四人目 『暗殺者』 五人目 『暴食』
翌日からエルフの魔術師も召喚に参加することになり。ユリファとその部下達の負担がかなり減ったように感じ、必要な魔力が魔法陣に集まるまでの時間が大幅に短縮された。
「よいしょっと。じゃあ行ってくるね」
「行ってらっしゃいませマキャリ様」
ユリファに見送られると門の先の世界にお邪魔する。
門を抜けると辺りは薄暗く、目の前に階段がある場所に出てきた。
「この上かな?」
空間を開き、階段をショートカットすると扉の前に出る。その扉を開け屈んで中に入ると部屋の中は大量の本が積み上げられている。
微かな明かりもあり、覗き込むとそこには透明で巨大なガラス容器に火を当てて何かの液体を沸騰させている少年が見えた。
「ふむふむ…この液体は使えそうだね…」
そんな液体を見ながら少年は紙に何かを書く。髪は長いらしく頭に髪を団子のようにまとめて結んでいた。
ぶつぶつと何かを呟いているとこちらに気付き、驚いた声を上げた
「うわ!」
しかしすぐに少年は火を消し、慌てたように紙を丸めてこちらに近づいてきた。
「すみません。今日は来るのが早いですね。これ、今日の成果です!」
そう言うと束ねた紙を俺に渡して来た。
中身を開いて見てみるとそこには液体を使って鉱石を作ったり、水から火薬を作ったり、自然の力を付与した液体などの事が書かれていた。
「(何書いてるか全く分からない。異世界の技術ってのはすごいな…でもうちの世界にも燃える水とかあるからこんなものなのかな?)」
紙を見ていると少年がこちらを見上げて聞いてきた。
「あの、お父様にはいつ会えますか?最近はずっと会って無くて…忙しいのは分かっているんですけど、やっぱり…いえ、なんでもないです。続けてますね…」
少年が再び机に向かって何かを書き始めようとするのを俺は止め、声を掛けた。
「俺は君の知っている人間ではない。異世界から来た者だ。君さえよければだがこんな狭いところで実験をするのではなく、もっと広いところで実験をしてみないか?」
「異世界…あなたについて行けばもうお父様には会えないんですよね?」
「ああ、その通りだ」
「じゃあ行きません」
「そうか、それなら仕方ないな」
空間を開け、門の目の前まで帰ってくる。中へ入って帰ろうとした時、突然扉が大きな音を立て壊れた。その扉から入って来たのは松明と農具を持った人間の集団。彼らはこちらを見て訪ねて来た。
「…誰だ?」
「俺は…神だ」
「は?」
男がこちらに来ると松明を俺に近づける。すると男は見てはいけない物を見たような顔をして俺から離れた。
「…」
しばらくの沈黙が空気を支配する。すると階段から先程の少年が降りて来た。
「何事ですか?!」
「居たぞ!王子だ!!」
集団の中から弓を持った人間が少年を狙う。
放たれ矢は少年の肩に突き刺さり、少年は痛みで顔を歪める。
「ど、どうしてこんなことをするんですか!?僕はあなた達の生活を豊かにするために錬金術を使っているだけなのに…」
「綺麗ごとを…お前の技術のせいで俺達の村は燃やされたんだぞ?!何も抵抗していない者達を殺し、辱めた。お前は俺達からすべてを奪い去ったんだ!!」
「何で…父上は僕の技術を役立てていると…」
「そうだ。お前の父親だがな、すでに殺されていると思うぞ。お前の兄弟達もな!最後はお前だけだ!!お前だけは簡単に殺さねぇぞ!!」
それを聞いた少年は恐怖で引き攣った顔をしながら階段を上がっていった。それを追いかける人間達。俺はこの後どうなるのか気になり、門の前で少し待っていると大きな爆発音が上で聞こえて来た。しばらくすると階段から数人の人間が転げ落ちてくる。
「た、助けて!!」
そのうち二人は全身が燃えておりすでに息絶えていた、最後の一人は恐怖で立てないのか這いつくばりながらこちらに近づいてくる。
そして階段から現れた少年は服をボロボロにされ、目は虚ろだった。
人間は少年を見た瞬間声にならない叫び声をあげた。少年は人間に近づくと手に持っていた瓶の中身を人間に掛ける。
「や、やめて。お願い…助けてくだ…ひぃああああああああ!!!」
すると突然人間が燃え始める。
のたうち回り、火を消そうとしているが火の勢いは衰えるどころかさらに燃え上がる。
「あ…ああ…あ」
しばらくすると人間は動かなくなった。少年はすでに息絶えた肉塊に近づくと懐から取り出したナイフで肉塊の一部を切り取り、ポケットに入れた。
そして勢いよくこちらを見ると満面の笑みでこちらに近づいてきた。
「お父様!!いつの間に来られたんですか?」
「…」
「お父様!先程のお話、お受けします!!さあ、行きましょう!!」
