エリートの受難
『一人のエリートをつくる為には、1000の凡人の踏み台が必要である。』
やってしまったー…‥‥!
一体、何がいけなかったのか…
とにかく、出世して
安全で、快適で、高給なポジションにつく為に
私は、あらゆる努力をして来た。
家柄もそこそこ悪くなく、親も教育熱心だった
資産もなかなか、コネも充分、寝て起きてるだけで、衣食住が高品質で確保され
英才教育を受ける事が出来た…
私は親の七光りをフル活用するという
プライドを崖から落とし、這い上がってきたところで
もう一度落とすという生き方を、9歳には見出していた。
口八丁で七光りを3倍の二十一光くらいに増加出来ないかと画策もしていた
出世に繋がる縁談なら、どんな相手でも受け入れる覚悟をし
嫌いな上司であっても行って頭を下げ、東に後輩とはいえ高貴な家柄の者いれば面倒を見てやり
好きなモノを驕った
これが行けなかったか…
八方美人はリスクがある戦術だ、どこかでボロを出せば 瞬く間に八方塞がりとなる。
充分に気を付け、周りに配慮し、裏切り裏切られ ここまで来たというのに…
『君には、霙組の教育指導を頼みたい…』
聖帝騎士団の円卓議会、その中の一人 シリウス卿が仰った…
聖帝騎士団を管轄する、”エクティスノキア” 賢人大貴族評議会の事だが
私が目指す、そこでの役職を手にする為には、2年以上の騎士団指揮経験がマストである。
私より、遥かに優秀な血統なら それすら免除される事もあるが
はじめから優秀な騎士団を作戦を立てるテントの中から指揮し、勝利が確定しているような戦争で武勲を
1つ 2つ立てれれば、箔がつくし、英雄譚にも記録されるのだ。
尾ひれはひれを、袖の下を使って書記官に頼めば1000年は語り継がれる伝説として
後世の者達は歌劇にもしよう
「み、霙組‥‥なっなぜです!? あの部隊は!?」
シリウス様とは、これまで貴族の主催するパーティーなどでも 何度か顔を合わせている
長く話せたことなどはないが、嫌われるような事をした覚えはない…
【霙組】 簡単に言えば、ハズレ騎士団だ…
ただただ、才能のない連中の集まりとかならまだしも
他の騎士団で、厄介な面倒事を起こして飛ばされたりした問題児が集結しているお荷物組織…!
シンプルに使えない、と切り捨てられるような戦乙女もいると聞く
問題なのは、おそらくは指揮官の命令無視をして揉めたパターンがほとんどであろうという事
私のようなお飾り上官の事はハナから馬鹿にしているだろう
そこを、賢い者なら飲み込んで命令に従うが、気に食わないと噛みついてくる
平和に楽して武勲を立てたい、なんちゃって上官思考の私にとって一番邪魔な存在だ…
【戦乙女】女性武闘派騎士につく総称なようなモノである。
北の大国の神話を元にしてるんだとか
ハッキリ言うが、騎士の世界は言うまでもなく男性社会、男性優位である。
これは、差別だとかそんな次元の話ではなく、どうしようもない事実…!
この国にも名だたる大騎士達がいるが、そのほとんどが男
もちろん、女性の偉人もいるが数は少ない
”女性は、魔術を極めよ” という流れもあり、実際 優秀な魔女、魔術師は大勢生まれたが
その世界でさえ、男性の魔術師がトップを独占している状態だった。
戦いの世界、戦争は最も冷酷に実力主義を提示してくる
男であっても、才能と運が無ければ淘汰されるのは当たり前。
むしろ、母数として男性の屍は何百倍も多い
男なら、強くて当たり前、そうでなければ死あるのみ
ジェンダーで敵が倒せるなら、やってみるといい
差別などという、平和社会の幻想的なポピュリズムの流行り病、架空の仮想敵が介在する余地などないのである。
あるのは弱肉強食と暴力、敗者は何をされても文句など言えない、文句ごと喰われる。
そんな世界に女が挑むのだから、『男に負けていられない』とか
そういう次元では最早ないのだ。
いくら、田舎貴族の私であっても もっと名の知れた騎士団を任されて良いはずだ…
「し、シリウス卿!どうか、御再考を!! 何卒…!!」
「君なら、あの部隊を再構築できると思うんだ 君からは才覚を感じている、期待しているよ…」
「あぁ・・・・」
そんな風に言われては‥‥
数日後、私は霙組のある大営集合宿舎に向かった
そこには、騎士団の学校も併設されている。
霙組‥‥・想像以上に、騎士団学院の端っこだ もう物置じゃないか‥‥
進むたびに、古い木造の板がギシギシといい、日の光が届かなくなる…今日は快晴だというのに
私のプライドは、別の意味で崩れ始めていた…。