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伯爵になってしまった前世普通の一般人は、持ち主に身体を返したい  作者: 天川


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7/9

7:サロン会場

「ここが、かのアプトワーズ公爵令嬢のサロンが行われる場所か」


 アリーヴェルナ様主催のサロン会場に着き、

 アンクさんの口調で思ったことを口にする


 アリーヴェルナ様のサロン会場は本邸ではなく、

 公爵基準だと比較的こじんまりとした別邸だった


 とはいえ、庭園や屋敷のあちこちにアプトワーズ領の

 代表である、美しい薔薇が飾ってあり、

 控えめながらも豪華で華やかな雰囲気となっていた


(エディーが聞いた噂話だと、アリーヴェルナ様って結構高飛車というか、

 ザ・悪役令嬢って感じらしいんだけど…比較的質素な別邸でやるのは意外かも)


 私が事前にエディーから聞いた噂話だと、

 アリーヴェルナ様は領地を象徴する赤い薔薇のような美しい赤い髪に、

 それを引き立てるような黒い毛先を持つ方で、

 公爵令嬢らしく高貴に振る舞い、身分に関することは厳しい。

 そして、欲しいものは絶対に手に入れたい主義らしいのだ


 まあ、聞いたのもあくまでエディーが聞いた噂話だから、

 真相はまた違うのかもしれない


 そんな風に思っていると、丁度アリーヴェルナ様がサロン開催の挨拶を

 する時間になっていた


「本日は(わたくし)、アリーヴェルナ・アプトワーズ主催のサロンにお越しくださり、

 誠にありがとうございます。学園を卒業して、初めて(わたくし)個人が

 開くサロンではありますが、有意義な交流ができれば嬉しく思います」


 開催の挨拶が終わり、周りの貴族達が早速交流をし始める


 私はあまり目立たない壁際に行こうとしたのだが…

 数十名の貴族達が、既に私の方へと向かっていた


(あっ、ヤバいぞこれぇ…!!)


 笑顔で一斉に迫ってくる貴族達に、冷や汗が出る


 そしてこの予感は的中し……そこからはもう大変だった


 次々と押しかけて来る貴族達の情報を必死に思い出しては、

 とにかく愛想笑いでお世辞を言い続け、商談やらを色々とかっさばいていた


「クローヴェル伯爵様、お会いできて光栄です」


「…これはこれは、ニュールック伯爵。私もお会いできて光栄です」


 …丁度、こんな風に。

 そう。実は全然まだ…かれこれ2時間ぐらい、

 この状況が続いている


「よければ是非、我が領地を使った物を使い、商売をしませんか?」


「前向きに検討いたしましょう」


 貴族様方の列をちらりと見ると、まだまだ列が十人程残っている


(そろそろ……そろそろキツい……!!

 誰か、誰か助けてぇ……!!)


「失礼、少しいいかな」


 心の中で悲鳴をあげ助けを求めていると、

 丁度、横のほうから聞き覚えのある声が聞こえてくる


「彼は私の友人でね。少し二人きりで話がしたいんだけど、構わないかな」


 声がするほうを見ると、クリーム色の髪に、淡いエメラルドグリーンの瞳、

 そして海や空のように明るい青いマントを身につけた、

 まさしく白馬の王子のようなイケメンがいた


(この人は…アンクさんの記憶で見たことがある人だ)