俺は少年に手を引かれ、門の中に入る
「(お父さんになっちゃった)」
王国に戻ると満面の笑みで手を握っている俺と少年を見てユリファは少し驚いていた。少年が俺を父親と呼ぶとさらに驚いた顔でこちらを見て来た。
「(ご子息ですか?)」
「(色々あってね。今日から俺はこの子の父親になるらしい)」
お互い目で会話すると魔力の消費量を考えて今日の召喚は終了し、新しい服を貰ってずっとくっ付いてくる息子と一緒に一日を過ごすことになった。
「お父様。いつまでこうして一緒に居られますか?」
部屋で椅子に座っていると息子が恐る恐るこちらを見ながら聞いてきた。
「いつまでも…かな?」
立ち上がると、俺は息子の頭を軽くぽんぽんと叩いた。
「ほ、本当ですか?本当にずっと一緒に居てくれるんですか?!」
「うん、ずっと一緒だよ」
俺は息子を抱き上げると、抱きしめる。息子も俺を強く抱きしめるているといつの間にか眠っていた。ベッドに寝かせ、布団を掛けてあげる。
「(子供は何人かいるけど人で言う父親みたいな事はしたことがないなぁ…元の世界に戻ったら子供達を集めて甘やかしてみるか!)」
そう思いながら彼は寝ている少年を見つめた。
「おっと、もうこんな時間か。息子よ、朝だぞー」
ぼーっとしているといつの間にか外は明るくなっており、俺は寝ている息子の頬をぺちぺちと叩いて起こそうとした。
「ん…ん~!!おはようございますお父様!!」
「おはよう。息子よ」
背を大きく伸ばし、笑顔でこちらを見てくる息子。カーテンを開き、振り返ると何か言いたげな息子が居た。
「あ、あの…お父様が良ければなのですが、息子では無くてランダイと言っていただければ…」
「ランダイ…分かった。さあ、ランダイ。一緒に朝食を食べに行こうじゃないか」
「!!…はい!」
ランダイは起き上がり、服に付いた皺を軽く伸ばすと俺の横についてきた。
朝食を終えると俺は再びユリファ達と一緒に魔法陣の場所へと行く。モンドとえーちゃんは体が訛らないように鍛練をするため、今日からここには来なくなるらしい。
そして召喚が始まると付いてきていたランダイが目を輝かせる。
「わあ!お父様!あれって何ですか!?僕達の世界にはあんなものありませんでしたよね!」
「ああ、無かったね。おっと、お父さんの出番かな?」
いつものように門を開くと息子が門に近づき、ペタペタと触る。
「これでこっちの世界に来たんですよね?お父様ってこんな力を持っていたんですね!」
「ランダイ程ではないよ。じゃあ行ってくるよ。ユリファ、息子を頼んだよ」
「お任せください」
「行ってらっしゃいませお父様!」
門の中に入ると大きなクレーターの中に出た。そこには大量の骨があり、明らかに大きすぎる骨も埋まっていた。
「これは誰がやったんだ?それに…腐った肉の匂いがしない…」
ここまで大量の骨があるのに、腐敗臭は全くしてこない。骨の地面を歩きながらこれをやった当事者を探していると巨大な影が俺の上を通った。
俺は上を見ると翼が付いた謎の生物がこの場所に降りてくる。着地すると骨が砕ける音し、そのまま体を丸めて寝始めた。
「あれは…ドラゴンだっけ?」
自分の世界で見た本に描かれていた生物。巨大な体に赤い鱗、そして二本の翼…その生物がそのまんま目の前に居た。
生物を見ているといつの間にかドラゴンの前に何かが立っていた。
「(人間?)」
人間の女、服は着ておらず何をするのかと思うと突然ドラゴンに噛みついた。
鱗ごと肉を噛みちぎる。ドラゴンは痛覚を感じていないのか、安らかな顔で彼女に体を貪られていく。
その体では考えられない早さで自分の数百倍はあるドラゴンを平らげる。
ちゃんと骨に残った肉も最後まで食べ終わると、こちらに気付き猛スピードで近づいてくる。
「お前…ここに来る奴らの匂いがしない、それに生物の匂いも…何者だ?」
「まあ、誰でもいいじゃないか。俺がここに来たのは君をこちらの世界に呼びたいからなんだ」
「あっちでも食事はできるか?」
「あ~」
俺は周りの骨を見る。
「もちろん」
「じゃあ行く」
手を繋ぎ、一緒に門へ入り元の世界に戻ってくる。その瞬間全員が悲鳴に近い声を上げ、ユリファが素早くローブを脱ぎ、彼女に着せて体を隠した。
「おら!男共!見てないで一回ここから出てけ!!マキャリ様は何で全裸のまま連れて来たんですかぁ!?」
「あ…やらかしちゃった…ほら神だからさ、恥ずかしいってのがあんま無いんだよね」
「そういう問題じゃなくてですね…」
「彼女もあんま気にしてないみたいだしさ」
ユリファに着せられたローブを軽く引っ張り、まじまじと見る。
