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追跡




「……邪気が酷いですね」


 前に進み出たのはエトワールだ。彼女は眉間にしわを寄せて薙ぎ倒された木々や散らばる枝の山を睨む。


「この辺りが根源だったようです」


 ふうっと息を吐き、ぞろぞろと奥地にやって来る部隊に視線を遣る。


「フィフス、ここに来てもなにもない。後退するように伝えてくれ。治療師は前に来て前線で戦った負傷者の治療を」

「は」


 短く答え、フィフスが進んで来る部隊の人間に伝令にいく。


「ミス・エトワールにはこの辺りの浄化をお願いします」

「わかりました」


 にこっと微笑むと、彼女は一緒に来た神星官と共に魔法石の嵌った大きな杖を掲げて祈りを捧げ始めた。青白く、澄んだ光が魔法石から零れ落ち、銀糸となって大地を巡り始める。ようやく一息つけるな、と肩を落としたリアージュは何はともあれ後方に待機しているリディアの元へ向かおうと馬の手綱を掴んだ。


 その時である。


「主様ッ!」


 悲鳴のような声と同時に、ダイアウルフの血と激戦の所為で土埃に汚れた格好のナインが人をかき分けて駆け寄ってくるのが見えた。


「ナイン」


 リアージュが声を掛けるのと同時に、ぱっと顔を輝かせたタイニーが大急ぎで馬の背から革袋を取り上げた。


(あね)さま、丁度いいところに! ここにダイアウルフ製造を誘発した薬が──」

「申し訳ありませんッ」


 転がるように前に進み出たナインが、その勢いのままリアージュの足元に跪く。その切羽詰まった様子にぞわりと背筋が冷たくなった。


 何があったのか、問うより先にナインが声を荒らげる。


「ミス・リディアがコートニー伯爵の手に──」


 全てを告げる前に、リアージュが馬にまたがる。ぎょっとするタイニーを他所に、リアージュは人一人射殺せそうな冷たい視線をナインに向けた。


「最後に見たのはどこだ」

「谷の入り口付近です」

「全員にリディアを探すように伝えろ。彼女を捕らえている者は」


 声から温度が消える。


「全員消せ」


 冷たい指令にフィフスとタイニーが短く答える。痛恨のミスをしたナインも、必死に奥歯を噛み締めて立ち上がり、無言で顎をしゃくるタイニーの馬に同乗した。


「……なにやってんだよ」


 何も言わないわけにはいかないとタイニーが言えば、がっくりと肩を落としたナインが首を振る。


「今は、まずお嬢様を助けましょう」


 すでに二人の視界からリアージュとフィフスは消えようとしていた。二人分の体重を受け止めて苦しそうな馬を励ましながら主の後を追いかけた。あとに残された神星官がじっと彼らを見送るエトワールに声を掛けた。


「何か気になることでも?」


 それにエトワールは一つ頷くと、桜色の瞳に同行している神星官を映した。


「ちょっと……確かめに行ってきます」


 エトワールの受け持ち分は全て終わっている。駆け出す彼女に、神星官は「若いねぇ」と謎のつぶやきを残すのだった。




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