8:この世界
「………は??」
後ろにいた人物に、思わず声が出てしまい、
すぐに表情を取り繕う
(どういうこと…!?)
とはいえ、困惑は未だ、私の頭の中で渦巻いていた
(髪と目の色は違うけど……どう見ても、私だ。
それに、声も…)
「あの…?アンク様…?」
目の前の、生前の私のような彼女に声をかけられ、ハッとする。
そうだ、今は社交ダンスの時間だ
「…失礼、お嬢さん。驚いてしまってな。
あなたの名前を聞いても?」
「あぁ、そうでした!すみません、私ったら…
私は、リリカと申します。王宮で白魔法使いを
やらせていただいている者です」
(リリカ…私と同じ名前に、同じ声、
そして…同じ顔で、同じ白魔法使い。
偶然ってわけじゃ、なさそう)
「知っているようだが、改めて自己紹介しよう。
アンク・クローヴェルだ。よろしく」
そう言いながら、私はリリカと名乗る彼女にニコリと微笑んだ
「ダンスの誘いなら受けよう。
王宮の白魔法使いなら、無下にはできないからな」
そう言うと、リリカはパッと一気に表情が明るくなり、
花のような笑顔を咲かせる
「ありがとうございます!」
喜ぶリリカの手を取り、音楽に合わせ、
エディーと沢山練習をしたダンスをし始めた
(髪と目の色が違うだけで、
こんなに可愛いかったんだな、私……)
ダンスの最中なので、思考を割く余裕がないが、
目の前の“リリカ”は、とても可愛らしい女性だった
ぶっちゃけ、生前はあんまり、
自分の容姿を気にしたことなかった。
舞台に上がるために、メイクとか
ウィッグとかしていたし
ただ、目の前の彼女を見て、
色が違うだけでこんなに違うんだな、
と思った。生前も髪を染めたり、カラコンをしてたら、
もしかしたらモテていたかもしれない
まあ、別にモテたいというわけじゃないけど
乙女ゲームでキャッキャはするが、
私は主人公をちゃんと主人公として見る派。
私自身恋愛は、あまり興味がない…と言えば嘘だが、
少なくとも学校生活や部活の方が好きだった
そんなふうに思いながら踊っていると、
いつの間にか1曲目が終わっていた
「もう1曲目が終わっちゃいましたね」
「あぁ、そうだな。
有意義な時間だった、リリカ嬢」
「こちらこそ!ありがとうございました!」
1曲目が終わり、他の人達の邪魔にならないよう、
お互いに別れを告げて、私は彼女…“リリカ”と別れた
(私だからか、動きがわかりやすかったな…)
去っていく彼女の姿を見ながら、
次の誘いが来るまで、私は考え込む
(…ティタはたしか、魔法は魂が発生源って言ってたっけ。
そのことが確かなら、多分“リリカ”と梨々花の魂は一緒。
でも、同じ世界に複数の同じ魂なんて、いれるの…??)
そこまで考えて、平行世界という概念のことを思い出す。
簡単に言うと世界には複数の似た世界があり、
複数の私達がいるというやつだ
もしも、ここが私の世界から枝分かれした平行世界なら、
この世界の私がいたとしてもおかしくはない
『…あぁ、それと。あなたがした『商品の革命』は…あなたの存在は、
世界にとって、許されるものなのでしょうか?』
『そもそも、別世界で死んだ人間の魂が、
こっちの人間に入り込むこと自体前代未聞なのよ。霊が取り憑いた場合は、
そのまま浄化して天界に行かせるから…多分梨々花も天界に行って、
この世界で転生って形にはなると思う。
ただ、本当に最悪の場合…魂の消滅も覚悟したほうがいいと思う』
『魂の消滅に関しては、梨々花がこの世界にとって
いてはならない存在でもない限り、よっぽど無いと思うけどね。
ただ、申し訳ないんだけど…人間の身体に、本来とは違う魂が入っている
状態っていうのは、世界の秩序を揺るがすの。わかりやすく言うなら…
世界のアンク・クローヴェルに対する認知が歪んでしまう。
そうなれば、今はまだよくても…いずれあらゆる人への認知が歪んで、
この世界が人を認知できずに壊れてしまうわ』
カーロさんとティタに言われた言葉が、脳裏によぎる
(カーロさんは、初めからこの世界に“私”がいることも、
ティタとの会話も知ってたってこと……?)
