手の道
こちらは百物語八十四話&夏のホラー2023の作品になります。
山ン本怪談百物語↓
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私の友人であるS子が中学生時代に体験したお話です。
S子は元々霊感が強く、色々な怪異を見たり体験したりする子でした。
部屋の天井に張り付く赤ちゃんを見たり、学校のトイレで首のない兵隊さんを見たり…
そんなS子が一番怖かったと話す体験が、今からお話する体験です。
S子は中学生の時、テニス部に所属しながら時々塾にも通っていました。
「やっばっ!このままじゃ遅れそう!」
夏休みに入る少し前のこと。その日、S子は学校の用事で下校が遅くなってしまい、塾へ遅刻しそうになるという最悪な目にあっていました。
S子は真面目な子でしたが、その日は遅刻しそうということもあって「下校禁止エリア」を使うことにしたのです。
下校禁止エリアとは、下校中に生徒が通ってはいけない場所のことです。ウチの学校では下校途中で問題を起こす生徒が続出し、近隣住民の方と揉めた結果このようなエリアが出来てしまったのです。
「アソコは人が少ないし大丈夫でしょ…」
S子は下校途中にある小さな路地裏を自転車で走り抜けると、静かな住宅街に入りました。この住宅街を突っ切ると、塾がある駅まで一気に時短することが出来るのです。
この住宅街はどういうわけか空き家が多く、生徒が問題を起こしたことがないのにもかかわらず下校禁止エリアにされている不思議な場所でした。
「ギリギリだけど間に合いそう!」
S子が駅までもう少しというところまで来た途端、目の前に「ソレ」は現れたのです。
「…んっ?」
手です。
道の真ん中に手が現れたのです。
変なことを言っていますが、本当に手が1本現れたのです。
手はふわふわと宙に浮いたまま、近くの小道へゆっくりと入っていきました。
「何あれ…変な幽霊…」
住宅街の中で見かける多数の小道。どれも袋小路になっており、滅多に人を見ない場所だった。
「あの幽霊、どこ行くんだろ?」
幽霊を見ることは日常茶飯事だったS子でしたが、あまり見たことがないタイプの幽霊だったため気になってしまい、少しだけ後を追ってみることにしました。
「うわ、空き家だらけじゃん。嫌な場所…」
手を追って小道に入ったS子。その小道に人気はなく、周りは廃墟になった家ばかりでとても不気味な場所でした。
「あっ!」
小道を進んでいくと、あの手だけの幽霊を見つけました。手は曲がり角を曲がると、S子に向かって「おいでおいで」をしていたのです。
「…呼ばれてる?」
気になったS子は、あの手が呼ぶ曲がり角へ向かいました。
「なんでだろ…あそこに行ったら…ヤバいような…」
嫌な予感を感じだS子でしたが、どういうわけか足が止まりません。恐怖より好奇心が勝ってしまったのか、それともこの時点でS子は…
「えっ?」
S子が曲がり角に到着した途端、あの手がスッと消えたのです。
「あれ?今日の夕焼けってこんなだったっけ…?」
気がつけば周りが真っ赤に染まっている。夕焼けに染まっているというにはあまりにも不気味過ぎて、S子は得体の知れない恐怖を感じた。
「熱いなぁ。なんか火の中にいるような気分…」
汗がダラダラと流れ落ち、真夏なのに寒気がする。
怯えるS子がゆっくりと曲がり角を曲がった時、S子は自分が追いかけていたものが「最悪なモノ」であったことを理解した。
手。
手、手、手。
手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手。
曲がり角の先にあったもの。
それは「手」だった。
おびただしい量の手の「塊」が、S子に向かっておいでおいでをしていたのです。
「っうぁ…!」
それを見た瞬間、S子は気を失ってしまったそうです。
数時間後、S子は道の真ん中で倒れているところを近所の人に発見されました。
S子はしばらく学校を休んだ後、私にこの話を教えてくれたのです。
「私が見たものは、幽霊でもなく妖怪でもない。もっと恐ろしい何かだった。私はあの時、あの瞬間…この世界にはない『地獄』へ足を踏み入れてしまったのかもしれない…」
S子は震えながらそう語ってくれました。
皆さんも「手の道」には、くれぐれもご注意ください…