できること
窓の外を見ると世界はすっかり暗くなっていて、寝る時間が近づいていることがわかる。
夕飯を食べ、お風呂に入り、あとは寝るだけになった私は自室で今日の出来事を思い返していた。
男性と生き物たちがいなくなったあと、その場には女の子と私の2人だけになっていた。私は女の子の体調を心配し、ひとまず近くの公園に場所を移すことを提案し連れて行った。2人でベンチに座ると、女の子は改めて私にお礼を告げ、自身の名を「ルーシア」と名乗った。
「変なことを言うかもしれないけど私、夢であなたにあったことがあるの。その時もあなたは私に助けてって言ってた。」
私はルーシアに夢でのことを話すと「うん。言ったわ。」と私の発言を肯定した。
「あの人たちは何者?どうしてあなたはあの人たちに追われていたの?それにあの時私が使った力は何?」
ルーシアが夢でのことを肯定したことで聞きたいことが一気に溢れだした。私は気持ちのままに質問を投げると彼女は一つずつ私の質問に答えてくれた。
ルーシアの応えを簡単にまとめるとこうだった。
まず、ここ最近この世界に封印されていた「フィーニス」という呪いが開放された。ルーシア曰く、これは世界を滅ぼしかねない恐ろしい呪いだという。そのフィーニスから生み出されたのが、あの男性と生き物だという。男性の名前はファンタスマと言い、呪いの一部としてこの世界を滅ぼそうとしている。そして、生き物はウムブラというモンスター。ルーシアは彼らとフィーニスを打ち払う力を宿したチャームを預かっていて、そのチャームの適性者を探していたのだという。そして、私を見つけて接触を図ったらしい。
本当はもっと聞きたいことがあったが、日が沈み夜の訪れが近づいていたため、話の続きは後日改めてすることになった。
「お願い。どうか力を貸して。あなたの力が必要なの。」
ルーシアの言葉を思い出す。
「そんな危ないものがこの世界にあるなんて知らなかった。それに、さっきは確かに彼らを追い払うことができたけど、私に呪いを打ち払うなんてできるのかな?...」
私は疑問と不安の気持ちでいっぱいでその夜は自分の気持を落ち着かせるので精一杯だった。
今日はあっという間の一日だった。何かに追われて時間がなかったというわけではない。ただ、その日の授業がどんな内容だったのかとかお昼ご飯は何を食べたのかとかは正直全然覚えていない。昨日から考えていたことを今日一日もんもんと考えていたからだ。学校が終わって下校すると、私は家に帰るのではなく、家と学校の中間位の位置にある公園に来ていた。
何をするというわけでもなくただベンチに座って手に握りしめたチャームを見つめていた。
昨日の事がどんなに現実離れした夢物語だと思っても、チャームを見るたびあれは現実だったのだと思い知らされる。
未だ自分の中で答えを出せず俯いていると、声がした。
「答えは出た?」
弾かれるように顔を上げるとそこなはいつの間にかルーシアがいた。
私は少し驚いて、それから困ったようにまた顔を俯かせてしまう。
「私は...」
言葉に詰まってしまう。ルーシアは静かに私の言葉の続きを待ってくれた。
しかし、続きを言うことはできなかった。
別の声が聞こえてきたからだ。
「見つけたぞ」
その冷たい声に聞き覚えがあり、私たちは驚きながら声の方向に顔を向ける。
そこには昨日私たちを襲った男性がいた。
「お前たちは我らの脅威となる存在。だからここで消えてもらう!」
男性はそう言うと指を鳴らした。
パチンと音がするとどこからともなくあの生き物が姿を現した。
私は恐怖にかられてルーシアに視線を向ける。するとルーシアの顔も歪んでいた。恐怖や焦燥、そういった感情が見えた。
(私にあの人たちを追い払うことができるのかはわからないし自信もない。でも...、だけど!...)
ルーシアを守りたい。その想いが私を強くつき動かした。
「ルーシアは傷付けさせない!」
握りしめたチャームをより強く握りしめて、ルーシアより数歩前に出て男性にそう告げると、握りしめていたチャームが輝いた。
光が私をまた、姿が変わっていた。それを見ていた男性は顔を歪めて「貴様さえ倒せば脅威はなくなる!」そう言うと、その言葉に生き物が反応して私に襲いかかろうとする。
私は昨日と同じように手を前に出し光を放つイメージをする。
ルーシアを守りたいという気持ちに呼応するかのように光が急速に私の掌に集まる。
生き物があと数メートルで私に手が届くという距離で私は光を放つ。
放たれた光はすごい勢いで生き物へ向かい、生き物を飲み込んでいった。
そして光が消えると生き物の姿はなくなっていた。
男性はそれを見て苦虫を噛み潰したような顔をし、姿を消した。
公園にルーシアと私の2人だけになって、私は息を吐く。
ルーシアが私に歩み寄ってきた。私はそんなルーシアに告げる。
「私...決めたから。だから、頑張るね!」
ルーシアは私の言葉を聞いて微笑み、「ありがとう!」と言った。