 アーサー・ジェハルド公爵。

 22歳という若さで公爵になった人であり、騎士団隊長でもある方だ


「ジェハルド様!?も、勿論でございます!!どうぞ、ごゆっくり…」


「ありがとう。それじゃ行こうか、クローヴェル伯爵」


「…はい」


 そうして、私達はアーサーさんに割り当てられた部屋へと案内された


「……助かりました。礼を言います、ジェハルド公爵様」


「今は二人きりなんだから、いつも通りでいいよ。アンク」


「………わかった」


 コチェールも部屋に入っているので、二人きりではないのだが…

 コチェールなら絶対に口を外さないと知っているからか、

 アーサーさんは私…アンクさんに向けて、いつもの口調で

 笑いながら喋る。そんなアーサーさんの笑みに、私は渋々答えた


 アーサーさんとアンクさんは、旧友…とまではいかないが、

 それなりに付き合いがある。


 アーサーさんとの出会いは、クローヴェル領に危険な魔物が出た時に、

 アンクさんが騎士団…主にアーサーさんと共に討伐したのがきっかけで、

 そこで戦友になったのだ


 まあ、アンクさん的にはあくまで、アーサーさんのことは

 一時的に背中を預けた仲らしいけど…


 とはいえ、お互い二人きりの時は素で喋るぐらいには仲がいいので、

 アーサーさんはアンクさんの数少ない友人……

 いや、親友のような判定でいいはずだ


「それにしても、まさかお前がこのような場に参加しているとは。

 珍しいこともあるものだな、アーサー」


「君は僕をなんだと思っているんだい?

 確かに、騎士団長だからこういうのには参加しずらいけど…

 予定が合えば、ちゃんと招待には応じるよ。

 僕としては、君がいるほうが珍しいと思うけど…」


「心底面倒だが、さすがに公爵令嬢の誘いを断るわけにはいかないだろう。

 ……だが、お前は王国の騎士団隊長だろう。

 いくら公爵令嬢の誘いとはいえ、予定を合わせられる程

 暇ではなかった筈だが?」


「……まあ、ね。うん、今のは表向き。本音を言うと…

 王宮でずっと気にかけてた子が、参加してるって聞いてね」


「ほう?」


 私の記憶の中では、アーサーさんがこんな表情をすることは無い。

 つまり……


(もしかしなくとも、恋バナの気配…!!)


 私は、こういう恋バナとか大好きな類の人間だ。

 特にアーサーさんほどのイケメンなら、絶対いいものが、

 それこそ乙女ゲームのシナリオ並のものが聞けるはず__!!


 すぐに聞きたい気持ちを抑えつつ、あくまでアンクさんとして、

 冷静を装ってアーサーさんに聞いていく


「お前自ら王宮で気にかけるとはな。

 そこまでの者なのか?」


「うん。ほら、1年前に“和平交渉”の名目で、

 他国から平民の白魔法使いを引き取っていただろう?

