外見負けの超恋愛初心者の私が恋した相手は、おじさんポロシャツを着た超有能なイケメンでした!
黒髪×眼鏡×地味な男子が実は超有能で優しくて頼りになったらっていう、ギャップ萌えものです。
作者の癖が詰め込まれています、あしからず。
多分私は誤解されている。
壮喜八年。
異種と呼ばれる幽鬼が跋扈する柬京では、古の霊術や呪術が復活して人々の生活へ深く入り込んでいた。
霊術や呪術が使えるものはその道を志し、使えないものは超自然科学によって新しく開発された霊術機器を使って暮らしていた。
その霊術や呪術と人を繋ぐ、最先端の企業。
株式会社リ:コネクト。
霊力、呪術、超自然科学の知識や製品。それらを必要とする人や企業と、それらのスキルを持つ人とを繋げ、社会をリードして行く。
そんな高尚な理念を持った会社の一員として、私は公私ともに充実して働いている。・・・・・・・はず。
『だから履歴に残ってないって言われてもこっちはちゃんと入力したの!』
電話越しに聞こえる金切り声が頭蓋骨に刺さる。
私は受話器から少し耳を離す。心の中で重たいため息を吐いてから口を開いた。
「えっと、でも実際に訪問者受付管理システム(サトリシステム)は作動していなくて、お客様がお待ちなのにゲートが開かないんです。」
私は受付デスクの前にあるゲートに目を遣る。今も数人のお客様が困惑顔で立ち往生をしている。
だけど電話の向こうは状況を理解しないのか、益々声を尖らせた。
『だから?!それをどうにかするのがあんたの仕事でしょ!受付嬢なんだから!』
「いやそうじゃなくて・・・。こちらはサトリシステムに照会して、ゲートを開けるのが仕事なので・・。原則として、営業部からの訪問者予定入力がされてない方をお通しすることは出来ないんです。なので営業部の方に確認を・・・。」
『だから知らないって言ってるでしょ!社名と個人名だけ言われても、こっちは営業部員全員の顧客なんて把握して無いんだから!』
そんなことは解っている。
だから、異常に訪問予定者入力の抜けの多い営業部には、いつもこまめに確認連絡をしているのに・・・・・これだよ。
『・・・・紅緒さんさあ。見た目だけで選ばれるような簡単な仕事も出来ないようじゃさあ、会社辞めちゃえば?』
嘲るようにそう嗤われ、電話は一方的にガチャンと切られた。
私はなんの応答もしなくなった電話をちらりと見て、もう一度深いため息を飲み込んだ。
よし!っと小さく呟いて唇を噛む。
気持ちを切り替えて、サトリシステムに外部応答を要求した。
『お待たせして大変申し訳ございません。現在営業部担当者が不在でして、照会に時間を有しております。お客様の貴重なお時間を頂いておりますことお詫びいたします。』
私はひらひらした絹のシャツの袖を捲ると、
「ごめん、ちょっと一瞬だけ第一サトリ回線ジャックさせてね!」
と、隣に座ってそわそわと事の成り行きを見詰めていた後輩に断りを入れた。
謝ってばっかりだ、私の仕事は。
それでも、ここでお給料を頂いている以上は、自分に出来る最大限の還元をする。
何故なら私は社会人だから!!!!