「だとしても裸はさすがにまずいと思うんですよ。すぐに服は用意しますが…あ!脱ごうとするな!!」
ユリファはローブを脱ごうとする彼女を止めている。俺はその光景に『楽しそうだな』と思っていた。その後、彼女をえーちゃんやモンドが居る鍛練所へと連れていく。
俺達が現れると剣で素振りをしていたモンドが止め、えーちゃんがこちらを見る。
「お、そいつが新しい召喚者か!俺はモンド=モーラン・オルカネイタスだ。よろしくな!」
「私はえーちゃん…って呼ばれてる。よろしく」
「俺は…確か…ボージャックって名前だった気がする。よろしく」
とりあえず顔合わせを終えると、ユリファに彼女を任せて俺は息子の相手をする。軽く遊んでいると息子が疲れ、ベンチに座る。
隣に座ると俺の服を軽く引っ張ってきた。
「どうした?」
「お父様、あの…もしよければなんですけども、この世界でも研究をさせてくれませんか?研究をするための道具も用意していただければ嬉しい…です」
機嫌を伺いながらこちらをちらちらと見てくる。俺は息子の頭に手を置き、顔は無いが笑顔を作る。
「もちろんだとも。ユリファに言っておくから、どんなのが必要か後で彼女と話し合ってね」
「ありがとうございます!!」
しばらく休むと息子はベンチから立ち上がり、こちらに手を振った。俺も立ち上がるとランダイが満足するまで遊んでいた。
夕食の時間になるとランダイは風呂に入っていたため一柱で食事場所へと向かう。扉を開けると、すでに食事を始めている者が一人いた。
「すでに食事を始めてたんだなボージャック」
「ん。ここの食事はうまいな!いくらでも食えそうだ!」
いつの間にかボージャックは服を着ており、頭に角とか生えていないためただの金髪の少女にしか見えない。
彼女の隣を見るとすでに皿が何枚も積み上げられており、食べ終わった皿を持っていくのと新しい料理を持ってくる作業で使用人が忙しなく動いていた。
「(フォークとか使わないんだな)」
ボージャックの食い方は動物の様で人間のような品を感じられなかった。だが、食べ終わった皿は新品のように綺麗で、机にも食べかすのような物が散らかる事は決してなかった。
「「(食べ方は汚いのに皿の上の食事は絶対に残さない…すごいな)」
するとモンドやえーちゃん達が扉を開けて現れる。貴族と王も現れ、椅子に座ると食事を始める。
「そう言えば何で食卓を囲んでいるんだ?人間は食卓を囲むのを好むって聞いたことがあるけど…そう言う事?」
「ええ、そう言う事です。王が皆と一緒に食事をしたい!と昔から言っておりまして、もちろん強制ではありませんが王の人柄や人望によって臣下達は絶対に来るようになったんですよ」
「へーなるほどね」
そんな話をユリファとしなが息子の頬についたソースを自分の使っていない布で拭いてあげる。
すぐ近くに居たボージャックをふと見ると、なんだかモンドと仲良くなっている気がする。
「いい食いっぷりだなお前!そういう俺は好きだぞー!」
「はっはっは!あんたの食いっぷりには負けるがな!!」
いや、確実に仲良くなっている。まあ、仲良くなるのはいいしむしろ仲良くなってくれた方が色々と遠慮をしなくなってよりいい関係になるし、いいと思うけどね。
しばらくすると食べ終わる者達が増え、近くに居る親しい者達同士が話し始める。だが、その光景で一番気になったのはボージャックがやけに不機嫌そうな顔をしている事だった。
すると突然ボージャックが叫ぶ。
「おい!!ちゃんと残さずに食えよ!!」
驚き、全員の視線がボージャックを見る。
「お前らが人間だから食い物にかけられたソースを残すとか、食べられそうにない部位の肉を残すのは分かるぞ?俺もそれを舐めろ、食えとは言わない…だが!食べれるのに食べないのはおかしいだろ!!の・こ・す・な・よ!!」
彼女は机を叩く、すると皿が大きく跳ねて地面に落ち、割れる。
だが、料理が残っている皿は浮かずにそのままだった。
「す、すまん」
それを聞いた王が一言謝り、残そうとした野菜をフォークで刺して口に運ぶ。最初は苦虫を潰したような顔をしていたが、その顔は驚きの顔に変わった。
「う、うまい!!うまいぞ!な、何故だ?」
王の様子に臣下や貴族が驚く。その様子を見た臣下達が残していた物を口に運ぶと全員が驚きの声を上げた。
「食べれる…食べれるぞ!」
「こんなにうまかったのか…ありがとうボージャック殿!!」
全員が残した料理を食べ始める。その様子を見たボージャックは何回も嬉しそうに頷いた。
その夜の皿洗いは驚くほど簡単に済んだと使用人達が言っていた。
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