 僕は、この制度をよく思っていないけど……

 ここに参加してるのは、その内の一人なんだ」


「……成程な」


 アーサーさんの言葉に、納得する


 カディア王国は武力が強いが、それを支える白魔法使いが足りない。

 そのため“和平交渉”として、武力を貸す代わりに何人か、

 平民の白魔法使いを引き取る交渉が昔からある


 アーサーさんは、この“和平交渉”をよく思っていない


『例え和平交渉のためとはいえ、平民をなんの説明も無しに

 ここに連れて来て、王宮に縛り付けるのは…僕はよくないと思う』


 これは昔、アーサーさんが真剣に語ってくれた言葉だ


 実はアーサーさん、今でこそ公爵ではあるが、王族…第一王子でもある。

 幼い頃に公爵夫人であった母を亡くし、お父上である国王が

 現王妃と結婚して弟ができたことで、王位継承問題が勃発したのだが…


 アーサーさんのお母様の実家、ジェハルド家の後継者がいない

 というのと、弟のほうが王に優れているという

 アーサーさん自身の判断により、王位継承権を辞退して

 公爵になった人だ


 ちなみに過去、アンクさんが

『和平交渉をよく思わないのであれば、

 何故自ら王位継承権から降りたのだ?』と聞いたら


『幸い、ルシャールも同じ考えみたいでね。

 彼が同じ考えを持ってくれているなら、

 心置きなく託せるってことさ』

 と言っていたので、弟さん…

 ルシャール王太子も同じ考えらしい


『和平交渉の件は、ルシャールがより良い形にしてくれるって

 信じてるし、兄として応援も協力もするけど…それでも、時間がかかる。

 僕は、王位継承権を辞退したけど…王族として、

 あの和平交渉で捕虜とされた人達の、面倒を見る責任がある。

 それに…僕個人としても、彼らを気にかけてあげたい』


 アーサーさんはその考えから、他国から来る

 白魔法使いの面倒を見に、わざわざ王宮に

 見に行っていると言っていた


 白魔法は貴重だから、例え平民でも

 こういった場所に誘われると、

 アンクさんの記憶で聞いたことがある


 アーサーさんが気にかけるのも、当然と言えるだろう


「お前がここにいる理由はわかった。

 なら、俺とこうして話さず、その白魔法使いを

 探したほうがいいと思うが」


「あはは、そういうところは変わってないね。

 __ありがとう。君の最近の噂を聞いた時は驚いたけど、

 いつものアンクで安心したよ」


 アーサーさんの笑みにドキッとしつつも、少しだけ罪悪感を覚える。

 だって私は、アンクさんの身体に何故か入ってしまった、全然他人なのだから


 いつものアンクさんのように喋ってはいるが、

 内心ものすごく色んな緊張で心臓がバクバクしていながら、

 引き続きアーサーさんと喋り続ける


「はぁ…『救世伯』の噂か」


「そうそう、それ。ホントにびっくりしたんだよ?」


「…復讐が終わり、領地を無下にしていた責任を取っているだけだ。

『救世伯』などと呼ばれるような筋はない。

 ……それで?何故探しに行かないんだ?」


「……彼女を探したいのは山々だけど、ほら、

 僕が付きっきりだと、彼女がかえって目立ってしまうからね。

 彼女のためにも、近づきすぎないほうがいいんだ。

 彼女がこの貴族社会で、生きていくためでもあるから」


 “和平交渉”の名目で連れられた平民は、

 王宮で働く代わりに、貴族と結婚できる制約がある


 王宮で暮らせて貴族とも結婚できると言えば

 聞こえはいいけど……貴族との結婚はほぼ強制。

 要はただの、貴族や待遇を餌にした国への束縛だ


「成程な。だが…想いを寄せているのなら、

 奪われんうちに近づくのがいいのではないか?」


 アーサーさんの言葉や表情から察するに、参加しているのは女性で、

 アーサーさんが特に気にかけている方だ


(アーサーさんの恋バナなんて、聞きたいに決まっている…!!)


 私はそんなアーサーさんから恋バナを聞き出すため、

 アンクさんっぽく悪い笑顔を浮かべて聞いてみた


 まあ私の正体がバレたら不敬なんてレベルじゃ済まないけど、

 恋バナには変えられないからね!!


「い、いや、僕はそういうのじゃ……

 あーもう!からかってくるのは相変わらずだなぁ…!」


「悪かった。生憎、友人をからかうのが趣味なのでな」


 ……残念、アーサーさんは恥ずかしがって喋ってくれませんでした


「もう……でも、君は気づいてないかもしれないけど、

 前より表情が明るくなってるよ。アンク」


「……そう、か?」


 前よりも表情が明るいと言われ、内心ドキッとしながら答える。

 アーサーさんは勘が鋭いから、油断が一切できない


「うん。エディー嬢の体調が良くなったのも理由の一つだろうけど…

 なにか、いいことでもあったのかい?」


「……そうだな。最近、友と呼べる者が増えた。それのせいかもな」


 嘘は言っていない。なので、自然に通せるだろう


「へえ、君に友!それはたしかにいいことだね。

 今度、是非僕にも紹介してほしいな」


「断る。そもそもの話、公爵が気軽に動こうとするな。

 王族なら尚更な」


「えぇー、ケチだなぁ……じゃあ、お忍びならいいよね?」


「よくはないだろう」


「まあ、そうだね。でも、アンクは小言こそ毎回言うけど、

 こうやって、僕と対等に話してくれるよね。

 僕は、君のそういうところが好きだよ」


 そう言いながら、アーサーさんがはにかむ。

 キラキラと効果音が出ていそうな微笑みと

「好きだよ」という言葉に、私の乙女心が大暴走しそうになる


(落ち着け私!!!今の私はアンクさん!!

