続々の集まる召喚者達 三人目 『錬金術師』
その後比較的被害が少なかった王宮で歓迎会が開かれた。長い食卓に並べられる料理、それを見て隣の騎士はものすごい勢いで食事をしていた。
というか騎士の中身は初老の人間で、衰えてなお敵を吹き飛ばす力を持っていることに少しだけ驚いた。
すると王が口を開く。
「豪華な食事ではなく申し訳ない。見た通り今は戦時中、王や貴族だけがいい思いをする訳にはいかなくてね…少しでも贅沢をしたら前線で戦ってくれる兵士達に申し訳が立たない」
俺は目の前に置かれた料理を見ると眷属が話しかけて来た。
「あ、あの。お名前を伺ってもよろしいでしょうか神様?」
「ああ、そう言えば言ってなかったね。俺の名前はマキャリ=ロイス。次元の時空を司る神様をやらせてもらってるよ」
「時空と次元の神…あ!私の名前はユリファって言います。すみません先にこちらから名前を言うべきでしたよね」
「気にしなくてもいいよ。それよりもユリファ、今君の目の前に何か見える?もしくは聞こえる?」
「えっとですね…」
彼女はキョロキョロ辺りを見渡す。
「別の世界線の会話と動きが見えます。私とマキャリ様以外、全員話している事が全く違います…あれ?何者かがこちらに…」
すると彼女の首から血が噴き出る。俺はすぐに彼女の肩に手を置き、力を流し込む。すると首から流れた血は戻っていき、傷が無くなった。
「ごめんごめん加護与えるの忘れてた…久々の眷属だったしね」
何故謝られたのか分からない顔をする彼女を他所に俺は加護を与える。
「加護って何ですか?」
「加護はね、君がまだ力を制御できない時に見ている世界からの干渉を防いでくれるよ」
「干渉?つまり今みたいに自分に向かって切りつけた傷が加護無しだとそのままこの世界線の自分を傷つけるって事ですか?」
「正解!」
「…ありがとうございます」
引き攣る彼女の顔を見ながら俺は思った。
「(すでに別の世界が見えるほどの力があるのか…そこまで到達した眷属はそう多くない。眷属としての適性高いから全てが終わったら連れて帰って半神にしようかな…)」
そんなことを考えていると王が彼女に向かって話しかけた。
「ユリファよ、次の召喚は何時になる?」
「魔力さえあればいつでも」
「そうか、次の召喚者もこの騎士のように強い者を召喚してくれ」
王の言葉を聞いたユリファは眉を顰め「はい」と言った。
食事が終わると俺達はそれぞれ個室へと案内された。睡眠も必要ない俺は椅子に座るとぼーっとし始めた。
するといつの間にか時計は真夜中を指しており、空間を開くと一冊の本を取り出した。その本はユリファが禁書と呼ばれている物で、本を開いて読み始めた。
「あらゆる世界、次元、空間、場所に現れる門。この門は力ある者の近くに現れるが一日経つと消えてしまう。成程成程…」
本を捲る。
「門には若干の催眠魔法が込められており、門の近くに居る力ある者に対して『この門の先に行けば自分が望むことが出来る世界に行ける』という暗示をかける…へー」
空間を開き、本を元の場所に戻すとその空間をさらに広げ中に入っていく。
出てきた場所は俺が召喚された場所。魔法陣に近づくと触れてみる。
「(自分で門は創造できないか…だけど触った感じ力は似てるからもしかしたら行けるかもしれないな…)」
翌日、ユリファ達は部下達を連れて魔法陣を囲む。俺と騎士は召喚に立ち会う。
召喚が始まると俺は魔法陣に近づき、門を開く。
「な、なにをされているのですか!?」
するとユリファが驚き、詠唱をやめる。しかし門が消える事はなかった。
「君達の魔力を使ってあちらの世界の門を開いた。この門を通れるのは俺だけだけどね、じゃあちょっと行ってくる!」
「あ!」
返事を待たずして門の中に入る。
門を出るとそこは森の入り口で、門の後ろには無数のビルが光を放っていた。
「さーて、召喚者はこの森の中に居るのかな?」
