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犯人は真実を知らない  作者: へおん
私は【 モブキャラ 】
11/17

怒り、悲しみ、或いは決意

今回は番外編というかなんというか、絢音以外の誰かの目線のお話です。



「……あはっ」



 思わず声が漏れた。それは思っていたよりずっと湿っていて、不格好に震えていた。


 目に熱が集まる。でも、涙は流れなかった。私はどうせ、こうなのだ。



 私はもう一度笑った。何も入っていない空き缶みたいに空虚な笑い。



 だって、笑わなきゃやってらんないと思ったから。



 笑うことしかできなかったから。



 運命に嗤われているような感覚。それを打ち消すには、笑うしかなかった。



 過去を。


 人生を。


 大好きな絢音を。


 そして、私を。



 私は緩慢な動きで立ち上がると、先程の言葉を繰り返した。



「みんな、友達」



 トモダチの定義? そんなの知らない。


 シンユウの意味? そんなの、もっとわからない。



 何が「みんな友達」だ。自分一人の感情を全員の感情と勘違いして、勝手にこちらの考えを決めつける。頭お花畑ののぞみにはわかんないんだ、あの子の気持ちも、私の気持ちも。


 もしトモダチが、一緒にいて楽しい人のことを指すのなら――私にとってトモダチは、あの子だけなのに。



 それなのに、あの子は私を裏切った。


 私に嘘をついた。


 何が美術部に入りたかっただ。


 私にそんな嘘は通用しない。



 もしあの子が私を置いていくのなら、私は意地でも隣に並ぶ。




 あの子の、隣に。




 美術部に向かい、出水雲母を目線で探す。すると、肩に衝撃を感じた。


 振り向くと、雲母の妖艶な笑みが間近にあった。怖気づきそうになる心を奮い立たせ、その瞳を見返してやる。


「あっ、あのときの子じゃん。なーに? 心変わりでもしたの? 美術部に――ヒミツの集まりに、入る?」


 入る。そう即答した。


「へーえ、抜け駆けするのは一人じゃなかったわけね。というより、抜け駆けを見破って、追いかけてきた感じかな」


 雲母は唇を弧の形に描き、私の目をのぞき込んだ。


「名前は?」


「名前は、」


 少し迷ってから、呟くようにして答える。



「……ヤヨイ」



 咄嗟に嘘をついた。偽名だなんて、フィクションの中のものだと思っていたのに。


 すぐバレるかもしれない、それでもいい。



 私はいつか、ヤヨイになりたい。





 雲母と別れ、時計を見ると、もう下校時間だった。一緒に帰る約束をしているので、三人のところへと戻らなければいけない。



 廊下を歩きながら、ひたすら自分を洗脳する。



 今日も〝トモダチ〟を演じきれるように。



 のぞみは愚かだ。心の中で、私はずっと馬鹿にしている。だけど、本当は、私もあれくらい愚かでいたかった。



 無知は最強だ。

 


 私は無知のフリをする。あの子の隣に並ぶために。



 繰り返す。何度も何度も、言い聞かせる。





「みんな、友達」





――みんな、友達。



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