 今の私はクローヴェル伯爵!!!)


「……まったく、相変わらずの人たらし癖だな」


(…よし、できる限り、アンクさんがしても

 違和感無いくらいには、赤面抑えれた…!)


 本当は赤面しないのが一番だが、今回ばかりはしょうがない。

 演技は完璧ではなく、臨機応変に対応するのが重要だし、

 無理矢理隠すよりかは多少晒したほうが自然だ


 アーサーさんは王道系のイケメンなだけあって、

 本当に顔がいい。というかこの世界、異世界のせいなのか

 やたらと美形の比率が多すぎる


 私は生前、演劇部でメイクや衣装でイケメンになった自分や他の部員達を

 見ていたけど、やっぱり素で本物のイケメンは格が違う。

 今のも、あくまでアンクさんに向けてのセリフだったから助かったけど、

 そうじゃなかったらアーサーさんのセリフと顔で死んでいただろう


「おや、照れているのかい?」


「照れるわけがないだろう」


 そう言いながら、できる限りアンクさんらしく、

 少し申し訳なく思いながらアーサーさんを睨む


「ふふ、そういうことにしておこうか。

 急に邪魔してごめんね、アンク。久しぶりに君と話せて楽しかった。

 機会があったら、また会おう」


「……あぁ、機会があればな」


 そう言い、私達は部屋から退出して、アーサーさんと別れた


(本当に演劇部でよかった………)


 アーサーさんのことはアンクさんの記憶で知ってたけど……

 これはやばいわ。破壊力がやばい。乙女心を持ってたら脳が物理的に焼かれる


 今は演技モードのスイッチが入ってるからなんとか表情は保てているが、

 素だったら今頃、私の顔は赤くなっていただろう


(アーサーさん、いったい今まで何人の令嬢を恋に落としたんだ……)


 ちらりとアーサーさんのほうを見ると、既に何人かの

 貴族・令嬢方に囲まれており、先程とは違う

 万人に向けた、にっこりとした社交界用の笑みを浮かべながら

 会話していた


(これで本命は別にいるんだから、アーサーさんも罪な男だなぁ……)


「伯爵様、こちらもお相手が来ています」


「あ、あぁ…」


 私がぼんやりと考え事をしていると、コチェールが小さく耳打ちしてくる。

 そちらを見ると…既にこちらにも、大量の貴族達が再び群がってきていた


 そうだ。不可抗力だけど、人気者はアーサーさんだけじゃなかった


(………や、やってやろうじゃないの…!!)