カーロさんの底知れなさに、思わず冷や汗が出る。
アンクさんがあそこまでカーロさんを嫌い、警戒する理由を
改めて、身をもって教えられた
きっと……カーロさんは私がこの“事実”に
気付けるようにするために、あんな言葉を言ったのだろう
(ていうかあの子、王宮って言ってたよね。
…もしかしてアーサーさんがほぼ確実に
特別視してる、今回参加してる子って……あの子!?)
いや、まあ、おかしくはない。
さっきのあの子、自分で言っちゃうのはアレだけど、
充分可愛かったし……
(でもなんか……可愛いけど、推定別世界の自分を特別視してるのは、
ちょっと複雑だなぁ!!!)
「クローヴェル伯爵、次は私と踊っていただけませんか?」
そんなこんなであれこれ考えていると、
次の令嬢からの誘いが来てしまった
(…しょうがない。今は考えるのは後にして、踊りに集中しよう)
「えぇ、喜んで」
そうして、何曲か色んな人と踊り……
いよいよ、次が最後の踊りとなった
(まあ、令嬢達がアンクさんを巡って、何回か
争い合うような目で睨み合ってたけどね……)
そう思いながら私は、4人程の令嬢が目の前で睨み合う様子を、
困惑しながら眺めていた
(いくらアンクさんが美形とはいえ……一応人様というか、
公爵令嬢様主催のサロンだから、あくまで無言だけど……
気まずい!!気まずいよぉ!!)
「失礼。クローヴェル伯爵の最後のお相手…
私が貰ってもよろしくて?」
内心でそう叫んでいると、キリッとした声が耳に届く。
そちらの方を見ると、今回の主催者…アリーヴェルナ様がいた
「こ、これは、アリーヴェルナ様。
ごきげんよう」
「えぇ、ごきげんよう」
令嬢達が慌ただしくカーテンシーをする。
それに合わせ、アリーヴェルナ様もカーテンシーをした
「それで、お返事は?」
「ど、どうぞ。アリーヴェルナ様がクローヴェル様と踊られるなら、
私に異論はありませんわ」
一人の令嬢が、アリーヴェルナ様の威圧を受け、顔色を変えながら喋る。
他の三人も、無言でなんども頷いていた
「あら、ありがとう。では…改めて、クローヴェル伯爵。
私と、踊ってくださいまし」
「……勿論です。アリーヴェルナ様」
否と言わせないような目線と、アリーヴェルナ様自身の立場には勝てず…
私は、ものすごい緊張を感じながら、アリーヴェルナ様の手を取った
最後の、ダンスの曲が流れる。
周りの目線を、一身に感じる
(まあ、そりゃ皆さん見ますよね……)
なにしろダンス相手は主催者張本人だ。
誰もが見るに決まっている
ただ以外にも、アリーヴェルナ様とのダンスは静かだった
(なにか話したいことがあったから、誘われたと思ったんだけど…
っと、いけないいけない。ミスったらアンクさんの立場的にもマズイから、
集中しなきゃ…!)
そう思い、過去最大級に集中して、踊り続ける。
そして__ようやく、終わりを迎えた
ダンスが終わり、周りからは拍手が送られている
「皆様、本日は私主催のサロンに来てくださり、
ありがとうございました。皆様が有意義な時間を過ごし、
有意義な関係を築けたのなら…私も嬉しく思います」
その場で、アリーヴェルナ様が締めの挨拶をし…
全員が帰る準備をすることになったため、
私もアリーヴェルナ様にダンスの礼を言い、
帰る準備をすることにした
「アリーヴェルナ様。最後に、私と踊る名誉をくださり…
ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、最後に噂のあなたと踊れてよかったですわ。
それで、最後に…個人的に少し喋りたいのですが、よろしいかしら?」
(え)
目の前で、アリーヴェルナ様に言われた言葉に困惑するも…
「……わかり、ました」
ここで断ると色々マズイので、
私は折れるしかなかった
…
「どうぞ、私の部屋ですわ」
アリーヴェルナ様に案内され、
私はアリーヴェルナ様の部屋の前に来る
ちなみに私の後ろには、ちゃんとコチェールも来ていた
「では、失礼します」
「…あぁ、入る前に。少し、内密な話がしたいので……
そこの執事は、席を外させてくれると嬉しいわ」
「っ、それは…」
アリーヴェルナ様の言葉を聞き、
コチェールが表情を変える
(わかる、わかるよコチェール!
