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女騎士が転移したのは現代ダンジョンがある世界でした~矢印が導くその先には~  作者: くるまAB


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最短×最速=一直線

――福岡ダンジョン 第十一層――


急ぎつつも、瞑想にも近い思考の海で、疲れの見える悠馬に合わせ二人は突き進む。


「ユーマ!勢いで来たけど本当に大丈夫なの?」

「あぁ、俺を信じろ。このまま進むぞ!」

 今までとは違い、矢印に従うのではなく自分の意志で、矢印を信じ進む。

 心なしか、矢印の様子も今まで違うように見えた。


 その時、二人の目の前に分岐点が現れる。

「矢印が指してるのは右か……ただ、右は嫌な予感がするな」

「嫌な予感って?」

「昨日から感じてる嫌悪感ってやつだ、さっきノーラさんが消える直前にも感じた。ただ、過去三回に比べると軽い感じだけどな」

「でも、こっちが最短ルートなのよね。魔物なら何とかなるから!最短でいくよユーマ!」

「しかし、行き止まりとかだったら……って、聞いちゃいねぇ」

 勢いよく駆け出すアリスリアを、急いで追いかける悠馬……そして。


「案の定、ってやつだな」

 大きな壁が行く手を阻むように、二人の前に立ちふさがる。

 

「一旦、さっきの所まで引き返そう……って、何やって!」

 壁に向かって、フルスイングで大剣を叩きこむアリスリア。

 轟音と共に砂埃が上がる、そして。


「壁が、ダンジョンの壁がぶっ壊れた……だと」

 砂埃が舞う中、目の前の壁には大きな穴が開いていた。

 壁を壊した瞬間、その嫌悪感が、一瞬だけ強烈に跳ね上がったような気がしたが、それは直ぐに霧散するように消えた。

 

「さぁ、進むわよ!」

「なんかもう……無茶苦茶だな」

 若干呆れつつも、大穴に向かって進む。


 魔物を蹴散らし、大穴をあけ、目的の十五階層へ急ぐ二人。

 しかし、焦る気持ちとは裏腹に、到着より先に悠馬の体力が底をつく。


「ユーマ大丈夫?足震えてるし、まともに走れてないじゃない!」

「はぁっ、はぁっ……だ、大丈夫だ。俺の事より早くノーラさんのもとへ急ごう」

「そうは言っても、このままじゃ効率悪いわ、少し休みましょう」

「そ、それもそうだな……すまない。少し休ませてもらうよ、そうだなあっちへ行こう」

 少しの休息をとる二人。その時アリスリアは、ずっと疑問に感じてた事を投げかける。


「そう言えば、どうしてノーラがいる場所がわかったの?手がかりなんてないし過去にもこんな事あったとか?」

「いや、転移系のトラップなんて聞いたことがない。あったとしても、もっと上級ダンジョンだろう」

「じゃあなんで……そんな風に言い切れるの?」

「さっき、ノーラさんを何とか探せないかって考えてたんだが、その時だんだんと五感が薄れていく感じがして……その時見えたんだ。ノーラさんの体温が」

「体温が見えるってどういう事よ」

「何と言うか、火とか氷を見ると、何となく熱そうとか、冷たそうって思うだろ?それに似てたんだ。そこからどのくらい手を伸ばせば火に当たるとか分かる感じに近かった」

「それも……矢印の力?」

「どうなんだろうな……理屈なんて分からんし、矢印にそんな効果があるかなんて分からない……けど」

「けど?」

「感じたんだ、これは信じてもいいって。きっとじいちゃんがくれた力なんだって」

「なんで、ユーマのお爺さんが出てくるのよ」

「昨日……って、アリスリアは寝てたもんな。聞いてないか」

「ちゃ、ちゃんと聞いてたわよ!……ちょっと忘れてたと言うか、とりあえず今はそれしか無いし、理解は出来ないけど納得しといてあげる。ところでもう一回ノーラを探すことは出来ないの?」