 私は深呼吸をし、覚悟を決めて…交流という名の、

 群がってくる貴族や令嬢達との戦いのゴングを、

 脳内で鳴らした



 ……




「つ、疲れた……さすがに疲れた……」


 休憩用に用意された自分の部屋で、

 ぐったりとしながらソファにもたれかかる


 あれから1時間程貴族達を捌き続け、現在は社交ダンスまでの

 準備時間となっていた


 厳密に言えば、今は着替えをする時間なのだが…

 私は既に着替えたため、こうしてゆっくり休憩できていた


「お疲れ様です。どうぞ、コーヒーです」


「ん、相変わらずいい香りだ……」


「えぇ、本当にそうですね」


 突如、後ろから聞き覚えのある男性の声が聞こえ、

 驚きのあまり身体が硬直する。声の主を確かめるべく、

 ゆっくりと振り返ると…そこには、赤い瞳を三日月のように

 細めながら、にんまりと笑う男性がいた


「貴様、アルドゥマシア…!!」


 彼の顔を認識した直後に、できるだけアンクさんらしく、

 素早く後ろにいた相手を睨みつける。

 彼は、アンクさんの記憶で何度か見たことがある人だった


 __カーロ・アルドゥマシア


 一代にしてアルドゥマシア商会を作り上げた人であり、

 表向きには、市民向けの高価な物を売っていたり、慈善活動をしている人だ


 そして…貴族相手には、王族ですら手に入るのが

 困難な宝石や美術品などを割安で提供し、必要なら

 黒魔法すら売るのだ


 この“黒魔法を売る”というのは、

 実際に売っているわけではなく、カーロさん自身が

 熟練の黒魔法の使い手で、代価と引き換えに

 黒魔法を行使している…という噂だ


 カーロさんが貴族に対し、あまりにも怪しい商売をしているのは明らかだが、

 残念ながら、貴族は清い人があまりいない。

 黒魔法の真偽を置いておくにしても、

 あまりにも貴重な代物を割安で提供するカーロさんを

 捕まえようとする貴族は、多くないのだ


 それに仮に捕まえようにも、カーロさん自身は直接関与しておらず、

 また関与した痕跡を徹底的に消していたため、捕まえることができなかった


 そして、カーロさんが貴族から見逃されている一番の理由が…

 貴族との契約だ


 カーロさんは貴族との契約も承っており、

 対価さえ払えば、文字通りなんでも願いを叶えてくれる、

 という噂がある


 実際、カーロさんと契約した貴族は大成しており、

 中には男爵から一気に侯爵になった人がいるほどだ。

 だからこそ、貴族の間でカーロさんの取り合いが起きる


 そして、貴族が破滅する様子を、カーロさんはもっとも好むのだ


 なぜここまでカーロさんについて詳しいのかと言うと、

 アンクさんの復讐相手に必ずと言っていいほどカーロさんが関わっており、

 アンクさんを気に入ったのか、わざわざ自分の痕跡を一部分だけ残したり、

 復讐の妨害したり『意地悪』をしたり…


 とにかく、アンクさんにとって因縁の相手なのである


「お久しぶりですね、クローヴェル伯爵」


「貴様…いつからそこにいた…!!!」


「先程、でしょうか。ただ…あなた方が

 部屋に入った時からかもしれませんよ?」


「貴様…!」


 コチェールが珍しく、怒りを露わにする


 そうだ、なにも因縁があるのはアンクさんだけじゃない。

 コチェールを奴隷へと陥れた人にも、カーロさんは間接的に

 関わっていた。コチェールからすれば、仇と言っても過言じゃない


「待て、コチェール…!」


「おっと。首を狙うのは勘弁していただきたいですね、コチェール」


「ガッ…!!」


「コチェール!!」


 コチェールを止めようとするも、時すでに遅く、

 私が瞬きをした後には、既にカーロさんの首元に

 ナイフを突き立てようとしていたコチェールの襟が、

 カーロさんに掴まれてしまっていた


(コチェールを助けなきゃ…!)


 そう思いながら魔力を使い、アンクさんの剣を手元に呼び出す。

 そしてカーロさんを睨みながら、剣先を向けた


「武器を収めてください、クローヴェル。

 今回は事を大きくするつもりありませんので。

 それに…コチェールを傷つけたくはないでしょう?」


 カーロさんが悪い顔をしながら、こちらにコチェールを向ける。

 実質人質にされたコチェールを引き合いに出され、私は渋々武器を収めた


「……これで満足か」


「ありがとうございます」


 そう言い、にっこりと笑いながら、

 カーロさんはコチェールから手を離した


「さて、では話をしましょうか。クローヴェル。

 いえ……クローヴェルに乗り移った、魂殿?」


 カーロさんの言葉に、ゴクリと唾を飲む


「…なんのことだ」


「そう警戒なさらないでください。

 私はただ、確認がしたかっただけなんですよ」


「確認だと?」


「えぇ…なにせ、血に染まったあなたが『救世伯』だなんて、

 聞き間違いかと思いまして。これは自分の目で確かめなければ、と。

 とはいえ、中々良い魂が乗り移っていたのは誤算ですが」


「……なにが目的だ」


 部屋に入ってからの素を見られてたとしても、

 別人と入れ替わっている可能性だって考えられるだろう。

 なのにカーロさんは、私がアンクさんの身体に入っていることを

 知っているかのように喋っていた


 確信が持てないのは、アンクさんの記憶の中で、

 とにかくカーロさんは信用してはいけない相手だと

 アンクさんが思っていたからだ


 彼の言葉は、私の発言を誘うためのブラフかもしれない。

 だから、たとえもうバレているとしても、警戒は外せなかった


「素で喋ってもいいと思うのですが…

 もしかしなくとも、私を疑っていらっしゃいますね?

