「おいおい、言いがかりがひどいな。日本には戸籍ってシステムで個人を管理しているんだが、探索者になると同時に、その枠組みから一時的に除外されるんだ」
「存在しない人間として扱われると」
「大雑把にいうとそうだけど違うというか。まあ、大丈夫だと思う。ある文章に同意さえすれば、誰でも探索者になれるってのがウリみたいなもんだし」
「お兄さん!ある文章ってなんですか?難しい事なんですか?」
「それは……」
『ダンジョン内で発生する事象、事案に対し日本国憲法は適用されない』
「……それは一体どういう意味を持つのでしょうか」
「日本って比較的安全だし、個人を尊重するってのが国是なんだけど、その枠組みから外れるってことになる。だから、死んでも殺しても、基本的に自己責任って感じだ」
「だから、国が管理するシステムから、一時的に隔離しないと色々面倒なんだろうよ」
「なかなかに厳しい感じがしますね」
「実際厳しいぞ、探索者章は個人の位置を特定できるようになっているしな。探索者が地上で犯罪を犯せば、軽微であっても……即死刑、だからな」
「えぇ!お兄さん殺されちゃうんですか!」
「だから、そうならないように気を付けるんだよ。ほら、そう言ってるうちに管理局だ」
――ダンジョン管理局 探索者用窓口――
「よう、望海!久しぶりだな」
「あっ!悠馬!あんた、久しぶりに顔を出したと思ったら……不思議なお連れさんね」
「まぁな、彼女たちの要件はとりあえず後でいいから。今はこれを提出したい」
そう言って置いたのは、受付に真新しい探索者章二つと、いくつかの魔石。
「あんた、また……」
「あぁ、そういう事だ。今回も、俺だけ生き残っちまった」
「探索者なんかやめなさいよ、いつ自分がこうなるか、分からないじゃない!」
「俺はやめないよ、理由があるんだ。それより、いつものように頼むよ」
「わかったわよ。魔石の売却益と探索者章はご遺族の方に届ける、でしょ。あんただけよ、こんな面倒な事するの」
「いつも悪いな。あと福岡ダンジョンでイレギュラーが発生したから、その報告をしたい。その間に、後ろの二人の登録を頼む」
望海の視線の先には、フルプレート姿の女の子と、メイド服の女性。コスプレというには、細部のクオリティが違いすぎた。
「お姉さんは、お兄さんのお知り合いですか?親しげな感じがします!」
「彼女は高梨 望海。知り合いというか、俺が探索者になった当初から、ずっとお世話になってるって感じだ」
「そうね、知り合いっていうか、局員と探索者の関係よ」
「へぇ~、そうなんですね!私はアリスリア・フォン・ガードルド!こっちはノーラ!望海さんヨロシクです!」
「ご紹介にあずかりました、メイドのノーラと申します」
胸を張るアリスリア、丁寧なお辞儀のノーラ、あっけにとられる望海。まさに三者三様である。
「そういうことで登録よろしく!俺は向こうで、昨日の報告をしてくる!」
「ちょっと!悠馬!あんた逃げないでよ」
珍妙なやり取りをこれ以上見ていられず、逃げるように報告窓口へ向かう悠馬。
その背中に向かって、望海は殺気のこもった視線を向ける。
「高梨様、私どもの登録をして下さるという事ですが、何をすれば宜しいでしょうか」
「そ、そうね。登録しましょうか!それでは、何か身分を証明できるようなものをお願いします」
「身分ですか、あいにくこれと言ったものは……」
「免許やマイナンバーカード……いや、海外の方っぽいし、パスポートとかでもいいですよ」
「お姉さん、見てください!このマントに描かれている紋章を!それこそガードルド騎士団という、何よりの証拠なのです!エッヘン!」
マントを見せつける様に背中を向け、仁王立ちのまま、顔だけ振り返るアリスリア。その横顔は自信に満ち溢れていた。
「が、ガードル……ド?騎士?」
「アリスリアお嬢様は黙っててください、余計な混乱を招くだけです」
「うぅ……私、副団長、なのに……」
涙目になりながら、両手の人差し指を合わせ、小さくなるアリスリア。
その前に立ちはだかるようにして、ノーラは続ける。
「悠馬様より、条件さえ飲めば探索者になれると伺っておりますが」
「そ、そうですね、偽名で登録される方もいますので可能です。ただその場合、全ての権利を放棄することになりますが、それでも宜しいでしょうか」
「詳しくお願いします」
「大きいところですと、魔石の販売不可、探索者章紛失時のランク引継ぎ。あとは地上で、探索者同士のもめごとがあった場合に、たとえ被害者でも、法で守られません」
「全て問題ありません、もとより覚悟の上です」
「そ、そうですか。それではこちらに必要事項の記入をお願いします」
差し出された用紙には、氏名等の基本的なプロフィールと『あの一文』への同意欄があった。
「申し訳ありません。まだ、読み書きが拙いので、高梨様代筆をお願い出来ますでしょうか」
「そうなんですね、分かりました。こちらで代筆いたします」
やり取りの末、二人の登録が完了し、探索者章は無事発行された。




