二つの世界の出会い
光が落ち着いて、二人の目が慣れてきた頃。
「……ノーラ大丈夫ですか?」
「はい、アリスお嬢様。……ここは一体どこなのでしょうか?」
周囲を見渡す二人、目の前には重厚な両開きの扉があり、後ろを向くと上へと続く階段が見える。
「さっきまで森の洞窟にいたはずです、それなのにこれは……神殿かしら?」
「神殿というには何やら悪しき存在を感じます」
「そうね、少し息苦しい気もします」
張り詰めた空気の中、周囲の環境を把握しようとする二人の耳をつんざくような声が届く。
「「うぎゃぁぁぁぁぁぁ――――――」」
若い男女の声が扉の内側から聞こえてくる。
「ノーラ!」
「はい!お嬢様!」
悲鳴が聞こえると同時に駆け出す二人。
――ボス部屋内部――
震える膝を無理矢理に動かしながら、悠馬は落ちている剣を拾いに疾走する。
ただ速くも、遅くもない、あくまで一般人の悠馬の行動はすぐに捕捉される。
「ギギギッ!」
「グギャギャ!」
耳元でレッドキャップの声が聞こえる。あえて仕留めず狩りを楽しんでいるような声色だ。
数メートル先の剣がやけに遠く感じる。そして、自分の心音だけはっきりと聞こえる。
徐々に狭くなる視界の中で、指先から剣の感触が伝わり、それを手繰り寄せる。
強く握りしめた剣を手に悠馬は、暗闇に潜むレッドキャップ達と向き合う。
「どこからくる……なんて考えても仕方ないか、ただこれなら胸を張って死ねる!かかってこい!!」
見えない敵が、暗闇から襲ってくる感覚だけ感じる。
空を切る音の間隔が段々と短くなる、もう終わりかと思ったその時……風が頬を撫でた。
光が走ったかと思った刹那、レッドキャップの首が地面へと落ちる。
「へっ?」
「ちょっと、邪魔するわよ!」
光と思ったのは太刀筋であった。
目の前には純白色の鎧をまとった騎士の背中が見える。
「ノーラ!」
「はい!」
「私は奥へ!ノーラは残りの殲滅と警戒を!」
「かしこまりました!ご武運を」
「この程度の相手に後れを取っていては、ガードルド騎士団副団長の名折れ!すぐに終わらせてやるわ」
純白色の騎士はマントを翻しゴブリンジェネラルへ肉薄する。
「お、女と女?」
悠馬は声色から乱入者の性別を予想する、と同時に警告を発する。
「そいつはゴブリンジェネラルだ!すぐに逃げろ!」
「グォォーー!!」
けたたましい雄たけびを上げながら、騎士と相対するゴブリンジェネラル。その覇気は部屋全体へと充満する。
「んっと、大きいだけあって声も相当ね!!」
飛び上がりからの上段斬りを、ゴブリンジェネラルが手に持った斧ではじく。
「おっ……と!私の手を痺れさせるなんて、なかなかやるじゃない!さて、これならどう!」
ゴブリンジェネラルの振り下ろしを前転でかわし、足元を切りつける。
肉を削ぐ鈍い音が響き渡り、大量の血が床を濡らす。
激しい呼吸音で、ゴブリンジェネラルが片膝をついたその時……。
「――これで終わりです!」
大きな横一閃……首から上を無くしたゴブリンジェネラルは、轟音を立て崩れ落ちる。
「た、助かったのか」
悠馬が現状を把握しようと思考を巡らせていると。
「失礼いたします、お怪我はありませんでしょうか?」
「えっ!?めっメイドさん!そんな事よりレッドキャップが!」
周囲を見渡すがレッドキャップが確認できない、いや横たわっているレッドキャップに悠馬は気付けなかったのだ。
「状況は終了しております」
「はぁ、そう……ですか」
目まぐるしく変化する状況に悠馬は考える事をやめ、とりあえず受け入れることにした。
「大丈夫ですか?」
ゴブリンジェネラルを討伐したアリスリアが、悠馬へと近づき声をかける。
「あぁ、ありがとう助かったよ。あんたやるなぁ、ゴブリンジェネラルを一撃なんて初めて見たよ」
「ありがとうございます。これでもガードルド騎士団副団長ですから!エッヘン!」
「ガー?ガードル……なんだそりゃ、って!そんな事よりあいつらはどこだ!助かったのか!」
悠馬はあの生意気な二人を探す。
「いいえ、すでに事切れておりました、ご遺体ならあちらに」
そういってノーラが指をさす方を見るがそこには何もなく血だまりだけが赤く広がっていた。
「おかしいですね、先ほど私が確認した時にはたしかに……」
「……くそっ!また失敗した!もう呪いじゃないかっ!」
悠馬は自分の拳を激しく地面へ叩きつける。
「そんな事をしては駄目です、何があったかは存じませんが、せっかく助かったのに血を流してどうするんですか」
ノーラが優しく悠馬の手を包む、その温かさに触れた悠馬は、ゆっくりと立ち上がり血だまりへと歩を進める。
「すまねぇな、俺がもっとしっかりと止めるべきだった……せめて、こいつだけでも地上へ持っていくのが、ポーターの仕事だよな」
二つの真新しい探索者章を拾い上げ、しっかりと握りしめる。
「あのぉ~、こんな時に何なんですけどここってどこですか?」
重い空気に耐えられず、アリスリアが思わず口を開く。
「どこって福岡ダンジョンだけど、あんた達もダイブしてたんだろ?んで俺たちを助けてくれた」
「フクオカダンジョン??なんですかそれ?黒の森じゃあないんですか?」
「すまない、何を言ってるかよく分からないが、ここには長くいられない、とりあえず外に出よう。魔石を拾うから少し待っててくれ」
状況が読めない二人と、慣れた手つきで魔石を拾う悠馬。その手つきは慣れたものだった。
「待たせたな、とりあえず外に出よう」
「外にとは先ほど扉の間にあった階段を上るのでしょうか?」
「いやいや、ここはボス部屋だからあれを使う」
悠馬が指さした先には淡い光を放つ台座がいつの間にか立っていた。
「この台座に触れればダンジョンの外に出られる。さぁ行こう」
「ノーラ着いて行っても大丈夫でしょうか、言ってることもよく分かりませんし、あの台座なんてありましたか?」
「今は状況が全く分かりません、外という事はこの場所より幾分ましかと思います。何かあれば斬り捨てましょう」
「そうね、なんというか弱そうですし。ノーラと一緒なら安心です!」
悠馬に聞かれないよう小声で打ち合わせを行っていると更に声がかかる。
「お――――い、そろそろ時間やばいから行くぞって」
三人同時に台座へ手を伸ばす、軽い浮遊感のあと視界が真っ暗になる。
真っ暗な視界の中、悠馬の脳内にノイズのようなものが走る。
――『ス……ルが……りま』――
章完結まで毎日19時投稿します!
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