 なんと悲しい……」


 そう言うと、カーロはさん大袈裟に悲しそうな表情をする


「では、証拠を少し言い当ててあげましょう。

 そうですね…あなたの名前はリリカで、生前は

 学生で演劇部。野原に咲いている可憐な花を見るのと、

 カヌレのような少し凝った菓子を、自分で作って食べるのが

 好きな、とても可愛らしいお方…違いますか?」


(え…どうして、そこまで知ってるの…!?)


 途端に目の前にいるこの人が怖くなり、背筋がぞっとする。

 自分の名前と演劇部なのを知っているのは、

 もし仮に、アンクさんの屋敷に盗聴器の類が仕掛けられてたら

 知ってることだから、まだ警戒してたのだが…


 私の、小さな趣味。

 これはまだ、この世界の誰にも言ってないことだった


「驚かれましたか?私の瞳は、少々特殊でして。

 いわゆる…魔眼、と呼ばれるもので、エディー嬢のように、

 魂を見ることができるのですよ」


 カーロさんがそう言うと、彼の赤い瞳が怪しげに光った


「それと、もう一つ証拠を言ってさしあげましょうか。

 クローヴェルが私を嫌っているのは、ご存知ですよね?

 …彼はね。怒りを感じると、魔力の影響で瞳と毛先の色が変わるのですよ。

 今のあなたのような青の瞳と、透けるような灰の毛先ではなく……紫にね」


「…!?」


 それは、初耳だ。

 思わずコチェールのほうを見ると、

 コチェールは申し訳なさそうにしながら口を開いた


「…奴の言っていることは、本当です」


「知らなかった……」


 記憶では一人称視点だったので、私視点だとアンクさんの顔が見れない。

 …でも、仮に見えてたとしても、どの道バレていただろう


 なにせ私は、あくまで“アンクさんの過去を見ただけ”だ。

 アンクさんの怒りやらは知っているが、それはアンクさんの怒りであって

 私のじゃない


 アンクさんに優しくしてくれた人達に恩返しをしたいと

 考える程には感情移入しやすい私だが…


 ぶっちゃけた話、カーロさんを警戒はすれど、当事者でもない私が

 カーロさんに向けて本気で怒るなど、無理な話だった


(本気で怒る演技はできるんだけどね……

 まさか、怒ると目と毛先の色が変わるとは……

 毛先は気づきそうだけど、アンクさんの記憶の視界だと

 気づかなかったな……)


「…それで?カーロさんはこのことをバラすつもりなんですか?」


 これ以上の演技は無駄だと考え、私はじろりとカーロさんを睨み、

 少し警戒をしながらカーロさんに問いかける


「おや、私に向かって敬語とは。

 私のことをあらかたご存知なら、

 敬語はしないと思っていたのですが」


「警戒はしてますよ。ただ、それと敬語で話すのは別でしょう?

 見ず知らずの相手にタメで話すような人間じゃないですし」


「…成程。あぁそうそう、今回は別の要件で来ましたので、

 あなたのことは他言無用にいたします。必要であれば、

 契約をいたしましょうか?」


「いえ、なんか色々仕込んでそうなので遠慮します。

 それで、その要件ってなんなんですか?」


「先程申し上げた通りですよ。

 あなたを一目見るために会いに来たのです」


「本当にですか??」


「えぇ、本当ですよ」


 あまりの胡散臭さに訝しむと、カーロさんはグイッと私に近づき、

 至近距離でにっこりと笑った


(ま、まずい……)


「あの……近いんですけど…」


 できるだけカーロさんから目を逸らしながら、私はそう言う。

 カーロさんの顔面を至近距離で浴びたら、色々とまずい


「…おや?おやおや?