舐めんなよ!心の中でそう毒づいて、私はデスクのパソコンに霊力を集中させる。
『第一サトリシステム、総務部受付業務課所属社員、紅緒美愛の要求を受け、全機能起動します。総務部受付業務課の要求を受理します。社内全体に優先順位一位でメッセージを発信しています。株式会社東和霊具産業様から担当者三名が来社されています。アポイントメントがある方は直ちに受付デスクに連絡をしてください。メッセージが受理されました。社内情報システム部、メッセージを確認中です。総務部、メッセージを確認中です。法務部、メッセージを確認中です。事業部、経理部、メッセージを確認中です。技術部、営業部、メッセージを・・・・』
と、ここまでで第一サトリシステムに割り込みが発生した。
『社内情報システム部より連絡です。繋ぎますか?』
脳内に響くサトリの抑揚の無い言葉に、ほっとする自分がいる。
イエスと応えると、内線電話が鳴った。
「はい、受付です。」
『情報システム部の西原です。紅緒さんですか。』
低くてざらっとした声が耳許でして、私は思わず喉の奥から込み上げて来た涙を飲み下ろした。
「はい。メッセージの確認、ありがとうございます。」
『いや。それより、東和霊具ってことだったから営業部の入力情報の過去データ一年分は用意したんだけど。営業部はなんて?』
流石だなあ。東和霊具が営業部の顧客だってことを予想して、アポイントメントの入力情報を万が一にもと過去一年分まで遡って調べてから電話してくれるなんて・・・。
察しが良いところまで、本当に西原さんは仕事が出来る。
「入力作業は行ったとの事です。でも、私が探した限りではどうしても第二サトリシステムに引っ掛からなくて。すみません。」
『入力、したって?・・・・・なるほど?』
西原さんが、低い声ではっと笑う。
『了解です。じゃあこれは情シス部と営業部の問題だな。こっちで預かって、徹底的にやるわ。』
「いつもいつもいつもいつも本当にすみません・・・!」
『いや別に、紅緒さんのミスじゃないし。それじゃ。』
西原さんが電話を切る。
・・・・・紅緒さんのミスじゃない、西原さんがそう言ってくれただけでも、ここからの仕事も頑張れそう・・・・。
感涙に浸っていると、サトリシステムからの応答が相次いでいる。
恐らく、営業部以外の部署からの、確認しましたがうちの部署ではありませんの返答の嵐だろう。
そりゃそうだ。だって絶対に営業部の顧客だから。
私だって、一度対応したことがある顧客のデータくらい覚えている。受付舐めんな。
「紅緒先輩、格好良いですー。サトリの全システム起動とか、普通に受付の霊力じゃ出来ないですよお!」
と、眉をハの字にして様子を伺っていた後輩ちゃんが声を掛けてきた。
「ありがとう。」
先輩らしく微笑んでおく。
そりゃあね。元々、危険も多くて、その分霊力が必要とされる営業部マッチング業務課志望で入社したけど、早々に受付にコンバートされましたからね、とは、言わないでおく。
新人の夢を潰しちゃいかん。
受付が花形業務なんていつの時代の与太話だ。
こんな面倒で、確認作業が多くて、スキルアップ必須の、業務の。
漸くゲートが開いた。
お待たせしてしてしまった顧客の方々に深くお辞儀をして謝辞を述べる。
私のミスじゃなくても、これも私の仕事。
椅子に座ると、第一サトリシステムから呼ばれた。
メールが一通。
【総務部受付業務、紅緒美愛様。先程の件は営業部の入力ミスで確定しました。情報システム部としても今後の対応を上と相談中です。サトリシステムの向上も踏まえ、必ず迅速に対応します。社内情報システム部、西原】
じっと画面を見詰める。ありがとうございますの後に「いつも助けてくださって感謝しています」くらいは、・・・送っても許されるだろうか。
画面を見詰めていると、サトリシステムから訪問者の照会を要求された。
照会してゲートを開けると、良く来る技術部の顧客が、にやけた顔で手を降ってくる。
「よかったあ、今日も紅緒ちゃんに会えちゃった、ラッキーだなあ!」
知らねえよ、仕事しに来たんならさっさと商談して帰れよこのオヤジ。
心の中は悟られないように、無視して微笑む。
「いらっしゃいませ、5階技術開発部へどうぞ。」
口角を上げると、
「いつも本当に綺麗にしてるよねえ、紅緒ちゃん。うちの会社の受付に紅緒ちゃんが居てくれたら、俺毎日ご飯に誘っちゃうんだけどなあ。」
セクハラのオンパレード。
時代も時代なのに、セクハラする人って何故頭のなかをアップデート出来ないのだろう。が。
「業務中ですので。」
やんわりと微笑んでエレベーターのボタンを押す。
こういう時、セクハラですと声だかに訴えてもどうなるかを私は良く知っている。
ーでも紅緒さん、誰にでも愛想良くしてるから勘違いさせちゃうんだよね。
ー見た目も派手だしね。
ー勘違いさせたくなかったら、もうちょっと地味にしてくるとかさ。
ー見た目に自信があるのは解るけど。
せめてもの男避けで左手の薬指につけた祖母の形見のルビーの指輪。
お祖母ちゃんが、まだ貧乏だった頃のお祖父ちゃんに婚約の時に貰ったもので、ちっちゃなルビーがついている。
それすらも、派手な美人には派手な宝石が似合うねと言われた。
私は多分、勘違いされている。
小学校時代に「好きな男子をとられた」とかで散々苛められて、もう一切女子と揉めるのが嫌で、中学校も高校も大学も、全部女子校に通った。
男子が関わると女子は恐い。
でも男子も恐い。社会人になって痛感した。
私は人付き合いが下手なんだと。
ルビーの似合う派手な美人なんかじゃ、全然無いんだよ。
全然、そんなんじゃ、ない。