私もあんま離れたくはないけど……
ごめん、コチェール…!)
「勿論です、アリーヴェルナ様」
「伯爵様…!」
(ごめんねコチェール!さすがに断ったら色々マズいから!)
そう思い、心を鬼にして、私はコチェールに続ける
「コチェール、お前は扉の前で待っていろ。いいな?」
コチェールにそう言い、最後にコチェールに教えてもらった、
瞬きを使った会話…要はモールス信号を使って
『なにかあったらよろしく』と伝えた
「…承知、いたしました」
コチェールは渋々了承し、その場から離れる
そして、私はアリーヴェルナ様の部屋に入室した
「それで、わざわざ防音効果のある魔法が使われた部屋で、
内密な話とはなんでしょうか?」
緊張で胃が少しキリキリしながらも、
アンクさんとしての威厳は保ちながら、
私はアリーヴェルナ様に質問する
「あら、気づいてたのね」
「アプトワーズ公爵家であれば、いくら別邸であろうと、
それくらいはしているであろうという予想です。
…それで、どんな話を?」
そう言い、アリーヴェルナ様の話を
緊張しながら待つ
「……単刀直入に聞くけど、
あなたは転生者?」
(………はい????)
「…なぜ、そのように聞くか、理由をお尋ねしても?」
「第一に、私が…いえ、私がそうだから。
第二に、あなたがゲーム内とは全く別の行動をしてるからよ」
「ゲーム…???」
アリーヴェルナ様の言葉に、思わず単語をオウム返ししてしまう
(ゲームってことはこの世界、ゲームの世界なの…?)
その疑問に答えるように、アリーヴェルナ様は喋り始めた
「あなた、白魔法使いと魔法のような恋…
『シロコイ』を知らないの!?!?」
「初耳……ですが…」
アリーヴェルナ様の口から出た単語は、
私が聞いたことない、おそらく、ほぼ確実に乙女ゲームのタイトルだった
(この世界が乙女ゲームなら、やけにイケメンが多いのも納得できるわ……)
それくらい、この世界には美形が多かった。
コチェールだって焦げ茶の髪だけど、めっちゃ美形だからね!?
ただそうなると、なぜ生前の私と見た目が同じ、
しかも名前と声まで同じ子がいるのかがわからないけど…
(気にしたら負け…?それとも、よくある乙女ゲームの世界…
つまりガチでゲームの世界じゃなくて、それを元にした的な異世界で、
平行世界だから…?)
「ちょっと!聞いてるの!?」
「あ…申し訳ありません。少し考え事を…」
「あなたねぇ!!!」
アリーヴェルナ様に軽めに怒られてしまうが、
これで済ましてくれる辺り、本当にこの人は
転生者なのかもしれない
「…それで、なぜ私をここに…?」
恐る恐る、アリーヴェルナ様…
もとい、アリーヴェルナさんに、
先程聞き損ねた本題を聞いてみる
「……私ね、このゲームだとアンク…
エドガーが推しなのよ。だからこの世界に
転生した時、悔しかったわ。
主人公になれなかったんですもの」
この世界が乙女ゲームと知って
薄々気付いていたが、どうやらアンクさんは
攻略対象の一人…らしい
おそらくだが、アーサーさんもそうだろう。
あの見た目と過去で攻略対象じゃない訳がない
アリーヴェルナさんは、引き続き語っていく。
心なしか、私を見る目付きが鋭くなってきていた
「まあ、そこは別にいいわ。
問題は…よりにもよって最推しのアンクに!
あなたが入り込んだことだもの!!」
(……やっぱり、こうくるかぁ…)
アリーヴェルナさんに、
怒りに染まった目を向けられながら、
私は内心、ですよねーという感じでそう思った
「なんで、なんでアンクに入ったのよ!
それに、あなたのせいでシナリオから凄く逸れてるし…!