 もしや、私の顔は好みでしたかな?」


 ぎくり、と思わず仰け反る。

 思いっきりカーロさんから目を逸らすが、

 カーロさんはそんな私を見て、ニヤニヤとしながら視界に入ってきた


「〜〜!悪かったですねぇ!特別好みではないですけど

 好みですよ面食いなので!!リアルではぜっっったい

 お付き合いしたくないですけどね!!!」


 そう、私はイケメンが好きだった。

 勿論恋愛的な意味ではなく、推し的な意味でだ


 入院時代にプレイした恋愛ゲームにハマり、

 それからそこそこ色んな恋愛ものをやっていくうちに、

 色んなタイプの推しができた


 その推しの一人に、カーロさんは外見と喋り方が似ていたのだ。

 ……実を言うと、アーサーさんもそうだった


 というかそもそもこの世界、本当に美形が多すぎる。

 目の保養すぎて、かえって目が潰れそうなレベルで多すぎるのだ


 今までは色々あってまだ耐えれていたけど……推しに似ている

 カーロさんに至近距離で近づかれたら、しょうがないと思うんだ


「リリカ様……」


 コチェールが若干…いや、かなりドン引いた目で私を見てくる。

 視線が痛い


「ご、ごめんてコチェール…でも好みはしょうがなくない!?!?」


「アッハハハハハハハ!!仮にもクローヴェルの口から、

 私のような男が、好みと出てくるとは…!」


 笑いのツボに入ってしまったらしく、カーロさんが大爆笑をする。

 数秒の間笑ったあと、笑いで少し出た涙をハンカチで拭いて話しかけてきた


「あなたは私が思っていた以上に、大変面白いお方のようだ。

 画策していたこと全てが『惜しい』と感じるほどに…

 ですので、一つだけ忠告しておきましょう。リリカ嬢」


「忠告…?」


「噂には、どうかくれぐれもご注意を。貴族にとってそれは、

 世間を巻き込む陰謀のようなものですからね。

 …あぁ、それと。あなたがした『商品の革命』は…あなたの存在は、

 世界にとって、許されるものなのでしょうか?」


「…それ、は」


「ふふ。このサロンが終わった後に、よぉく考えてみてください。

 それでは、今回はこれで。是非ダンスを楽しんでくださいね。

 また会えるのを、楽しみにしてますよ。リリカ嬢」


 そう言うと、カーロさんは煙のようにいなくなってしまった


「リリカ様。奴が言ったことは、どうかお気になさらず。

 最後の言葉はきっと、あなたの心を惑わすためのものです。

 …忠告のほうは、わざわざ言うということは、もう仕掛けているのでしょう。

 これは、帰り次第こちらで対処いたします」


「え、あ…うん、わかった。

 …そろそろ、ダンスの時間だね。行かないと」


 なんとなく、忠告は気まぐれに教えてくれた、本当の忠告な気がするが…

 カーロさんの沢山の前科を考えると、たしかにもう手を回している可能性がある


 ただ、それよりも…私は去り際にカーロさんが言った言葉が、

 棘のように引っかかっていた


(…ううん、今はやめよう。とにかく今は、目前のことをやらなきゃ)


 そうして、私は気持ちを切り替え、

 演技スイッチもオンにし、部屋を出た


「それでは、これより社交ダンスを始めさせていただきます。

 皆様、是非ダンスをお楽しみください」


 アリーヴェルナ様の言葉に、貴族達の拍手が鳴り響き、

 音楽が流れ始め、次々とダンスの誘いをし始める


(私も誰かを誘わないと…)


「あの、クローヴェル伯爵様…ですよね?

 よければ、私と一曲、踊ってくれませんか?」


 辺りを見ていると、聞き覚えがある声が後ろから聞こえ、

 思わず振り返る


「………は??」


 そこには、髪色と目こそ、明るいアプリコットの色で、

 服装もこの世界らしいオシャレな洋服だったが…


 間違いなく、生前の私がいた

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