俺は迷わず森の中に入っていく。しばらく歩いていると近くで殺意を感じたが、それはすぐになくなりどこかへ消えてしまった。
あまり気にせず森を歩いていると瀕死の人間が倒れているのが見えた。近づくと切り傷、銃痕、明らかに血を流し過ぎている。このまま放っておいたらすぐに死ぬだろう。
幸い意識はあり、俺は人間に尋ねた。
「どうしてこうなった?」
すると人間は息も絶え絶えに答えた。
「仕事のミスをして…こうなった。もう少しでキリのいい数字に…なったのに…コフッ…」
「同じ種族である人を殺したいのか?」
「はぁーはぁー…誰かを殺す…それが私の生きる目的だったから…」
「そうか、それなら俺と一緒に来てくれないか?たくさん殺させてあげよう」
「…本当?」
「ああ、本当だ。さあ」
手を差し伸べる。人間は折れていない方の手で俺の手を握りしめると力を流し込む。みるみる彼女の怪我は無くなり、元通りになった。
「誰?!」
人間は握っていた俺の手を払いのけると近くに落ちていた自分の武器を掴んだ。しかしその銃は真っ二つに折れており、使い物にならなかった。それを見た彼女は驚く。
「え?何で?これじゃ奴らと戦えない…」
「大丈夫だよ。君は仕事でへまをしてすでに殺したと思われてるはずだと思うから」
俺は人間に近づくと銃を触り、元通りにする。彼女は目の前に起きたことに驚いていた。
「何で…いや、あなたが何者かは聞かない。あなたが言った事が本当なら私はすでに死んだ存在。そんな私に何の用?」
「君に殺して欲しい者が居てね。ついてきてくれないか?」
「…分かった。ついて行く」
森を抜け、彼女と共に門をくぐると元の場所へと戻ってきた。
「あ!あ、あれ?」
「ただいま」
「お、お帰りなさいませ…その方が召喚者様ですか?」
「うん」
直後に門が閉じる。連れて来た人間は不思議そうに辺りを見渡す。
「マキャリ様が門に入ったかと思ったらすぐにその方を連れて出て来て…」
「あーもしかしたら門の中に居ると時間の流れが遅くなるのかもね。あ、名前をお願いできる?」
「…名前はない。A-82って今まで呼ばれてたから…」
「そっかぁ…そのまま言いにくいし」
「あの、えーちゃんってのはどうでしょうか?」
全員が彼女を見る。彼女は突然集まった。
「だ、ダメですか?」
「いいと思う!じゃあえーちゃんこれからよろしくね!俺はマキャリ=ロイス」
「あ、え…よろしく」
「俺の名前はモンド=モーラン・オルカネイタス。よろしくな嬢ちゃん!」
いつの間にか始まった自己紹介をしていると、この場所に兵士が扉を開け、現れた。
「王からの命令です。援軍が来たのでその将軍と会って欲しいとの事です」
俺達は言われた通りに王宮へ行くと円卓に案内された。
部屋にはすでに王と光り輝く鎧を身に纏った人間?が座っていた。
俺達も椅子に座ると彼は話を始めた。
「集まったな…私の名前はホセム=ハイラント、エルフの国の将軍でありこの国の援軍として来た。そしてこの者達が禁書を使い召喚された者達か…一部生物では無いと思われる者が居ると思うがまあいい」
すると彼は王の方を見た。
「人の王よ、彼らの活躍は聞いています。だがかの魔王軍に奪われた領土を奪い返すにはいささか数が少なすぎます。最低でも七体は欲しい、こちらも準備があるためすぐにとは言いませんが…二十日以内に七体以上お願いしたい」
「分かった。ユリファ…すまん、力を貸してくれ」
「分かってますよ我が王よ、全力を尽くさせていただきます。将軍、そちらに魔力を持っている者は居ますかな?よろしければ何人か預けていただきたい」
「もちろん居るぞ。魔法を使えるほど膨大な魔力を持っている者達がな」
ユリファは将軍ににっこりと笑って見せた。
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