違和感と確信
――福岡ダンジョン 第十階層――
道中の歩みは危うげなく進み、目的の十階層まで難なく進むことが出来た。
「ここが十階層ボス部屋だ、入る前に少し休もう。休めそうな場所は……あっちがいいな」
少し開けた場所へ迷いなく進む悠馬をみて、ノーラは疑問を感じる。
「悠馬様、迷いなく進んでいますがスキル……の効果でしょうか?」
「いや、これは俺の勘みたいなものだな。ただ、今日はやけに、すんなり決めたような気がするな」
「お兄さんの長年の経験ってやつですか?」
悩むような仕草をしつつ、悠馬はゆっくりと続ける。
「何となくなんだが……今日は、安全な場所が直感でわかる、という感じがするというか。自然と足が向いているな」
いつもと違う違和感を覚えつつも、三人は腰を下ろして休憩する。
「過去二回の嫌悪感に続き、安心感を肌で感じる。という事ですか。何か心当たりのようなものは?」
「いや、特にないな。俺の探索者としての才能が開花した、的な?」
(矢印はいつも通りだし、ノイズの事はいったん置いといた方がいいか。不確定な事を言うわけにいかないし)
「お兄さん覚醒したんですね!おめでとうございます!」
「あぁ、ありがとう。覚醒って大げさだな、なんか照れるよ」
多少の雑談を交えつつ、休憩をとった三人は改めてボス部屋前へ進む。
「今日は昨日みたいな変な感じもないし、サクッといきますか」
「はーい!では、行きますよー!」
ボス部屋の扉を開け、中に入った三人の前にいたのは――
「……大丈夫。いつも通りのボス部屋だ」
「では、問題ないですね。ノーラ行きましょう!」
「はい、アリスお嬢様!」
そう、いつも通りのボス部屋。ホブゴブリンと取り巻きのゴブリンナイトが五体。
昨日のようなことは起こらない。
「相変わらず見事なもんだ」
討伐にかかった時間は数分といった所だろう、悠馬は二人をねぎらう。
「よゆーです!今回は失敗なしです!エッヘン!」
「アリスお嬢様が何のミスもしないとは、何か起こるのでしょうか」
「いやいや、とは言っても副団長様なんだろう。戦闘はお手の物って感じか」
「ノーラはいっつも私を褒めてくれないのです!」
軽口を叩きながらアリスリア、その少し後ろからノーラが近づいてくる。
「いつもこうであれば私もちゃんと評価……」
その瞬間――悠馬が叫ぶ。
「……!ノーラさん!ダメだっ!そこから離れろ!」
「「えっ」」
ノーラを中心に光が広がる、それと共に耳を貫く高圧的な音が響き渡る。
足元のそれはあの洞窟でみた紋章のようであり、魔法陣のようなものと酷似していた。
「これはっ!あの時のっ!」
「ノーラ!待って!」
アリスリアが必死に手を伸ばし、駆け出す。
だが、伸ばしたその手は届くことなく衣服をわずかにかすっただけだった。
光と音が落ち着き静寂が部屋を包んだ時……すでにノーラの姿なかった。
「一体、何が……」
「あの時と同じだ、光と音そして……あの紋章のような」
「あの時というのは、洞窟でって言ってたやつか」
「そう、同じだった……それよりノーラを探さなくちゃ!ユーマ行くよっ!早く急いで!」
「落ち着け!探すっていったいどこへ行くんだ。もしかしたら故郷に帰れたのかも知れないだろ」
慌てふためくアリスリアを、どうにか落ち着かせようと悠馬はアリスリアの両肩をつかむ。
「そっか、帝国に行っているのかも知れないのか。でも……でもっ!もしかしたら危険な場所にいるかも知れない!ノーラに何かあったら私はっ……私は」
「とりあえず、落ち着けって!!」
「よく落ち着いていられるね!そっか、ユーマは関係ないもんね。私たちとは昨日会ったばかりだし、他人ってやつだ」
アリスリアは震える声で叫ぶ、その顔が悲痛に歪み悠馬の胸倉をつかむその手は震えていた。
「そんな事は言ってないだろ!一緒にダイブしてんだ、俺たちは仲間だろうが!心配に決まってる」
「どうしよう……どうしたらいいんだろう、ノーラぁ」
力なくその場で崩れ落ちるアリスリア、その様子を見ながら悠馬は思案する。
(何か、何かないか……手がかりでも何でもいい。)
事態を収束するため、何か対策がないか深く思考の海へ入っていく――視界が黒く染まり、周囲から音が消えたその時……。
直感に近い何かが悠馬の中で生まれた……それを手繰り寄せる様に、ゆっくりと慎重に思考を深める。
「ぶはっあ!はぁっ!はぁっ……はぁ」
「ユーマ、どうしたの!汗凄いよ!」
「見えた……」
「見えたって、何が見えたの?」
何となくではない、確信に近い感情で答える。
「ノーラさんだ……ここから下に五階層。十五階層にノーラさんは居る、間違いない」
「それって本当なの!?」
「あぁ、間違いない。命の危機も今のところはない……が、あくまで今のところだ。ダンジョンは何があるか分からないからな」
「ユーマを信じるよ!急ごう!ノーラが待ってる!」
「そうだな、行こう!アリスリア!」
無意識に、その名を呼ぶ。
昨日会ったばかりの、得体の知れない異世界の少女。
だが今は――違う。




