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犯人は真実を知らない  作者: へおん
私は【 モブキャラ 】
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七話  春色 後

 次の日の放課後、絢音たちは言われた通り二年六組に集まった。スマホを持っていくことでは一悶着あった。真面目な夏希とのぞみが大反対したのだ。絢音と美湖で説得し、二人も渋々といった様子でスマホをポケットに突っ込んだのだった。


「早かったね」


 絢音たちよりずっと早く来ていた雲母の一言に、絢音は眉を寄せた。この人、苦手だ。そう思ったのは、絢音だけではないだろう。他の三人も同じような顔をしていたから。


 雲母はたぶん、物語でいうラスボスだ。そういう雰囲気をまとっている。


「まず質問。四人はなんで蛍のことが知りたいの?」


「えっと……その、三年生が話しているのを見て……態度が尋常じゃなかったから、なんだろなって……」


 嘘ではない。三年生の誰が言っていたか、というのを抜かしているだけだ。


「三人はLINE入れてる?」


「入ってます」


「じゃ、話は早いね」


 雲母は手慣れた様子で絢音たちとLINEを交換した。


 絢音は祖父母が飼っている猫の写真、夏希は青空の入道雲と自分のシルエット、美湖は愛らしいアニメキャラクターのイラスト。のぞみはスマホを買ったばかりなので、まだアイコンを決めていないらしく、水色の背景に白い輪郭があるだけだった。


 雲母はスマホを突きつけながら、視線を絢音たちからそらさぬまま、愛らしく首を傾げた。目には鋭い光がひらめいている。


「みんな、本当に蛍のことを知りたいの? 好奇心とかじゃなくて、心から」


 威圧感のある、厳しい声音に、四人は鳥肌を立てた。先程まで朗らかに笑っていた雲母とは別人みたいだ。


 意味のないくだらない好奇心で、探偵ごっこをしていただけの彼女たちの瞳には、すでに後悔の色がよぎっていた。


「この学校の美術部、八割が幽霊部員なの。残りの二割は、半分が真面目に来てる奴。もう半分は、部活をいいように利用する、可哀想で可愛くて、とっても馬鹿なハリネズミたち」


 ハリネズミ、と口にする彼女は、どこか楽しそうで、目には優越感が滲んでいる。その言葉に心酔していることが見て取れた。


「美術部は、第一美術室と第二美術室が使えるんだけど、一美は臭くて狭いから、誰も使わない。みんな、第二美術室を使う。だから、都合がいい」


 一美を使うの。そう言って、雲母は唇の端を吊り上げた。一美というのは、「第一美術室」の略称なのだろう。


「一美はオトナには言えないことがある、秘密を持っている生徒がこっそり集まる会なの。どこにも居場所がないいじめられっ子もいる。中心的グループに入れない、地味な生徒が大半だから、その子たちが嫌がるような人はいない。女子グループの王様みたいな人は入ってこられないし、入ったとしてもすぐ退出させられる。みんな傷つけられる痛みを知っているから、悪口は滅多に言わない。言ってしまったら、すぐ『ごめん』って謝らないとグループから退出させられる」


 それはずいぶんと居心地がよいだろうな、と絢音は思った。目障りな人、そう、小倉先生や笹井さんみたいな、ああいう人がいない環境。それはきっと美しくて平和で正しい世界だ。


「このグループの存在は、大人たちには内緒なの。絶対に人には話せない秘密を持つ人だけの場。面白そうだから、なんて理由で入っちゃだめ。……ここなら、蛍のことも聞けるかもよ」


 三人は黙り込んでいる。早くこの場から逃げ出したいと腕をさする夏希。思いの外面倒臭い話に足を突っ込んでしまったな、という顔をする美湖。ドラマの中のような状況に、目をきらきらさせながらも、不安そうに口元を歪ませるのぞみ。


「私はいいです」


 真っ先に首を振ったのは、美湖だった。夏希が一番そういうことを言いそうな、気の強い顔立ちをしている。一方、美湖はすぐに人に流されてしまいそうな雰囲気だ。二人の性格を知らない雲母にとっては不思議だったかもしれない。


「そう」


 雲母は笑う。安心した表情にも見えた。


 夏希とのぞみは顔を見合わせ、迷っていた。夏希が窺うように絢音を見る。


 ここらへんが潮時だ。


「私もやめておきます」


「あ、絢音!?」


 夏希が思わずといった様子で叫び、慌ててすぐに己の口を塞いだ。


 自分の口を両手で押さえながらもごもごとしている姿は、滑稽としか言いようがなく、絢音は心の中で薄く笑った。


 絢音はこういうことは、大抵最後に決める。三人の意見を聞いて合わせる。それなのに、今回は夏希とのぞみの意見を聞く前に決めたのだ。


「なら……私も遠慮します。誘ってくださったのにすみません」


 夏希は礼儀正しく断った。しっかり礼をしている。のぞみはそれを見てあわあわと口を開け、夏希につられるようにがばっと頭を下げた。


「わ、私も!」


 雲母はにこやかにうなずいた。蛍光灯の安っぽい光も、彼女の瞳に映れば途端にダイヤモンドに変わる。ダサいと有名な制服も、彼女が身につければどんなドレスよりも美しくなる。


 ああ、あの子もそうだった。化粧で誤魔化したものじゃない、天性の美しさ。


 出水雲母の美貌は、絢音にとって最強の凶器だ。


 雲母は絢音を見て嗤う。宝石のような双眸を煌めかせ、彼女は人差し指でつんと絢音の唇をつついた。


「じゃあ、忘れて。このグループのことも、蛍のことも」

雲母先輩の台詞、長いですね。読みにくいですね。すみません。

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