「ふふっ……そういう事にしとくか。しかし、もう一回か、出来ないこともないと思うんだけど、何となく今は出来る気がしないんだ。あと、物凄く疲れるし」

「そっか、なら仕方ないね。これ以上疲れられたら休んでる意味無いし」

 少し笑顔で、だが緊張感は保ちつつ、二人は言葉を交わす。


「さぁ、もう十分ね!行くわよ!……ユーマ、あなたを、あなたにしか見えない矢印を信じていいのね」

悠馬は、まだ少し残る体の重さを振り払うように立ち上がると、迷いのない目で前を見据えた。


「あぁ、()()()は十五階層までの道を最短で示している。安心しろ、案内人の名は伊達じゃねぇよ」

「なんか顔つきも変わったって感じね。じゃあ行くわよ!」

「おうよっ!」


 ――十五階層 ノーラ――


 光が落ち着いてきた時、ノーラは周辺を見渡す。

 

「ここは、どこでしょうか……。ダンジョン内なのは間違いなさそうですが」


 場所は不明。だが、ノーラは即座に思考を切り替えた。


「とりあえずアリスお嬢様と合流しなくては。無策に動いても時間の無駄ですね……」


 思案しつつ周囲を警戒した視線が、ある一点で止まった。巨大な扉が、まるで獲物を待つ怪物の口のように開け放たれている。


「ボス部屋、でしょうか。……しかし、これではまるで」


 誘われている――。そう感じた瞬間、闇の中から「それ」は現れた。


「グギャ、ァ……」


 湿った嫌な音が静寂を切り裂いた。

 開放された扉の奥、光の届かない闇から、ぬらぬらと濡れた褐色の肌が這い出してくる。


「これは……レッドキャップ。昨日、倒したものと同じ魔物でしょう」

「いいでしょう、かかって来なさい。アリスお嬢様の露払いが私の仕事!」

 ノーラは裾をわずかにまくり、投げナイフを構え臨戦態勢をとる。

 一度倒した相手。特性は分かっている。急所に当てれば、仕留めるのは容易い。


 ――はずだった。

 

 想定と違ったのはその『数』であった、次々に扉内からレッドキャップが現れる。


「これは、骨が折れそうですね……」

 目視出来るだけも昨日の倍は居るだろうか、ノーラの額に汗がしたたる。


 広間を舞うメイド服が、次第に重くなっていく。

 正確無比だった指先の感覚が、過剰な連撃によって麻痺し始めていた。


「残りのナイフの数より、魔物の数の方が多いようですね……仕方ありませんっ!」


 レンジを一気に詰め、遠距離から近距離戦闘へと切り替える。

 だが、手に持ったままでは、投げた時のような貫通力は期待できない。

 突き立てても致命傷には至らず、逆に一体を相手にする間に、二体、三体と囲まれていく……絶望の足跡が近づいてくる。


「残念ですが、ここまでとなりそうですね。ただ、黙ってやられるわけにはいきません!」


 振り払うメイド服の裾が、魔物の鋭い爪に裂かれた。

  一歩、足がもつれる。

 額から流れた汗が目に入り、視界がわずかに歪んだ。その一瞬の隙を、レッドキャップたちは見逃さない。

 下卑た笑い声が四方から響く。

 自身を奮い立たせるように、毅然した姿勢でノーラは名乗りを上げる。

 

「私はガードルド辺境伯が長女アリスリア・フォン・ガードルド専属メイドのノーラ!舐めないで頂きたい!」


 残りのナイフを全て使い、レッドキャップの眉間に直撃させその命を絶つ。

 しかし殲滅には至らない、数が多すぎるのだ。


「お嬢様……どうか無事に帝国へとお帰り頂ける事を、心より願っております」

 ノーラが覚悟を決め、そこへレッドキャップが襲い掛かる……その時。

 爆音とともに、天井が崩れ落ちる――そこに現れたのは。


「ノーラ!!私が来たからにはもう大丈夫よ、あとは任せなさい!」


 落ちてくる瓦礫の中から、垂直落下してくるアリスリア、その腕の中には白目をむいた悠馬が抱かれていた。

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