もう色々と滅茶苦茶なのよ!!!どうしてくれるのかしら!!」
「勝手に色々やってるのは、私も申し訳ないと思ってます。
一応、一年…早かったら半年後には元のアンクさんに戻ってるので、
そこまでお待ちいただければ……」
「最短で半年!?!?そんなに待たなきゃいけないの!?
嫌よそんなの!!それじゃ意味無いじゃない!!!」
「そう言われましても、私にはどうにもできないので……」
私だってなんとかするために方法を探して、
もう見つけたから待っているのだ
ゲームシナリオをぶっ壊してるのは申し訳ないけど、
ここの人達はちゃんと生きてるし、色んな人が喜んでるし……
罰がお望みなら、アンクさんに戻す際に私の魂がほぼ確で
消滅するので、それで納得して欲しい
「……そ、いいわ。
帰りなさい。命令よ」
「……わかり、ました」
以外にもアリーヴェルナさんにそう言われたため、
私は恐る恐るお辞儀をして、部屋から退出した
(……とりあえずは、許された…?
でも、明らかに怒っていたよね……)
そう思いながら、部屋の前に待機していた
コチェールと合流する
「!伯爵様、戻られましたか。
行きましょう、帰宅の準備は既に整っております」
「あぁ、礼を言おう」
そして私達は、外にあった馬車に乗り……
ようやく、帰路につくことになった
「……アリーヴェルナ様との会話は、
大丈夫でしたか?」
「……一応は、ね。
ちょっと……機嫌を損ねちゃったから、
そこだけ心配かな」
一瞬、この世界が乙女ゲームなのを
言おうか悩んだが、言っても伝わらないし、
なにより…もし仮に乙女ゲームの世界そのまま
なのだとしたら、この世界は誰かに作られた世界だなんて、
伝えたくなかった
「そうですか……いえ、とりあえずはご無事でよかったです」
「うん、私もそう思う。ただ……
それとは別に、ちょっと、気になることがあって」
「気になること、ですか?」
この世界が乙女ゲームだと伝えない代わりに……
これだけは伝えなきゃいけないと思い、
言葉を口に出す
「うん……ダンスの時にさ、アプリコット色の髪をした
女の子と踊ったじゃん?」
「はい、踊っておられましたね。
…そういえば、彼女を見た時、随分と驚いておられましたが……」
「………あの子はね、髪や目の色は違うけど……
確かに、私だったの」
「っ、それは……どういう……」
「…私にも、何が何だかわかんない。でも、
どう見ても外見は前世の私だし、名前と声も一緒だったし、
王宮で、白魔法使いとして働いてるって言ってた」
「…ティタ様は、魔法は魂が発生源と仰られてましたよね。
偶然、一致していたにしても……あまりにも一致しすぎています」
「うん、私もそう思う。
…私の世界には、平行世界…パラレルワールドっていう、
概念…?みたいなのがあってさ。要は複数の似た世界があり、
それぞれの世界にそれぞれの私達がいる…って感じなの。
それがもし、本当にあるなら……多分あの“私”は、
この世界版の私だと思う」
「となると……」
コチェールが察したように、私を見る
「……うん。今、ここにいる“私”は……
やっぱり、イレギュラーだと思う」
「っ、そんな事はありません…!少なくとも、私にとっては…!」
「……ありがとう、コチェール。
そう言ってくれるだけでも、嬉しいよ」
そうこうしてる間に、
アンクさんの屋敷が見えてくる
「…とりあえず、帰ったらこのことを
エディーに話して、ティタにも話そう」
「そう……ですね」
いままでにないぐらい、
気まずいような空気が、
馬車の中を包む
(なんてことはない。私がこの世界にとってイレギュラーだって事が、
明らかになっただけだ)
世界のために、私の魂は、きっと消される。
怖くないと言えば嘘だが…元々死んでるので、
仕方ないと思っていた
(ただ、やっぱり、アリーヴェルナさんの事が気になるな……)
アリーヴェルナさんと話して、
個人的にあの噂話の信憑性が増した
アリーヴェルナさんが噂通り、欲しいものは絶対手に入れる主義で、
なおかつ、最短の半年後でも意味が無いのなら……
なにかをしてきそうではある
私は少し、胸騒ぎを覚えながらも……
既に帰ってきているであろうエディーの元へ、
まずは向かうことにした




